表示設定
表示設定
目次 目次




第百十五話

ー/ー




 ずっとどん底。どれほどの努力も結ばれず、見た目が恵まれることも無く。蔑まれ、落ちぶれて、蔑まれ、落ちぶれて……の繰り返し。やっとの思いで日の目を浴びると思ったら、そこは既にレッドオーシャンであった。ブルーオーシャンな場所など、もうこの世に在りはしないのだ。
 思考の限界。それはあるかもしれないが、結局のところ、それを考え付くほどの突飛な頭脳があれば、ここまで落ちぶれはしない。
 整形をする。それは暗に、自分ではない誰かに成り代わり、仮初の栄華を得るだけ。自分の力で手に入れなければ、意味がないのだ。
 勉学に励む。世の中はある程度の頭脳を求める割には、それ以上にコミュニケーション能力を必要とする。馬鹿みたいに勉強をしてきても、風体が駄目では塵ほどの価値もない。
 ならばコミュニケーション能力は。そんなものがあったら、ここまで落ちぶれてはいない。コミュニケーション以前に、大勢に蔑まれてきた人生の中で、誰が味方をするというのか。誰が話しかけるというのか。誰が話しかけて答えるのだろうか。
 結局。底の底に堕ちた人間を救いあげるのは、『教会』しかなかったのだ。
 実際、彼女は入学前から既に『教会』の信者であった。家族は最初得体のしれない宗教を気味悪がったものの、鍾馗が全員引きずり落とした。皆、仲良く信者として京都で暮らしている。
 待田はその事実を後に本人から聞かされたものの、その事実に驚愕していた。
 スムーズな裏切り、自身の欲に従った裏切り、ではなかった。最初から、英雄という概念を裏切っていたのだ。全てを偽り、全てを欺き続けた鍾馗は、最初から『教会』構成員として皆を裏から動かし続けたのだ。
 最初のあの慟哭。それは皆の同情を誘いながら、自分だけが助かり、かつ憎たらしい存在を一斉に排除するための策。あそこにいた面子は、性格のよさそうなふりをしておきながら、鍾馗以外が彼女を嘲笑していた存在。いじめっ子、と表現するのは腹立たしいため、傷害犯と呼称するとしよう。
 現に、待田たちが現れる前は、あの場で傷害犯による暴力が振るわれていた。顔や露出している腕などの部分ではなく、腹部などの一切見えない部分ばかりを攻撃していたのだ。鍾馗が死なない程度に、武器科という『劣等科』を己が欲のために攻撃していたのだ。
 それらは、英雄科の二組や三組生徒ばかり。自分たちがどう足掻いても上に上がれないために、努力を怠った結果徹底的に自身よりも下である武器科をサンドバッグ代わりにしていたのだ。
 その後、鍾馗が行った工作としては、東京二十三区内において北側である、数ある区内に潜んでいる英雄・武器陣営の生徒を皆殺しにしていくことだった。
 その中には、鍾馗と接したことのない一年次や、鍾馗をはじめとして武器科を見下していた二年一組から下の組生徒がうじゃうじゃと存在。
 命乞いをする者や、鍾馗にありったけの恨み節をぶつける者が何人もいた。しかし、どれだけ蔑まれようとも、ただの負け犬の遠吠えのように感じられて仕方が無かった。
 今まで酷いことをしてきたのにも拘らず、今更『ジョーク』だと謝った生徒も少なからず存在した。そこまで危機感を抱いているのにも拘らず、なぜやるのか。そう嘲笑った後に容赦なく殺した。
 結果的に、英雄・武器陣営の総合的な戦力ダウンに繋がったため、その殺しは『教会』陣営を勢い付かせるきっかけとなった。
 次第に、自分が今まで通っていた学園は、酷く腐敗したものであると実感した。最上級である一組生徒以外、まともな人間はほとんど存在しない。誰もかれも、自分より下の存在を見下し続け、日々の鬱憤晴らしに傷害行為を行う。英雄とは名ばかりの、ただ性根の腐った犯罪者集団である。
 『教会』こそ、鍾馗のあるべき場所であると、この合同演習会をきっかけに再確認したのだった。

