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第二部 30話 制止の制止

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 馬を飛ばして替えて、一日中走り続けた。
 昨日は小さな村の近くで野営。今は目的地の『スーレ』へと向かっている。

 子爵の住む都市『スーレ』は王国北部の流通の要だ。
 いくつもの街道が伸びており、人の出入りも自由。

 その点を利用してソフィア達は道中で別れたらしい。
 別々の道で『スーレ』を目指すということだ。

 困ったことに、ソフィアがどのルートを使ったのかは分からなかった。
 仕方なく俺は『スーレ』へと直接向かうことにしたのだ。

「……見えた」

 小高い丘を越えると、雑多に栄える街並みと城と見紛う領主の本邸が見えた。
 後はこの坂を下れば良い。そしたらソフィアと会って、連れ戻すだけだ。
 
 馬をさらに急がせようとする。
 トン、と――

「それは困るんだ」
「え?」

 ――街道を立ち塞がるように、人が下りて来た。

 俺は馬を停めると、呆然と呟いてしまう。
「ラルフさん……」

 王国最強の呼び声高い『スキルマスター』ラルフ・コーネルが立っていた。
 
「アッシュ君。今、君に『スーレ』まで行かれると困る。
 一度、俺と一緒に来て欲しい」
「何を言って……お嬢様を止めないと」

 ラルフの言葉に、俺は食い下がる。
 俺の顔を真っ直ぐに見据えると、ラルフは続けた。

「……だから、止められたら困るんだ」
「な!?」
 思わず言葉を失う俺へと畳みかける。

「分からないか? 仇討ちがしたければさせれば良い。
 君は感情的になっている。それも個人的な事情で」

「……それは」
 否定はできなかった。感情的になっているのは事実だ。
 個人的な事情だけではないが『鍵』のことを話すつもりがない以上は反論材料もない。

「止まってほしい」
「……どうして、困るんですか?」
「嫌なことを聞かないでくれよ。
 仇討ちに乗じてレイン子爵を襲撃する。そのまま伯爵の内乱鎮圧に繋げたい」
 半ば予想していた答えに俯いた。

「お嬢様を囮に使うのですね?」
 ラルフは答えず、懇願するような目だけを向けた。

 俺は馬に鞭を打った。
 走り出した馬がラルフの脇を抜けようとする。

 ラルフは一度だけ小さく屈んで、跳んだ。
 同時に回転を加えて、馬に乗る俺だけを蹴りつける。

 俺はリックを盾にして防ぐ。
 しかしその威力で盾ごと吹き飛ばされた。

「ぐ……」
 慌てて受身を取って立ち上がる。

 周囲を見回す。
 驚いて走り去って行く馬だけが見えた。

 ラルフさんはどこに……?

