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第百三十話

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 学園長がまず行ったのは、河本をはじめとして、英雄として死んでいった卵たちの亡骸を、親の元へ帰らせてやることだった。ある程度死体は学園付属の一流医師団が縫合などで元あった形へ治すことで、痛々しかった死体を人の姿で見せてやることが出来た。
 親として死に目に会えなかったこと。そして運命のいたずらによって殺された子供たちに泣きじゃくり、学校を批判する者が現れたものの。結局はそれ以外の『覚悟』をしていた親たちに諫められ、間を置かずに鎮静化する結果となった。
 そして、生き残った裏切り者への処遇は、メディアで実名を出し報道、警察に突き出すことだった。どれほど自分たちが危険行為の片棒を担いでいたか、それをわからせるための処遇であったが、それを否定する者は裏切り者内にはいなかった。
 今回の大騒動の結果、裏切り者たちも圧倒的な世界を垣間見てしまったがために、それ以上裏切り続ける強固な意志を保つことが出来なかったのだ。
 その後押しをしたのは、待田と礼安、あるいはカルマの激闘。大した努力をすることも無く、今ある地位に文句を繕い続ける、そんな自分がどれほど愚かな存在かというのを思い知ったのだ。
 どんな天才も、努力者には敵わない。ならば、その天才が今の地位に甘んじることなく努力を重ね続けたら。それこそ、まさに最強格と称された存在達。たった数人ではあるものの、彼ら、彼女らの偉大さを感じ取ったのだ。

「――本当、成り行きで始まったことだけど。結果的に……ギリギリ成功の範囲内かな?」
 学園長室で、今回の最たる功労者の礼安と信玄、そして『教会』の裏切り者である信之が集まっていた。信一郎はコーヒーを啜りながら柔らかな笑みを湛えるも、その場の空気は些か重苦しかった。ちなみに、礼安は病院から特別に抜け出している、病院服かつ車いす姿であった。
「……ごめんね、パパ。私……待田さんと戦っていた中で……ふと意識を失っちゃって」
 この場の全員、礼安が何者かによって操られ、挙句の果てに自分の体で待田を殺した――なんて、そんなこと言えるはずも無く。ただ何も出来なかったと勘違いをしている礼安を宥める以外にやれることはなかった。
 きっと、礼安の第六感である、胸中の嘘の色を感じ取る力によって、この場の全員が何か隠していることは理解していることだろう。しかし、それを特に追求しない彼女は、誰かを想う嘘が絡んでいるのだろう、そう考えていたのだ。
「――そうだ、信之君。これから……君はどうするつもりだい」
「……俺は、警察に出頭しようと思います。今まで……犯した罪は消えないわけですし」
 そんな信之の苦しそうな表情を見た信一郎は、引き出しから白紙の便箋とインクボトル、亡き妻からのプレゼントであり宝物の万年筆を取り出し、筆を取った。
 その場の全員が信一郎の行動の末が理解できなかったものの、それが理解できるのはものの数秒後。とんでもない速筆ぶりに驚きながらも、齎された結果に言葉を失うこととなる。
「これ、警察に行く際に持っていきな、こちら側として多少なりとも頑張ってくれた、そのお礼だよ」
 その便箋に記された内容は、減刑の嘆願状であった。
 信玄や信一郎の情報網から、ある程度信之の身の上は理解していた。信玄と信之、その兄弟間にあった格差、それによってもたらされた酷い虐待。それがきっかけとなり、結局は両親を殺害した。そこから多くの殺しを経験したものの、小学生高学年から中学生の頃に受けた心的外傷を加味して、情状酌量の余地があると考えたのだ。
「警察とか司法の人間に、ある程度マブがいるからね、犯した罪の重さからして減らされるのは、甘く見積もってもたかだか数年だろうが……君の頑張りのおかげで礼安は満足に戦えた。その戦いに敬意を表しようと思ってね。そんな頑張ってくれた人間を、死刑になんてさせるもんか」
 信之が受けた兄以外からの施しは、今までの人生をひっくるめてもただの一つもない。だからこそ、信之の目からは涙が溢れだしていたのだ。
「――無期懲役に近いものになるだろうが……それでもきっちり、刑期全うして。もしその時に英雄を目指したい、そう思えたら。ここに来るといいさ。その時になったら……英雄学園東京本校学園長として、君を迎え入れようじゃあないか」
 「助けて」の一言すら出せなかった、そんな信之の不器用な心。それは信一郎の優しさによって完全に融解された瞬間だった。礼安の働き掛けで防御壁は崩れ、父親である信一郎がそれを包み込む。蛙の子は蛙である。
「ありがとう――ございます……!!」
 泣き崩れる信之を、信玄が傍に寄って肩を抱き寄せる。亀裂が走り、一時期修復不可能なまで関係が崩壊していた二人が、再び『兄弟』に戻った瞬間であった。



