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第二部 55話 目撃

ー/ー



 数日後には王国の勝利が伝えられた。
 何でも伯爵と子爵の間で亀裂が生まれていたという噂だった。

「結局仲間割れしてるんじゃ世話ないよなぁ」
「ま、楽出来て良かったんじゃない?」
「……ソフィアちゃんを泣かせた罰よ!」
 俺の言葉にアリスとナタリーが返す。

 勝利の連絡が届くとさらに都市中が賑わい出した。
 俺達はお祭り騒ぎになっている雑多な街並みを冷やかしている。

 辺りは出店の呼び込み声と人ごみの喧騒で包まれていた。
 俺達は人の波に逆らうことなく、ゆっくりと歩く。

 ……ちなみに、ソフィアがいないのはキレたユイから逃げているからだ。
 先日の逃亡が決め手だった。

「!」
 そのソフィアが横を通り過ぎようとしていた。

「あれ、ソフィアちゃんだ」
 ナタリーが目聡く、すれ違うソフィアを見つける。

「お嬢様!」
「先生! 良かった……。
 ユイから逃げてるの。匿って?」
「……お嬢様?」
 お願い、とばかりに首を傾げて見せる。

「はあ……」
 我ながら甘い。

 すぐにユイが走って来た。
 誰かを探すように周囲を見回している。
 
「ユイさん?」
「ナタリーさん! お嬢様を見ませんでしたか?」
「どうしたんですか?」

 ナタリーがさり気なく声を掛けた。
 自然にアリスが合流する。この辺りの連携は流石である。

「逃げられ――はぐれてしまって……」
 この期に及んで、公爵家の体面を守ろうとする姿は健気だった。

「お嬢様がいないんですか?」
 俺が人ごみをかき分けて参加する。

 ソフィアは近くに隠れている。
 後は俺が適当な方向を教えれば完了である。

 すぐにピノを送って、お嬢様を保護したと連絡しますので許してください。

 しかし、ユイの反応は予想外だった。
 返事をせずに首を傾げたのだ。そのまま後ろを振り返る。

「あの、先生? さっきまで向こうにいませんでした?」
「? いや、いませんよ。ずっとこいつらと一緒です」
「あれ、さっき先生とすれ違ったと思ったのに……」
「あはは、お兄ちゃんに似てる人だって! ……?」
 ユイの言葉にナタリーが声を上げて笑う。

 皆も釣られて笑った後、ナタリーが笑みを凍り付かせた。

「違う」
「どうした?」
 
 そして、一言呟いた。
 ――白鬼、と。

 そこからの動き出しは早かった。
 ナタリーアリスが周囲を警戒し始める。

 ソフィアもすぐに出てきて、ユイに動かないように伝える。
 ユイもその真剣さから反論はしなかった。

「ユイさん、俺に似た男とはどこで会いましたか?」
「すぐそこです。ナタリーさんから声を掛けられるちょっと前くらい」
 俺は頷くと、他のメンバーを見回す。

「俺が追い掛ける。俺の姿でいるなら、俺は騙される心配がない。
 それに、一度は直接会っているから対策しやすいだろう。
 加えて……姿を奪われても痛くない。すでに奪われているからな」
「気を付けて。ラルフさんに化ける可能性があるよ」
「分かってる。俺が戻って来てもすぐに信用はするな」
 一通り注意点を確認し合うと、俺は人ごみの中を進み始める。

