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必須クエスト

ー/ー



「このゲームのフィールドって広いですよね」

 かれこれ馬車で三十分。ハヤトたちはだだっ広い平原を進んでいる。普通のゲームだとフィールドは縮尺されているけれど、フロンティアはそのあたりが無駄にリアルだった。

 モンスターがシンボルエンカウントなことも理由のひとつだろう。走っての移動はスタミナを消費するし、徒歩での移動は時間がかかり過ぎる。となれば、けっこう高額なれど馬車を利用するのが望ましい。とはいえ、馬車であっても数十分はパーティーで顔を突き合わせなければならない。

「知らない人と組んだパーティーだったら気まずさマックスでしょ」
「だからダンジョン攻略やらは現地で募集するんだよな」

 このハヤトの回答に対してサーラちゃんは「ハヤトさんと知り合ったのもそうでした。だから良かったです。あのとき声をかけたのがハヤトさんで」と嬉しげだ。リディアちゃんというライバルが現れてからグイグイいくね。ハヤトは気づいてる?

 サーラちゃんが楽しんでるのはよくわかる。サクさんはゆったりと座っているだけなんだけど、会話に入れないとかそんな感じではない。一歩引いて見守っている大人な感じか? そのゆとりはまるでお父さん? いやお母さんかも? 性格的に無言の空気も気にしなさそう。

 わいわいと楽しく話をしながら到着したのは、森の入り口近くにある小さな村だった。モンスターから守るために村を取り囲む壁はしっかりしているけど、中の様子は至って普通。

 まずは村長の家に足を運んでみたけど残念ながらクエストを持っている人はいない。いちおう話を訊いてみるも、村長はニコやかな表情で無用な情報を垂れ流し、エナコはうんざりした顔でそれを右から左に受け流していた。

「いびつな獣の像の前が集合場所ね」

 有用な情報を得られなかったハヤトたちは村長の家を出たあと、四人バラバラに別れて村の中を探索することになった。それから十五分ほどした像の前では、探索を終えたサーラちゃんとハヤトが残りのふたりを待っていた。

「ありませんねぇ。エナコさんが聞いた女神のクエストってホントにここなんでしょうか?」
「どうかな。その女神の名前は胡散臭いから」

 クエストの内容じゃなくて女神の名前が胡散臭いって。本人には別モノだと言われてもアドミスの名前なのが嫌なんだね。私だってアドミスって呼ばれたくはないけどさ。

「おーい、そこのカップル」
「嫌だぁ、カップルだなんてぇ」

 ぜんぜん嫌そうに見えない態度でテレまくるサーラちゃんとハヤトを呼んだのはエナコだ。

「どうだった?」
「ぜんぜんダメよ。ホントにここなの?」
「エナコさんが連れてきたんですよ」
「あたしは女神の言葉に従っただけよ。ねぇ、女神アドミス」

 私だって女神の言葉に従っただけよ!

「あとはサクさんに期待するしかないわね」

 信仰心の低い女神の使徒とカップルのふたりは、サクさんの帰りを待った。

「来ましたよ」

 槍を背負ってこちらに歩いてくるのは、ハヤトパーティー最強と名高いサクさんだ。いつもと変わらない柔らかな笑顔からは探索の結果は読み取れない。

「どうでした?」

 エナコの問いかけに、笑顔をハッキリとしたものに変えサクさんは、「見つけたよ。付いてきて」と言って歩き始めた。

「サクさんって有能よね。なんでもできちゃう人だわ」
「ですよねぇ」

 サーラちゃんも賢そうだけど、サクさんは運も良いのかも。彼は掘り出し物だった。

 案内されたのは村の外れの馬小屋だ。静かで人影のないこんな場所にアドミスの必須クエスト主がいるのだろうか。

 彼はそのまま奥に進んで馬小屋の裏に回った。そこには長い髪を一本にまとめた若い女性が待っていた。いや、女の子と言ったほうがいい年齢だろう。服装からしてただの村娘という感じで特別感はない。

「この子、さっきあたしが聞いたときは特に何もいってくれなかったよ」
「それはたぶん、頼りになる人って思えなかったからじゃないかな?」
「あたしのほうがレベル高いのに!」

