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第百三十一話

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 学生たちが、思い思いの活動を行う放課後。あの合同演習会を経験し、生き残った一年次は自主トレーニングにより精が出る。しかし、二年次の大体の生徒が死亡するか裏切ったか、そんな状況なため、二年次生徒の人数が著しく減少していた。
 どうしようか、と学園長室で一人きり思案している中。ドアを二度ほどノックする子気味良い音が聞こえてきた。「どうぞ」とだけ呟くと、入室する生徒。
 その生徒は、他でもない信玄と丙良であった。
「不破学園長、一つお聞きしたいことが」
「何だい丙良くん、改まっちゃって。この間私のこと電話口でさんざ罵ったこと謝りに来たとか?」
「いやそんな下らない話題じゃあないです」
 自身の尊厳にかかわる話題を生徒に「下らない」と一蹴されたことに心を痛めながらも、二人を高級なソファに座るよう促す。二人の表情は、信一郎のふざけた表情とは真逆の、真剣な表情であった。
「――それで、こんな放課後に一体どうしたんだい? 何か悩み事かな」
「ある意味そうかもしれませんね」
 その言葉と共に、提示されたのはとあるデータベース。そこに記されていたのは、あるプログラムを信一郎名義で不正に書き換えたとされる証拠。さらに、消去されたデータのゴミ山の中に見つかった、音声通話記録であった。
「回りくどいの苦手だから、俺っち単刀直入に聞くよ、慎ちゃん。学園長……今回の合同演習会、全て学園長自身が仕組んだもんだろ」
「一体何のことだか分からないなあ、私の名義使った誰かがやったかもしれないじゃあないか」
「信玄が提示したこれらの証拠以外にも、れっきとした証拠はあります」
 それは、内通者たちのメール。この合同演習会が始まってすぐに、学園長が目を付けた生徒たちに送られた、洗脳を無効化できる簡易バリアを展開できる、そんなインスタントアプリも添えて。
 それは、間違いなくその後の『展開』が分かり切っているからこそ、送られたもの。
 さらに、丙良が示した証拠は、学園長名義で送られた届き先不明のショートメール、そして電話の履歴。敢えて残した、そんなあからさまな履歴であったのだ。
 それらのデータを強調表示すると、提示された日付。それらのアリバイは、きっちり裏取り済みであった。
「貴方とあろう者が、学園内で仕事をしていた時間帯に、おめおめとハッキングなんてされるはずがない。それほどにセキュリティがしっかりしていなきゃあ、最高責任者たる貴方の責任問題になります」
「しかも発信元は、いずれもこの学園長室だった。メールも、電話も。言い逃れは出来ないはずだぜ」
 状況証拠と物的証拠。それらが揃っている中、信一郎に言い逃れは許されなかった。これらが見つからなかったら、のらりくらりと躱すかやり過ごすか、どちらかを選ぶ予定だった信一郎は、困ったように笑いながら白状し始めた。

 始まりは、一生徒からの目安箱への投書であった。最初はとりわけ疚しい考えは無かったものの、一つの妙案を思いついたのだ。
 それが、ただの合同演習会ではなく、『演出』を加えること。
 ただのくじ引きにも、ある程度の幅を持たせたい。しかし、素行不良の生徒と最強格が組んだところで底が知れている。この時から裏切りの可能性を思考していたがために、英雄・武器サイドのタッグはあらかじめ決めておいた。
 それぞれがシナジーを生みだせる組み合わせであったが、しかし。その中身もイカサマ上等のものであった。
 確実に裏切らない面子と、素行の問題で確実に裏切りそうな面子の二つに分けた。さらに、裏切った面子との戦いで確実に戦力になりそうなメンバーを固めた。それこそが、最強格のタッグ三組。裏切りばかりの疑心暗鬼ゲームとなった中でも、互いを確実に信じあえるような構成にした。
 そして何より、裏切り者を凌駕する戦力を持った存在をタッグにすることで、多くの戦力が相手方に回っても、その戦いを収めることができる。組分けに関しては、主に『事後処理』を優先したが故の、アンバランスな組分け方であった。
 そこについて回るのは、両方二年次の組み合わせであった鍾馗と加賀美の組み合わせ。信一郎自身、鍾馗の底の知れなさは他生徒よりも上であることを認識していた。さらに、そこに信一郎の第六感、というよりはただのヤマ勘が働き、あてがわれたのは加賀美であった。
 組分けられた際、加賀美のデバイスにのみ信一郎はメッセージを送り、「困ったら丙良くんたちを頼ってくれたまえ」とだけ残していた。それは万が一、有象無象たちが裏切りを画策し、英雄陣営を襲撃した際のことを考えていたのだ。
 そして、原点の問題である「なぜ屋内実習場に『教会』が紛れ込み、あれほどの惨劇を生みだしたか」。
 その答えは至極単純、信一郎自身がおびき寄せたのだ。



