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第百二十三話

ー/ー



 目が覚めると、そこは何もない漆黒の空間。一寸先は闇、という言葉があるが、文字通り一歩先の道すら分からない、進もうとする人の意志を根本から圧し折ろうとするほどの道であった。
「――私、死んじゃったのかな」
 しかし、どこかへ消えてしまいそうな予感はせず、鬼火のような明かりが礼安をぼんやりと照らす。ほんの少し、先の道が見えるほどの微弱な明かりであったが、礼安はその鬼火を頼りに先に進むことにした。
 しかし、先へと進むと同時に、礼安はこの世のものとは思えないほどの、得体のしれない違和感と怖気を感じ取っていた。神か異常者か、人間の中でも特に異常者たる礼安が恐怖心を抱くほどの、何かがこの先に待っている。そんな確信があった。
(怖い、怖い、怖い。でも、先に進まなきゃ)
 恐怖と使命感。それらが混じった複雑な感情が、礼安の歩を進めていく。果たして、礼安自身が歩いているのか、誰かにその先へ歩かされているのか。
 次第に、礼安の周りに魂が増え始めていた。手を引かれ、ついに礼安自体が歩を進めずとも、魂が連れて行くようにまでなっていた。
 そして、真っ暗闇な中、明かりに満ち溢れた空間にあたる。礼安はその空間に、人の幻影を見た。
 触れてしまうだけで壊れてしまう。そんな実感を抱くほどに儚げな見た目の若い女性。しかし、知覚範囲に入った瞬間に呑まれてしまいそうな、人を惹きつけすぎる危ない色香。そこに交じっているのは、底の知れない悪意。総じて、そこにいるのは『絶対に関わってはいけない最悪』。それが人の形をしているのだ。
 顔など細やかな部分は認識できず、ノイズがかかっていた。
「――? ああ、やっとここに来れたんだ。案内させはしたが……随分かかったものだねえ。ロスはざっと数秒かな」
「……貴女は、誰ですか?」
 話しかけてはいけない。脳や体が危険信号を発しているはずなのに、その女性へ近づいてしまう礼安。警戒心をむき出しにしつつも、一切抗えないのだ。
「まあまあ、そう強張らず。私は君を救いに来たんだ」
 そう語ると、女性は礼安の両腕、両足に手をかざし、その痛みを完全に除去する。この世界に傷が持越しされているわけではなかったが、現実世界で治った感覚があった。気持ちだけではなく、本当の意味合いで。
「乙女の柔肌が超能力に弄ばれるなんて、そんな横暴許してはいけないからね。私から、心ばかりの施しだよ」
「あ、ありがとうございます?」
 女性は、先ほどまで腰かけていたベンチからすっくと立ち上がり、礼安の手を取る。
 ただひたすらに、底の知れない恐怖心を感じ取っていた礼安。女性は、その恐怖心を和らげようとしていたのだ。
「大丈夫、礼安はまだ負けてない。私に身を委ねてくれれば――君は圧勝できるよ」
 頬に手を添えると、女性は礼安にキスをする。一切の抵抗許さぬままに、舌を艶めかしく挿入する、経験のないディープキス。口内と共に、脳内が優しく甘美に蹂躙されていく。
 徐々に、体中が甘く痺れていく。覚えのない快感が、礼安の思考を鈍らせる。頬は紅潮し、得体のしれない女性に身を預けていく礼安。
 そんな中、暗闇から現れたのは、礼安の因子元である『アーサー王』。血相を抱え礼安に手を伸ばす。
『まずい、それ以上は――――!!』
 アーサー王を包むのは、どこからともなく現れた、歪な魔力を纏った無数の『触手』。触れるだけで、力の主導権を奪われていく。
 礼安の口内を蹂躙していた女性は、惚けている礼安を片手で抱きながら、冷ややかに一瞥する。その瞳は、礼安に向けているものとは全く違う、まるで養豚場の豚を見るような目であった。あるいは、選民思想の強い上流階級の人間が、奴隷を見下すような目。
 自分以外の命を、何とも思っていない、究極の差別。
「君は邪魔、だ・け・ど……ちょっとばかり利用させてもらうよ」
 口答えを考えるアーサー王の口を無数の触手で覆い、さらに脳を直接汚染するかのように耳から触手を挿入。一時的な力を行使する権利を簒奪するべく、脳自体を犯していたのだ。
「礼安は苦しかったよね。今まで大したことのない屑共に蹂躙されてきて。礼なんて大した数言われたこともないのに、見返りを求めず滅私奉公。辛かったよね」
 礼安に囁く、グラブジャムンドーナツのような甘言。礼安が思考力を取り戻す前に、根源に秘められてきた性的思考を満たすべく、口内や脳だけでなく豊満な胸をまさぐっていく。
「私に委ねてくれれば……後悔はさせない。『私』の礼安なんだから」
 礼安の足元から、触手を這わせ、徐々に上昇し自分の虜にしていく女性。
「さあ――待田とかいう男に制裁を下そうか。一緒に、ね」
 触手に包まれ、まるで蛇の交尾のように絡み合う二人。その瞬間に、全てが暗闇に包まれていく。性行為の際に、ほんの少しの明かり以外全ての電飾を消すように。精神世界が、完全に掌握された瞬間であった。