 ハヤトの説明にエナコは口を尖らせた。

「この村には秘密があったんだ。それを彼女が教えてくれた」

 雲行きの怪しい昼下がり。村の隅の馬小屋の裏で、この村の秘密が語られた。

「この村は大昔から魔獣を封じています。その魔獣は【イグニグオーリラ】と言います。生贄を捧げることで封じているのですけど……」
「今回の生贄が彼女なんだ」

 うつむく少女の代わりにサクさんが言葉を足した。

「それはいつ?」
「十五日後です」

 つまり、現実時間で五日ということ。これはアドミスの必須クエストに書かれていたとおりだ。

「村の中央に立つ像の前で生贄を捧げる儀式がおこなわれます」

 恐怖を堪える少女が流す涙が作り物とは思えない。ハヤトにはより本物に見えているのではないだろうか。

「大丈夫、オレたちがそいつを退治するから」

 とうぜんの流れだけど引き受けることに懸念を抱かずにはいられない。ハヤトを助けるためのクエストが簡単なわけがないからだ。

「無理です。イグニグオーリラは魔炎獣などと言われる恐ろしい魔獣です。とても一般の冒険者が倒せる相手ではありません。誰にも言えなかったことを口にできただけで心が楽になりました。ありがとうございます」

 強気に笑って見せるけど、やはりどこか悲しげだ。そんな彼女にサクさんは言った。

「死にたくないんだろ? 正直に言ってくれ。君が助けてと言わないとオレたちも力になれない」

 この言葉はクエストの受注ができないという意味か。否、助けを求められたなら、限界を越えた力で戦えるという意味だ!

「たす……けて」

 少女の目に溢れた涙がボロボロと頬を転がり落ちる。彼の言葉が彼女の本心を解き放ったのだ。

 ゲームの枠に収まらないやり取りは映画のワンシーンのようで、サーラちゃんも涙ぐんでいる。だけど、サクさんが演技をしているのではない。これは心と心で交わされた本気の約束だ。そう思えてしまった私の目にも涙が潤んでいた。サクさんに惚れちまいそうだぜ。

 このやり取りをもってクエストの受注がなされた。

「よし、クエストは受注したから五日後の予定はちゃんと空けといてよね。時間は午後三時でいいかな?」

 リストに登録されたこのクエストの詳細情報にも期限は五日と書かれている。レベルを上げることはハヤト解放と共通の作業なので問題ないけど、こんな辺境の村の条件付きクエストを誰が見付けられるだろう。何か裏がある。それもひとつとは限らない。

 公平を重んじているというアドミスだけど、知らされていないことくらいはあると思ったほうがいいだろう。それらを誰にも相談できないことが悔しくも悲しい。

 私たちはゲームの中と外からイグニグオーリラについて調べた。

「ネットで調べたけど出てこないよ。完全に造語だね。未発見のクエストボスだから強さの情報もなし」

 早めの昼食を食べながら調べてみたけど何も見付けることができなかった。嘆きの声色で伝える私に、絵美ちゃんは明るい声で返してきた。

「こっちは見付けました」
「ホントに?!」
「はい、大昔にイグニグオーリラが封印されたことについての書物があったんです。それによるとですね、女神の力によって弱体化させてから封印したってありました」
「女神の力で?」

 嫌な予感がする。いや、これはお決まりのパターンだろうか。

「その術はこちらで発動しないといけなくて。今はそのためのアイテムを集めるのに別行動中です」

 攻略方法が見つかったのは良かった。だけど、このクエストはやっぱり特別なのだろう。

 女神の力が不可欠な戦いってことは、普通にプレイしている人には無理か、または随分と先になってからでないと勝てないクエストボスってことだ。

「で、具体的に私は何をすればいいの?」
「それはまだわかりません。わかっているのは術の発動はこちらで、術の力は女神が、ってことだけです」
「あぁ、それだけで察したわ。了解」
「じゃぁ、その術のためのアイテム集めが完了次第、レベリングに入ります」
「うん、頑張って」

 彼女は元気よく走っていった。

 女神の力……。神聖力……。ジュエール……。現金……。

「つらい……」

 これは絶対にこういうことだ。だけど、いったいどれだけのジュエールが必要なのか見当がつかない。一万単位で必要なんてことはあるまいか?! 考えるだけで憂鬱になる。

「今夜もバイトだ。そんな日々もあと十日。頑張れ私!」

 バイトを終えて帰宅した私を待っていたのは、いつも元気な絵美ちゃんの嘆きの声だった。

「イグニグオーリラについて調べていくうちに、いくつかわかったことがあります」
「うんうん」
「ひとつは、イグニグオーリラはこの国の守護者として他国の脅威から国を守っていたということ」
「うんうん」
「もうひとつは、敵国の邪悪な魔道士たちによって呪いがかけられたこと」
「うんうん」
「その呪いによって狂ったイグニグオーリラは、女神の力を借りた勇者によって封印されたことです」
「うんうん。イグニグオーリラと村の歴史が紐解かれたってわけね」

 嘆く要素はどこ?

