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第百十七話

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 闇の力。通常、RPGやゲーム作品においては、ある程度強さが担保されている力。場合によっては、ラスボスが持っていることも吝かではない力である。それほどに知名度を有する能力ではあるが、使用者によっては性質が十人十色。
 そんな闇の昏さを打ち消すような、二人の新たな装甲が輝く。
『ギルガメッシュ×イシュタル、マッシュアップ!! ギルガタルフォーム!!』
『孫悟空×猪八戒、マッシュアップ!! ソンハッカイフォーム!!』
 院の装甲は、右半身を中心として、烈火の如く紅の西洋鎧モチーフ。所々に炎が揺らめく意匠が施されている。
 その装甲に割り込むように、体中央を形成していくのは、女神イシュタルの装甲であった。
 かつてウルクに差し向けた牛の怪獣グガランナ、胸部装甲に牛の顔を思わせるスマートなデザインに、腰のあたりからは女神イシュタルが身に着けていたとされている羽衣がはためいている。
 以前から存在した、右肩から垂れ下がる特別な蒼のマントは据え置き。通常赤色のはずが、礼安を強く案じる心が反映されているため、そうなっている。
 代わって透の装甲は、黄色ベースに緑の刺し色が入った、頭部装甲から中央を中心とした装甲展開がされていた。
 しかし、そこに寄り添う形で猪八戒モチーフの装甲に包まれていく右半身。孫悟空から続く風の意匠が凝らされた軽快な軽装甲、その流れを汲みつつ、より猪八戒の色を出したものとなっていた。しかし、今まで黄色ベースだったのが、緑ベースへと変化していくほどに強めとなった。
 メカメカしく厳つい風体の、豚頭風肩部装甲が右肩を包み、腰のあたりから腰布が延長。さながらロングコートを羽織っているような、見る者に威圧感を与えるような風貌へと進化する。
 鍾馗の感情に合わせ、激しく揺れ動き、無数の伸縮自在な腕を生成し、闇を媒介として二人を徹底的に死へ追い詰める。
 しかし、二人はその場からすぐさま跳躍し、空へ飛んだ。
 透は院に触れ、一時的に風の力を分割。院も自在に能力を扱えるように共有したのだ。
 二人を殺さんと、無限の(かいな)が二人を襲う。しかし、宙を超高速で舞いながら鍾馗に迫る二人。
 そんな二人を見越していたのか、闇の防御壁を展開。触れる者のエネルギーを徹底的に吸収する凶悪極まりないもの。
 しかし、そんなものに馬鹿正直に触れるはずはなく。透が手にした如意棒に目掛け、院が力強く炎の矢を何十発も一気に撃ち放つ。
「よし、じゃあ猪八戒! お前の馬鹿力……見せてやれよ!」
 右半身に、魔力と共に常軌を逸したほどの力が満ち溢れる。猪八戒は物語中やその物語が時代を経るにつれて、様々なイメージが追加されていった。人々の豊かな想像力によって、いつしか『怪力』という属性を付与されたために、透もその力を扱える。装甲のサポート以外に、爆発的な力を得たのだ。
 野球のノック練習のように、矢を徹底的に弾き飛ばし、闇の防御壁、その一点を集中的につけ狙って壊さんとしていた。
 その勢いは尋常ではなく、時速五百キロほどの速度で、そこそこの質量を持った物体が、一点集中で攻め立ててくる。その一点にかかる負荷は、相当のものであった。
 闇の防御壁が耐えきれず崩れ去る。それと共に、院の矢が猪八戒の膂力によってリニアモーターカーばりの速度で向かっていくのだ。
 避ける以外に道はない。どれほどの防御力を有していようと、チップダメージは何よりも鬱陶しいものである。
 しかし、その避けた先には、牛の怪獣グガランナの一脚、その幻影が今まさに鍾馗を踏み潰さんとしていたのだ。
「そこに飛んでくるの、想定内ですわ」
「つーか、グガランナ馬鹿みてえにデカいから大概踏み潰せるだろ」
 圧倒的な質量を持った、尋常でないパワーの暴力。何とか片腕で弾いて直撃を防いだものの、鍾馗への明確なダメージが初めて生まれた瞬間であった。
「私たちの力は、何かに秀でた力、という印象が強くありましたわ。私なら遠距離攻撃だったり、透なら各種攻撃の速度、手数を重視したものだったり」
