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第二部 19話 成果と計算

ー/ー



 ソフィア・ターナーは違和感から目を覚ました。
 目の前では黒い装備を身に着けた男が剣を振り上げていた。

「え……?」
「ふ――!」

 未だ意識のはっきりしないソフィアに、男は躊躇なく剣を振り下ろす。
 それでもソフィアは咄嗟に転がって避けて見せた。
 反応できたのは、毎日の訓練のおかげだったろう。

 そのままベッドから落ちると、ソフィアは両手を床に置いた。
 さらに錬金。これも教わったことだ。男から見えない位置で短剣を二振り作り出した。

 男がベッドを回り込んで、ソフィアへ止めを刺しに来る。
 ソフィアは低く走り抜けると男の両足へと短剣を一本ずつ刺す。

「ぐっ」

 予想外の痛みに驚く声。それでもソフィアの方へと向き直ろうとする。
 ソフィアは振り返る男へと飛び掛かると、剣を掴みながら男の腹を両足で蹴り付けた。

「な――!?」

 剣を奪われて地面を転がる男の驚愕が続く。
 ソフィアは着地すると、立ち上がれない男を置いて出口へと向かう。

「おい、どうした? まだか?」
「気を付け――」

 見張り役だったのだろう。もう一人の男がソフィアの寝室へと入ってくる。
 ソフィアは迷わず男の右手首を刈り取った。握っていた剣が落ちる。

「え?」

 状況が理解できない男を置いて、ソフィアは剣が地面に落ちるより早く空いた手で掴む。
 今度は二本の剣を男の両足に突き刺した。男が悲鳴を上げて膝を突く。

 ソフィアは突き刺した二本の剣を抜いて握り直すと、振り向きもせずに駆けだした。

 ――タイミングを考えれば、目的は内乱鎮圧の妨害ね。
 ――なら、目的はターナー公爵の命。お父様とお母様を助けないと。

 両親の寝室へとソフィアは真っ直ぐに走る。敵に見つかることもなかった。
 ソフィアに向けられた刺客はあの二人だけだったらしい。

 しばらく走っていると、屋敷のあちこちに火が放たれていることが分かった。
 使用人や敵味方の兵士の遺体も増えてくる。

 親しい人物を思い浮かべると、ソフィアは首を振って心配を振り払うことにした。
 せめて、その遺体と遭遇することはないようにと思いながら。

 目的の部屋まで辿り着く。扉はすでに開いていた。
 近づいて物音に耳を澄ませる。

「……あー、終わった終わった。じゃあ、撤退しようか」
「は。総員、撤退準備」

 ――撤退?

 ソフィアは部屋の中を覗き込んだ。
 ベッドの脇に立っている背の高い男と男を囲む兵士が見えた。

「――あ」

 ベッドの横にだらりと垂れた、力ない腕。
 背の高い男が握る赤く濡れた剣。

 その光景を見た瞬間。
 視界が鮮明になった気がした。思考が醒めてゆく。

 あいつを殺すべきだと『計算』した。

 ソフィアは音もなく部屋に入り込むと、真っ直ぐに背の高い男へと走った。
 右の剣を相手の心臓目掛けて突き立てようとする。

「うわ」

 両親の仇は情けない声を出しながら、一歩だけ後ろに下がる。
 しかし取り巻きの兵士達は反応していた。ソフィアの刺突を弾こうとする。
 それをさらにソフィアが左で弾く。しかしそれは一度だけ。

