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第二部 61話 人と鬼

ー/ー



 俺は改めて自分の偽物『白鬼』を観察した。
 見た目では俺と区別が付かないだろう。

『白鬼』は背筋をピンと伸ばして『創世記』という本を読んでいた。
 足音を立てないように気を付けて、俺は歩み寄ると――

「……」

 ――近くの椅子に腰掛けた。

「……驚きました。私を見つけても仕掛けて来ないのですか?」
『白鬼』は本に視線を向けたままで訊ねた。まるで本の感想を呟くようだった。
 
「何を言ってるんだ。いつも仕掛けてくるのはお前らだろう。
 俺から先に仕掛けた記憶はないぞ」
「……それは流石に正論ですね。反論の余地すらない」
 俺の軽口に『白鬼』はどこか楽しそうに応じた。
 
「ここに来たのは読書のためか?」
 俺は軽口を続けた……つもりだった。
 
 しかし『白鬼』はすぐに答えなかった。
 図書館の天井を見上げて、しばらく何かを考える。
 
「対話を選んで頂いたことへの誠意として、せめてヒントを」
「?」
 理解できない俺を置いて『白鬼』は答えた。
 
「ええ、そうです。()()()()()()()()
「一体何を……?」
 俺の疑問には答えず、皮肉げに俺の顔で口元を歪ませた。

 さらに椅子から立ち上がると『白鬼』はすぐそばの棚に本を戻す。
 俺へと向き直ると、結論を口にした。

「無駄ですよ。私達の問題は対話で解決できない。
 せっかくですが、対話の余地はないのです」
『白鬼』は先程の一言はなかったかのように続けた。

「なので、今回も私達から仕掛けます」
『白鬼』の服装が変わる。今の俺と全く同じ格好だった。

『白鬼』が俺の腰に差してあるナイフを抜いた。
 仕方ない、と俺は立ち上がってリックを構える。

『白鬼』が一歩踏み込んだ。
 俺はリックを鎖に錬金しながら叫ぶ。

「騎士団です! 賊が侵入しました!
 今すぐ図書館から避難してください!」
 これで図書館から人気がなくなるだろう。人が多い方が不利だ。

 鎖を『白鬼』に殺到させる。
 しかし『白鬼』は笑みを浮かべた。鎖をがしっと掴む。

 ――しまった!
 
