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第百三十五話

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 礼安は、病室のベッドで、ふと目を覚ました。一通りの検査を終えて、安静にしていた中で、胸中に言いしれない『悪意』を感じ取ったのだ。病室内にテレビがあったが、その電源を付けろ、と叫ぶ誰かと、必死に止めようとする心がせめぎ合っていた。
 しかし、心はその先へ進む覚悟を決めた。
 その結果。礼安はこれまでにないほどの絶望と悪意を味わった。
「――誰が、こんなこと……」
 百喰からの手紙を渡されていない礼安にとって、犯人は分からず仕舞いであったが、更生の余地があった信之が無残な姿になるまで殺害された事実は、礼安にとって精神的ダメージが大きかった。
 しかしそれ以上に、気にかけていたのは信玄のことであった。実弟が殺された、なんてことを知ったら。かつての自分以上の絶望を経験することだろう。
「それだけは……絶対にダメだ……!!」
 酷い頭痛に苛まれながら、心臓の動悸が早くなる。あらゆる検査数値が上昇したために、礼安の病室に集まる医師たち。礼安のことを気にかけた結果、すぐさま緊急検査が始まろうとしていた。
(こんな……こんな最悪なんて……絶対だめだ――!!)
 酷い頭痛に叫ぶ礼安。多くの医師が礼安を黙って検査させようと、注射器内に入った睡眠薬を投入しようとするも、注射針を通さないほどに硬化した筋肉は、異物が入ることを許さない。
 次第に血管が頭に浮き出るほどにまで、深刻なものになっていった結果。鼻と口から麻酔薬を投与されることとなる。

 所変わって、『教会』本部。その椅子に腰掛けるカルマは、実体を隠しながらも遠くの礼安に思いを馳せる。
「――きっと、君は思い悩むだろうね。さらにこの事件は……私が命じたことでもない。だから調査されたら困るんだよね……だから」
 手のひらほどの小さなサイズの地球儀。そのうちの日本に指を添わせ、官能的な手つきで地球儀を軸に沿って、圧倒的な速度で回転させる。
「そんな辛い事実……そんな辛い現実――――『いらない』よね」
 世界は流転し続ける。誰かの意志など関係なしに。しかし、その瞬間に流れを唐突に変える。ビデオを巻き戻すかのように、全てが逆再生されていく。全てが、たった一人の意志によって動きを変えるのだった。
「――『世界は、私の思いのまま(ワールド・イズ・マイン)』。実に大好きな言葉だ。どれほど部下が好き勝手やろうと……私は全てを忘れさせてあげる。それにしても……まだタイミングが早いよ。適切なタイミングで行わなきゃ……君の思い描く未来は、少々面白くないんだよ。『前菜』を食べ終えていないのに、『メイン』に入るのは三流の証だよ」
 カルマの想像するままに、世界は書き換えられ、次第にそれぞれの平常な営みを取り戻していく。
 そんな中で、世界から抜け落ちたたった一つの『真実』。たった一人を想ったが故の行動であったが、世界は大きく様変わり。

 その時から、この世界に『森信之』の概念が、完全に消失したのだった。



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 礼安は、病室のベッドで、ふと目を覚ました。一通りの検査を終えて、安静にしていた中で、胸中に言いしれない『悪意』を感じ取ったのだ。病室内にテレビがあったが、その電源を付けろ、と叫ぶ誰かと、必死に止めようとする心がせめぎ合っていた。
 しかし、心はその先へ進む覚悟を決めた。
 その結果。礼安はこれまでにないほどの絶望と悪意を味わった。
「――誰が、こんなこと……」
 百喰からの手紙を渡されていない礼安にとって、犯人は分からず仕舞いであったが、更生の余地があった信之が無残な姿になるまで殺害された事実は、礼安にとって精神的ダメージが大きかった。
 しかしそれ以上に、気にかけていたのは信玄のことであった。実弟が殺された、なんてことを知ったら。かつての自分以上の絶望を経験することだろう。
「それだけは……絶対にダメだ……!!」
 酷い頭痛に苛まれながら、心臓の動悸が早くなる。あらゆる検査数値が上昇したために、礼安の病室に集まる医師たち。礼安のことを気にかけた結果、すぐさま緊急検査が始まろうとしていた。
(こんな……こんな最悪なんて……絶対だめだ――!!)
 酷い頭痛に叫ぶ礼安。多くの医師が礼安を黙って検査させようと、注射器内に入った睡眠薬を投入しようとするも、注射針を通さないほどに硬化した筋肉は、異物が入ることを許さない。
 次第に血管が頭に浮き出るほどにまで、深刻なものになっていった結果。鼻と口から麻酔薬を投与されることとなる。
 所変わって、『教会』本部。その椅子に腰掛けるカルマは、実体を隠しながらも遠くの礼安に思いを馳せる。
「――きっと、君は思い悩むだろうね。さらにこの事件は……私が命じたことでもない。だから調査されたら困るんだよね……だから」
 手のひらほどの小さなサイズの地球儀。そのうちの日本に指を添わせ、官能的な手つきで地球儀を軸に沿って、圧倒的な速度で回転させる。
「そんな辛い事実……そんな辛い現実――――『いらない』よね」
 世界は流転し続ける。誰かの意志など関係なしに。しかし、その瞬間に流れを唐突に変える。ビデオを巻き戻すかのように、全てが逆再生されていく。全てが、たった一人の意志によって動きを変えるのだった。
「――『|世界は、私の思いのまま《ワールド・イズ・マイン》』。実に大好きな言葉だ。どれほど部下が好き勝手やろうと……私は全てを忘れさせてあげる。それにしても……まだタイミングが早いよ。適切なタイミングで行わなきゃ……君の思い描く未来は、少々面白くないんだよ。『前菜』を食べ終えていないのに、『メイン』に入るのは三流の証だよ」
 カルマの想像するままに、世界は書き換えられ、次第にそれぞれの平常な営みを取り戻していく。
 そんな中で、世界から抜け落ちたたった一つの『真実』。たった一人を想ったが故の行動であったが、世界は大きく様変わり。
 その時から、この世界に『森信之』の概念が、完全に消失したのだった。