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第百二十五話

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 礼安の肉体は、常人よりも遥かにレベルが高い。あの学園長の娘、という最高峰にまで恵まれたフィジカルに、名だたる英雄の中でも位の高い『アーサー王』の因子。引き換えに頭が少々悪いが、それは学業面のお話。戦闘面で言えば、二つの実戦を経験しているが故に、並外れた戦闘の知識をいかんなく発揮できる。
 そしてそこに乗算するように、『ある人物』の人格、魔力がインストールされたら。
 万物を凌駕する、究極の存在が誕生するのだ。
 足立区を飛び出し、礼安らしき人物と待田怪人体が、何度も拳を交える。空間が悲鳴を上げ、尋常でないほどの轟音が鳴り響く。
 近くにいるだけで鼓膜は破れ、その魔力同士の衝突により泡を吹く。
 これを、人間の体躯を持った化け物と、四キロメートル越えの体躯を持った怪獣が戦闘するだけで起こってしまうのだ。同じ体躯同士ならともかくとして。
「――以前より、少し格闘術の腕が上がったのかな? 感心感心」
『アンタを超えるために俺ァ強くなったんだからな!!』
 しかしどれほど拳を叩きこもうと、あんなに小さな体躯の人物ごときに、有効打すら与えられないどころか、傷一つ与えられない。
 負けじと、片腕で複雑な印を結び横っ面に『強圧』を放つも、ただの裏拳だけで完全破壊。礼安ですら成しえなかった攻略法であった。
「――おや、少しばかり風が凪いだようだ。失敬」
 底知れぬ悪意百パーセントで表現された笑み。口角は酷く歪み、今までの礼安のヒロイックな顔など忘れてしまうほどに、ただ嘲笑っていたのだ。
『!? ――お前はァァァッ!!』
 待田はジオラマ全体から魔力を絞り上げ、肉体強化に注ぎ込む。拮抗していた拳同士の打ち合いが、さらに激しさを増す。
 次第に、礼安らしき人物の速度が追い付かず、そのまま待田の拳が体全体に衝突。拳を振りぬき、荒川区からはるか遠くの世田谷区まで吹き飛ばす。
 飛行機が不時着する際、水面でも陸面でも、胴体着陸するだろうが、威力を地面で殺すには何度も激しく地面に打ち付けられ、擦られ、人間が何度死んでもおかしくないほどのダメージを受けることとなる――はずだった。
 それだけの威力を持った攻撃を受けても、礼安らしき人物はぴんぴんしていた。一切の装甲を纏っていない、ただの人間の姿であるはずなのに。土埃を面倒くさそうに何度か叩くだけで、かすり傷一つすらない。
「全く、この子に体を返す時になったらどう説明してあげるんだい。女の子だよ、服飾や髪にはとりわけ命をかけているかもしれないだろうに」
 そんなぼやきなど許さぬように、礼安らしき人物が立つその場に、立て続けに放たれるのは、万を超える『強圧』。地形が酷く変形するほどの衝撃が、世田谷区全体を襲う。
 そんな中でも、上空に手を翳すだけで、一撃千五百トンの雨霰を難なく防いで見せた。一切の変形など許すことはない。
「……前々から思ってはいたが、君は少々念能力に頼り過ぎな節があるね。あくまでこの能力はアクセント、万が一近づかれた際の保険も用意しておかないと、負ける時が来るよ」
 鼻で笑われる待田であったが、それは布石。『絞』以上の複雑な印を瞬時に組み上げ、魔力を辺りから絞り上げ生成していく。
『どれほど余裕ぶろうと――これにゃあどうしようもねえだろ!!』
 今までの一撃は千五百トン。それの十倍。あまりにも威力としては十分すぎる、さらに一撃辺りに消費する魔力量が膨大なため、怪人体でなければ到底発動は不可能、連発も不能なな大技。
『『圧倒的な圧(プレシオン・アブルマノーラ)』!!』
 その威力、まさに一撃一万五千トン。アルキメデスの原理を用いるが、護衛艦たかつきの基準排水量、そして船の重さが三千五十トン。その約五倍量が、一息に万物を圧し潰す。
 それが尋常でないスピードで、たった一人に向けて放たれたのだ。
「――全く、言った傍からこれだ」
 礼安らしき人物は、一切の抵抗なくその一撃を許容した。それと同時に、そのあおりを受け為すすべなく倒壊していく、数多のビルたち。通常ではありえない、上空からの攻撃によりぺちゃんこになっていく様。ある意味圧巻であった。
 木も家も、ビルも何もかも。全て等しく均される。
