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4-10・ばか、なに考えてんだ俺は。

ー/ー



「ちょっと待ってて。今タオル持ってくるから」
 都内某所にある俺の自宅アパートまで来たところで、ひとまず待ってもらうことにした。
 目的はふたつ、ひとつは今言ったようにびしょ濡れ状態で部屋へあげるわけにはいかないのでタオルでまずはある程度拭いてもらう。
 もうひとつは部屋の状態の確認だ。連れ込む予定じゃなかったので散らかってるかもしれない。
 ドアを開けて部屋に入る。ワンルームの質素な部屋はベッドと小さな折り畳みテーブルと作業用のノートパソコンに、本棚が無いので床に直置きで積まれた漫画とか翻訳のための資料とか、後は『コレクション』だ。まぁこれはしまっておこう。
 特に散らかってるわけではない。ひとまず『コレクション』だけはクローゼットの奥にしまい、上からカーディガンをかけて見えないようにする。
 部屋の整理も済んだので次はタオルだ。2枚ほど持って玄関のドアを開けて顔を出す。
「はいこれ、洗濯したばっかのやつだから、その、大丈夫だと思う」
「わっ、ありがとうございます。ごめんなさい、用意してもらって」
「気にしないで。入って」
 タオルを渡しつつ、彼女を手招きする。美穂ちゃんは髪を拭きながら「おじゃましまーす」と言っておずおずと部屋へ入る。
 しかし美穂ちゃんは玄関から先へと入ろうとはせず、靴を履いたまま身体を拭いていた。
「どうしたの美穂ちゃん。上がっていいよ」
「でも、私まだ濡れてるから床濡れちゃいます」
「後で拭けばいいよ。それに、あがんなきゃシャワーも使えないでしょ」
「……はい、分かりました」
 美穂ちゃんへ部屋にあがるよう促す。彼女はなるべく俺の部屋の床を濡らさないよう配慮しながら靴を脱ぎ、そうっと室内を歩く。
 なんとも律儀な女の子だ。俺はチラッと彼女の足元を見て、すぐに目を離して脱衣所兼洗面所のドアを開る。さらにその奥のユニットバスの状態も確認する。
 今朝はデートということで気合を入れて朝風呂をキメたおかげで風呂の状態は万全だ。
 一応もう一度サッと全体を洗い、部屋へと戻る。
「ごめんね、お待たせ。シャワー使って」
「いいんですか? 日之太さんもびしょびしょなのに」
「俺はいいよって言いたいとこだけど、美穂ちゃんの後に使ってもいい?」
「は、はい。それはもちろん。ていうか日之太さんのおうちのシャワーですから」
「そうだったね。まっ、先温まっちゃって。なんならお湯張ってゆっくり浸かっていいし」
 そう言って俺は美穂ちゃんを脱衣所兼洗面所へと押し込む。
 ひとりになった俺はまず濡れた服を捨てる勢いで脱ぎ、ベランダの柵に掛ける。雨はすっかり止んでいて、今外は曇っている。
 裸の状態でガシガシと身体全体を拭く。部屋着に着替えてベッドへ座り込む。とりあえずこれで応急処置は済んだ。後は美穂ちゃんの対応だ。
 先ほど買った古着は残念ながらゲリラ豪雨でびしょ濡れなのでこれも乾かさなければならない。下着はさすがにどうにもできないが、肌着くらいなら間に合わせられるだろう。
「ひとまず下はハーフパンツで、上はTシャツ……しかないよな」
 収納ケースを軽く漁りながら着替えを吟味する。今思うと家に女の子をあげるのなんて初めてだ。しかもシャワーまで使ってもらってる。
 そういえば美穂ちゃんはどんな恰好で出てくるのだろう。着替えはないはずだからバスタオルを――ばか、なに考えてんだ俺は。
 危うく思考がそういう流れに行こうとしていた。落ち着け、今回はただのイレギュラーだ。あくまで美穂ちゃんをびしょ濡れのまま帰らせるわけにはいかないから部屋へあげただけ。
 フルフルと首を横に振って煩悩を散らす。そうだ、なにか飲み物でも用意しておこう。
 立ち上がって冷蔵庫を開ける。スポドリと発泡酒と昨日コンビニで買った味玉しかない。
「日之太さ~ん」
 なにか買いに行こう。そう思ったとき、脱衣所兼洗面所から美穂ちゃんの声が聴こえてきた。
 俺はドアの近くまで行って壁に背中をくっつける。
「どうしたの美穂ちゃん」
「あ、あの。シャワー浴びたので、その、出たんですけど、えっと」
「あぁ、そっかそっか。着替えね。その、俺のハーフパンツとTシャツなんだけど、いいかな? えっと、もちろん洗濯してるやつ」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。あの、どうやって……」
「部屋の外に置いとくよ。それで、俺ちょっと買い物行くから。うん、着替えたらゆっくりしてて。服乾かすのに色々使って構わないから」
 やや早口で言って、俺はドアの前に着替えを置く。財布と鍵だけを持って家を出た。