 二人の弱点は、何より『決定力や打点の無さ』であった。礼安は、『アーサー王』の恵まれた力、ライセンスにより、雷の速度で尋常でないパワーをぶつけることが出来た。速度と質量を持った攻撃は、何よりもの脅威である。
「そこに、それぞれが礼安のような力を追加した、つったら良いか? 俺は猪八戒、院はイシュタル&グガランナ、それぞれ力を体現したライセンスだ」
 バランスタイプは、どんな作品においても、基本的に強くない傾向がある。しかし、これが全ての水準が非常に高い、『ハイ・バランスタイプ』だとしたら。何かに特化していた人間が、それに合わせステータスが上昇したとしたら。
 熱と風、それぞれ上昇気流の関係性の内必要な要素二つであるため、それら二つのうちどちらかを弱めるだけで、自在に宙に浮かぶことが可能。二人とも地頭がよかったため、要領もその通りよく、修行の中でコンビネーションを確立していたのだ。
 どれほど腕を伸ばそうと鍾馗は届かず、二人は如意棒と紅斧弓によって徹底的な攻撃を食らわせていく。
 エネルギーを吸収しようにも、速度で劣っている存在にそんな芸当出来るはずもなく、次第に鍾馗は圧されていった。ダメージが嵩み、次第に装甲の体力も磨り減っていく。
 しかし、今まさに圧している二人は、二人でなければ圧せない実感があった。それほどに、武器科とは言え力を使いこなしている彼女に、畏怖していたのだ。
 だからこそ、油断はしない。
 腕の攻撃を殺しながら、二人は高速移動しつつ、鍾馗怪人体を宙へ飛ばす。どうにもならない鍾馗は獣のように叫びながらも、闇を自身に纏わせるよう指示するも、強烈な光によって闇が侵食すること能わず。
「言ったでしょう、強すぎる光の下に闇は生まれない。チェックメイトですわ」
「お前のような邪悪は、更生の余地なしかもな!」
 二人ともドライバーの両端を押し込み、院は右足、透は左足に全魔力を集中させる。
『『超必殺承認!!』』
「「これで終わり!!」ですわ!!」
天竺への道、未だ遠く(テンジクロード・トゥ・ザ・ファラウェイ)!!』
天の牡牛、その一撃を見よ(グガランナ・ジャイアント・インパクト)!!』
 二人同時のタイミングで、鍾馗に浴びせる至高の飛び蹴り。今までのドの攻撃よりも、二人とも苛烈で、実に美しい一撃。通常ならば、それぞれの一撃が推定二百トン以上の一撃である中、一点にその推定四百トン以上が、一点に集中。
 攻撃が分散されるものは、基本的に広範囲に害をもたらすものが目的であるため、破壊力に関してはお察しの通り。しかし、一点に集中したヘビーな一撃の破壊力は、損な攻撃の日にならない。
 鍾馗もまた、受けた衝撃の中で意識を失うほどのもの。
 二人は勝利を確信した――――かに思われた。
 二人による超必殺技を叩きこまれた一瞬。一度、完全に魔力が消えた。
 しかし、地面へと飛ばされる中、鍾馗は新たな表情を見せたのだ。
『――なんてね』
「「!?」」
 二人は咄嗟に鍾馗から空中で離れ、交戦地点から程離れた位置に着地する。倒壊したビル、その頂点に、衝撃を完全吸収させながら降り立つ鍾馗怪人体。
 彼女は変身を解除すると、ただ笑っていた。二人にとって、そんな彼女がたまらなく不気味に感じられて仕方が無かったのだ。
「……何で、攻撃が効いてませんの」
「知るかよ、アイツがまた変な力使ったんだろ」
 鍾馗の方を睨みつけながら、再び戦闘態勢を取る二人。その先から漂う不吉な予感が、二人に冷汗をかかせる。
「――何も。『僕』は無事だよ。『私』ちゃんは、どうやら一回眠っちゃったけど」
 まるで、二重人格。しかし、奥底にそれ以上の何かしらを感じ取っていた。得体のしれない、どす黒い何か。それが何重にも重なったものが、今まさにこの場の空気感を支配している。
 それと同時に二人は実感した。眼前の鍾馗の姿をした何者かには、今の自分たちでは敵わない。新たな力を手にした二人であったが、鍾馗の底の無さを実感したのだ。
「……改めて自己紹介しようか。僕は鍾馗蓮。かつて君たちと戦った、私ちゃんと同一の存在。かなりの破壊力で一方の蓮は一旦眠っちゃったみたいだけど……大丈夫、じきに目覚めるよ。あ、これマジで本当ね」
 何者かが憑依しているわけでもない。魔力性質が変わったわけでもない。彼女はまさに、その言葉通り別の鍾馗蓮である。武器科に所属していた、自身に盛大なコンプレックスを抱いていた彼女とは別物。全ての水準が、常軌を逸するほどに完全上位互換。