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 どうしようか、と学園長室で一人きり思案している中。ドアを二度ほどノックする子気味良い音が聞こえてきた。「どうぞ」とだけ呟くと、入室する生徒。
 その生徒は、他でもない信玄と丙良であった。
「不破学園長、一つお聞きしたいことが」
「何だい丙良くん、改まっちゃって。この間私のこと電話口でさんざ罵ったこと謝りに来たとか?」
「いやそんな下らない話題じゃあないです」
 自身の尊厳にかかわる話題を生徒に「下らない」と一蹴されたことに心を痛めながらも、二人を高級なソファに座るよう促す。二人の表情は、信一郎のふざけた表情とは真逆の、真剣な表情であった。
「――それで、こんな放課後に一体どうしたんだい? 何か悩み事かな」
「ある意味そうかもしれませんね」
 その言葉と共に、提示されたのはとあるデータベース。そこに記されていたのは、あるプログラムを信一郎名義で不正に書き換えたとされる証拠。さらに、消去されたデータのゴミ山の中に見つかった、音声通話記録であった。
「回りくどいの苦手だから、俺っち単刀直入に聞くよ、慎ちゃん。学園長……今回の合同演習会、全て学園長自身が仕組んだもんだろ」
「一体何のことだか分からないなあ、私の名義使った誰かがやったかもしれないじゃあないか」
「信玄が提示したこれらの証拠以外にも、れっきとした証拠はあります」
 それは、内通者たちのメール。この合同演習会が始まってすぐに、学園長が目を付けた生徒たちに送られた、洗脳を無効化できる簡易バリアを展開できる、そんなインスタントアプリも添えて。
 それは、間違いなくその後の『展開』が分かり切っているからこそ、送られたもの。
 さらに、丙良が示した証拠は、学園長名義で送られた届き先不明のショートメール、そして電話の履歴。敢えて残した、そんなあからさまな履歴であったのだ。
 それらのデータを強調表示すると、提示された日付。それらのアリバイは、きっちり裏取り済みであった。
「貴方とあろう者が、学園内で仕事をしていた時間帯に、おめおめとハッキングなんてされるはずがない。それほどにセキュリティがしっかりしていなきゃあ、最高責任者たる貴方の責任問題になります」
「しかも発信元は、いずれもこの学園長室だった。メールも、電話も。言い逃れは出来ないはずだぜ」
 状況証拠と物的証拠。それらが揃っている中、信一郎に言い逃れは許されなかった。これらが見つからなかったら、のらりくらりと躱すかやり過ごすか、どちらかを選ぶ予定だった信一郎は、困ったように笑いながら白状し始めた。
 始まりは、一生徒からの目安箱への投書であった。最初はとりわけ疚しい考えは無かったものの、一つの妙案を思いついたのだ。
 それが、ただの合同演習会ではなく、『演出』を加えること。
 ただのくじ引きにも、ある程度の幅を持たせたい。しかし、素行不良の生徒と最強格が組んだところで底が知れている。この時から裏切りの可能性を思考していたがために、英雄・武器サイドのタッグはあらかじめ決めておいた。
 それぞれがシナジーを生みだせる組み合わせであったが、しかし。その中身もイカサマ上等のものであった。
 確実に裏切らない面子と、素行の問題で確実に裏切りそうな面子の二つに分けた。さらに、裏切った面子との戦いで確実に戦力になりそうなメンバーを固めた。それこそが、最強格のタッグ三組。裏切りばかりの疑心暗鬼ゲームとなった中でも、互いを確実に信じあえるような構成にした。
 そして何より、裏切り者を凌駕する戦力を持った存在をタッグにすることで、多くの戦力が相手方に回っても、その戦いを収めることができる。組分けに関しては、主に『事後処理』を優先したが故の、アンバランスな組分け方であった。
 そこについて回るのは、両方二年次の組み合わせであった鍾馗と加賀美の組み合わせ。信一郎自身、鍾馗の底の知れなさは他生徒よりも上であることを認識していた。さらに、そこに信一郎の第六感、というよりはただのヤマ勘が働き、あてがわれたのは加賀美であった。
 組分けられた際、加賀美のデバイスにのみ信一郎はメッセージを送り、「困ったら丙良くんたちを頼ってくれたまえ」とだけ残していた。それは万が一、有象無象たちが裏切りを画策し、英雄陣営を襲撃した際のことを考えていたのだ。
 そして、原点の問題である「なぜ屋内実習場に『教会』が紛れ込み、あれほどの惨劇を生みだしたか」。
 その答えは至極単純、信一郎自身がおびき寄せたのだ。