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 学園長がまず行ったのは、河本をはじめとして、英雄として死んでいった卵たちの亡骸を、親の元へ帰らせてやることだった。ある程度死体は学園付属の一流医師団が縫合などで元あった形へ治すことで、痛々しかった死体を人の姿で見せてやることが出来た。
 親として死に目に会えなかったこと。そして運命のいたずらによって殺された子供たちに泣きじゃくり、学校を批判する者が現れたものの。結局はそれ以外の『覚悟』をしていた親たちに諫められ、間を置かずに鎮静化する結果となった。
 そして、生き残った裏切り者への処遇は、メディアで実名を出し報道、警察に突き出すことだった。どれほど自分たちが危険行為の片棒を担いでいたか、それをわからせるための処遇であったが、それを否定する者は裏切り者内にはいなかった。
 今回の大騒動の結果、裏切り者たちも圧倒的な世界を垣間見てしまったがために、それ以上裏切り続ける強固な意志を保つことが出来なかったのだ。
 その後押しをしたのは、待田と礼安、あるいはカルマの激闘。大した努力をすることも無く、今ある地位に文句を繕い続ける、そんな自分がどれほど愚かな存在かというのを思い知ったのだ。
 どんな天才も、努力者には敵わない。ならば、その天才が今の地位に甘んじることなく努力を重ね続けたら。それこそ、まさに最強格と称された存在達。たった数人ではあるものの、彼ら、彼女らの偉大さを感じ取ったのだ。
「――本当、成り行きで始まったことだけど。結果的に……ギリギリ成功の範囲内かな?」
 学園長室で、今回の最たる功労者の礼安と信玄、そして『教会』の裏切り者である信之が集まっていた。信一郎はコーヒーを啜りながら柔らかな笑みを湛えるも、その場の空気は些か重苦しかった。ちなみに、礼安は病院から特別に抜け出している、病院服かつ車いす姿であった。
「……ごめんね、パパ。私……待田さんと戦っていた中で……ふと意識を失っちゃって」
 この場の全員、礼安が何者かによって操られ、挙句の果てに自分の体で待田を殺した――なんて、そんなこと言えるはずも無く。ただ何も出来なかったと勘違いをしている礼安を宥める以外にやれることはなかった。
 きっと、礼安の第六感である、胸中の嘘の色を感じ取る力によって、この場の全員が何か隠していることは理解していることだろう。しかし、それを特に追求しない彼女は、誰かを想う嘘が絡んでいるのだろう、そう考えていたのだ。
「――そうだ、信之君。これから……君はどうするつもりだい」
「……俺は、警察に出頭しようと思います。今まで……犯した罪は消えないわけですし」
 そんな信之の苦しそうな表情を見た信一郎は、引き出しから白紙の便箋とインクボトル、亡き妻からのプレゼントであり宝物の万年筆を取り出し、筆を取った。
 その場の全員が信一郎の行動の末が理解できなかったものの、それが理解できるのはものの数秒後。とんでもない速筆ぶりに驚きながらも、齎された結果に言葉を失うこととなる。
「これ、警察に行く際に持っていきな、こちら側として多少なりとも頑張ってくれた、そのお礼だよ」
 その便箋に記された内容は、減刑の嘆願状であった。
 信玄や信一郎の情報網から、ある程度信之の身の上は理解していた。信玄と信之、その兄弟間にあった格差、それによってもたらされた酷い虐待。それがきっかけとなり、結局は両親を殺害した。そこから多くの殺しを経験したものの、小学生高学年から中学生の頃に受けた心的外傷を加味して、情状酌量の余地があると考えたのだ。
「警察とか司法の人間に、ある程度マブがいるからね、犯した罪の重さからして減らされるのは、甘く見積もってもたかだか数年だろうが……君の頑張りのおかげで礼安は満足に戦えた。その戦いに敬意を表しようと思ってね。そんな頑張ってくれた人間を、死刑になんてさせるもんか」
 信之が受けた兄以外からの施しは、今までの人生をひっくるめてもただの一つもない。だからこそ、信之の目からは涙が溢れだしていたのだ。
「――無期懲役に近いものになるだろうが……それでもきっちり、刑期全うして。もしその時に英雄を目指したい、そう思えたら。ここに来るといいさ。その時になったら……英雄学園東京本校学園長として、君を迎え入れようじゃあないか」
 「助けて」の一言すら出せなかった、そんな信之の不器用な心。それは信一郎の優しさによって完全に融解された瞬間だった。礼安の働き掛けで防御壁は崩れ、父親である信一郎がそれを包み込む。蛙の子は蛙である。
「ありがとう――ございます……!!」
 泣き崩れる信之を、信玄が傍に寄って肩を抱き寄せる。亀裂が走り、一時期修復不可能なまで関係が崩壊していた二人が、再び『兄弟』に戻った瞬間であった。