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第二部 41話 賭けに溺れる聖女様と酒に溺れる公爵令嬢

ー/ー



 明日、俺達は伯爵領へと発つ。
 最後だからだろうか、俺達は誰からともなく町へと繰り出した。

 雑多なスーレの街をぞろぞろと歩き回る。
 メンバーはちょうど、ソフィアが俺を訪ねて二番街を案内した時と同じだった。

 俺とブラウン団長は酒瓶を持っている。
 屋敷に帰ったら一緒に飲む予定だった。

「ん? 何だ?」
「ふむ。奥が騒がしいが……」

 全員で足を止める。
 前に進めない程度の人ごみが出来ていた。

「おい、向こうの賭場に『聖女』がいるらしいぞ!」
「え、S級冒険者の!?」
 耳を澄ませていると、住人が騒いでいる声が聞こえて来た。

 嫌な予感がした俺は手を繋いだ状態のソフィアに、空いた手で酒瓶を持ってもらうようにお願いすると、人ごみをかき分けるように前に出た。

 見れば『聖女』がギャンブルに嵌っていた。

「あー! また負けたじゃない!?」
「がはは、大丈夫大丈夫。次勝てば良いんだろ?」

 すぐ隣にはガロシュ三兄弟の一人。
 忠告という体で悪魔の囁きを繰り返している。

「んーまあ、そうだけど……」
「いいか? 勝てば倍になって返ってくるんだろ?
 じゃあ、さっきの倍額を賭ければ良い。勝てば取り返せるぞ」

 あの人、自分のパーティメンバーをどうしたいんだろうか?

「ああ、そういうもんなの?」
 言われるがまま、倍額を賭ける『聖女』だった。

 俺は寒気を覚えて、そっと賭場から身を引いた。
 不意に横から声を掛けられる。

「せんせい?」
「どうしました、お嬢様? ……!?」
 手を繋いでいたソフィアが俺の裾を引いたので、向き直る。絶句した。

「お、お嬢様!?」
 同じくぎょっとした様子で、世話係のユイが走り寄る。

「せんせー、ひっく」
「誰ですか!? お嬢様にお酒を飲ませたの!」
 いつの間にかソフィアは顔を赤くしながら、ふらふらと笑っている。

「お酒じゃあ、ありません。殺菌作用のあるお水です」
「誰ですか!? お嬢様に嘘教えたの!」
 真実を混ぜて嘘を隠す手口である。水ではない。

「あはは、嘘じゃないよー。ほんと、ほんと。ぷはっ」
「誰ですか!? お嬢様に酒瓶をラッパ飲みさせた奴!?」
 すでに酒瓶の半分近くは空である。強めの酒だったのだが。

「えへへ、ゆるしてぇ?」
 ソフィアが可愛らしく『しな』を作るように、くねと腰を曲げる。
 まるでそれは甘えるような仕草だった。普段のソフィアでは有り得ない。

「誰だぁ!? お嬢様に変なこと教えた奴!
 出て来い! ぶっ飛ばしてやる!」

 とうとうユイがキレた。
 この辺りはニナさんの妹分らしかった。

 すぐにユイは犯人を特定して『お調子者達』へと突撃していった。
 しばらく経つと、素寒貧にされた『聖女』も加勢した。

 騒がしい夜だった。



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 明日、俺達は伯爵領へと発つ。
 最後だからだろうか、俺達は誰からともなく町へと繰り出した。
 雑多なスーレの街をぞろぞろと歩き回る。
 メンバーはちょうど、ソフィアが俺を訪ねて二番街を案内した時と同じだった。
 俺とブラウン団長は酒瓶を持っている。
 屋敷に帰ったら一緒に飲む予定だった。
「ん? 何だ?」
「ふむ。奥が騒がしいが……」
 全員で足を止める。
 前に進めない程度の人ごみが出来ていた。
「おい、向こうの賭場に『聖女』がいるらしいぞ!」
「え、S級冒険者の!?」
 耳を澄ませていると、住人が騒いでいる声が聞こえて来た。
 嫌な予感がした俺は手を繋いだ状態のソフィアに、空いた手で酒瓶を持ってもらうようにお願いすると、人ごみをかき分けるように前に出た。
 見れば『聖女』がギャンブルに嵌っていた。
「あー! また負けたじゃない!?」
「がはは、大丈夫大丈夫。次勝てば良いんだろ?」
 すぐ隣にはガロシュ三兄弟の一人。
 忠告という体で悪魔の囁きを繰り返している。
「んーまあ、そうだけど……」
「いいか? 勝てば倍になって返ってくるんだろ?
 じゃあ、さっきの倍額を賭ければ良い。勝てば取り返せるぞ」
 あの人、自分のパーティメンバーをどうしたいんだろうか?
「ああ、そういうもんなの?」
 言われるがまま、倍額を賭ける『聖女』だった。
 俺は寒気を覚えて、そっと賭場から身を引いた。
 不意に横から声を掛けられる。
「せんせい?」
「どうしました、お嬢様? ……!?」
 手を繋いでいたソフィアが俺の裾を引いたので、向き直る。絶句した。
「お、お嬢様!?」
 同じくぎょっとした様子で、世話係のユイが走り寄る。
「せんせー、ひっく」
「誰ですか!? お嬢様にお酒を飲ませたの!」
 いつの間にかソフィアは顔を赤くしながら、ふらふらと笑っている。
「お酒じゃあ、ありません。殺菌作用のあるお水です」
「誰ですか!? お嬢様に嘘教えたの!」
 真実を混ぜて嘘を隠す手口である。水ではない。
「あはは、嘘じゃないよー。ほんと、ほんと。ぷはっ」
「誰ですか!? お嬢様に酒瓶をラッパ飲みさせた奴!?」
 すでに酒瓶の半分近くは空である。強めの酒だったのだが。
「えへへ、ゆるしてぇ?」
 ソフィアが可愛らしく『しな』を作るように、くねと腰を曲げる。
 まるでそれは甘えるような仕草だった。普段のソフィアでは有り得ない。
「誰だぁ!? お嬢様に変なこと教えた奴!
 出て来い! ぶっ飛ばしてやる!」
 とうとうユイがキレた。
 この辺りはニナさんの妹分らしかった。
 すぐにユイは犯人を特定して『お調子者達』へと突撃していった。
 しばらく経つと、素寒貧にされた『聖女』も加勢した。
 騒がしい夜だった。