「でもさ、びっくりだよ。私ちゃんが吐いていた嘘に、心を動かされちゃうなんて。君……確か透ちゃんかな、だいぶ純粋なんだね。これも本当」
「――どういう、ことだよ」
「実に簡単な話だよ、彼女と僕は酷い嘘吐きでね。口から大分出まかせを言ってしまう。『教祖』への愛、そして僕と私ちゃんの近親相姦に似たどろどろの恋愛感情以外に、口から真実は出てこないものと思っていいよ。何せ、君たちが『大好き』だからさ」
「……私たちは、随分と嫌われているようですわね」
 けらけらと笑う鍾馗は、自分の性質を早くに理解した院にサムズアップを送る。
「――僕はね。君たち英雄が心底『大好き』なんだ。なんせ私ちゃんを『可愛がる最高の存在』だからね。君たちは同類『だけど』。『前世から僕たちは結ばれている仲で、そんな恋人を傷つける存在は僕が許さない!』 そう考えたら、『放置したく』なってね」
「……よく分からねえ、アイツが」
 鍾馗にとって、真実を話すときはよほどの時。しかし今は格下を相手にしている感覚故、一切の真実を口にはしない。つまるところ、二人の英雄には何もすることが無かったのだ。
「本当なら、今すぐにでも君たちを『殺して』あげたいんだよねえ」
「――生かしてくれる、そう言っているのですね?」
 薄気味悪い笑みを浮かべながら、院を見やる鍾馗。透の脳はあまり理解が出来ていなかったものの、その通りに動くほかなかった。
「……あ、見てごらん。ここから話すことは本当のことだけどさ――――」
 鍾馗が指差す方向では、今まさに交戦が行われていた。それと同時に、猛烈な虚脱感を感じ取る院と透。この事態の異常さに、脳がようやく理解した。
「――あの子、あんなに強かったんだ。まるで……『親しみ深い』魔力をしているね」
 口角が歪む鍾馗、その視線の先にいたのは、目を疑う光景。この世のものとは思えないほど、尋常でないほど巨大な存在と戦う何者か。自分の常識が邪魔をしてしまうほどに、理解を無意識下で拒んでしまう光景であった。
 そして、見たことのあるシルエットから発される甚大な魔力は、間違いなくあの人物のものでないことくらいは理解できる。
 だからこそ理解が出来なかったのだ。その人物の、笑顔の正体が。



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 闇の力。通常、RPGやゲーム作品においては、ある程度強さが担保されている力。場合によっては、ラスボスが持っていることも吝かではない力である。それほどに知名度を有する能力ではあるが、使用者によっては性質が十人十色。
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『ギルガメッシュ×イシュタル、マッシュアップ!! ギルガタルフォーム!!』
『孫悟空×猪八戒、マッシュアップ!! ソンハッカイフォーム!!』
 院の装甲は、右半身を中心として、烈火の如く紅の西洋鎧モチーフ。所々に炎が揺らめく意匠が施されている。
 その装甲に割り込むように、体中央を形成していくのは、女神イシュタルの装甲であった。
 かつてウルクに差し向けた牛の怪獣グガランナ、胸部装甲に牛の顔を思わせるスマートなデザインに、腰のあたりからは女神イシュタルが身に着けていたとされている羽衣がはためいている。
 以前から存在した、右肩から垂れ下がる特別な蒼のマントは据え置き。通常赤色のはずが、礼安を強く案じる心が反映されているため、そうなっている。
 代わって透の装甲は、黄色ベースに緑の刺し色が入った、頭部装甲から中央を中心とした装甲展開がされていた。
 しかし、そこに寄り添う形で猪八戒モチーフの装甲に包まれていく右半身。孫悟空から続く風の意匠が凝らされた軽快な軽装甲、その流れを汲みつつ、より猪八戒の色を出したものとなっていた。しかし、今まで黄色ベースだったのが、緑ベースへと変化していくほどに強めとなった。
 メカメカしく厳つい風体の、豚頭風肩部装甲が右肩を包み、腰のあたりから腰布が延長。さながらロングコートを羽織っているような、見る者に威圧感を与えるような風貌へと進化する。
 鍾馗の感情に合わせ、激しく揺れ動き、無数の伸縮自在な腕を生成し、闇を媒介として二人を徹底的に死へ追い詰める。
 しかし、二人はその場からすぐさま跳躍し、空へ飛んだ。
