カオルの調べもの
ー/ー
カオルは早速イシュタルと約束した調査に乗り出した。
まず、ユージの先祖の出自を調べるために魔界へ向かった。
もしその中に天界からの移住者がいれば、その者の血縁者が龍と何かしら縁があった可能性が出てくる。
カオルは自分の特権を大いに利用して魔界のあらゆるシステムを駆使して、ユージの血縁関係を洗いざらい調べ上げた。
しかし、ユージの血縁者に天界からの移住者はいなさそうだった。
「うーん」
カオルは唸り声をあげ、天を仰いだ。
(どうやらあいつは、ご先祖様からして根っからの魔界っ子のようだねえ)
となると、天界の龍と何かしらの結びつきがある可能性は低そうだ。
(念のため、ステラにあいつの星図を調べてもらうか)
とばかりに、郊外のステラ邸に向かったが、折悪しく『エトワール』の活動で天界に出かけているとのことだった。
(仕方ない。それじゃあ、天界に行くかね)
カオルは早々に魔界を立ち去り、天界に向かう。
天界に着くと、彼女は状況確認のために二大神殿の大司祭に面会し、ユージが龍に吼えられた時期の龍の谷の様子を詳しく聞き取った。そして、魔法使いのトップ・天導師を務めるヤンにも同様の確認を行った。
「や、まさかこの件に師匠が興味を示されるとは」
ヤンは驚きながらも、魔法庁が出した調査報告書を全てカオルに提供した。
カオルはその報告書に目を通すと、
「ふうん。魔法庁では問題なしと結論付けたんだね」
目を上げて、ヤンに念押しした。
「はい。ユージ君には悪いのですが、我々が対処すべきものを見つけることが出来なかったもので」
「そうかい、わかったよ。二大神殿と魔法庁の見解は一致しているようだね」
カオルはヤンに報告書を返しながら、頷いて見せた。
「師匠。もしや何かありましたか?」
訝し気に尋ねてきたヤンにカオルは薄く笑って、
「いや、ちょいと調べものをしててね。もし天界に関係するような話が出てきたら、お前にも共有するよ」
と、適当にはぐらかした。
ヤンと別れたカオルは、天界のホテルに滞在中のステラを捕まえた。
「ステラ。急な話で済まないが、ユージの星図を調べておくれな」
「えっ、今からですと、さらっとしかリーディング出来ませんが……」
聞けば、この後『エトワール』の屋外ライブがあり、30分後に出発するという。
「いいよ。知りたいことはひとつだけだからね」
カオルはあっさりと承諾した。
「わかりました。では、準備します」
ステラは荷物の中から香油を取り出し、ホテルの部屋を清める所作を行った。
そして、部屋の空間が整ったところで胸の前で手を組み、口の中で何事かをぶつぶつと唱えた。
ややあって、ステラが両手を大きく広げると、そこから部屋の空間いっぱいに星々が煌めく様が展開された。
「師匠。ユージ君の星図です」
ステラはカオルを振り返った。
カオルはステラが出した星図を一通り眺めた後で、
「ステラ。この中に龍に関する暗示が出ていないか、見ておくれな」
と、指示を出した。
「龍、ですか……わかりました」
ステラは小首を傾げたが、すぐに星読みを始めた。
カオルもその後ろで、ステラの邪魔にならないようにしながら星図を眺めている。
(それにしても、本当に何もない星図だね。シンプルなことこの上ないよ)
ユージは特別な存在であるカオルに出会っただけでなく、彼女にその才を認められて、弟子にまでなった男だ。
(本当なら、もうちょっとなんか出ても良さそうなもんだが)
「師匠」
ステラの声が、カオルの思考を遮った。
「ん?読めたのかい?」
「はい。ざっくりとですが」
「いいよ。聞かせておくれ」
「見たところ、ユージ君には龍に関する星も暗示も出ていないようです」
「そうかい。まあ、これだけシンプルな星図じゃあねえ」
「師匠。ユージ君に何かあったのですか?」
ステラは心配そうにカオルを窺った。
