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第二部 65話 もう一度

ー/ー



「おかえり」
 背後から聞き覚えのある声がした。

 振り返ると、自称『神様で良いや』が、変わらず事務仕事をしていた。
 中肉中背の中年。白髪交じりの髪に四角い眼鏡を掛けている。

「お前……っ」
 俺は大股で歩み寄る。

 大きな机を回り込むと、椅子に座った男の胸倉を掴み上げた。
 こいつには言いたいことが山ほどある。

「どういうつもりだ!? お前は『鍵』に関わるなと言っただろう。
 お前の都合で『鍵』の兄に転生させたな?」
「その言葉の真意は『分岐を変えるな』という意味だ。
 そもそもの依頼も『鍵』を殺人鬼から守って欲しいということだ」
 自称『神様で良いや』は抵抗もせず俺に掴み上げられたまま、真っ直ぐに俺を見ながら言った。

「最初に全てを説明しても理解できないのは分かっていた。
 だから理解できる表現を使うしかないと判断したんだ」
「それでも――」
「分かっている。妹が『鍵』だとは伝えるべきだった。
 しかし、こちらにも事情があってね」
「事情?」
 胸倉から手を離す。胸元を直しながら答える。

「君には『ナタリー・クレフ』を『鍵』ではなく『妹』として見てほしかった。
『ナタリー・クレフ』の幼少期は重要だった。おかげで最善に近い」
 言いたいことは分かった。だが、まだ納得できない点はある。

「だが兄さんは止めたぞ!? 何で終わらない?」
「それについては、すまない。相手が上手だった」
「?」
「君達が出会うより前に『レン・クーガー』は『鍵』を殺してしまったんだ」
 ……可能性があるとすれば『ハーフエルフの小国』か?

「そのせいで、本来は有り得ない分岐が発生してしまった。
 ほんの僅かだが、運命が変わった。敵はこの点を最大限に活用するだろう」
 運命のずれを大きくしようするということか。

「だから『レン・クーガー』の魂は元の世界に帰すのではなく、君達の近くに転生させた」
「な!?」
 元の世界に帰す機会があったのに、帰さなかったのか?

「それはお前の都合だろう!?」
「では、この世界から帰るのか? 構わない。君に強制をした覚えはない」
 俺の大声に冷たく返す。今までとはどこか異なる冷徹さで続けた。

「だが、君のお兄さんは別だ。
『鍵』を殺さなければ帰していたよ。彼が起こした歪みは彼自身に直してもらう」
「っ」
 自分がしたことの責任を取ってもらうだけだと言う。

「……分かった」
 上を見上げて、俺は一度溜息を吐いた。どこまでも白い空間だった。

「もう一度、俺を転生させろ」

「感謝するよ。しかし、今回は条件を追加させてほしい。
 君は『アッシュ・クレフ』だったことを知られてはならない」
「?」
「敵は予想以上に君を警戒していた。恐らく私の存在にも気付いているのだろう。
 私との繋がりに気付いたら、敵は全力で君を排除する。先ほどのように」
「それは……」
 確かに『青鬼』は言っていた。「お前が俺の敵だな」と。

「酷なことを言ってるのは分かっている。だが、他に手がない。
 私の方でも認識されないように細工はしよう」
「分かった。気付かれないように努力はする」
「助かるよ。では、もう一度その扉から出て行ってくれ」
 自称『神様で良いや』は俺が出て来た扉を指さした。

 扉の前へ戻ると、俺はドアノブに手を掛ける。
 ゆっくり回すと意識が遠のいた。

「……一つだけ。これは私の権限を越えた発言だ。
 まったく、後で怒られてしまうなぁ」
 まるでぼやくような声が聞こえる。

 ――君は『アッシュ・クレフ』の残したものを、一つだけ受け取り損ねている。



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「おかえり」
 背後から聞き覚えのある声がした。
 振り返ると、自称『神様で良いや』が、変わらず事務仕事をしていた。
 中肉中背の中年。白髪交じりの髪に四角い眼鏡を掛けている。
「お前……っ」
 俺は大股で歩み寄る。
 大きな机を回り込むと、椅子に座った男の胸倉を掴み上げた。
 こいつには言いたいことが山ほどある。
「どういうつもりだ!? お前は『鍵』に関わるなと言っただろう。
 お前の都合で『鍵』の兄に転生させたな?」
「その言葉の真意は『分岐を変えるな』という意味だ。
 そもそもの依頼も『鍵』を殺人鬼から守って欲しいということだ」
 自称『神様で良いや』は抵抗もせず俺に掴み上げられたまま、真っ直ぐに俺を見ながら言った。
「最初に全てを説明しても理解できないのは分かっていた。
 だから理解できる表現を使うしかないと判断したんだ」
「それでも――」
「分かっている。妹が『鍵』だとは伝えるべきだった。
 しかし、こちらにも事情があってね」
「事情?」
 胸倉から手を離す。胸元を直しながら答える。
「君には『ナタリー・クレフ』を『鍵』ではなく『妹』として見てほしかった。
『ナタリー・クレフ』の幼少期は重要だった。おかげで最善に近い」
 言いたいことは分かった。だが、まだ納得できない点はある。
「だが兄さんは止めたぞ!? 何で終わらない?」
「それについては、すまない。相手が上手だった」
「?」
「君達が出会うより前に『レン・クーガー』は『鍵』を殺してしまったんだ」
 ……可能性があるとすれば『ハーフエルフの小国』か?
「そのせいで、本来は有り得ない分岐が発生してしまった。
 ほんの僅かだが、運命が変わった。敵はこの点を最大限に活用するだろう」
 運命のずれを大きくしようするということか。
「だから『レン・クーガー』の魂は元の世界に帰すのではなく、君達の近くに転生させた」
「な!?」
 元の世界に帰す機会があったのに、帰さなかったのか?
「それはお前の都合だろう!?」
「では、この世界から帰るのか? 構わない。君に強制をした覚えはない」
 俺の大声に冷たく返す。今までとはどこか異なる冷徹さで続けた。
「だが、君のお兄さんは別だ。
『鍵』を殺さなければ帰していたよ。彼が起こした歪みは彼自身に直してもらう」
「っ」
 自分がしたことの責任を取ってもらうだけだと言う。
「……分かった」
 上を見上げて、俺は一度溜息を吐いた。どこまでも白い空間だった。
「もう一度、俺を転生させろ」
「感謝するよ。しかし、今回は条件を追加させてほしい。
 君は『アッシュ・クレフ』だったことを知られてはならない」
「?」
「敵は予想以上に君を警戒していた。恐らく私の存在にも気付いているのだろう。
 私との繋がりに気付いたら、敵は全力で君を排除する。先ほどのように」
「それは……」
 確かに『青鬼』は言っていた。「お前が俺の敵だな」と。
「酷なことを言ってるのは分かっている。だが、他に手がない。
 私の方でも認識されないように細工はしよう」
「分かった。気付かれないように努力はする」
「助かるよ。では、もう一度その扉から出て行ってくれ」
 自称『神様で良いや』は俺が出て来た扉を指さした。
 扉の前へ戻ると、俺はドアノブに手を掛ける。
 ゆっくり回すと意識が遠のいた。
「……一つだけ。これは私の権限を越えた発言だ。
 まったく、後で怒られてしまうなぁ」
 まるでぼやくような声が聞こえる。
 ――君は『アッシュ・クレフ』の残したものを、一つだけ受け取り損ねている。