第二部 51話 才能開花2
ー/ー『赤鬼』はナタリーを見つけるなり、一直線に走り出した。
ナタリーに戦闘能力はない。『赤鬼』は一瞬で間合いを詰める。
「おらぁ!」
『赤鬼』は黒い金棒を横に薙ぎ払った。
いかにも単純で力任せの一撃。
しかし、だからこそ効果的だった。
「!?」
ナタリーは咄嗟に反応できずに身を固めてしまう。
宿の壁を削りながら、金棒がナタリーへと迫る。
アリスも騎士団員も反応できずにいた。
バチ、という小さな音。
『赤鬼』の右腕が下から弾き上げられる。
「なんだ?」
『赤鬼』が不思議そうな声を出した。
見れば、宿の床が盛り上がっていた。
そのまま『赤鬼』の腕ごと持ち上げたのだ。
「触るな」
ぞっとするような静かな声。
『赤鬼』の懐に踏み込んだ小さな小さな影。
天井に刺さった金棒を『赤鬼』が戻すまでの間に、影は『赤鬼』の体を無数に切り刻む。
両足首を落とされた。腹を裂かれた。心臓と両肺を貫かれた。右肘と右肩を抉られた。左手首を落とされた。首を掻き切られた。
「ごふ」
口から『赤鬼』が血を吹き出す。
足場を錬金で作成しながら、ソフィアは一息で『赤鬼』に致命傷を与えていた。
「ふ――」
さらに『赤鬼』の頭を跳び越えて背後から首を落とそうと両手のナイフを交差するように払う。
「なめ、るな」
しかし『赤鬼』は即座に全てを回復させて、その場で屈んで避けた。
ソフィアの舌打ち。
しかし、すぐに切り替えて叫んだ。
「アリス!」
「! 分かった」
逆上した『赤鬼』がソフィアへと向き直る。
そこにアリスの命令が響いた。
「風よ。吹き飛ばせ」
念のため『赤鬼』の背に触れて、魔術を発動させる。
「うお?」
ソフィアと一緒に『赤鬼』は自分が飛び込んで来た穴から出て行った。
二人は宿の前の通りで向かい合っていた。
手が回されたのか、逃げた後なのか、すでに人影はない。
「痛たた……。で? お前が相手してくれるのか?」
『赤鬼』はソフィアを眺めながら不思議そうに首を傾げた。
その姿はすでに完治しているようだった。
ソフィアは質問に答えることはせずに踏み込んだ。
――首を落とすしかないのね。
――さて、どうするか。
『赤鬼』は迎え撃つように金棒を上から振り下ろす。
ソフィアは軽く右へと跳んで躱した。
同時に錬金。地面から金属を抽出して金棒を縛り付ける。
そのまま固定した金棒に飛び乗ると『赤鬼』の首目掛けて駆け上がった。
『赤鬼』が驚いた表情を浮かべる。
しかし雄叫びを上げながら、金棒を強引に地面から引きはがした。
金棒ごと引き上げられて、ソフィアが『赤鬼』の背後を落ちてゆく。
落ちながらソフィアはナイフで狙いを付ける。
バチ、バチ、と繰り返される錬金音。
まるで狙撃するように、刃を伸ばしたナイフが心臓と首を貫いた。
「ぐ……」
「ふふふ」
呻く『赤鬼』と対照的にソフィアは受身を取って微笑んだ。
「何が可笑しいんだ?」
顔を引き攣らせながら『赤鬼』がソフィアを見る。
「いいえ。貴方には関係ないことよ」
ソフィアは涼し気に微笑んで続ける。
「ただ、私にも貴方は殺せるみたい」
『人』を殺そうとしたら見せられる光景があった。
『人』を殺すな、と例外なく止められた。
しかし『鬼』を殺そうとしても止められなかったのだ。
お返しとばかりに『赤鬼』が踏み込んだ。
大振りの一撃を繰り返すが、ソフィアは素早く足元を走り回って避ける。
「くそ、避けるな!」
「ふふ、嫌ならちゃんと当てなさい」
苛立つ『赤鬼』と挑発するソフィア。
一際大きな一撃の後、ソフィアはとん、と足を鳴らした。
いくつもの壁が『赤鬼』を囲むように地面から立ち上がる。
錬金された壁はソフィアの姿を隠し、金棒の威力を下げるものだった。
さらに、ソフィアの足場にもなっていた。
ソフィアが壁を蹴っては跳び上がり『赤鬼』に細かい傷を付けてゆく。
『赤鬼』も左腕を伸ばすものの、捕らえられない。逆に手首を落とされる始末だ。
ソフィアが一度地面に手を付いて『赤鬼』を見た。
軽く微笑んで見せる。
「ふざけるな!」
挑発を受けて『赤鬼』が金棒を振りかぶる。
上からなら壁の影響は少ないという判断だろう。
――来た。
「ふ」
ソフィアはここぞとばかりに踏み込んだ。
自分の足場も錬金して、高速で『赤鬼』の背後へと走り抜ける。
両手のナイフで相手の両足の健を断った。
「あ?」
『赤鬼』がバランスを崩す。
さらにソフィアは錬金も使って高く跳んだ。『赤鬼』の首の位置。
振りかぶったままの黒い金棒へとそっと触れる。
バチ、と一際大きな錬金音。
黒い金棒から黒い大剣を錬金して一閃。『赤鬼』の首を討ち取った。
「ははは! 面白かった! 次は負けないからな!」
『赤鬼』の首は楽しそうに笑いながら地面を転がり、やがて目の光を失った。

