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第百二十九話

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 その場の英雄陣営の誰もが、彼が到来することを待ち望んだ。その期待、その要望に応えるベストタイミングで、彼は表れたのだ。
 拳がクリーンヒットした瞬間と同時に、場に満ちていた魔力が霧散。毒気も抜け、今まで空っぽだった皆の魔力がフル充填された。
 その速度、その威力をある程度殺しながらも、馬鹿力によって生じた勢いそのままに、弾き飛ばされる女。何とか綺麗に着地するも、信一郎のその表情は、今まで見たことないほどにまで冷ややかなものであった。
「何で、お前がここにいる、『カルマ』」
「ありゃ、箝口令(かんこうれい)強いていたはずだけど……君には効いてなかったみたいだね」
 礼安の体を借りた女……もといカルマ。彼女は信一郎の怒りの鉄拳を食らっておきながら、陥没した頭部に手を当て、『時間を戻すように』再生。すぐに何事も無かったかのように立ち上がる。しかし、待田の全力の攻撃を食らった時よりも、圧倒的に明確なダメージがあったように思えた。しかし、明確に『痛み』を感じているような様子は微塵も無かった。
「『教会』の頂点、教祖として君臨。社会的に恵まれなかった社会的弱者、あるいは英雄の卵を拾い上げ、己が欲望を満たす為だけに利用し……日本を掌握しにかかる、純粋な悪意そのものが……『カルマ』」
 桃田や金目、信之など。多くの人間をスカウトし、世を混沌に陥れている存在こそ、カルマであった。実際の姿を目の当たりにした人間はこの世に存在せず、いつも顔を隠すか顔を変えこの世にあり続ける、悪意という概念そのもの。
 通常時は魔力性質や魔力濃度でしか判別の付かない、実体を持たない『災厄』であるのだ。
「――お前がどこから侵入したかは知らないが。ウチの娘やウチの生徒に手を出すのはいただけない。何よりルール違反じゃあないか」
「何、じゃあこの体ごと殺すってこと? まさかまさか、『原初の英雄』様が、大衆の正義のために自分の実の子供を殺しちゃう?? そんなシナリオ、ネタが無くなった24時間テレビで流せそうなほど、残酷なほどに美しいけどね?」
 礼安の体を借り、信一郎を挑発するカルマ。しかし、そんな煽りなど意に介していないように、顔面にフルパワーの拳をもう一発叩きこむ。
「もー、痛くはないけど治すのにも魔力いるんだよ? 君とは違って」
「黙れ」
 地面を揺るがすほどの、強烈無比な衝撃。震度五強以上の揺れが、一切の減衰なく辺りに伝播していく。
 圧倒的な力が、一人の概念を蹂躙する。その構図は、何も事情を知らなかった場合、ただいじめているようにも思える。
「……何だよもう。少しくらい面白いことして帰ろうかなって思ったのにさあ。これ以上君怒らせたら、東京都が崩壊しちゃうね――百喰君、新入りちゃん、そこのぼろ雑巾みたいになった待田君も一緒に、連れて帰ろうか」
 礼安の肉体を捨て、糸を切った人形かのように信一郎に投げ出す。信一郎は優しく抱きかかえるも、その眼前の歪んだ魔力を睨みつけていた。
 しかし、そのカルマの呼びかけに難色を示したのは、他でもない百喰であった。
「――一個、やり残したことがあって。ちょっといいスか、教祖サマ」
 信一郎に手渡したのは、たった一枚の便箋。礼安宛てのものであり、その中に記されている内容は本人以外に見てほしくない、といった様子だった。受け取ることを拒否することもできただろうが、信一郎にだけ見せた百喰の顔は、まさに真剣そのもの。
「……頼まれてくれますか」
「――ああ」
 手渡された手紙を懐にしまうと、百喰はカルマの元へ走り去り、既に死体の元へ待ちぼうけていた二人の元へ。走っていくそのままの勢いで、三人と死体の反応は闇に呑まれ、完全に消失した。
「……思ったよりも、早い登場だった。それを見抜けなかった、私の責任だね」
 激しい戦いの末、荒涼とした大地と化した東京二十三区のジオラマ。そこに立つのは最強格の生徒たちと、ほんの一部生き残った裏切り者たち。既に退学処分とした裏切り者たちの適格な処遇をどうするか、それを考えながら、合同演習会は幕を閉じた。
 総計ポイントは、待田が大体のポイントを牛耳っていた中、礼安……の肉体を操作したカルマが待田を殺害。結果的にそのポイントを総取りしたため、礼安・信玄タッグが大差で勝利したのであった。