『私は、教会の一構成員として、英雄を皆殺しにする。それは今でなくとも、近い将来でも。仮に皆殺しが出来なくとも、手酷い傷を負わせる。それこそが――私の目標であり、欲の根源だよ。外野に何言われようと……この欲求は変わらないさ』
「――そうかよ、んじゃあ停戦の相談は無駄だった、って訳だ」
 しかし透は、その鍾馗の講釈の間も、ある策を巡らせていた。
 後ろ手に、風で作り上げたスプリングを、異常なほどに伸長させていたのだ。繋がる先は彼女のみぞ知る。
 まるで、フックの法則にて用いる最大伸長のばね。そのままだとそのばね自体がおかしくなってしまうが、それが強度という概念が存在しないか、あるいは異常なほど強靭なものなら。どれほど伸長しても、その後の元に戻ろうとする力は十全に働く。
「だけどよ。ちっとはアンタの底が知れた。それだけでも収穫だろ」
 その言葉と共に、透はある地点へばねが戻る勢いをフルに活かし、遥か遠くへ飛んだのだ。
 意表を突かれた鍾馗は、影を移動する力を扱うものの、それ以上に透の影が地面に映る時間が極端に短く、瓦礫に生まれた影を利用し高速移動するも、全く追いつけずにいた。
「――俺はよ。アンタを説得することは止めた。正直、どこまで行っても……俺じゃあアンタを説得なんぞできはしないって分かっちった。だから――俺『たち』で叩き潰す以外に策はねェと考えるんだわ」
 高速で辿り着いた場所は、最初に加賀美と別れた場所、最初の交戦地点であった。その場にいたはずの有象無象は、全て何者かによって倒されていた。それらに刺さっていたのは、炎の矢であった。
「――お待たせしましたわ、透。真来院、ここに推参です」
「……ちィと、遅かったんじゃあねえの?」
「到着が遅れたのはお互いさまですわ」
 二人は不敵に笑いあうと、お互いの方に目を向けることも無く手を貸し合う。変身を解除しながら天音透と真来院、その二名が再会した瞬間だった。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第百十六話