それは、自らの妹弟子であり、親友でもあるサクラの夫に関することゆえであろう。
「ああ、ここだけの話だが、あいつ、うっかり龍王の魂に触って吼えられたらしいんだよ」
「えっ?」
ステラは驚いたように口元を覆った。
「それだけじゃなくって、ついこないだ、中道界に居る生き残り龍もユージに触られたって言い出してね。
そんなわけで、あたしの方で原因調査をせざるを得なくなったというわけさ」
「そうですか。そんなことが……」
「だが、血縁関係もシロ、星図もシロ、で、今のところさっぱりだよ」
カオルは天を仰いで腕組みした。
「もしかしたら、何かの拍子でたまたまそうなった、って結論にするしかないかもねえ」
そんなカオルの様子を見て、ステラは思い切ったように口を開いた。
「師匠。これは私の気のせいかも知れませんが……実は、星読みとしてひとつだけ引っ掛かることがあります」
「ん?」
「ユージ君の星図ですが……一般の方と比べても、あまりにもシンプル過ぎるんです」
日を改めて、カオルは再び天界へ向かった。
今度は龍王と直接会話しようと思い立ったのだ。
彼女は龍の谷へ向かい、慰霊碑の前に立つと龍王を呼び出した。
「久しいねえ、龍王」
カオルの呼びかけに、姿を現した龍王は膝をついて首を垂れた。
『これは……わざわざのお越し、痛み入ります』
「おっと、堅苦しいのは抜きにしておくれな。ちょいとお前さんに訊きたいことがあってね」
『はい、何なりと』
「過日、お前さんが空を飛んでた魔界人に吼えちまったと聞いてね」
『は、それは……』
途端に、龍王は苦虫を嚙み潰したような顔をした。
恐らく誇り高い龍王としては思い出したくない失態なのだろう。
「ああ、そのことでお前さんを咎めに来たんじゃないよ。済まないが、その時の話を詳しく聞かせておくれな――ちょいと訳ありでね」
『と、言いますと?』
「お前さんが吼えた相手っていうのが、実はあたしの弟子でね」
『なんと……』
カオルの言葉に、龍王は目を見開いた。
「それだけじゃなくてさ、どうやら、中道界で蒼き龍の子もうちの弟子に触られたらしいんだよ。うちの弟子は根っからの魔界っ子で、龍に干渉する力があるとも思えないんだが、話を聞いて流石にあたしも気になっちまってねえ」
『なるほど。左様でございましたか』
龍王は得心したように頷いた。
『わかりました。全てお話致します』
龍王は、その日の出来事と、それに対する自らの見解を包み隠さず打ち明けた。
龍王の話を聞き終えたカオルは、暫し沈思した。
ややあって、
「龍王。お前さんがうちの弟子を『言霊の奏で人』と思ったのはどうしてだい?」
と、尋ねた。
『彼の夢に侵入した折、彼の中で膨大な言の葉が飛び交う様を目撃したからです』
龍王は即答した。
『まだそれは、制御されることも知らず勝手気ままに動いているようでしたが、やがて彼はそれらを自らの支配下に置くような気がしたのです』
ただ、これはあくまでも私の印象ですが――と、龍王は付け加えた。
「ふうん。そうかい」
カオルは龍王の言葉に対し、正しいとも誤っているとも言わなかった。
『北極星の君。実は、あなたのお弟子様に、是非にも頼みたいことがあるのです』
龍王がさっ、と両手を振り上げると、カオルの前に古びた一冊の書物が現れた。
「これは?」
『王家に代々伝わる、龍の奥義書です』
カオルは真剣な面持ちでその書物を手に取った。
「あたしが見ても構わないかい?」
『はい』
カオルは龍王の回答を待ってから、本を開いた。
『あなたのお弟子様には、ここに記載されている秘術を執り行って頂きたいのです』
「!」
龍王の言葉に、カオルは目を上げた。
龍王が言わんとしていることを理解したのだ。
「……龍王。こんなことを言うのは心苦しいが、お前さんはあいつを買い被り過ぎだよ」
カオルははっきりとそう告げた。