 それぞれに、優勝した実感などありはせず。多くの友、多くの知り合いを失った喪失感で胸中が支配されていたのだが。


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 その場の英雄陣営の誰もが、彼が到来することを待ち望んだ。その期待、その要望に応えるベストタイミングで、彼は表れたのだ。
 拳がクリーンヒットした瞬間と同時に、場に満ちていた魔力が霧散。毒気も抜け、今まで空っぽだった皆の魔力がフル充填された。
 その速度、その威力をある程度殺しながらも、馬鹿力によって生じた勢いそのままに、弾き飛ばされる女。何とか綺麗に着地するも、信一郎のその表情は、今まで見たことないほどにまで冷ややかなものであった。
「何で、お前がここにいる、『カルマ』」
「ありゃ、|箝口令《かんこうれい》強いていたはずだけど……君には効いてなかったみたいだね」
 礼安の体を借りた女……もといカルマ。彼女は信一郎の怒りの鉄拳を食らっておきながら、陥没した頭部に手を当て、『時間を戻すように』再生。すぐに何事も無かったかのように立ち上がる。しかし、待田の全力の攻撃を食らった時よりも、圧倒的に明確なダメージがあったように思えた。しかし、明確に『痛み』を感じているような様子は微塵も無かった。
「『教会』の頂点、教祖として君臨。社会的に恵まれなかった社会的弱者、あるいは英雄の卵を拾い上げ、己が欲望を満たす為だけに利用し……日本を掌握しにかかる、純粋な悪意そのものが……『カルマ』」
 桃田や金目、信之など。多くの人間をスカウトし、世を混沌に陥れている存在こそ、カルマであった。実際の姿を目の当たりにした人間はこの世に存在せず、いつも顔を隠すか顔を変えこの世にあり続ける、悪意という概念そのもの。
 通常時は魔力性質や魔力濃度でしか判別の付かない、実体を持たない『災厄』であるのだ。
「――お前がどこから侵入したかは知らないが。ウチの娘やウチの生徒に手を出すのはいただけない。何よりルール違反じゃあないか」
「何、じゃあこの体ごと殺すってこと? まさかまさか、『原初の英雄』様が、大衆の正義のために自分の実の子供を殺しちゃう?? そんなシナリオ、ネタが無くなった24時間テレビで流せそうなほど、残酷なほどに美しいけどね?」
 礼安の体を借り、信一郎を挑発するカルマ。しかし、そんな煽りなど意に介していないように、顔面にフルパワーの拳をもう一発叩きこむ。
「もー、痛くはないけど治すのにも魔力いるんだよ? 君とは違って」
「黙れ」
 地面を揺るがすほどの、強烈無比な衝撃。震度五強以上の揺れが、一切の減衰なく辺りに伝播していく。
 圧倒的な力が、一人の概念を蹂躙する。その構図は、何も事情を知らなかった場合、ただいじめているようにも思える。
「……何だよもう。少しくらい面白いことして帰ろうかなって思ったのにさあ。これ以上君怒らせたら、東京都が崩壊しちゃうね――百喰君、新入りちゃん、そこのぼろ雑巾みたいになった待田君も一緒に、連れて帰ろうか」
 礼安の肉体を捨て、糸を切った人形かのように信一郎に投げ出す。信一郎は優しく抱きかかえるも、その眼前の歪んだ魔力を睨みつけていた。
 しかし、そのカルマの呼びかけに難色を示したのは、他でもない百喰であった。
「――一個、やり残したことがあって。ちょっといいスか、教祖サマ」
 信一郎に手渡したのは、たった一枚の便箋。礼安宛てのものであり、その中に記されている内容は本人以外に見てほしくない、といった様子だった。受け取ることを拒否することもできただろうが、信一郎にだけ見せた百喰の顔は、まさに真剣そのもの。
「……頼まれてくれますか」
「――ああ」
 手渡された手紙を懐にしまうと、百喰はカルマの元へ走り去り、既に死体の元へ待ちぼうけていた二人の元へ。走っていくそのままの勢いで、三人と死体の反応は闇に呑まれ、完全に消失した。
「……思ったよりも、早い登場だった。それを見抜けなかった、私の責任だね」
 激しい戦いの末、荒涼とした大地と化した東京二十三区のジオラマ。そこに立つのは最強格の生徒たちと、ほんの一部生き残った裏切り者たち。既に退学処分とした裏切り者たちの適格な処遇をどうするか、それを考えながら、合同演習会は幕を閉じた。
 総計ポイントは、待田が大体のポイントを牛耳っていた中、礼安……の肉体を操作したカルマが待田を殺害。結果的にそのポイントを総取りしたため、礼安・信玄タッグが大差で勝利したのであった。
 それぞれに、優勝した実感などありはせず。多くの友、多くの知り合いを失った喪失感で胸中が支配されていたのだが。