第二部 18話 炎上
ー/ー数日後の深夜だった。
あと半日も待たずにターナー公爵が内乱鎮圧に発つ。
俺は声が聞こえた気がして目を覚ました。
「……? なんだ?」
違和感に意識がはっきりとしてゆく。
窓の外は真っ暗の癖に騒がしかった。
窓を開いて外を覗き込む。
狭い路地に面した安宿からは大通りの様子は窺えない。
それでもいくつか聞き取れる声があった。
「……一番街で……ここまで火の手は広がらない……逃げる準備だけ……」
一番街で火事、か?
その時、窓から身を乗り出していた俺の左手を何かが叩いた。
ナタリーの使い魔であるピノが口先でつついていた。
俺と目が合うと可愛らしく首を傾げて見せる。
「ピノ? 何かあったんだな?」
ピノは「ぴ」と鳴くと、ナタリーの元へと飛んだ。
つんつんとナタリーの頬を叩く。
しばらく繰り返すが、ナタリーは全く起きない。
ピノはやれやれと言わんばかりの人間臭い動作をして――
「ぷぎゃ!?」
――バチィッと自分の主人に電流を流した。
「ピノ! あんたね! 自分の主人を起こすのに電撃使わないでよ!」
「ぴぴ!」
「だからってねぇ!? 威力に悪意を感じるのよ……本当に? 間違いない?」
飛び起きたナタリーはしばらくピノを追い回していたが、詳しい事情を理解すると態度を変えた。
真剣な顔をして俺へと向き直る。
「お兄ちゃん、聞いて」
「?」
「ソフィアちゃんの家……ターナー公爵家が襲撃されたって」
「なんだと!?」
「ピノの話だと公爵の屋敷に火が放たれたみたい。それに……武装した集団が襲っているって」
俺は立ち上がると、リックを右手に窓から身を乗り出した。
急がなきゃ。今から行って間に合うだろうか。
「ピノ。知らせてくれてありがとう」
「ぴぴ」
気にすんな、という感じで片羽を持ち上げる。
俺は窓の上枠を掴んで、足から飛び出した。
バチ、と夜の路地裏に錬金光。無数の細い鎖を作って屋上に繋ぐ。
さらに錬金。
自分の体を鎖で持ち上げて、安宿の上から一番街へと目を凝らす。
「なるほど」
「流石にピノの情報は正確だね」
一番街の一角がぼんやりと赤く光っていた。
ちょうどソフィアの家がある辺りだ。毎日通っているんだから間違えようもない。
「ぴ!」
「ピノ?」
俺の横にピノが並んだ。
下からナタリーが叫ぶ。
「ピノも行くってさ!」
「ぴ」
建物の屋根や壁に鎖を溶接しては剥がす。
その間に高速で移動を続けて一番街を目指す。
「ぴぴぃ!」
全速力を出しているのに、ピノは俺の前を悠々と先行して最短のルートを示してくれる。
本当に恐ろしい小鳥だな。味方で良かったよ。
「……間に合うか?」
公爵邸が見えると、俺はひとまず背の高い建物の上に移動した。
名のある貴族の屋敷だろうが、緊急事態なので許して欲しい。
まずは一番街の様子を窺う。
ピノが俺の上空を高速で旋回していた。
公爵邸と、他にもいくつかの家が燃えている。
公爵と近しい家柄ということだろうか。
公爵邸からは悲鳴も聞こえてくる。
一体どこから現れたのか、黒い鎧を身に着けた兵士達が公爵邸を踏み荒らしていた。
「お嬢様……」
俺は公爵邸へと飛んだ。
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