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第百二十四話

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 待田は、復元不可能にまで捻じ曲げた彼女の傷が、何故か『時間が戻るように』再生しているのを目の当たりにし、即座に礼安から飛び退き、チーティングドライバーを再び手にした。
 まるで逆再生するかのように、起き上がる礼安――――否、何者か。姿かたちは完全に瀧本礼安そのもの。しかし、醸し出す雰囲気が、魔力が。何もかも当人と違っていた。
 礼安が柔らかく優しい、まるで子供用のテーマパークだとしたら。待田の眼前に立つ人物は、混沌(カオス)。あらゆる宗教的価値観において、悪行を為した人間たちがこぞって落とされる、地獄ともいえる。しかしそれでいて、あらゆる存在を魅了し、近づいてはならないはずなのに傍に寄ってしまう、禁断の果実そのもの。
「やあやあ、お久しぶりだねえ」
「あ、アンタは…………!?」
 待田が言葉を発そうとした瞬間に、声を失う。礼安が待田に手をかざしただけで、声を発することを一切許さないようにしたのだ。
「この世界の万物は、私の思うまま。ワールドイズマインって訳だよ。『ネタバレ』はやめてくれないかい?」
「……冗談じゃあねェ。何で『アンタ』が敵になる!?」
 礼安らしき人物は、無邪気に腹を抱えけらけらと嗤っていた。今までのヒロイックさはどこへやら、そこにいたのはまさにトリックスターであった。
「――簡単さ。この子は君の勝手では殺させない。逆に君を粛正しようと思ってね」
 待田は、即座にチーティングドライバーを装着しようとするも、一瞬にして腐敗する。機械と生物の中間であったドライバーが、今は触れられないほどに崩れ去る。魔力増幅を許さない、断固たる決意が目に見えていた。
「――なら!!」
 複雑な印を一瞬で結び、『絞』を礼安全体にかけるも、攻撃を弾いて辺りのビルへ押し付ける。その結果、コンクリートでできたビルがアルミ缶を潰すように変形、破砕された。
「君の手の内は、この子の脳内を軽く読ませてもらったよ。だいぶ成長したようでびっくりだよ」
 しかし、一切の攻撃が通らない可能性を危惧した待田は、その場から逃げ出した。
「何を考えているかは分からないけど……抵抗は無駄だと言っておくよ」
 傍で転がる、未だ踏みつぶされていない死体から、ドライバーを無理やり奪い取り、自身に装着。『モリアーティ』のライセンスを装填し、即座に起動させる。そうでないと、眼前の存在には勝ちの目すら出ない、そんな確信があったからだ。
「変身!!」
 瞬時に巨大化し、先ほどのように魔力吸収フィールドを展開する。今度は足立区だけではない、東京二十三区全体にまで範囲を広げ、全てを自分の味方としたのだ。しかし、巨大化した待田を見上げる礼安らしき人物は、それを鼻で笑っていた。
「――君さ。巨大化ってのは特撮作品において負けフラグだっての……分かってないの?」
 嘲る彼女に向け、無慈悲な『強圧』の雨。礼安に放った時よりも、さらに出力が向上していた。ざっと千三百から千五百トン。魔力を補える範囲がさらに広がり、その分無駄遣いが出来る。その時点である程度のアドバンテージを確保していたのだ。
 しかし、待田にとって、一切の手ごたえが感じられなかったのだ。どれほどの『強圧』をその場に集中させても、ただ魔力を湯水のごとく消費しているだけ。そんな恐怖心が芽生えていたのだ。
 そしてその予想は、すぐさま的中することとなる。
「どうしたんだい待田くん、そこに目障りな蟻でも居たかい?」
 一切の体重を感じさせないように、待田の肩傍で、電気と冷気を利用し、超電導の仕組みで浮かび上がっていたのだ。絶対零度以上の冷気に、著名なモンスターなど鼻で笑えるほどの、礼安の力である超高電流。
 リニアモーターカーは電車で言うレールである、ガイドウェイに取り付けられたコイルとの磁気相互力を生かし、浮遊して高速移動ができるのだが、今の彼女にそんな助けなど一切なし。
 ただ、己の力だけで浮遊。通常の英雄は、二属性を一気に操ることはそう簡単なことではない。それが一年次の生徒なら、難しいどころの話ではない。ただ不可能としか言えないのだ。一属性を極めていることなどその時点ではありえないため、原理的に不可能である。
『アンタは……俺が越えるべき壁だ。だからこそ、こんなところでは当たりたくはなかった』
「何それ、ビビってんの?」
 そんな無邪気な挑発に、激しい苛立ちを覚えた待田は、彼女に全力の拳を叩きこむ。湧き上がる怒りが込められた、渾身の左ストレート。
 瞬時に障壁を展開し、力を九割がた殺しながら足立区を空から完全離脱。それを追うように、待田は足立区を飛び出した。
「――いいじゃん、東京二十三区フルに活かして戦おうっての。ちょっとは楽しませてくれるよね、待田君」
『アンタは、アンタだけは俺が殺す!!』
 怪しい笑みを浮かべる礼安らしき人物。そんな余裕のある彼女とは対照的に、眼前の存在を真に殺すべく全身全霊で向き合う待田。