 透は院に触れ、一時的に風の力を分割。院も自在に能力を扱えるように共有したのだ。
 二人を殺さんと、無限の|腕《かいな》が二人を襲う。しかし、宙を超高速で舞いながら鍾馗に迫る二人。
 そんな二人を見越していたのか、闇の防御壁を展開。触れる者のエネルギーを徹底的に吸収する凶悪極まりないもの。
 しかし、そんなものに馬鹿正直に触れるはずはなく。透が手にした如意棒に目掛け、院が力強く炎の矢を何十発も一気に撃ち放つ。
「よし、じゃあ猪八戒! お前の馬鹿力……見せてやれよ!」
 右半身に、魔力と共に常軌を逸したほどの力が満ち溢れる。猪八戒は物語中やその物語が時代を経るにつれて、様々なイメージが追加されていった。人々の豊かな想像力によって、いつしか『怪力』という属性を付与されたために、透もその力を扱える。装甲のサポート以外に、爆発的な力を得たのだ。
 野球のノック練習のように、矢を徹底的に弾き飛ばし、闇の防御壁、その一点を集中的につけ狙って壊さんとしていた。
 その勢いは尋常ではなく、時速五百キロほどの速度で、そこそこの質量を持った物体が、一点集中で攻め立ててくる。その一点にかかる負荷は、相当のものであった。
 闇の防御壁が耐えきれず崩れ去る。それと共に、院の矢が猪八戒の膂力によってリニアモーターカーばりの速度で向かっていくのだ。
 避ける以外に道はない。どれほどの防御力を有していようと、チップダメージは何よりも鬱陶しいものである。
 しかし、その避けた先には、牛の怪獣グガランナの一脚、その幻影が今まさに鍾馗を踏み潰さんとしていたのだ。
「そこに飛んでくるの、想定内ですわ」
「つーか、グガランナ馬鹿みてえにデカいから大概踏み潰せるだろ」
 圧倒的な質量を持った、尋常でないパワーの暴力。何とか片腕で弾いて直撃を防いだものの、鍾馗への明確なダメージが初めて生まれた瞬間であった。
「私たちの力は、何かに秀でた力、という印象が強くありましたわ。私なら遠距離攻撃だったり、透なら各種攻撃の速度、手数を重視したものだったり」
 二人の弱点は、何より『決定力や打点の無さ』であった。礼安は、『アーサー王』の恵まれた力、ライセンスにより、雷の速度で尋常でないパワーをぶつけることが出来た。速度と質量を持った攻撃は、何よりもの脅威である。
「そこに、それぞれが礼安のような力を追加した、つったら良いか? 俺は猪八戒、院はイシュタル&グガランナ、それぞれ力を体現したライセンスだ」
 バランスタイプは、どんな作品においても、基本的に強くない傾向がある。しかし、これが全ての水準が非常に高い、『ハイ・バランスタイプ』だとしたら。何かに特化していた人間が、それに合わせステータスが上昇したとしたら。
 熱と風、それぞれ上昇気流の関係性の内必要な要素二つであるため、それら二つのうちどちらかを弱めるだけで、自在に宙に浮かぶことが可能。二人とも地頭がよかったため、要領もその通りよく、修行の中でコンビネーションを確立していたのだ。
 どれほど腕を伸ばそうと鍾馗は届かず、二人は如意棒と紅斧弓によって徹底的な攻撃を食らわせていく。
 エネルギーを吸収しようにも、速度で劣っている存在にそんな芸当出来るはずもなく、次第に鍾馗は圧されていった。ダメージが嵩み、次第に装甲の体力も磨り減っていく。
 しかし、今まさに圧している二人は、二人でなければ圧せない実感があった。それほどに、武器科とは言え力を使いこなしている彼女に、畏怖していたのだ。
 だからこそ、油断はしない。
 腕の攻撃を殺しながら、二人は高速移動しつつ、鍾馗怪人体を宙へ飛ばす。どうにもならない鍾馗は獣のように叫びながらも、闇を自身に纏わせるよう指示するも、強烈な光によって闇が侵食すること能わず。
「言ったでしょう、強すぎる光の下に闇は生まれない。チェックメイトですわ」
「お前のような邪悪は、更生の余地なしかもな!」
 二人ともドライバーの両端を押し込み、院は右足、透は左足に全魔力を集中させる。
『『超必殺承認!!』』
「「これで終わり!!」ですわ!!」
『|天竺への道、未だ遠く《テンジクロード・トゥ・ザ・ファラウェイ》!!』
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 二人同時のタイミングで、鍾馗に浴びせる至高の飛び蹴り。今までのドの攻撃よりも、二人とも苛烈で、実に美しい一撃。通常ならば、それぞれの一撃が推定二百トン以上の一撃である中、一点にその推定四百トン以上が、一点に集中。