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 目が覚めると、そこは何もない漆黒の空間。一寸先は闇、という言葉があるが、文字通り一歩先の道すら分からない、進もうとする人の意志を根本から圧し折ろうとするほどの道であった。
「――私、死んじゃったのかな」
 しかし、どこかへ消えてしまいそうな予感はせず、鬼火のような明かりが礼安をぼんやりと照らす。ほんの少し、先の道が見えるほどの微弱な明かりであったが、礼安はその鬼火を頼りに先に進むことにした。
 しかし、先へと進むと同時に、礼安はこの世のものとは思えないほどの、得体のしれない違和感と怖気を感じ取っていた。神か異常者か、人間の中でも特に異常者たる礼安が恐怖心を抱くほどの、何かがこの先に待っている。そんな確信があった。
(怖い、怖い、怖い。でも、先に進まなきゃ)
 恐怖と使命感。それらが混じった複雑な感情が、礼安の歩を進めていく。果たして、礼安自身が歩いているのか、誰かにその先へ歩かされているのか。
 次第に、礼安の周りに魂が増え始めていた。手を引かれ、ついに礼安自体が歩を進めずとも、魂が連れて行くようにまでなっていた。
 そして、真っ暗闇な中、明かりに満ち溢れた空間にあたる。礼安はその空間に、人の幻影を見た。
 触れてしまうだけで壊れてしまう。そんな実感を抱くほどに儚げな見た目の若い女性。しかし、知覚範囲に入った瞬間に呑まれてしまいそうな、人を惹きつけすぎる危ない色香。そこに交じっているのは、底の知れない悪意。総じて、そこにいるのは『絶対に関わってはいけない最悪』。それが人の形をしているのだ。
 顔など細やかな部分は認識できず、ノイズがかかっていた。
「――? ああ、やっとここに来れたんだ。案内させはしたが……随分かかったものだねえ。ロスはざっと数秒かな」
「……貴女は、誰ですか?」
 話しかけてはいけない。脳や体が危険信号を発しているはずなのに、その女性へ近づいてしまう礼安。警戒心をむき出しにしつつも、一切抗えないのだ。
「まあまあ、そう強張らず。私は君を救いに来たんだ」
 そう語ると、女性は礼安の両腕、両足に手をかざし、その痛みを完全に除去する。この世界に傷が持越しされているわけではなかったが、現実世界で治った感覚があった。気持ちだけではなく、本当の意味合いで。
「乙女の柔肌が超能力に弄ばれるなんて、そんな横暴許してはいけないからね。私から、心ばかりの施しだよ」
「あ、ありがとうございます?」
 女性は、先ほどまで腰かけていたベンチからすっくと立ち上がり、礼安の手を取る。
 ただひたすらに、底の知れない恐怖心を感じ取っていた礼安。女性は、その恐怖心を和らげようとしていたのだ。
「大丈夫、礼安はまだ負けてない。私に身を委ねてくれれば――君は圧勝できるよ」
 頬に手を添えると、女性は礼安にキスをする。一切の抵抗許さぬままに、舌を艶めかしく挿入する、経験のないディープキス。口内と共に、脳内が優しく甘美に蹂躙されていく。
 徐々に、体中が甘く痺れていく。覚えのない快感が、礼安の思考を鈍らせる。頬は紅潮し、得体のしれない女性に身を預けていく礼安。
 そんな中、暗闇から現れたのは、礼安の因子元である『アーサー王』。血相を抱え礼安に手を伸ばす。
『まずい、それ以上は――――!!』
 アーサー王を包むのは、どこからともなく現れた、歪な魔力を纏った無数の『触手』。触れるだけで、力の主導権を奪われていく。
 礼安の口内を蹂躙していた女性は、惚けている礼安を片手で抱きながら、冷ややかに一瞥する。その瞳は、礼安に向けているものとは全く違う、まるで養豚場の豚を見るような目であった。あるいは、選民思想の強い上流階級の人間が、奴隷を見下すような目。
 自分以外の命を、何とも思っていない、究極の差別。
「君は邪魔、だ・け・ど……ちょっとばかり利用させてもらうよ」
 口答えを考えるアーサー王の口を無数の触手で覆い、さらに脳を直接汚染するかのように耳から触手を挿入。一時的な力を行使する権利を簒奪するべく、脳自体を犯していたのだ。
「礼安は苦しかったよね。今まで大したことのない屑共に蹂躙されてきて。礼なんて大した数言われたこともないのに、見返りを求めず滅私奉公。辛かったよね」
 礼安に囁く、グラブジャムンドーナツのような甘言。礼安が思考力を取り戻す前に、根源に秘められてきた性的思考を満たすべく、口内や脳だけでなく豊満な胸をまさぐっていく。
「私に委ねてくれれば……後悔はさせない。『私』の礼安なんだから」
 礼安の足元から、触手を這わせ、徐々に上昇し自分の虜にしていく女性。
「さあ――待田とかいう男に制裁を下そうか。一緒に、ね」
 触手に包まれ、まるで蛇の交尾のように絡み合う二人。その瞬間に、全てが暗闇に包まれていく。性行為の際に、ほんの少しの明かり以外全ての電飾を消すように。精神世界が、完全に掌握された瞬間であった。