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 ずっとどん底。どれほどの努力も結ばれず、見た目が恵まれることも無く。蔑まれ、落ちぶれて、蔑まれ、落ちぶれて……の繰り返し。やっとの思いで日の目を浴びると思ったら、そこは既にレッドオーシャンであった。ブルーオーシャンな場所など、もうこの世に在りはしないのだ。
 思考の限界。それはあるかもしれないが、結局のところ、それを考え付くほどの突飛な頭脳があれば、ここまで落ちぶれはしない。
 整形をする。それは暗に、自分ではない誰かに成り代わり、仮初の栄華を得るだけ。自分の力で手に入れなければ、意味がないのだ。
 勉学に励む。世の中はある程度の頭脳を求める割には、それ以上にコミュニケーション能力を必要とする。馬鹿みたいに勉強をしてきても、風体が駄目では塵ほどの価値もない。
 ならばコミュニケーション能力は。そんなものがあったら、ここまで落ちぶれてはいない。コミュニケーション以前に、大勢に蔑まれてきた人生の中で、誰が味方をするというのか。誰が話しかけるというのか。誰が話しかけて答えるのだろうか。
 結局。底の底に堕ちた人間を救いあげるのは、『教会』しかなかったのだ。
 実際、彼女は入学前から既に『教会』の信者であった。家族は最初得体のしれない宗教を気味悪がったものの、鍾馗が全員引きずり落とした。皆、仲良く信者として京都で暮らしている。
 待田はその事実を後に本人から聞かされたものの、その事実に驚愕していた。
 スムーズな裏切り、自身の欲に従った裏切り、ではなかった。最初から、英雄という概念を裏切っていたのだ。全てを偽り、全てを欺き続けた鍾馗は、最初から『教会』構成員として皆を裏から動かし続けたのだ。
 最初のあの慟哭。それは皆の同情を誘いながら、自分だけが助かり、かつ憎たらしい存在を一斉に排除するための策。あそこにいた面子は、性格のよさそうなふりをしておきながら、鍾馗以外が彼女を嘲笑していた存在。いじめっ子、と表現するのは腹立たしいため、傷害犯と呼称するとしよう。
 現に、待田たちが現れる前は、あの場で傷害犯による暴力が振るわれていた。顔や露出している腕などの部分ではなく、腹部などの一切見えない部分ばかりを攻撃していたのだ。鍾馗が死なない程度に、武器科という『劣等科』を己が欲のために攻撃していたのだ。
 それらは、英雄科の二組や三組生徒ばかり。自分たちがどう足掻いても上に上がれないために、努力を怠った結果徹底的に自身よりも下である武器科をサンドバッグ代わりにしていたのだ。
 その後、鍾馗が行った工作としては、東京二十三区内において北側である、数ある区内に潜んでいる英雄・武器陣営の生徒を皆殺しにしていくことだった。
 その中には、鍾馗と接したことのない一年次や、鍾馗をはじめとして武器科を見下していた二年一組から下の組生徒がうじゃうじゃと存在。
 命乞いをする者や、鍾馗にありったけの恨み節をぶつける者が何人もいた。しかし、どれだけ蔑まれようとも、ただの負け犬の遠吠えのように感じられて仕方が無かった。
 今まで酷いことをしてきたのにも拘らず、今更『ジョーク』だと謝った生徒も少なからず存在した。そこまで危機感を抱いているのにも拘らず、なぜやるのか。そう嘲笑った後に容赦なく殺した。
 結果的に、英雄・武器陣営の総合的な戦力ダウンに繋がったため、その殺しは『教会』陣営を勢い付かせるきっかけとなった。
 次第に、自分が今まで通っていた学園は、酷く腐敗したものであると実感した。最上級である一組生徒以外、まともな人間はほとんど存在しない。誰もかれも、自分より下の存在を見下し続け、日々の鬱憤晴らしに傷害行為を行う。英雄とは名ばかりの、ただ性根の腐った犯罪者集団である。
 『教会』こそ、鍾馗のあるべき場所であると、この合同演習会をきっかけに再確認したのだった。
『私は、教会の一構成員として、英雄を皆殺しにする。それは今でなくとも、近い将来でも。仮に皆殺しが出来なくとも、手酷い傷を負わせる。それこそが――私の目標であり、欲の根源だよ。外野に何言われようと……この欲求は変わらないさ』
「――そうかよ、んじゃあ停戦の相談は無駄だった、って訳だ」
 しかし透は、その鍾馗の講釈の間も、ある策を巡らせていた。
 後ろ手に、風で作り上げたスプリングを、異常なほどに伸長させていたのだ。繋がる先は彼女のみぞ知る。
 まるで、フックの法則にて用いる最大伸長のばね。そのままだとそのばね自体がおかしくなってしまうが、それが強度という概念が存在しないか、あるいは異常なほど強靭なものなら。どれほど伸長しても、その後の元に戻ろうとする力は十全に働く。
「だけどよ。ちっとはアンタの底が知れた。それだけでも収穫だろ」
 その言葉と共に、透はある地点へばねが戻る勢いをフルに活かし、遥か遠くへ飛んだのだ。
 意表を突かれた鍾馗は、影を移動する力を扱うものの、それ以上に透の影が地面に映る時間が極端に短く、瓦礫に生まれた影を利用し高速移動するも、全く追いつけずにいた。
「――俺はよ。アンタを説得することは止めた。正直、どこまで行っても……俺じゃあアンタを説得なんぞできはしないって分かっちった。だから――俺『たち』で叩き潰す以外に策はねェと考えるんだわ」
 高速で辿り着いた場所は、最初に加賀美と別れた場所、最初の交戦地点であった。その場にいたはずの有象無象は、全て何者かによって倒されていた。それらに刺さっていたのは、炎の矢であった。
「――お待たせしましたわ、透。真来院、ここに推参です」
「……ちィと、遅かったんじゃあねえの?」
「到着が遅れたのはお互いさまですわ」
 二人は不敵に笑いあうと、お互いの方に目を向けることも無く手を貸し合う。変身を解除しながら天音透と真来院、その二名が再会した瞬間だった。