 攻撃が分散されるものは、基本的に広範囲に害をもたらすものが目的であるため、破壊力に関してはお察しの通り。しかし、一点に集中したヘビーな一撃の破壊力は、損な攻撃の日にならない。
 鍾馗もまた、受けた衝撃の中で意識を失うほどのもの。
 二人は勝利を確信した――――かに思われた。
 二人による超必殺技を叩きこまれた一瞬。一度、完全に魔力が消えた。
 しかし、地面へと飛ばされる中、鍾馗は新たな表情を見せたのだ。
『――なんてね』
「「!?」」
 二人は咄嗟に鍾馗から空中で離れ、交戦地点から程離れた位置に着地する。倒壊したビル、その頂点に、衝撃を完全吸収させながら降り立つ鍾馗怪人体。
 彼女は変身を解除すると、ただ笑っていた。二人にとって、そんな彼女がたまらなく不気味に感じられて仕方が無かったのだ。
「……何で、攻撃が効いてませんの」
「知るかよ、アイツがまた変な力使ったんだろ」
 鍾馗の方を睨みつけながら、再び戦闘態勢を取る二人。その先から漂う不吉な予感が、二人に冷汗をかかせる。
「――何も。『僕』は無事だよ。『私』ちゃんは、どうやら一回眠っちゃったけど」
 まるで、二重人格。しかし、奥底にそれ以上の何かしらを感じ取っていた。得体のしれない、どす黒い何か。それが何重にも重なったものが、今まさにこの場の空気感を支配している。
 それと同時に二人は実感した。眼前の鍾馗の姿をした何者かには、今の自分たちでは敵わない。新たな力を手にした二人であったが、鍾馗の底の無さを実感したのだ。
「……改めて自己紹介しようか。僕は鍾馗蓮。かつて君たちと戦った、私ちゃんと同一の存在。かなりの破壊力で一方の蓮は一旦眠っちゃったみたいだけど……大丈夫、じきに目覚めるよ。あ、これマジで本当ね」
 何者かが憑依しているわけでもない。魔力性質が変わったわけでもない。彼女はまさに、その言葉通り別の鍾馗蓮である。武器科に所属していた、自身に盛大なコンプレックスを抱いていた彼女とは別物。全ての水準が、常軌を逸するほどに完全上位互換。
「でもさ、びっくりだよ。私ちゃんが吐いていた嘘に、心を動かされちゃうなんて。君……確か透ちゃんかな、だいぶ純粋なんだね。これも本当」
「――どういう、ことだよ」
「実に簡単な話だよ、彼女と僕は酷い嘘吐きでね。口から大分出まかせを言ってしまう。『教祖』への愛、そして僕と私ちゃんの近親相姦に似たどろどろの恋愛感情以外に、口から真実は出てこないものと思っていいよ。何せ、君たちが『大好き』だからさ」
「……私たちは、随分と嫌われているようですわね」
 けらけらと笑う鍾馗は、自分の性質を早くに理解した院にサムズアップを送る。
「――僕はね。君たち英雄が心底『大好き』なんだ。なんせ私ちゃんを『可愛がる最高の存在』だからね。君たちは同類『だけど』。『前世から僕たちは結ばれている仲で、そんな恋人を傷つける存在は僕が許さない!』 そう考えたら、『放置したく』なってね」
「……よく分からねえ、アイツが」
 鍾馗にとって、真実を話すときはよほどの時。しかし今は格下を相手にしている感覚故、一切の真実を口にはしない。つまるところ、二人の英雄には何もすることが無かったのだ。
「本当なら、今すぐにでも君たちを『殺して』あげたいんだよねえ」
「――生かしてくれる、そう言っているのですね?」
 薄気味悪い笑みを浮かべながら、院を見やる鍾馗。透の脳はあまり理解が出来ていなかったものの、その通りに動くほかなかった。
「……あ、見てごらん。ここから話すことは本当のことだけどさ――――」
 鍾馗が指差す方向では、今まさに交戦が行われていた。それと同時に、猛烈な虚脱感を感じ取る院と透。この事態の異常さに、脳がようやく理解した。
「――あの子、あんなに強かったんだ。まるで……『親しみ深い』魔力をしているね」
 口角が歪む鍾馗、その視線の先にいたのは、目を疑う光景。この世のものとは思えないほど、尋常でないほど巨大な存在と戦う何者か。自分の常識が邪魔をしてしまうほどに、理解を無意識下で拒んでしまう光景であった。
 そして、見たことのあるシルエットから発される甚大な魔力は、間違いなくあの人物のものでないことくらいは理解できる。
 だからこそ理解が出来なかったのだ。その人物の、笑顔の正体が。