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もしその中に天界からの移住者がいれば、その者の血縁者が龍と何かしら縁があった可能性が出てくる。
カオルは自分の特権を大いに利用して魔界のあらゆるシステムを駆使して、ユージの血縁関係を洗いざらい調べ上げた。
しかし、ユージの血縁者に天界からの移住者はいなさそうだった。
「うーん」
カオルは唸り声をあげ、天を仰いだ。
(どうやらあいつは、ご先祖様からして根っからの魔界っ子のようだねえ)
となると、天界の龍と何かしらの結びつきがある可能性は低そうだ。
(念のため、ステラにあいつの星図を調べてもらうか)
とばかりに、郊外のステラ邸に向かったが、折悪しく『エトワール』の活動で天界に出かけているとのことだった。
(仕方ない。それじゃあ、天界に行くかね)
カオルは早々に魔界を立ち去り、天界に向かう。
天界に着くと、彼女は状況確認のために二大神殿の大司祭に面会し、ユージが龍に吼えられた時期の龍の谷の様子を詳しく聞き取った。そして、魔法使いのトップ・天導師を務めるヤンにも同様の確認を行った。
「や、まさかこの件に師匠が興味を示されるとは」
ヤンは驚きながらも、魔法庁が出した調査報告書を全てカオルに提供した。
カオルはその報告書に目を通すと、
「ふうん。魔法庁では問題なしと結論付けたんだね」
目を上げて、ヤンに念押しした。
「はい。ユージ君には悪いのですが、我々が対処すべきものを見つけることが出来なかったもので」
「そうかい、わかったよ。二大神殿と魔法庁の見解は一致しているようだね」
カオルはヤンに報告書を返しながら、頷いて見せた。
「師匠。もしや何かありましたか?」
訝し気に尋ねてきたヤンにカオルは薄く笑って、
「いや、ちょいと調べものをしててね。もし天界に関係するような話が出てきたら、お前にも共有するよ」
と、適当にはぐらかした。
ヤンと別れたカオルは、天界のホテルに滞在中のステラを捕まえた。
「ステラ。急な話で済まないが、ユージの星図を調べておくれな」
「えっ、今からですと、さらっとしかリーディング出来ませんが……」
聞けば、この後『エトワール』の屋外ライブがあり、30分後に出発するという。
「いいよ。知りたいことはひとつだけだからね」
カオルはあっさりと承諾した。
「わかりました。では、準備します」
ステラは荷物の中から香油を取り出し、ホテルの部屋を清める所作を行った。
そして、部屋の空間が整ったところで胸の前で手を組み、口の中で何事かをぶつぶつと唱えた。
ややあって、ステラが両手を大きく広げると、そこから部屋の空間いっぱいに星々が煌めく様が展開された。
「師匠。ユージ君の星図です」
ステラはカオルを振り返った。
カオルはステラが出した星図を一通り眺めた後で、
「ステラ。この中に龍に関する暗示が出ていないか、見ておくれな」
と、指示を出した。
「龍、ですか……わかりました」
ステラは小首を傾げたが、すぐに星読みを始めた。
カオルもその後ろで、ステラの邪魔にならないようにしながら星図を眺めている。
(それにしても、本当に何もない星図だね。シンプルなことこの上ないよ)
ユージは特別な存在であるカオルに出会っただけでなく、彼女にその才を認められて、弟子にまでなった男だ。
(本当なら、もうちょっとなんか出ても良さそうなもんだが)
「師匠」
ステラの声が、カオルの思考を遮った。
「ん?読めたのかい?」
「はい。ざっくりとですが」
「いいよ。聞かせておくれ」
「見たところ、ユージ君には龍に関する星も暗示も出ていないようです」
「そうかい。まあ、これだけシンプルな星図じゃあねえ」
「師匠。ユージ君に何かあったのですか?」
ステラは心配そうにカオルを窺った。