ナタリーに戦闘能力はない。『赤鬼』は一瞬で間合いを詰める。
「おらぁ!」
『赤鬼』は黒い金棒を横に薙ぎ払った。
いかにも単純で力任せの一撃。
しかし、だからこそ効果的だった。
「!?」
ナタリーは咄嗟に反応できずに身を固めてしまう。
宿の壁を削りながら、金棒がナタリーへと迫る。
アリスも騎士団員も反応できずにいた。
バチ、という小さな音。
『赤鬼』の右腕が下から弾き上げられる。
「なんだ?」
『赤鬼』が不思議そうな声を出した。
見れば、宿の床が盛り上がっていた。
そのまま『赤鬼』の腕ごと持ち上げたのだ。
「触るな」
ぞっとするような静かな声。
『赤鬼』の懐に踏み込んだ小さな小さな影。
天井に刺さった金棒を『赤鬼』が戻すまでの間に、影は『赤鬼』の体を無数に切り刻む。
両足首を落とされた。腹を裂かれた。心臓と両肺を貫かれた。右肘と右肩を抉られた。左手首を落とされた。首を掻き切られた。
「ごふ」
口から『赤鬼』が血を吹き出す。
足場を錬金で作成しながら、ソフィアは一息で『赤鬼』に致命傷を与えていた。
「ふ――」
さらに『赤鬼』の頭を跳び越えて背後から首を落とそうと両手のナイフを交差するように払う。
「なめ、るな」
しかし『赤鬼』は即座に全てを回復させて、その場で屈んで避けた。
ソフィアの舌打ち。
しかし、すぐに切り替えて叫んだ。
「アリス!」
「! 分かった」
逆上した『赤鬼』がソフィアへと向き直る。
そこにアリスの命令が響いた。
「風よ。吹き飛ばせ」
念のため『赤鬼』の背に触れて、魔術を発動させる。
「うお?」
ソフィアと一緒に『赤鬼』は自分が飛び込んで来た穴から出て行った。
二人は宿の前の通りで向かい合っていた。
手が回されたのか、逃げた後なのか、すでに人影はない。
「痛たた……。で? お前が相手してくれるのか?」
『赤鬼』はソフィアを眺めながら不思議そうに首を傾げた。
その姿はすでに完治しているようだった。
ソフィアは質問に答えることはせずに踏み込んだ。
――首を落とすしかないのね。
――さて、どうするか。
『赤鬼』は迎え撃つように金棒を上から振り下ろす。
ソフィアは軽く右へと跳んで躱した。
同時に錬金。地面から金属を抽出して金棒を縛り付ける。
そのまま固定した金棒に飛び乗ると『赤鬼』の首目掛けて駆け上がった。
『赤鬼』が驚いた表情を浮かべる。
しかし雄叫びを上げながら、金棒を強引に地面から引きはがした。
金棒ごと引き上げられて、ソフィアが『赤鬼』の背後を落ちてゆく。
落ちながらソフィアはナイフで狙いを付ける。
バチ、バチ、と繰り返される錬金音。
まるで狙撃するように、刃を伸ばしたナイフが心臓と首を貫いた。
「ぐ……」
「ふふふ」
呻く『赤鬼』と対照的にソフィアは受身を取って微笑んだ。
「何が可笑しいんだ?」
顔を引き攣らせながら『赤鬼』がソフィアを見る。
「いいえ。貴方には関係ないことよ」
ソフィアは涼し気に微笑んで続ける。
「ただ、私にも貴方は殺せるみたい」
『人』を殺そうとしたら見せられる光景があった。
『人』を殺すな、と例外なく止められた。
しかし『鬼』を殺そうとしても止められなかったのだ。
お返しとばかりに『赤鬼』が踏み込んだ。
大振りの一撃を繰り返すが、ソフィアは素早く足元を走り回って避ける。
「くそ、避けるな!」
「ふふ、嫌ならちゃんと当てなさい」
苛立つ『赤鬼』と挑発するソフィア。
一際大きな一撃の後、ソフィアはとん、と足を鳴らした。
いくつもの壁が『赤鬼』を囲むように地面から立ち上がる。
錬金された壁はソフィアの姿を隠し、金棒の威力を下げるものだった。
さらに、ソフィアの足場にもなっていた。
ソフィアが壁を蹴っては跳び上がり『赤鬼』に細かい傷を付けてゆく。
『赤鬼』も左腕を伸ばすものの、捕らえられない。逆に手首を落とされる始末だ。
ソフィアが一度地面に手を付いて『赤鬼』を見た。
軽く微笑んで見せる。
「ふざけるな!」
挑発を受けて『赤鬼』が金棒を振りかぶる。
上からなら壁の影響は少ないという判断だろう。
――来た。
「ふ」
ソフィアはここぞとばかりに踏み込んだ。
自分の足場も錬金して、高速で『赤鬼』の背後へと走り抜ける。
両手のナイフで相手の両足の健を断った。
「あ?」
『赤鬼』がバランスを崩す。
さらにソフィアは錬金も使って高く跳んだ。『赤鬼』の首の位置。
振りかぶったままの黒い金棒へとそっと触れる。
バチ、と一際大きな錬金音。
黒い金棒から黒い大剣を錬金して一閃。『赤鬼』の首を討ち取った。
「ははは! 面白かった! 次は負けないからな!」
『赤鬼』の首は楽しそうに笑いながら地面を転がり、やがて目の光を失った。

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