 待田の怪人体は、酷く息を切らしながら、恨み節も吐かずただ世田谷区を見つめるのみであった。



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 礼安の肉体は、常人よりも遥かにレベルが高い。あの学園長の娘、という最高峰にまで恵まれたフィジカルに、名だたる英雄の中でも位の高い『アーサー王』の因子。引き換えに頭が少々悪いが、それは学業面のお話。戦闘面で言えば、二つの実戦を経験しているが故に、並外れた戦闘の知識をいかんなく発揮できる。
 そしてそこに乗算するように、『ある人物』の人格、魔力がインストールされたら。
 万物を凌駕する、究極の存在が誕生するのだ。
 足立区を飛び出し、礼安らしき人物と待田怪人体が、何度も拳を交える。空間が悲鳴を上げ、尋常でないほどの轟音が鳴り響く。
 近くにいるだけで鼓膜は破れ、その魔力同士の衝突により泡を吹く。
 これを、人間の体躯を持った化け物と、四キロメートル越えの体躯を持った怪獣が戦闘するだけで起こってしまうのだ。同じ体躯同士ならともかくとして。
「――以前より、少し格闘術の腕が上がったのかな? 感心感心」
『アンタを超えるために俺ァ強くなったんだからな!!』
 しかしどれほど拳を叩きこもうと、あんなに小さな体躯の人物ごときに、有効打すら与えられないどころか、傷一つ与えられない。
 負けじと、片腕で複雑な印を結び横っ面に『強圧』を放つも、ただの裏拳だけで完全破壊。礼安ですら成しえなかった攻略法であった。
「――おや、少しばかり風が凪いだようだ。失敬」
 底知れぬ悪意百パーセントで表現された笑み。口角は酷く歪み、今までの礼安のヒロイックな顔など忘れてしまうほどに、ただ嘲笑っていたのだ。
『!? ――お前はァァァッ!!』
 待田はジオラマ全体から魔力を絞り上げ、肉体強化に注ぎ込む。拮抗していた拳同士の打ち合いが、さらに激しさを増す。
 次第に、礼安らしき人物の速度が追い付かず、そのまま待田の拳が体全体に衝突。拳を振りぬき、荒川区からはるか遠くの世田谷区まで吹き飛ばす。
 飛行機が不時着する際、水面でも陸面でも、胴体着陸するだろうが、威力を地面で殺すには何度も激しく地面に打ち付けられ、擦られ、人間が何度死んでもおかしくないほどのダメージを受けることとなる――はずだった。
 それだけの威力を持った攻撃を受けても、礼安らしき人物はぴんぴんしていた。一切の装甲を纏っていない、ただの人間の姿であるはずなのに。土埃を面倒くさそうに何度か叩くだけで、かすり傷一つすらない。
「全く、この子に体を返す時になったらどう説明してあげるんだい。女の子だよ、服飾や髪にはとりわけ命をかけているかもしれないだろうに」
 そんなぼやきなど許さぬように、礼安らしき人物が立つその場に、立て続けに放たれるのは、万を超える『強圧』。地形が酷く変形するほどの衝撃が、世田谷区全体を襲う。
 そんな中でも、上空に手を翳すだけで、一撃千五百トンの雨霰を難なく防いで見せた。一切の変形など許すことはない。
「……前々から思ってはいたが、君は少々念能力に頼り過ぎな節があるね。あくまでこの能力はアクセント、万が一近づかれた際の保険も用意しておかないと、負ける時が来るよ」
 鼻で笑われる待田であったが、それは布石。『絞』以上の複雑な印を瞬時に組み上げ、魔力を辺りから絞り上げ生成していく。
『どれほど余裕ぶろうと――これにゃあどうしようもねえだろ!!』
 今までの一撃は千五百トン。それの十倍。あまりにも威力としては十分すぎる、さらに一撃辺りに消費する魔力量が膨大なため、怪人体でなければ到底発動は不可能、連発も不能なな大技。
『『|圧倒的な圧《プレシオン・アブルマノーラ》』!!』
 その威力、まさに一撃一万五千トン。アルキメデスの原理を用いるが、護衛艦たかつきの基準排水量、そして船の重さが三千五十トン。その約五倍量が、一息に万物を圧し潰す。
 それが尋常でないスピードで、たった一人に向けて放たれたのだ。
「――全く、言った傍からこれだ」
 礼安らしき人物は、一切の抵抗なくその一撃を許容した。それと同時に、そのあおりを受け為すすべなく倒壊していく、数多のビルたち。通常ではありえない、上空からの攻撃によりぺちゃんこになっていく様。ある意味圧巻であった。
 木も家も、ビルも何もかも。全て等しく均される。
 待田の怪人体は、酷く息を切らしながら、恨み節も吐かずただ世田谷区を見つめるのみであった。