院と透、試合が始まる前まで修行していた理由は、あの聖遺物にあった。それぞれ、新たなるライセンスを生みだすため、互いに全力でぶつかり合ったのだ。
『――今更さ。一年次が集まったところでどうなるって言うんだい? 私の弱点でもつける、ってことかな』
「無論ですわ、正直貴女の得体のしれない力をどうにかするには……これしかないと思いまして」
『……は?? 何で私の力を……まさか』
静かに笑った透は、圧倒的な風力によって院の炎をより強靭に、そしてより盛大に燃え盛らせる。
「貴女の『影移動』を、少々封じたいと思いまして!」
紅斧弓バビロニアによって宙へと放った一矢は、まるで太陽のような輝きを放ち、辺りの影を全て真上から封殺したのだ。しかもそれが一瞬ではなく、宙に漂い続けた。まるで太陽のような恒星の如く光り輝いたのだ。
「――太陽高度、という概念、そして影が生まれるメカニズムをご存じでしょうか」
太陽高度。文字通り、太陽が昇るその地点の高度、というよりは角度。日本では主に南中高度、と呼ばれている。一日の高度変化内で、子午線通過時が最高角度となる。丁度真上、九十度の角度になる地点は、赤道直下の地点になる。
赤道直下の国々でのタイミングは、日本の呼び方でいう春分、秋分のタイミングの昼。丁度その時、太陽の高さは九十度丁度になる。
さらに、影が出来るメカニズムは、太陽などの光を放つ物体の地点Aと、光が途切れる地点Bの間に、何かしらの不透過物体が置かれることで、地点Bに向かうように影は伸びる。
光を放つ物体の地点が変われば、自ずと地点Bの場所も変わり、影の伸び方も変わっていく。しかしその中で、最も影の生まれにくい地点Aが存在する。それこそ、影を生みだしたい物体の丁度真上。本来なら、その物体の全面が影を生む可能性があるはずなのに、その物体そのものに光が当てられた結果、影が一切なくなるタイミングが生まれるのだ。
なぜなら、真上から光を当てた時、そこが点Aとなりうるならば、その不透過物体の底面、および地面に点Bが移り変わるからだ。
院は、まさにそれを狙っていた。そして、実際に影が生まれるのはある程度離れた位置に存在するビル群の屋内のみ。
宙で一時停止し、疑似的な太陽となるまで光り輝き続けるため、院や透、果てには鍾馗の背後にも影は一切生まれない。
「影に関する話を聞いたのは……透から一方通行な『電話』を貰ってからですわ。光を放つことのできる光、あるいは炎。それらは貴女にうってつけだと思いまして。少々、頭を使いましたわ。強すぎる光は、闇すら生まない。それこそが、貴女の攻略法ですわ」
舌打ちをする鍾馗であったが、そんなのお構いなしと言わんばかりに、二人は見たことのないライセンスを提示する。
透は『猪八戒』、院は『女神イシュタル』のライセンスを手にしていたのだ。
「修行というものは、どれほど積み重ねても損はありません。努力は実を結ばない……なんてこともあるかもしれませんが、しないよりも圧倒的にした方が、その先の可能性が増えるんですの」
「俺らは、アンタに拳骨食らわしてサツに突き出す。それこそが、俺らに課せられた『英雄』としての宿命なんだわ。アンタが殺さなきゃやってられないなら、俺らはアンタらをぶちのめさなきゃいけねえ。それはもう常なんだわ」
結局は、主義主張がぶつかり合う戦場。話し合いでは、塔に解決できない次元にあった。
『……いつだって、お前らは自分を最も偉いと宣う。恥ずかしくないのか、自分が正義だと言い張って――――』
「別に、俺らは俺らを一番偉いだなんて思ってねえし、何より俺らが正義だなんて驕り、一切ねえよ。そんなもん、間違った高説垂れてんのは、概念を理解していねえ奴らばかりだ」
「殺しでしか生きられない、貴女の中の正義。誰かをお節介で助け続けることでしか自分を表現できない、私たちの中の正義。お互いの正義をぶつけあう場こそ、この戦いですわ」
ほかの英雄とは一線を画す、英雄科一年次の最強格。今この場にいない礼安も含め、英雄陣営に残った最強格は、英雄学園内においても究極の人格者揃い。
どこまで行こうと、お節介で人を助けたがるのだ。
そのお節介さが、たまらなく眩しくて、そしてたまらなく鬱陶しくて。
鍾馗は、初めて感情を乱したのだ。
『――ああ、たまらなく大嫌いだ! お前らみたいな善人がこの世にいるから、満足に生きられない!! 倫理だのルールだの、作った奴が守ってもいないくせに、下らないくらいに押し付けてきやがる!! たまらなく不愉快だ!!』
頭を抱え、辺りに歪んだ魔力が満ち始める。院が倒していた有象無象たちを引き込み、闇の中で咀嚼され、鍾馗の魔力炉の中に叩き込まれていく。
「――透、覚悟は良いですか? 正直、今まで戦ってきた敵の比にならないほど強靭に思えますが」
「馬鹿言え、ダメージこそ与えられなかったが、それはこれまでの話。盛大にぶちかましてやろうぜ、俺たちの新たな力」
二人は顔を合わせ、一度だけ頷くとドライバーにそれぞれのライセンスを認証、装填する。
『認証、愛と美、その他もろもろ属性モリモリ女神、イシュタル! 怪獣グガランナを引き連れ、ウルクを落とす一大計画をおったてた?!』
『認証、一行のお調子者、猪八戒、見参! 八戒を断つ決心をすれども誘惑ばかり、お調子者の旅路の行方は!?』
院も透も、あらかじめ装填してある、それぞれのライセンスに重ね合わせる。それぞれの力が、相乗効果となり以前よりも遥かに強くなっていくのだ。
それぞれが、たった一人の敵に向かいながら。魔力を渦巻かせるのだった。
『お前らはここで潰す……下らない英雄共は!! ここで潰すほかない!!』
「「変身!!」」
二対一、それぞれの正義ぶつかり合う、どん底を味わったもの同士の決戦が、真の意味で始まった瞬間だった。