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第二部 40話 兄妹喧嘩

ー/ー



 その日の夜。
 屋敷は客間の数は多かったので、関係者は全員滞在していた。

 ナタリーとアリスの様子を見ようと部屋を訪ねる。
 すると、入口にラルフが立っていた。

 二人と話していたようだ。
 ラルフはすぐに俺に気付いて、手を上げる。

「ああ、ちょうど良かった。アッシュも話を聞いてほしい」
「? どうしたんです?」
 部屋の入口から中を覗き込む。ナタリーが少し困った顔を向けてきた。

「昼間の会議でも上がった通り、情報収集が得意な人員が欲しい」
 俺は思わず体を強張らせる。

「色々と話を聞いてみると、ナタリーは情報収集に強い使い魔を持っていると聞いたんだ」

 俺は未だ結論を出せていなかった。
 そのせいで、咄嗟に曖昧な言葉が出て来てしまう。

「……まあ、得意な方でしょうね」
「いや、十分な戦力だろう? できれば連れて行きたい。
 王立学院の生徒であれば、体裁はいくらでも整えられるしね」

 俺はぐうの音も出ない。
 それでも煮え切らない態度を取っていた。

 正直、自分でも『らしくない』と感じている。

「……ナタリーは?」
 俺は言い訳を探すように、ナタリーへと話を振った。

「あたしは……一緒に行きたい」
「お前なぁ、簡単に言うけど……」
 ナタリーが驚いたように顔を上げる。

「簡単にって……簡単に言ってるわけじゃないよ!」
「だけど、昔だって勝手に王都へ行って……」
「昔は関係ないじゃない!?」
「そうは言うけど、危険だって……」
 雲行きが怪しくなって、ラルフが困惑していた。

「そうじゃないでしょう! あの時はあたしが悪かった……我儘だった。
 でも今は違う! ちゃんと客観的に考えて! あたしとピノは必ず役に立つ」

 ナタリーは大きな足音を立てながら、部屋を出て廊下を歩いて行った。
 俺は何も言えずに立ち尽くしていた。

 俺達がナタリーを見送ると、今度はアリスが歩み寄って来た。
 そのまま、真下から俺を睨みつける。

「アッシュが悪い!
 今回、先に勝手をしたのはアッシュじゃない!」

 俺が勝手にここまで来たからナタリーも来たんだろ、と。
 危険を冒しているのは俺のせいか。

 まさか、こいつらに正論で殴られる日が来るとは……。

「分かったよ……!」
 俺は急いでナタリーを追い掛けた。

「ん? ん?」
 ラルフがここまで混乱しているのは、恐らくかなり稀だろう。
 自分の責任がどの程度かと考えているのかも知れない。

 どすんどすんと大きな足音を立てるナタリーに追い付いて、その腕を掴んだ。

「何!?」
 こんなに怒ることは珍しい。

「悪かった。今回はナタリーが正しい」
 素直に頭を下げた。

 少しの間。
 やがて、ナタリーは噴き出した。

「このパターンは珍しいね?」
「いつもお前が悪いパターンだからだ。
 まさかお前らに言い負かされるとは」
 くつじょくだ、と冗談めかして言ってやる。

「じゃあ、付いて行っても良い?」
「……仕方ない。他に手がないのは事実だ。
 レイン子爵は王都でも騎士団に工作を仕掛けてきた。役に立ってくれ」
「分かった。本気でやるよ」

 ミアですら「末恐ろしい」と表現していたほどだ。
 役に立つのは分かってる。

「ただ、出来るだけ危険は避けてくれよ。
 俺はお前に天寿を全うしてもらわないと困るんだ」

 ナタリーは「なにそれ」とけらけら笑った。



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 その日の夜。
 屋敷は客間の数は多かったので、関係者は全員滞在していた。
 ナタリーとアリスの様子を見ようと部屋を訪ねる。
 すると、入口にラルフが立っていた。
 二人と話していたようだ。
 ラルフはすぐに俺に気付いて、手を上げる。
「ああ、ちょうど良かった。アッシュも話を聞いてほしい」
「? どうしたんです?」
 部屋の入口から中を覗き込む。ナタリーが少し困った顔を向けてきた。
「昼間の会議でも上がった通り、情報収集が得意な人員が欲しい」
 俺は思わず体を強張らせる。
「色々と話を聞いてみると、ナタリーは情報収集に強い使い魔を持っていると聞いたんだ」
 俺は未だ結論を出せていなかった。
 そのせいで、咄嗟に曖昧な言葉が出て来てしまう。
「……まあ、得意な方でしょうね」
「いや、十分な戦力だろう? できれば連れて行きたい。
 王立学院の生徒であれば、体裁はいくらでも整えられるしね」
 俺はぐうの音も出ない。
 それでも煮え切らない態度を取っていた。
 正直、自分でも『らしくない』と感じている。
「……ナタリーは?」
 俺は言い訳を探すように、ナタリーへと話を振った。
「あたしは……一緒に行きたい」
「お前なぁ、簡単に言うけど……」
 ナタリーが驚いたように顔を上げる。
「簡単にって……簡単に言ってるわけじゃないよ!」
「だけど、昔だって勝手に王都へ行って……」
「昔は関係ないじゃない!?」
「そうは言うけど、危険だって……」
 雲行きが怪しくなって、ラルフが困惑していた。
「そうじゃないでしょう! あの時はあたしが悪かった……我儘だった。
 でも今は違う! ちゃんと客観的に考えて! あたしとピノは必ず役に立つ」
 ナタリーは大きな足音を立てながら、部屋を出て廊下を歩いて行った。
 俺は何も言えずに立ち尽くしていた。
 俺達がナタリーを見送ると、今度はアリスが歩み寄って来た。
 そのまま、真下から俺を睨みつける。
「アッシュが悪い!
 今回、先に勝手をしたのはアッシュじゃない!」
 俺が勝手にここまで来たからナタリーも来たんだろ、と。
 危険を冒しているのは俺のせいか。
 まさか、こいつらに正論で殴られる日が来るとは……。
「分かったよ……!」
 俺は急いでナタリーを追い掛けた。
「ん? ん?」
 ラルフがここまで混乱しているのは、恐らくかなり稀だろう。
 自分の責任がどの程度かと考えているのかも知れない。
 どすんどすんと大きな足音を立てるナタリーに追い付いて、その腕を掴んだ。
「何!?」
 こんなに怒ることは珍しい。
「悪かった。今回はナタリーが正しい」
 素直に頭を下げた。
 少しの間。
 やがて、ナタリーは噴き出した。
「このパターンは珍しいね?」
「いつもお前が悪いパターンだからだ。
 まさかお前らに言い負かされるとは」
 くつじょくだ、と冗談めかして言ってやる。
「じゃあ、付いて行っても良い?」
「……仕方ない。他に手がないのは事実だ。
 レイン子爵は王都でも騎士団に工作を仕掛けてきた。役に立ってくれ」
「分かった。本気でやるよ」
 ミアですら「末恐ろしい」と表現していたほどだ。
 役に立つのは分かってる。
「ただ、出来るだけ危険は避けてくれよ。
 俺はお前に天寿を全うしてもらわないと困るんだ」
 ナタリーは「なにそれ」とけらけら笑った。