「イグニグオーリラを狂わせたのが呪いが籠った【インフェルファイア】っていう魔法なんですけど、そのせいで火属性魔法に強いみたいなんです」

 火属性に特化したエナコの魔法が役に立たないことを嘆いていたわけか。

「だったら水属性の魔法を習得したらいいじゃん。フレイマーの種族だって水属性の魔法が使えないわけじゃないし不得意とかって設定もないから」
「そうなると、水属性の魔法の魔道書と水属性効果を上げる杖を買わないといけないし。これまで火属性魔法効果上昇に注ぎ込んだポイントは無駄になっちゃいますよ」
「まぁそこは仕方ないよね」
「お金が足りるかなぁ」

 手に入れた情報をもとにハヤトたちの装備も揃えなければならない。火耐性やブレス耐性といった装備は必須になるはずだ。それを四人分となるとかなりの金額になることは言うまでもない。

「どうするかは考えておくよ。絵美ちゃんたちはレベル上げと金策とクエストね。イグニグオーリラとの戦いの前日に、バージョン1のボスが解禁されて、またやること増えちゃうから」
「はーい」

 一日頑張ってもレベルが上がらないなかで、みんなは根気よく、それでいて楽しそうにレベリングをおこなっていた。

 残り少ない日数でやれることは全部やらないと。装備の増強について思いついたのは、少しだけ反則的なことだったけど、私はそれをエナコを通してサーラちゃんに伝えてもらった。女神の天啓だと言って。

