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第二部 31話 騒がしい軟禁

ー/ー



 目を開くと、俺は森の中に転がされていた。
 どうやらどこかの野営地らしい。都市『スーレ』の近くなのは間違いない。

 拘束されていないことを不思議に思いながら周囲を見回す。
 ……すぐに納得した。

「起きたな」「ラルフと戦ったって?」「まぁ、根性は認める」

 S級冒険者『お調子者達』ガロシュ三兄弟。
 いかにも戦士といった風貌で同じ姿をしている。

「始めに言っておくけど、怪我はないわ。電撃の後遺症も残らない。
 完全に治してあるからその心配は不要よ」

 同じくS級冒険者『奇跡の担い手』フェリス・フェアリス。
 こちらも治癒術師らしく質素で清潔感のある白い服装だった。

 ラルフの他にもパーティメンバー全員が揃っていれば、逃げようとする意味はないだろう。

 ラルフは俺の前まで歩くと、しゃがみこんだ。
 真剣な口調で伝えてくる。

「恐らくは今日の夜にレイン子爵が襲撃されるはずだ」
「そう、ですか……」
「事が起こるまで、君にはここにいてもらう」
「……」
 ラルフの言葉に上手く返事ができない。

「……これでも、悪いとは思っている。
 仇討ちを止めるな、と言って拘束している俺達が悪者だろうね」
「それは否定できませんね」
 ラルフが溜息を吐く。

「だが、行かせるわけにはいかない。何故なら、恐らく本当に止まってしまう。
 ソフィア・ターナーは君の忠告を聞くだろう。ここまで来て下がるのは、流石にまずいんだ」
 諭すようにラルフは続けた。

「……もう良いです。ただ、お嬢様に何かあったら許しません」
 俺は遮るように言い切った。

 ラルフは一度目を剥くと「分かった」と頷いて、立ち上がる。
 そのまま背を向けると、真っ直ぐに広場から出て行った。

「そこは保証しよう」
 
 俺はその背中を睨みつける。
 見えなくなった頃を見計らって、声が掛けられた。

「まあ、問題ないだろ。フェリスが治す」
「大丈夫だ。フェリスが治す」
「安心しろよ。フェリスが治す」
 ガロシュ三兄弟が無責任な口調で繰り返す。

「全部私に投げないでよ!」
 フェリスが三兄弟へと怒鳴る。

「余裕余裕。何せフェリスの口癖は『助けてお兄ちゃん』だからな」
「またまたぁ、フェリスのファンクラブがあるんだぜ?
 ……あいつらわざと怪我するんだ」
「謙遜するな。最近のフェリスの失敗は敵も治しちゃったことくらいだろ?」
 畳みかけるように無関係な暴露を始めた。『お調子者達』の名前通りだった。

 フェリスは顔を真っ赤にすると、拳を握って叫んだ。

「お前ら! いい加減にしろよ! 今日こそぶっ飛ばしてやるっ」
 フェリスが下品なジェスチャーと一緒に地団太を踏んで三兄弟の一人に罵声を浴びせる。

 ……あの人『聖女』だよな?

「あの、あれ大丈夫ですか?」
 状況も忘れて思わず呟いた。

「あ? ああ、大丈夫だぞ。いつものことだ」
「でも、怪我とか……」
 近くにいた三兄弟の一人が返事をくれる。
 俺の心配を他所に「がはは、心配ない!」と笑っていた。

「覚悟しろぉ!」
『奇跡の担い手』フェリス・フェアリスがとうとうパーティメンバーへと殴り掛かった。
 治癒術を扱う姿から『聖女』とまで呼ばれる少女が『お調子者達』へと拳と蹴りを叩き込む。