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「ちょっと待ってて。今タオル持ってくるから」
 都内某所にある俺の自宅アパートまで来たところで、ひとまず待ってもらうことにした。
 目的はふたつ、ひとつは今言ったようにびしょ濡れ状態で部屋へあげるわけにはいかないのでタオルでまずはある程度拭いてもらう。
 もうひとつは部屋の状態の確認だ。連れ込む予定じゃなかったので散らかってるかもしれない。
 ドアを開けて部屋に入る。ワンルームの質素な部屋はベッドと小さな折り畳みテーブルと作業用のノートパソコンに、本棚が無いので床に直置きで積まれた漫画とか翻訳のための資料とか、後は『コレクション』だ。まぁこれはしまっておこう。
 特に散らかってるわけではない。ひとまず『コレクション』だけはクローゼットの奥にしまい、上からカーディガンをかけて見えないようにする。
 部屋の整理も済んだので次はタオルだ。2枚ほど持って玄関のドアを開けて顔を出す。
「はいこれ、洗濯したばっかのやつだから、その、大丈夫だと思う」
「わっ、ありがとうございます。ごめんなさい、用意してもらって」
「気にしないで。入って」
 タオルを渡しつつ、彼女を手招きする。美穂ちゃんは髪を拭きながら「おじゃましまーす」と言っておずおずと部屋へ入る。
 しかし美穂ちゃんは玄関から先へと入ろうとはせず、靴を履いたまま身体を拭いていた。
「どうしたの美穂ちゃん。上がっていいよ」
「でも、私まだ濡れてるから床濡れちゃいます」
「後で拭けばいいよ。それに、あがんなきゃシャワーも使えないでしょ」
「……はい、分かりました」
 美穂ちゃんへ部屋にあがるよう促す。彼女はなるべく俺の部屋の床を濡らさないよう配慮しながら靴を脱ぎ、そうっと室内を歩く。
 なんとも律儀な女の子だ。俺はチラッと彼女の足元を見て、すぐに目を離して脱衣所兼洗面所のドアを開る。さらにその奥のユニットバスの状態も確認する。
 今朝はデートということで気合を入れて朝風呂をキメたおかげで風呂の状態は万全だ。
 一応もう一度サッと全体を洗い、部屋へと戻る。
「ごめんね、お待たせ。シャワー使って」
「いいんですか? 日之太さんもびしょびしょなのに」
「俺はいいよって言いたいとこだけど、美穂ちゃんの後に使ってもいい?」
「は、はい。それはもちろん。ていうか日之太さんのおうちのシャワーですから」
「そうだったね。まっ、先温まっちゃって。なんならお湯張ってゆっくり浸かっていいし」
 そう言って俺は美穂ちゃんを脱衣所兼洗面所へと押し込む。
 ひとりになった俺はまず濡れた服を捨てる勢いで脱ぎ、ベランダの柵に掛ける。雨はすっかり止んでいて、今外は曇っている。
 裸の状態でガシガシと身体全体を拭く。部屋着に着替えてベッドへ座り込む。とりあえずこれで応急処置は済んだ。後は美穂ちゃんの対応だ。
 先ほど買った古着は残念ながらゲリラ豪雨でびしょ濡れなのでこれも乾かさなければならない。下着はさすがにどうにもできないが、肌着くらいなら間に合わせられるだろう。
「ひとまず下はハーフパンツで、上はTシャツ……しかないよな」
 収納ケースを軽く漁りながら着替えを吟味する。今思うと家に女の子をあげるのなんて初めてだ。しかもシャワーまで使ってもらってる。
 そういえば美穂ちゃんはどんな恰好で出てくるのだろう。着替えはないはずだからバスタオルを――ばか、なに考えてんだ俺は。
 危うく思考がそういう流れに行こうとしていた。落ち着け、今回はただのイレギュラーだ。あくまで美穂ちゃんをびしょ濡れのまま帰らせるわけにはいかないから部屋へあげただけ。
 フルフルと首を横に振って煩悩を散らす。そうだ、なにか飲み物でも用意しておこう。
 立ち上がって冷蔵庫を開ける。スポドリと発泡酒と昨日コンビニで買った味玉しかない。
「日之太さ~ん」
 なにか買いに行こう。そう思ったとき、脱衣所兼洗面所から美穂ちゃんの声が聴こえてきた。
 俺はドアの近くまで行って壁に背中をくっつける。
「どうしたの美穂ちゃん」
「あ、あの。シャワー浴びたので、その、出たんですけど、えっと」
「あぁ、そっかそっか。着替えね。その、俺のハーフパンツとTシャツなんだけど、いいかな? えっと、もちろん洗濯してるやつ」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。あの、どうやって……」
「部屋の外に置いとくよ。それで、俺ちょっと買い物行くから。うん、着替えたらゆっくりしてて。服乾かすのに色々使って構わないから」
 やや早口で言って、俺はドアの前に着替えを置く。財布と鍵だけを持って家を出た。