 そして五日後。対イグニグオーリラ戦の日がやってきた。



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「このゲームのフィールドって広いですよね」
 かれこれ馬車で三十分。ハヤトたちはだだっ広い平原を進んでいる。普通のゲームだとフィールドは縮尺されているけれど、フロンティアはそのあたりが無駄にリアルだった。
 モンスターがシンボルエンカウントなことも理由のひとつだろう。走っての移動はスタミナを消費するし、徒歩での移動は時間がかかり過ぎる。となれば、けっこう高額なれど馬車を利用するのが望ましい。とはいえ、馬車であっても数十分はパーティーで顔を突き合わせなければならない。
「知らない人と組んだパーティーだったら気まずさマックスでしょ」
「だからダンジョン攻略やらは現地で募集するんだよな」
 このハヤトの回答に対してサーラちゃんは「ハヤトさんと知り合ったのもそうでした。だから良かったです。あのとき声をかけたのがハヤトさんで」と嬉しげだ。リディアちゃんというライバルが現れてからグイグイいくね。ハヤトは気づいてる?
 サーラちゃんが楽しんでるのはよくわかる。サクさんはゆったりと座っているだけなんだけど、会話に入れないとかそんな感じではない。一歩引いて見守っている大人な感じか? そのゆとりはまるでお父さん? いやお母さんかも? 性格的に無言の空気も気にしなさそう。
 わいわいと楽しく話をしながら到着したのは、森の入り口近くにある小さな村だった。モンスターから守るために村を取り囲む壁はしっかりしているけど、中の様子は至って普通。
 まずは村長の家に足を運んでみたけど残念ながらクエストを持っている人はいない。いちおう話を訊いてみるも、村長はニコやかな表情で無用な情報を垂れ流し、エナコはうんざりした顔でそれを右から左に受け流していた。
「いびつな獣の像の前が集合場所ね」
 有用な情報を得られなかったハヤトたちは村長の家を出たあと、四人バラバラに別れて村の中を探索することになった。それから十五分ほどした像の前では、探索を終えたサーラちゃんとハヤトが残りのふたりを待っていた。
「ありませんねぇ。エナコさんが聞いた女神のクエストってホントにここなんでしょうか?」
「どうかな。その女神の名前は胡散臭いから」
 クエストの内容じゃなくて女神の名前が胡散臭いって。本人には別モノだと言われてもアドミスの名前なのが嫌なんだね。私だってアドミスって呼ばれたくはないけどさ。
「おーい、そこのカップル」
「嫌だぁ、カップルだなんてぇ」
 ぜんぜん嫌そうに見えない態度でテレまくるサーラちゃんとハヤトを呼んだのはエナコだ。
「どうだった?」
「ぜんぜんダメよ。ホントにここなの?」
「エナコさんが連れてきたんですよ」
「あたしは女神の言葉に従っただけよ。ねぇ、女神アドミス」
 私だって女神の言葉に従っただけよ!
「あとはサクさんに期待するしかないわね」
 信仰心の低い女神の使徒とカップルのふたりは、サクさんの帰りを待った。
「来ましたよ」
 槍を背負ってこちらに歩いてくるのは、ハヤトパーティー最強と名高いサクさんだ。いつもと変わらない柔らかな笑顔からは探索の結果は読み取れない。
「どうでした?」
 エナコの問いかけに、笑顔をハッキリとしたものに変えサクさんは、「見つけたよ。付いてきて」と言って歩き始めた。
「サクさんって有能よね。なんでもできちゃう人だわ」
「ですよねぇ」
 サーラちゃんも賢そうだけど、サクさんは運も良いのかも。彼は掘り出し物だった。
 案内されたのは村の外れの馬小屋だ。静かで人影のないこんな場所にアドミスの必須クエスト主がいるのだろうか。
 彼はそのまま奥に進んで馬小屋の裏に回った。そこには長い髪を一本にまとめた若い女性が待っていた。いや、女の子と言ったほうがいい年齢だろう。服装からしてただの村娘という感じで特別感はない。
「この子、さっきあたしが聞いたときは特に何もいってくれなかったよ」
「それはたぶん、頼りになる人って思えなかったからじゃないかな?」
「あたしのほうがレベル高いのに!」
 ハヤトの説明にエナコは口を尖らせた。
「この村には秘密があったんだ。それを彼女が教えてくれた」
 雲行きの怪しい昼下がり。村の隅の馬小屋の裏で、この村の秘密が語られた。
「この村は大昔から魔獣を封じています。その魔獣は【イグニグオーリラ】と言います。生贄を捧げることで封じているのですけど……」
「今回の生贄が彼女なんだ」
 うつむく少女の代わりにサクさんが言葉を足した。
「それはいつ?」
「十五日後です」
 つまり、現実時間で五日ということ。これはアドミスの必須クエストに書かれていたとおりだ。
「村の中央に立つ像の前で生贄を捧げる儀式がおこなわれます」
 恐怖を堪える少女が流す涙が作り物とは思えない。ハヤトにはより本物に見えているのではないだろうか。
「大丈夫、オレたちがそいつを退治するから」
 とうぜんの流れだけど引き受けることに懸念を抱かずにはいられない。ハヤトを助けるためのクエストが簡単なわけがないからだ。
「無理です。イグニグオーリラは魔炎獣などと言われる恐ろしい魔獣です。とても一般の冒険者が倒せる相手ではありません。誰にも言えなかったことを口にできただけで心が楽になりました。ありがとうございます」