 合同演習会の大将同士の戦い、その第二ラウンド。そしてこの合同演習会最終戦が開幕した瞬間だった。




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 待田は、復元不可能にまで捻じ曲げた彼女の傷が、何故か『時間が戻るように』再生しているのを目の当たりにし、即座に礼安から飛び退き、チーティングドライバーを再び手にした。
 まるで逆再生するかのように、起き上がる礼安――――否、何者か。姿かたちは完全に瀧本礼安そのもの。しかし、醸し出す雰囲気が、魔力が。何もかも当人と違っていた。
 礼安が柔らかく優しい、まるで子供用のテーマパークだとしたら。待田の眼前に立つ人物は、|混沌《カオス》。あらゆる宗教的価値観において、悪行を為した人間たちがこぞって落とされる、地獄ともいえる。しかしそれでいて、あらゆる存在を魅了し、近づいてはならないはずなのに傍に寄ってしまう、禁断の果実そのもの。
「やあやあ、お久しぶりだねえ」
「あ、アンタは…………!?」
 待田が言葉を発そうとした瞬間に、声を失う。礼安が待田に手をかざしただけで、声を発することを一切許さないようにしたのだ。
「この世界の万物は、私の思うまま。ワールドイズマインって訳だよ。『ネタバレ』はやめてくれないかい?」
「……冗談じゃあねェ。何で『アンタ』が敵になる!?」
 礼安らしき人物は、無邪気に腹を抱えけらけらと嗤っていた。今までのヒロイックさはどこへやら、そこにいたのはまさにトリックスターであった。
「――簡単さ。この子は君の勝手では殺させない。逆に君を粛正しようと思ってね」
 待田は、即座にチーティングドライバーを装着しようとするも、一瞬にして腐敗する。機械と生物の中間であったドライバーが、今は触れられないほどに崩れ去る。魔力増幅を許さない、断固たる決意が目に見えていた。
「――なら!!」
 複雑な印を一瞬で結び、『絞』を礼安全体にかけるも、攻撃を弾いて辺りのビルへ押し付ける。その結果、コンクリートでできたビルがアルミ缶を潰すように変形、破砕された。
「君の手の内は、この子の脳内を軽く読ませてもらったよ。だいぶ成長したようでびっくりだよ」
 しかし、一切の攻撃が通らない可能性を危惧した待田は、その場から逃げ出した。
「何を考えているかは分からないけど……抵抗は無駄だと言っておくよ」
 傍で転がる、未だ踏みつぶされていない死体から、ドライバーを無理やり奪い取り、自身に装着。『モリアーティ』のライセンスを装填し、即座に起動させる。そうでないと、眼前の存在には勝ちの目すら出ない、そんな確信があったからだ。
「変身!!」
 瞬時に巨大化し、先ほどのように魔力吸収フィールドを展開する。今度は足立区だけではない、東京二十三区全体にまで範囲を広げ、全てを自分の味方としたのだ。しかし、巨大化した待田を見上げる礼安らしき人物は、それを鼻で笑っていた。
「――君さ。巨大化ってのは特撮作品において負けフラグだっての……分かってないの?」
 嘲る彼女に向け、無慈悲な『強圧』の雨。礼安に放った時よりも、さらに出力が向上していた。ざっと千三百から千五百トン。魔力を補える範囲がさらに広がり、その分無駄遣いが出来る。その時点である程度のアドバンテージを確保していたのだ。
 しかし、待田にとって、一切の手ごたえが感じられなかったのだ。どれほどの『強圧』をその場に集中させても、ただ魔力を湯水のごとく消費しているだけ。そんな恐怖心が芽生えていたのだ。
 そしてその予想は、すぐさま的中することとなる。
「どうしたんだい待田くん、そこに目障りな蟻でも居たかい?」
 一切の体重を感じさせないように、待田の肩傍で、電気と冷気を利用し、超電導の仕組みで浮かび上がっていたのだ。絶対零度以上の冷気に、著名なモンスターなど鼻で笑えるほどの、礼安の力である超高電流。
 リニアモーターカーは電車で言うレールである、ガイドウェイに取り付けられたコイルとの磁気相互力を生かし、浮遊して高速移動ができるのだが、今の彼女にそんな助けなど一切なし。
 ただ、己の力だけで浮遊。通常の英雄は、二属性を一気に操ることはそう簡単なことではない。それが一年次の生徒なら、難しいどころの話ではない。ただ不可能としか言えないのだ。一属性を極めていることなどその時点ではありえないため、原理的に不可能である。
『アンタは……俺が越えるべき壁だ。だからこそ、こんなところでは当たりたくはなかった』
「何それ、ビビってんの?」
 そんな無邪気な挑発に、激しい苛立ちを覚えた待田は、彼女に全力の拳を叩きこむ。湧き上がる怒りが込められた、渾身の左ストレート。
 瞬時に障壁を展開し、力を九割がた殺しながら足立区を空から完全離脱。それを追うように、待田は足立区を飛び出した。
「――いいじゃん、東京二十三区フルに活かして戦おうっての。ちょっとは楽しませてくれるよね、待田君」
『アンタは、アンタだけは俺が殺す!!』
 怪しい笑みを浮かべる礼安らしき人物。そんな余裕のある彼女とは対照的に、眼前の存在を真に殺すべく全身全霊で向き合う待田。
 合同演習会の大将同士の戦い、その第二ラウンド。そしてこの合同演習会最終戦が開幕した瞬間だった。