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5-7・なんてことをするんだこの子は。

ー/ー



 数日後、俺は都内のとある大学病院に来ていた。
 目的はもちろん美穂ちゃんだ。奈保ちゃんから月一の検診の日を教えてもらい、今は彼女が病院から出てくるのを待っている。
 もうすぐ時間だ。フッと正面の入り口へ視線をやると、見覚えのある女の子が見えた。
 長い黒髪、小柄な体躯、服から覗く手足は真っ白で、顔色が悪い。
 予想通りだ。なにせもう2週間以上美穂ちゃんと一緒に寝ていない。彼女の話が本当ならば、あまり眠れていないはずだ。
 気の毒ではあるが、ゆえに勝ち目がある。俺は建物の陰に隠れながら美穂ちゃんが病院の敷地外へと出てくるのを待つ。
 とぼとぼと足取り重く歩く彼女。初めて会ったとき以上に元気がないように見える。
 なんとかして助けたい。たとえ彼女に恨まれても。
「美穂ちゃん」
 彼女が大学病院のバス停で足を止めたところで俺は近づいて名前を呼んだ。
 疲れた顔で振り返る美穂ちゃん。俺の顔を見るとかすかに聞こえる声で「なんで」と呟き、そして一気に駆けだした。
 また追いかけっこ。だが今回は互いに条件が違う。
 俺はこの日のためにコンディションを調整してきた。対する美穂ちゃんは寝不足でまともに走ることなんてできないはず。
 負けるわけがない。俺は勢いよく腕を振り、全力で彼女を追いかける。
 俺の見込み通り美穂ちゃんの体調は万全ではないようで、おぼつかない足取りで病院前の道路を駆け抜け、左の角を曲がった。
 合わせて俺も曲がると、既に美穂ちゃんが足を止めている。いや、止めてるどころか道路に座り込み、手をついて肩を上下させている。
 思ったより悪かったのかもしれない。俺は息が乱れる間もなく彼女へ近づき、肩に手を置く。
「美穂ちゃん、大丈夫? ほら、水飲んで」
 荒い呼吸を繰り返す彼女へ予め用意しておいた水が入ったペットボトルを差し出す。
 美穂ちゃんはオレンジ色の目だけをよこして俺とペットボトルを睨み、バシッと奪い取った。
 すぐさま蓋を開けて水を飲む美穂ちゃん。三分の一ほど飲んだところで一度口から話し、呼吸を整えてまた飲む。
 じゃぽじゃぽと口の中にいっぱいの水を蓄え、急に振り向いた。
「美穂ちゃん? 大丈夫?」
 美穂ちゃんが小さく手招きをする。ジッと俺を見上げて――ブシャアァッと口に入った水を噴きつけられた。
 なんてことをするんだこの子は。
 生ぬるい水の感触が気持ち悪くて声も出せない。ひとまず羽織っていたシャツで顔を拭う。
 視界がクリアになったところで美穂ちゃんの姿が見えてくる。
 彼女はあまりにも分かりやすく、ご機嫌斜めな顔をしていた。
「日之太さん、サイテーです」


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 数日後、俺は都内のとある大学病院に来ていた。
 目的はもちろん美穂ちゃんだ。奈保ちゃんから月一の検診の日を教えてもらい、今は彼女が病院から出てくるのを待っている。
 もうすぐ時間だ。フッと正面の入り口へ視線をやると、見覚えのある女の子が見えた。
 長い黒髪、小柄な体躯、服から覗く手足は真っ白で、顔色が悪い。
 予想通りだ。なにせもう2週間以上美穂ちゃんと一緒に寝ていない。彼女の話が本当ならば、あまり眠れていないはずだ。
 気の毒ではあるが、ゆえに勝ち目がある。俺は建物の陰に隠れながら美穂ちゃんが病院の敷地外へと出てくるのを待つ。
 とぼとぼと足取り重く歩く彼女。初めて会ったとき以上に元気がないように見える。
 なんとかして助けたい。たとえ彼女に恨まれても。
「美穂ちゃん」
 彼女が大学病院のバス停で足を止めたところで俺は近づいて名前を呼んだ。
 疲れた顔で振り返る美穂ちゃん。俺の顔を見るとかすかに聞こえる声で「なんで」と呟き、そして一気に駆けだした。
 また追いかけっこ。だが今回は互いに条件が違う。
 俺はこの日のためにコンディションを調整してきた。対する美穂ちゃんは寝不足でまともに走ることなんてできないはず。
 負けるわけがない。俺は勢いよく腕を振り、全力で彼女を追いかける。
 俺の見込み通り美穂ちゃんの体調は万全ではないようで、おぼつかない足取りで病院前の道路を駆け抜け、左の角を曲がった。
 合わせて俺も曲がると、既に美穂ちゃんが足を止めている。いや、止めてるどころか道路に座り込み、手をついて肩を上下させている。
 思ったより悪かったのかもしれない。俺は息が乱れる間もなく彼女へ近づき、肩に手を置く。
「美穂ちゃん、大丈夫? ほら、水飲んで」
 荒い呼吸を繰り返す彼女へ予め用意しておいた水が入ったペットボトルを差し出す。
 美穂ちゃんはオレンジ色の目だけをよこして俺とペットボトルを睨み、バシッと奪い取った。
 すぐさま蓋を開けて水を飲む美穂ちゃん。三分の一ほど飲んだところで一度口から話し、呼吸を整えてまた飲む。
 じゃぽじゃぽと口の中にいっぱいの水を蓄え、急に振り向いた。
「美穂ちゃん? 大丈夫?」
 美穂ちゃんが小さく手招きをする。ジッと俺を見上げて――ブシャアァッと口に入った水を噴きつけられた。
 なんてことをするんだこの子は。
 生ぬるい水の感触が気持ち悪くて声も出せない。ひとまず羽織っていたシャツで顔を拭う。
 視界がクリアになったところで美穂ちゃんの姿が見えてくる。
 彼女はあまりにも分かりやすく、ご機嫌斜めな顔をしていた。
「日之太さん、サイテーです」