「後ろ!」
 いつも通り、リックの声に振り返る。
 同時に盾を構えるが、またしても吹き飛ばされる。

「……素晴らしい反応速度だ」
「ありがとう、ございます」
 地面を滑りながら軽口を返した。

「だが、俺には勝てない」
「……スキル『魔力変換』」

 ラルフ・コーネルの持つスキルの中でもとびっきり。
 自身の魔力を別のエネルギーへと直接変換するというスキルだ。
 魔術を使わずに直接魔力を扱う化物である。

 今のは運動エネルギーへと変換したのだろう。
 自身が魔力で動く車みたいなものだ。
 燃料さえあれば、速度は人力とは比較にならない。

「くそっ」
 俺はリックを『神鋼糸』に変える。

「うん。良く鍛えたものだね」
 見えているのだろう。呟くラルフへと糸が襲い掛かる。
 しかしラルフの速度に付いてゆけず、常に後を追うだけだ。

 十分に糸を置き去りにして、ラルフが真っ直ぐに飛び込んで来た。
 残していた『神鋼糸』で盾を組んで待ち構える。
 同時に別の糸で攻撃を仕掛ける。

 ラルフは盾にそっと触れて――

「ぐ!?」
「アッシュ!」

 ――魔力を『電気』に変えた。

 凶悪な威力の電流は金属を伝って俺の全身に流れ込む。
 予想外の不意打ちに俺は蹲る。途端に意識が遠のいた。

 朦朧とした意識の中、ラルフが歩いてくるのが見える。
 目の前までやってくると、俺の頭に手を乗せた。リックが何か叫んでいる。
 
「悪いようにはしない」
 俺は意識を失った。



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 馬を飛ばして替えて、一日中走り続けた。
 昨日は小さな村の近くで野営。今は目的地の『スーレ』へと向かっている。
 子爵の住む都市『スーレ』は王国北部の流通の要だ。
 いくつもの街道が伸びており、人の出入りも自由。
 その点を利用してソフィア達は道中で別れたらしい。
 別々の道で『スーレ』を目指すということだ。
 困ったことに、ソフィアがどのルートを使ったのかは分からなかった。
 仕方なく俺は『スーレ』へと直接向かうことにしたのだ。
「……見えた」
 小高い丘を越えると、雑多に栄える街並みと城と見紛う領主の本邸が見えた。
 後はこの坂を下れば良い。そしたらソフィアと会って、連れ戻すだけだ。
 馬をさらに急がせようとする。
 トン、と――
「それは困るんだ」
「え?」
 ――街道を立ち塞がるように、人が下りて来た。
 俺は馬を停めると、呆然と呟いてしまう。
「ラルフさん……」
 王国最強の呼び声高い『スキルマスター』ラルフ・コーネルが立っていた。
「アッシュ君。今、君に『スーレ』まで行かれると困る。
 一度、俺と一緒に来て欲しい」
「何を言って……お嬢様を止めないと」
 ラルフの言葉に、俺は食い下がる。
 俺の顔を真っ直ぐに見据えると、ラルフは続けた。
「……だから、止められたら困るんだ」
「な!?」
 思わず言葉を失う俺へと畳みかける。
「分からないか? 仇討ちがしたければさせれば良い。
 君は感情的になっている。それも個人的な事情で」
「……それは」
 否定はできなかった。感情的になっているのは事実だ。
 個人的な事情だけではないが『鍵』のことを話すつもりがない以上は反論材料もない。
「止まってほしい」
「……どうして、困るんですか?」
「嫌なことを聞かないでくれよ。
 仇討ちに乗じてレイン子爵を襲撃する。そのまま伯爵の内乱鎮圧に繋げたい」
 半ば予想していた答えに俯いた。
「お嬢様を囮に使うのですね?」
 ラルフは答えず、懇願するような目だけを向けた。
 俺は馬に鞭を打った。
 走り出した馬がラルフの脇を抜けようとする。
 ラルフは一度だけ小さく屈んで、跳んだ。
 同時に回転を加えて、馬に乗る俺だけを蹴りつける。
 俺はリックを盾にして防ぐ。
 しかしその威力で盾ごと吹き飛ばされた。
「ぐ……」
 慌てて受身を取って立ち上がる。
 周囲を見回す。
 驚いて走り去って行く馬だけが見えた。
 ラルフさんはどこに……?
「後ろ!」
 いつも通り、リックの声に振り返る。
 同時に盾を構えるが、またしても吹き飛ばされる。
「……素晴らしい反応速度だ」
「ありがとう、ございます」
 地面を滑りながら軽口を返した。
「だが、俺には勝てない」
「……スキル『魔力変換』」
 ラルフ・コーネルの持つスキルの中でもとびっきり。
 自身の魔力を別のエネルギーへと直接変換するというスキルだ。
 魔術を使わずに直接魔力を扱う化物である。
 今のは運動エネルギーへと変換したのだろう。
 自身が魔力で動く車みたいなものだ。
 燃料さえあれば、速度は人力とは比較にならない。
「くそっ」
 俺はリックを『神鋼糸』に変える。
「うん。良く鍛えたものだね」
 見えているのだろう。呟くラルフへと糸が襲い掛かる。
 しかしラルフの速度に付いてゆけず、常に後を追うだけだ。
 十分に糸を置き去りにして、ラルフが真っ直ぐに飛び込んで来た。
 残していた『神鋼糸』で盾を組んで待ち構える。
 同時に別の糸で攻撃を仕掛ける。
 ラルフは盾にそっと触れて――
「ぐ!?」
「アッシュ!」
 ――魔力を『電気』に変えた。
 凶悪な威力の電流は金属を伝って俺の全身に流れ込む。
 予想外の不意打ちに俺は蹲る。途端に意識が遠のいた。
 朦朧とした意識の中、ラルフが歩いてくるのが見える。
 目の前までやってくると、俺の頭に手を乗せた。リックが何か叫んでいる。
「悪いようにはしない」
 俺は意識を失った。