 強気に笑って見せるけど、やはりどこか悲しげだ。そんな彼女にサクさんは言った。
「死にたくないんだろ? 正直に言ってくれ。君が助けてと言わないとオレたちも力になれない」
 この言葉はクエストの受注ができないという意味か。否、助けを求められたなら、限界を越えた力で戦えるという意味だ!
「たす……けて」
 少女の目に溢れた涙がボロボロと頬を転がり落ちる。彼の言葉が彼女の本心を解き放ったのだ。
 ゲームの枠に収まらないやり取りは映画のワンシーンのようで、サーラちゃんも涙ぐんでいる。だけど、サクさんが演技をしているのではない。これは心と心で交わされた本気の約束だ。そう思えてしまった私の目にも涙が潤んでいた。サクさんに惚れちまいそうだぜ。
 このやり取りをもってクエストの受注がなされた。
「よし、クエストは受注したから五日後の予定はちゃんと空けといてよね。時間は午後三時でいいかな?」
 リストに登録されたこのクエストの詳細情報にも期限は五日と書かれている。レベルを上げることはハヤト解放と共通の作業なので問題ないけど、こんな辺境の村の条件付きクエストを誰が見付けられるだろう。何か裏がある。それもひとつとは限らない。
 公平を重んじているというアドミスだけど、知らされていないことくらいはあると思ったほうがいいだろう。それらを誰にも相談できないことが悔しくも悲しい。
 私たちはゲームの中と外からイグニグオーリラについて調べた。
「ネットで調べたけど出てこないよ。完全に造語だね。未発見のクエストボスだから強さの情報もなし」
 早めの昼食を食べながら調べてみたけど何も見付けることができなかった。嘆きの声色で伝える私に、絵美ちゃんは明るい声で返してきた。
「こっちは見付けました」
「ホントに?!」
「はい、大昔にイグニグオーリラが封印されたことについての書物があったんです。それによるとですね、女神の力によって弱体化させてから封印したってありました」
「女神の力で?」
 嫌な予感がする。いや、これはお決まりのパターンだろうか。
「その術はこちらで発動しないといけなくて。今はそのためのアイテムを集めるのに別行動中です」
 攻略方法が見つかったのは良かった。だけど、このクエストはやっぱり特別なのだろう。
 女神の力が不可欠な戦いってことは、普通にプレイしている人には無理か、または随分と先になってからでないと勝てないクエストボスってことだ。
「で、具体的に私は何をすればいいの?」
「それはまだわかりません。わかっているのは術の発動はこちらで、術の力は女神が、ってことだけです」
「あぁ、それだけで察したわ。了解」
「じゃぁ、その術のためのアイテム集めが完了次第、レベリングに入ります」
「うん、頑張って」
 彼女は元気よく走っていった。
 女神の力……。神聖力……。ジュエール……。現金……。
「つらい……」
 これは絶対にこういうことだ。だけど、いったいどれだけのジュエールが必要なのか見当がつかない。一万単位で必要なんてことはあるまいか?! 考えるだけで憂鬱になる。
「今夜もバイトだ。そんな日々もあと十日。頑張れ私!」
 バイトを終えて帰宅した私を待っていたのは、いつも元気な絵美ちゃんの嘆きの声だった。
「イグニグオーリラについて調べていくうちに、いくつかわかったことがあります」
「うんうん」
「ひとつは、イグニグオーリラはこの国の守護者として他国の脅威から国を守っていたということ」
「うんうん」
「もうひとつは、敵国の邪悪な魔道士たちによって呪いがかけられたこと」
「うんうん」
「その呪いによって狂ったイグニグオーリラは、女神の力を借りた勇者によって封印されたことです」
「うんうん。イグニグオーリラと村の歴史が紐解かれたってわけね」
 嘆く要素はどこ?
「イグニグオーリラを狂わせたのが呪いが籠った【インフェルファイア】っていう魔法なんですけど、そのせいで火属性魔法に強いみたいなんです」
 火属性に特化したエナコの魔法が役に立たないことを嘆いていたわけか。
「だったら水属性の魔法を習得したらいいじゃん。フレイマーの種族だって水属性の魔法が使えないわけじゃないし不得意とかって設定もないから」
「そうなると、水属性の魔法の魔道書と水属性効果を上げる杖を買わないといけないし。これまで火属性魔法効果上昇に注ぎ込んだポイントは無駄になっちゃいますよ」
「まぁそこは仕方ないよね」
「お金が足りるかなぁ」
 手に入れた情報をもとにハヤトたちの装備も揃えなければならない。火耐性やブレス耐性といった装備は必須になるはずだ。それを四人分となるとかなりの金額になることは言うまでもない。
「どうするかは考えておくよ。絵美ちゃんたちはレベル上げと金策とクエストね。イグニグオーリラとの戦いの前日に、バージョン1のボスが解禁されて、またやること増えちゃうから」
「はーい」
 一日頑張ってもレベルが上がらないなかで、みんなは根気よく、それでいて楽しそうにレベリングをおこなっていた。
 残り少ない日数でやれることは全部やらないと。装備の増強について思いついたのは、少しだけ反則的なことだったけど、私はそれをエナコを通してサーラちゃんに伝えてもらった。女神の天啓だと言って。
 そして五日後。対イグニグオーリラ戦の日がやってきた。