それは、自らの妹弟子であり、親友でもあるサクラの夫に関することゆえであろう。
「ああ、ここだけの話だが、あいつ、うっかり龍王の魂に触って吼えられたらしいんだよ」
「えっ?」
ステラは驚いたように口元を覆った。
「それだけじゃなくって、ついこないだ、中道界に居る生き残り龍もユージに触られたって言い出してね。
そんなわけで、あたしの方で原因調査をせざるを得なくなったというわけさ」
「そうですか。そんなことが……」
「だが、血縁関係もシロ、星図もシロ、で、今のところさっぱりだよ」
カオルは天を仰いで腕組みした。
「もしかしたら、何かの拍子でたまたまそうなった、って結論にするしかないかもねえ」
そんなカオルの様子を見て、ステラは思い切ったように口を開いた。
「師匠。これは私の気のせいかも知れませんが……実は、星読みとしてひとつだけ引っ掛かることがあります」
「ん?」
「ユージ君の星図ですが……一般の方と比べても、あまりにもシンプル過ぎるんです」
日を改めて、カオルは再び天界へ向かった。
今度は龍王と直接会話しようと思い立ったのだ。
彼女は龍の谷へ向かい、慰霊碑の前に立つと龍王を呼び出した。
「久しいねえ、龍王」
カオルの呼びかけに、姿を現した龍王は膝をついて首を垂れた。
『これは……わざわざのお越し、痛み入ります』
「おっと、堅苦しいのは抜きにしておくれな。ちょいとお前さんに訊きたいことがあってね」
『はい、何なりと』
「過日、お前さんが空を飛んでた魔界人に吼えちまったと聞いてね」
『は、それは……』
途端に、龍王は苦虫を嚙み潰したような顔をした。
恐らく誇り高い龍王としては思い出したくない失態なのだろう。
「ああ、そのことでお前さんを咎めに来たんじゃないよ。済まないが、その時の話を詳しく聞かせておくれな――ちょいと訳ありでね」
『と、言いますと?』
「お前さんが吼えた相手っていうのが、実はあたしの弟子でね」
『なんと……』
カオルの言葉に、龍王は目を見開いた。
「それだけじゃなくてさ、どうやら、中道界で蒼き龍の子もうちの弟子に触られたらしいんだよ。うちの弟子は根っからの魔界っ子で、龍に干渉する力があるとも思えないんだが、話を聞いて流石にあたしも気になっちまってねえ」
『なるほど。左様でございましたか』
龍王は得心したように頷いた。
『わかりました。全てお話致します』
龍王は、その日の出来事と、それに対する自らの見解を包み隠さず打ち明けた。
龍王の話を聞き終えたカオルは、暫し沈思した。
ややあって、
「龍王。お前さんがうちの弟子を『言霊の奏で|人《びと》』と思ったのはどうしてだい?」
と、尋ねた。
『彼の夢に侵入した折、彼の中で膨大な言の葉が飛び交う様を目撃したからです』
龍王は即答した。
『まだそれは、制御されることも知らず勝手気ままに動いているようでしたが、やがて彼はそれらを自らの支配下に置くような気がしたのです』
ただ、これはあくまでも私の印象ですが――と、龍王は付け加えた。
「ふうん。そうかい」
カオルは龍王の言葉に対し、正しいとも誤っているとも言わなかった。
『北極星の君。実は、あなたのお弟子様に、是非にも頼みたいことがあるのです』
龍王がさっ、と両手を振り上げると、カオルの前に古びた一冊の書物が現れた。
「これは?」
『王家に代々伝わる、龍の奥義書です』
カオルは真剣な面持ちでその書物を手に取った。
「あたしが見ても構わないかい?」
『はい』
カオルは龍王の回答を待ってから、本を開いた。
『あなたのお弟子様には、ここに記載されている秘術を執り行って頂きたいのです』
「!」
龍王の言葉に、カオルは目を上げた。
龍王が言わんとしていることを理解したのだ。
「……龍王。こんなことを言うのは心苦しいが、お前さんはあいつを買い被り過ぎだよ」
カオルははっきりとそう告げた。