 鎖はすぐに形を変えて『白鬼』の手を逃れて、再度殺到する。
 しかし、ゆっくりと勢いを落としてゆく。

「ごめん、アッシュ……。意識が保てそうにない」
 リックの申し訳なさそうな声。ピノを昏倒させていたのを忘れていた。

 やがて鎖の錬金は解けてメタルスライムの姿になった。
 動かないリックを懐に入れて、俺もナイフを抜く。

 俺は右の逆手を払いながら、踏み込んだ。
『白鬼』は左後ろへ下がりながら、死角に入り込む。

 さらに一歩、左へ回り込むようにする。
 追いかけるように体を回転させると、迎え撃つようにナイフを突き込んできた。

 一息で三度。喉と心臓と右腕。
 下がることで避けたが、内心で冷や汗をかいた。

 意外性はないが、正確で機械的なナイフ捌き。
 紙一重で躱しつつ、死角に潜り込もうとする動き。

 不意討ちの暗殺に特化しているかと思っていた。
 正面から戦っても十分に厄介な相手だ。

 俺の焦りを加速させるように『白鬼』はさらに姿を変えた。
 次は俺の姿ではない。しかし、俺も知る姿だった。

 青い小さな体に長刀と脇差。
 昔斬られた脇腹が痛んだ気がした。

 ――『青鬼』! まさかスキルをコピーできるのか!?
 ――いや、それが可能なら既に逃げているはずだ。

 混乱の隙を畳みかけるように、鋭い二刀が高速で迫ってくる。
 俺は後退一方に追い込まれていく。ナイフ一本では対応しきれなかった。

「おい! アッシュ! いるか!?」
 そこでクロード隊長の声が聞こえた。

 セシリーがブラウン団長に伝えてくれたということだろう。
 正直、助かった。後は協力して『白鬼』を倒せば良い。

「ここです!」
 俺は声を張り上げながら、とうとう壁まで追い詰められる。

「ここまでですね。本当は勝ちたかった」
『白鬼』はさらに姿を変える。

 今度は『赤鬼』だった。すぐさまその巨体で壁に体当たり。
 轟音が響いて、壁に穴が開いた。

 ――また、やられた。
 ――コピーできるのは身体能力か。

 俺に頷くように軽い笑みを浮かべると『白鬼』は開いた穴から出ていった。

「くそっ」
 人の中に紛れ込まれると見付けようがなかった。



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 俺は改めて自分の偽物『白鬼』を観察した。
 見た目では俺と区別が付かないだろう。
『白鬼』は背筋をピンと伸ばして『創世記』という本を読んでいた。
 足音を立てないように気を付けて、俺は歩み寄ると――
「……」
 ――近くの椅子に腰掛けた。
「……驚きました。私を見つけても仕掛けて来ないのですか?」
『白鬼』は本に視線を向けたままで訊ねた。まるで本の感想を呟くようだった。
「何を言ってるんだ。いつも仕掛けてくるのはお前らだろう。
 俺から先に仕掛けた記憶はないぞ」
「……それは流石に正論ですね。反論の余地すらない」
 俺の軽口に『白鬼』はどこか楽しそうに応じた。
「ここに来たのは読書のためか?」
 俺は軽口を続けた……つもりだった。
 しかし『白鬼』はすぐに答えなかった。
 図書館の天井を見上げて、しばらく何かを考える。
「対話を選んで頂いたことへの誠意として、せめてヒントを」
「?」
 理解できない俺を置いて『白鬼』は答えた。
「ええ、そうです。|こ《・》|の《・》|本《・》|が《・》|面《・》|白《・》|く《・》|て《・》」
「一体何を……?」
 俺の疑問には答えず、皮肉げに俺の顔で口元を歪ませた。
 さらに椅子から立ち上がると『白鬼』はすぐそばの棚に本を戻す。
 俺へと向き直ると、結論を口にした。
「無駄ですよ。私達の問題は対話で解決できない。
 せっかくですが、対話の余地はないのです」
『白鬼』は先程の一言はなかったかのように続けた。
「なので、今回も私達から仕掛けます」
『白鬼』の服装が変わる。今の俺と全く同じ格好だった。
『白鬼』が俺の腰に差してあるナイフを抜いた。
 仕方ない、と俺は立ち上がってリックを構える。
『白鬼』が一歩踏み込んだ。
 俺はリックを鎖に錬金しながら叫ぶ。
「騎士団です! 賊が侵入しました!
 今すぐ図書館から避難してください!」
 これで図書館から人気がなくなるだろう。人が多い方が不利だ。
 鎖を『白鬼』に殺到させる。
 しかし『白鬼』は笑みを浮かべた。鎖をがしっと掴む。
 ――しまった!
 鎖はすぐに形を変えて『白鬼』の手を逃れて、再度殺到する。
 しかし、ゆっくりと勢いを落としてゆく。
「ごめん、アッシュ……。意識が保てそうにない」
 リックの申し訳なさそうな声。ピノを昏倒させていたのを忘れていた。
 やがて鎖の錬金は解けてメタルスライムの姿になった。
 動かないリックを懐に入れて、俺もナイフを抜く。
 俺は右の逆手を払いながら、踏み込んだ。
『白鬼』は左後ろへ下がりながら、死角に入り込む。
 さらに一歩、左へ回り込むようにする。
 追いかけるように体を回転させると、迎え撃つようにナイフを突き込んできた。
 一息で三度。喉と心臓と右腕。
 下がることで避けたが、内心で冷や汗をかいた。
 意外性はないが、正確で機械的なナイフ捌き。
 紙一重で躱しつつ、死角に潜り込もうとする動き。
 不意討ちの暗殺に特化しているかと思っていた。
 正面から戦っても十分に厄介な相手だ。
 俺の焦りを加速させるように『白鬼』はさらに姿を変えた。
 次は俺の姿ではない。しかし、俺も知る姿だった。
 青い小さな体に長刀と脇差。
 昔斬られた脇腹が痛んだ気がした。
 ――『青鬼』! まさかスキルをコピーできるのか!?
 ――いや、それが可能なら既に逃げているはずだ。
 混乱の隙を畳みかけるように、鋭い二刀が高速で迫ってくる。
 俺は後退一方に追い込まれていく。ナイフ一本では対応しきれなかった。
「おい! アッシュ! いるか!?」
 そこでクロード隊長の声が聞こえた。
 セシリーがブラウン団長に伝えてくれたということだろう。
 正直、助かった。後は協力して『白鬼』を倒せば良い。
「ここです!」
 俺は声を張り上げながら、とうとう壁まで追い詰められる。
「ここまでですね。本当は勝ちたかった」
『白鬼』はさらに姿を変える。
 今度は『赤鬼』だった。すぐさまその巨体で壁に体当たり。
 轟音が響いて、壁に穴が開いた。
 ――また、やられた。
 ――コピーできるのは身体能力か。
 俺に頷くように軽い笑みを浮かべると『白鬼』は開いた穴から出ていった。
「くそっ」
 人の中に紛れ込まれると見付けようがなかった。