 なるべく騒ぎは起こさないように、通りを進んでゆく。
 人をかき分けて進む分、時間も掛かるが仕方ない。

「……!」
 やがて、見つけた。見慣れた姿だ。
 周囲を警戒する様子はなく、無造作に進んでいるように見える。

 さて、どうするか。
 このまま後を付けるか。それとも仕掛けるか。

 自分の後頭部を見つめながら、悩んだ瞬間。
 ぱん、ぱん、と気の抜けた音が後ろから聞こえた。

「ん?」
 振り返ると魔法で上げた祝砲が弾けたらしい。

 とんでもないお祭り騒ぎだな。音が止んで、俺は偽物へと視線を戻す。
 偽物は真っ直ぐにこちらを見ていた。

「!?」
 しっかりと視線がぶつかってしまう。

 俺は咄嗟に仕掛けようとするが、偽物の方が早かった。
 近くの通行人に触れると、その場で昏倒させる。

「お、おい! 大丈夫か!?」
 倒れた人を介抱する通行人を壁にして『白鬼』が去ってゆく。

「待て!」
 せめて叫ぶ。

 偽物は一瞬だけ振り向いて――笑いやがった。
 次の瞬間には俺の姿は別の誰かに変わっていた。



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 数日後には王国の勝利が伝えられた。
 何でも伯爵と子爵の間で亀裂が生まれていたという噂だった。
「結局仲間割れしてるんじゃ世話ないよなぁ」
「ま、楽出来て良かったんじゃない?」
「……ソフィアちゃんを泣かせた罰よ!」
 俺の言葉にアリスとナタリーが返す。
 勝利の連絡が届くとさらに都市中が賑わい出した。
 俺達はお祭り騒ぎになっている雑多な街並みを冷やかしている。
 辺りは出店の呼び込み声と人ごみの喧騒で包まれていた。
 俺達は人の波に逆らうことなく、ゆっくりと歩く。
 ……ちなみに、ソフィアがいないのはキレたユイから逃げているからだ。
 先日の逃亡が決め手だった。
「!」
 そのソフィアが横を通り過ぎようとしていた。
「あれ、ソフィアちゃんだ」
 ナタリーが目聡く、すれ違うソフィアを見つける。
「お嬢様!」
「先生! 良かった……。
 ユイから逃げてるの。匿って?」
「……お嬢様?」
 お願い、とばかりに首を傾げて見せる。
「はあ……」
 我ながら甘い。
 すぐにユイが走って来た。
 誰かを探すように周囲を見回している。
「ユイさん?」
「ナタリーさん! お嬢様を見ませんでしたか?」
「どうしたんですか?」
 ナタリーがさり気なく声を掛けた。
 自然にアリスが合流する。この辺りの連携は流石である。
「逃げられ――はぐれてしまって……」
 この期に及んで、公爵家の体面を守ろうとする姿は健気だった。
「お嬢様がいないんですか?」
 俺が人ごみをかき分けて参加する。
 ソフィアは近くに隠れている。
 後は俺が適当な方向を教えれば完了である。
 すぐにピノを送って、お嬢様を保護したと連絡しますので許してください。
 しかし、ユイの反応は予想外だった。
 返事をせずに首を傾げたのだ。そのまま後ろを振り返る。
「あの、先生? さっきまで向こうにいませんでした?」
「? いや、いませんよ。ずっとこいつらと一緒です」
「あれ、さっき先生とすれ違ったと思ったのに……」
「あはは、お兄ちゃんに似てる人だって! ……?」
 ユイの言葉にナタリーが声を上げて笑う。
 皆も釣られて笑った後、ナタリーが笑みを凍り付かせた。
「違う」
「どうした?」
 そして、一言呟いた。
 ――白鬼、と。
 そこからの動き出しは早かった。
 ナタリーアリスが周囲を警戒し始める。
 ソフィアもすぐに出てきて、ユイに動かないように伝える。
 ユイもその真剣さから反論はしなかった。
「ユイさん、俺に似た男とはどこで会いましたか?」
「すぐそこです。ナタリーさんから声を掛けられるちょっと前くらい」
 俺は頷くと、他のメンバーを見回す。
「俺が追い掛ける。俺の姿でいるなら、俺は騙される心配がない。
 それに、一度は直接会っているから対策しやすいだろう。
 加えて……姿を奪われても痛くない。すでに奪われているからな」
「気を付けて。ラルフさんに化ける可能性があるよ」
「分かってる。俺が戻って来てもすぐに信用はするな」
 一通り注意点を確認し合うと、俺は人ごみの中を進み始める。
 なるべく騒ぎは起こさないように、通りを進んでゆく。
 人をかき分けて進む分、時間も掛かるが仕方ない。
「……!」
 やがて、見つけた。見慣れた姿だ。
 周囲を警戒する様子はなく、無造作に進んでいるように見える。
 さて、どうするか。
 このまま後を付けるか。それとも仕掛けるか。
 自分の後頭部を見つめながら、悩んだ瞬間。
 ぱん、ぱん、と気の抜けた音が後ろから聞こえた。
「ん?」
 振り返ると魔法で上げた祝砲が弾けたらしい。
 とんでもないお祭り騒ぎだな。音が止んで、俺は偽物へと視線を戻す。
 偽物は真っ直ぐにこちらを見ていた。
「!?」
 しっかりと視線がぶつかってしまう。
 俺は咄嗟に仕掛けようとするが、偽物の方が早かった。
 近くの通行人に触れると、その場で昏倒させる。
「お、おい! 大丈夫か!?」
 倒れた人を介抱する通行人を壁にして『白鬼』が去ってゆく。
「待て!」
 せめて叫ぶ。
 偽物は一瞬だけ振り向いて――笑いやがった。
 次の瞬間には俺の姿は別の誰かに変わっていた。