 決死の一撃を防がれて、ソフィアは一度大きく下がる。
 兵士達は油断なくこちらを見ている。今のやり取りを見ても手練れだと分かった。

「御令嬢のソフィア・ターナー様ですね?」
 剣を構え直しながら、兵士が一歩前に出る。

 ――ここまで、ね。

 ふと、ソフィアは寝室の窓に視線だけを向けた。
 意味があったわけではない。こんな酷い夜の天気を見てやろうと思ったのだ。
 
「……小鳥?」
 
 窓の外に青い小鳥がぱたぱたと浮いていた。
 小鳥は首を傾げると「ぴ」と鳴いた。
 
 寝室の窓が割れる音。飛び込んでくる幾筋もの銀の鎖。
 そのまま鎖はソフィアを優しく掴む。

「な――逃がすな!?」

 慌てた兵士達が咄嗟に鎖を断ち切ろうと剣を振るう。驚く兵士の顔。
 鎖を断ち切ることはおろか、傷一つ付けられていなかった。

 鎖に引かれて、ソフィアは窓の外へと連れ去られていった。



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 ソフィア・ターナーは違和感から目を覚ました。
 目の前では黒い装備を身に着けた男が剣を振り上げていた。
「え……?」
「ふ――!」
 未だ意識のはっきりしないソフィアに、男は躊躇なく剣を振り下ろす。
 それでもソフィアは咄嗟に転がって避けて見せた。
 反応できたのは、毎日の訓練のおかげだったろう。
 そのままベッドから落ちると、ソフィアは両手を床に置いた。
 さらに錬金。これも教わったことだ。男から見えない位置で短剣を二振り作り出した。
 男がベッドを回り込んで、ソフィアへ止めを刺しに来る。
 ソフィアは低く走り抜けると男の両足へと短剣を一本ずつ刺す。
「ぐっ」
 予想外の痛みに驚く声。それでもソフィアの方へと向き直ろうとする。
 ソフィアは振り返る男へと飛び掛かると、剣を掴みながら男の腹を両足で蹴り付けた。
「な――!?」
 剣を奪われて地面を転がる男の驚愕が続く。
 ソフィアは着地すると、立ち上がれない男を置いて出口へと向かう。
「おい、どうした? まだか?」
「気を付け――」
 見張り役だったのだろう。もう一人の男がソフィアの寝室へと入ってくる。
 ソフィアは迷わず男の右手首を刈り取った。握っていた剣が落ちる。
「え?」
 状況が理解できない男を置いて、ソフィアは剣が地面に落ちるより早く空いた手で掴む。
 今度は二本の剣を男の両足に突き刺した。男が悲鳴を上げて膝を突く。
 ソフィアは突き刺した二本の剣を抜いて握り直すと、振り向きもせずに駆けだした。
 ――タイミングを考えれば、目的は内乱鎮圧の妨害ね。
 ――なら、目的はターナー公爵の命。お父様とお母様を助けないと。
 両親の寝室へとソフィアは真っ直ぐに走る。敵に見つかることもなかった。
 ソフィアに向けられた刺客はあの二人だけだったらしい。
 しばらく走っていると、屋敷のあちこちに火が放たれていることが分かった。
 使用人や敵味方の兵士の遺体も増えてくる。
 親しい人物を思い浮かべると、ソフィアは首を振って心配を振り払うことにした。
 せめて、その遺体と遭遇することはないようにと思いながら。
 目的の部屋まで辿り着く。扉はすでに開いていた。
 近づいて物音に耳を澄ませる。
「……あー、終わった終わった。じゃあ、撤退しようか」
「は。総員、撤退準備」
 ――撤退?
 ソフィアは部屋の中を覗き込んだ。
 ベッドの脇に立っている背の高い男と男を囲む兵士が見えた。
「――あ」
 ベッドの横にだらりと垂れた、力ない腕。
 背の高い男が握る赤く濡れた剣。
 その光景を見た瞬間。
 視界が鮮明になった気がした。思考が醒めてゆく。
 あいつを殺すべきだと『計算』した。
 ソフィアは音もなく部屋に入り込むと、真っ直ぐに背の高い男へと走った。
 右の剣を相手の心臓目掛けて突き立てようとする。
「うわ」
 両親の仇は情けない声を出しながら、一歩だけ後ろに下がる。
 しかし取り巻きの兵士達は反応していた。ソフィアの刺突を弾こうとする。
 それをさらにソフィアが左で弾く。しかしそれは一度だけ。
 決死の一撃を防がれて、ソフィアは一度大きく下がる。
 兵士達は油断なくこちらを見ている。今のやり取りを見ても手練れだと分かった。
「御令嬢のソフィア・ターナー様ですね?」
 剣を構え直しながら、兵士が一歩前に出る。
 ――ここまで、ね。
 ふと、ソフィアは寝室の窓に視線だけを向けた。
 意味があったわけではない。こんな酷い夜の天気を見てやろうと思ったのだ。
「……小鳥?」
 窓の外に青い小鳥がぱたぱたと浮いていた。
 小鳥は首を傾げると「ぴ」と鳴いた。
 寝室の窓が割れる音。飛び込んでくる幾筋もの銀の鎖。
 そのまま鎖はソフィアを優しく掴む。
「な――逃がすな!?」
 慌てた兵士達が咄嗟に鎖を断ち切ろうと剣を振るう。驚く兵士の顔。
 鎖を断ち切ることはおろか、傷一つ付けられていなかった。
 鎖に引かれて、ソフィアは窓の外へと連れ去られていった。