「……すごい」

 フェリスは容赦する気はないらしく、明らかに全力だ。気迫に溢れている。
 しかしその拳と蹴りは……なんというか、そう、弱かった。

 殴る蹴るを繰り返しているが、効果音を付けるとすれば――

 ぺちぺちぽすん。

 ――というところだ。

 本人は罵詈雑言をまき散らしているが、あの威力でS級の前衛職である『お調子者達』が怪我をするはずもない。いや、ナタリーですら無傷かも知れない。

 殴られている側はただただ笑っていた。
 いや、ガロシュ三兄弟が全員で腹を抱えて笑っている。

「フェリス! お前、パーティメンバー全員に『自動回復』を掛けてくれてるじゃねえか!」
「ほらほら、自分の回復量を越えろ! がんばれ、お前なら出来る!」
「待て、それだけじゃねえだろ? フェリスに掛けてもらった『体力上昇』も残ってるぞ?」
 三兄弟が口々に囃し立てる。聞けば聞くほど恐ろしいステータス状態だった。
 
「……きょ、今日は、これくらいで」
 数分も経たずに肩で息をしながら、フェリスはテンプレのような捨て台詞を吐いた。

「傷を癒すだけでなく、傷つける力は持たないという覚悟まで……?」
 俺が思わず漏らすとフェリスはきっと、俺を睨んで叫んだ。

「うるさい! そんなわけあるか!? 腕力がないだけよ! 察しろっ!?」
『聖女』はちょっと涙目だった。


 夕方までこの調子で騒いでいると、ラルフが戻って来た。
 広場が騒がしいことに溜息を吐いている。

「この!? その手を離せ!」

 またフェリスが三兄弟へと殴りかかろうとしている。
 必死に手を伸ばしているが、頭を押さえられて届かない。

「がっはっは。これ、一回やってみたかったんだ」
 殴られている側は面白そうな声を出している。
 
「……お前ら」
 ラルフが口を開いた。やけに通る声だった。さらに続ける。

「少し黙れ。組合長が来ている」

 その一言でフェリスもガロシュ三兄弟も動きを止めた。
 ふざけた態度を消して、心なしか姿勢を正す。

 ――鬼の王都襲撃時以来だ。

 俺よりも若く見えるハーフドワーフ。
 口元を皮肉気に歪めながら、組合長のギルバート・アンドリューが広場へと入って来た。



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 目を開くと、俺は森の中に転がされていた。
 どうやらどこかの野営地らしい。都市『スーレ』の近くなのは間違いない。
 拘束されていないことを不思議に思いながら周囲を見回す。
 ……すぐに納得した。
「起きたな」「ラルフと戦ったって?」「まぁ、根性は認める」
 S級冒険者『お調子者達』ガロシュ三兄弟。
 いかにも戦士といった風貌で同じ姿をしている。
「始めに言っておくけど、怪我はないわ。電撃の後遺症も残らない。
 完全に治してあるからその心配は不要よ」
 同じくS級冒険者『奇跡の担い手』フェリス・フェアリス。
 こちらも治癒術師らしく質素で清潔感のある白い服装だった。
 ラルフの他にもパーティメンバー全員が揃っていれば、逃げようとする意味はないだろう。
 ラルフは俺の前まで歩くと、しゃがみこんだ。
 真剣な口調で伝えてくる。
「恐らくは今日の夜にレイン子爵が襲撃されるはずだ」
「そう、ですか……」
「事が起こるまで、君にはここにいてもらう」
「……」
 ラルフの言葉に上手く返事ができない。
「……これでも、悪いとは思っている。
 仇討ちを止めるな、と言って拘束している俺達が悪者だろうね」
「それは否定できませんね」
 ラルフが溜息を吐く。
「だが、行かせるわけにはいかない。何故なら、恐らく本当に止まってしまう。
 ソフィア・ターナーは君の忠告を聞くだろう。ここまで来て下がるのは、流石にまずいんだ」
 諭すようにラルフは続けた。
