楽しい食事も終わり、俺達は東京に戻ってきた。
途中で美穂ちゃんが行きたいと言っていた古着屋にも赴き、何着か服を購入した。今は買い物も終わって駅へと向かっているところだ。
一応予定ではこの後帰るだけ。少し早いけれど初めてのデートだし、遠出もしたので多分疲れてるだろう。そう思ってあえて予定は入れなかったのだが。
「……美穂ちゃん? 大丈夫? 眠い?」
「んぅ、ちょっとだけ。でも全然だいじょぶです」
隣を歩いている美穂ちゃんの顔がとろんとしている。これは多分疲れてるのだろう。
本来ならここは素直に彼女を家へと送るべきなのだが。
「あーどうしよっか。ちょっと休む? カラオケとか行く?」
ひとまずいつものように提案してみる。しかし彼女は「んー」と低い声で唸るだけだ。
不眠の彼女が眠たいと言っているのだ。これを逃す手はないだろう。もう少し一緒にいたいという気持ちももちろんあるけれど。
「……日之太さんのおうちがいいな」
耳を疑ってしまった。今の言葉をもう一度確認しようとしたところで、美穂ちゃんが俺の背中にぽふっと頭をくっつけてくる。
美穂ちゃんを俺の家にあげる――そんなことしていいのか。
いや別にいいだろ。家にあげるだけだし。ナニかするわけじゃない。
そうだ、邪推するな。話の流れから察するにただ寝るだけだ。
なにもやましいことなんてない。なにも――本当にそうだろうか。
美穂ちゃんだって16歳とはいえひとりの女の子だ。デートした男の家にあがるということがどんな意味を持つのか、ハッキリとは言わないがなんとなくは分かっているはず。
だとしたら俺は彼女の意志を尊重するべきなのか。いやでも、まだ付き合ってないのにそんなこと、なんていうか不健全だ。少なくとも高校生の女の子にすることじゃないだろう。
ここは冷静に対処すべきだ。つまり、いつも通りどこかお店に入ってやり過ごす。
そうだ、そうするべきだ。頑張れ俺の理性。負けるな俺の意志。ここはしっかりと――断ろうと振り向いたところで、ぽつぽつと雨が降ってきた。
雨粒が顔に当たる。美穂ちゃんも顔を起こして手のひらを上に向ける。
「雨降ってる?」
「みたいだね、さっさと駅に……って、あぁ? 強くない?」
ぽつぽつと音を立てて降っていた雨は、瞬く間にその勢いを増し、ザァーッと降りだした。
「あーやばそうだ。早く駅行こう」
「はい、日之太さん」
美穂ちゃんの手を引いて俺はやや早めに歩き出す。駅へと向かっている間にも雨の勢いは増し、前が見えづらくなるほどの豪雨が襲い掛かる。
駅の改札口に着いた頃には、俺達は全身びしょ濡れで、髪も服からも水が滴り落ちていた。
「うわぁ、最悪だな……はぁ、大丈夫? 美穂ちゃん?」
「だめです。もう全部台無し」
美穂ちゃんが吐き捨てる。セットした髪も服も濡れてすっかりテンションが落ちている。
彼女のテンションもそうだが、それ以上に心配なのは体調だ。いくら今が夏とはいえこんなに濡れたままで放置すれば絶対風邪ひくし、そもそも濡れっぱなしで別れるわけにはいかない。
とはいえ代わりの服はないし、濡れた服もそのままにはできないだろう。だとすれば――
「とりあえず、俺の家行こう。こっからひと駅だし、代わりの服は……まぁなんとかなるだろ」
額に滴る雨水を拭いながらそう提案すると、美穂ちゃんがパッとこちらを向いた。
バッグがこれ以上濡れないよう抱えたまま、ぽかんと口を開けている。
「日之太さんのお家……いいんですか?」
「仕方ないよ。このままじゃ風邪ひいちゃうし。美穂ちゃんがいいならすぐ移動するけど」
「ぜんぜん! ぜんぜんいいです! 行きましょっ!」
ブルブルと頭を振る美穂ちゃん。長い髪から水がぴちぴちと跳ねて俺の身体にかかった。