「……もう良いです。ただ、お嬢様に何かあったら許しません」
 俺は遮るように言い切った。
 ラルフは一度目を剥くと「分かった」と頷いて、立ち上がる。
 そのまま背を向けると、真っ直ぐに広場から出て行った。
「そこは保証しよう」
 俺はその背中を睨みつける。
 見えなくなった頃を見計らって、声が掛けられた。
「まあ、問題ないだろ。フェリスが治す」
「大丈夫だ。フェリスが治す」
「安心しろよ。フェリスが治す」
 ガロシュ三兄弟が無責任な口調で繰り返す。
「全部私に投げないでよ!」
 フェリスが三兄弟へと怒鳴る。
「余裕余裕。何せフェリスの口癖は『助けてお兄ちゃん』だからな」
「またまたぁ、フェリスのファンクラブがあるんだぜ?
 ……あいつらわざと怪我するんだ」
「謙遜するな。最近のフェリスの失敗は敵も治しちゃったことくらいだろ?」
 畳みかけるように無関係な暴露を始めた。『お調子者達』の名前通りだった。
 フェリスは顔を真っ赤にすると、拳を握って叫んだ。
「お前ら! いい加減にしろよ! 今日こそぶっ飛ばしてやるっ」
 フェリスが下品なジェスチャーと一緒に地団太を踏んで三兄弟の一人に罵声を浴びせる。
 ……あの人『聖女』だよな?
「あの、あれ大丈夫ですか?」
 状況も忘れて思わず呟いた。
「あ? ああ、大丈夫だぞ。いつものことだ」
「でも、怪我とか……」
 近くにいた三兄弟の一人が返事をくれる。
 俺の心配を他所に「がはは、心配ない!」と笑っていた。
「覚悟しろぉ!」
『奇跡の担い手』フェリス・フェアリスがとうとうパーティメンバーへと殴り掛かった。
 治癒術を扱う姿から『聖女』とまで呼ばれる少女が『お調子者達』へと拳と蹴りを叩き込む。
「……すごい」
 フェリスは容赦する気はないらしく、明らかに全力だ。気迫に溢れている。
 しかしその拳と蹴りは……なんというか、そう、弱かった。
 殴る蹴るを繰り返しているが、効果音を付けるとすれば――
 ぺちぺちぽすん。
 ――というところだ。
 本人は罵詈雑言をまき散らしているが、あの威力でS級の前衛職である『お調子者達』が怪我をするはずもない。いや、ナタリーですら無傷かも知れない。
 殴られている側はただただ笑っていた。
 いや、ガロシュ三兄弟が全員で腹を抱えて笑っている。
「フェリス! お前、パーティメンバー全員に『自動回復』を掛けてくれてるじゃねえか!」
「ほらほら、自分の回復量を越えろ! がんばれ、お前なら出来る!」
「待て、それだけじゃねえだろ? フェリスに掛けてもらった『体力上昇』も残ってるぞ?」
 三兄弟が口々に囃し立てる。聞けば聞くほど恐ろしいステータス状態だった。
「……きょ、今日は、これくらいで」
 数分も経たずに肩で息をしながら、フェリスはテンプレのような捨て台詞を吐いた。
「傷を癒すだけでなく、傷つける力は持たないという覚悟まで……?」
 俺が思わず漏らすとフェリスはきっと、俺を睨んで叫んだ。
「うるさい! そんなわけあるか!? 腕力がないだけよ! 察しろっ!?」
『聖女』はちょっと涙目だった。
 夕方までこの調子で騒いでいると、ラルフが戻って来た。
 広場が騒がしいことに溜息を吐いている。
「この!? その手を離せ!」
 またフェリスが三兄弟へと殴りかかろうとしている。
 必死に手を伸ばしているが、頭を押さえられて届かない。
「がっはっは。これ、一回やってみたかったんだ」
 殴られている側は面白そうな声を出している。
「……お前ら」
 ラルフが口を開いた。やけに通る声だった。さらに続ける。
「少し黙れ。組合長が来ている」
 その一言でフェリスもガロシュ三兄弟も動きを止めた。
 ふざけた態度を消して、心なしか姿勢を正す。
 ――鬼の王都襲撃時以来だ。
 俺よりも若く見えるハーフドワーフ。
 口元を皮肉気に歪めながら、組合長のギルバート・アンドリューが広場へと入って来た。