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平等の女神

ー/ー



 シャワーを済ませてからログインしてみると、サーラちゃんとサクさんはすでにログアウトしていた。絵美ちゃんからの連絡がなかったので、今日は問題なく順調なのだと思っていたのだけど。

「絵美ちゃん、今日はどんな?」

 ゆるーく訊いた質問に「もう大変でしたよ〜」と、ハヤトに聞こえないような小声で返してきた。

「あとで詳しく!」

 夕飯休憩でログアウトした絵美ちゃんはお風呂に入りながら電話してきた。

「聞いてください! 日奈子さんがバイトに行ったあとなんですけど、十四回もPvPを申し込まれたんですよ」
「もしかして、盗賊たちの復讐?!」
「ではなくて、あの雷の秘密を探るためなんですよ」
「はぁ? それがなんでPvPになるのよ?」
「ハヤトもそんなスキル持ってないって言うんだけど、信用してくれなくて。勝ったら教えろとか、教えないから腹立てて挑んでくるとか、そんな感じです」
「拒否ればいいじゃない」

 一度挑まれれば二十四時間は拒否できるはずだ。

「拒否れないんです」
「どうして?」
「そのルールって、相手がイーヴィル属性の場合だけなんです」
「そうなの?」

 それは盲点だった。

「逃げても追ってくるし、どんどん増えていくし。五戦目くらいからはもうイベントみたいになっちゃって。勝ったらスキルがゲットできるみたいに盛り上がってました」
「まさかそんなことになるとは」

 プレイヤーを相手に使ってしまったのが失敗だった。とはいえ、ハヤトを守るためだから仕方のないこと。やってしまったことはしょうがない。後悔はあとに立つ物だと諦めよう。

「なんにしても無事でよかったよ」
「前回の盗賊のときと違って四対四だったし、なんといってもサクさんが強くって。最強の『赤い流星』って広めておきました」
「狙われてるのに宣伝しちゃダメでしょ!」
「ハヤトも凄くて十四連勝しました。そしたら挑戦者がいなくなったので、ようやく抜け出してレベリングに行けたんです。だけど、明日以降もどうなることか」

 この絵美ちゃんの心配は的中し、朝から七回も挑戦されたおかげで、私たちの計画はすっかり狂ってしまった。

「もうやめてよね。PvPは経験値が入らないんだから」

 これはもはや襲われているのと変わらない。アイテムを奪わない同意の上のPvPなら殺さない限りは、イーヴィル属性への傾きもない。だから気軽に挑んでくるんだろう。

 一度、絵美ちゃんとの通話を切り、私はこの苛立ちをぶつけるためにアドミスを呼び出した。 

「ちょっとなんとかしてよ。これじゃぁ効率悪くてぜんぜん進まないし、ハヤトをひとりにできないじゃない」
「それは女神ヒナコの不注意じゃないですかぁ。ハヤトさんの境遇を鑑みて用意した天候系の御業は、唯一直接攻撃ができる特別な御業ですよ。公平を重んじるワタシとしてもギリギリの措置です。プレイヤーへの使用はお控えくださいって注意書きを読まなかったんですか?」
「控えたうえでの使用よ。PvPを挑まれてピンチだったんだから。プレイヤーに殺されるなんてあってたまるか! あんたが『境遇を鑑みて』って言うくらいなんだから、ハヤトの境遇はよっぽどなんでしょ?」
「アナタの頑張りに対する評価でもあります。この場合は『公平の女神』ではなく『平等の女神』です。公平にするなら全プレイヤー同じ条件にしてますよ」

 それはちょっと困る。

「挑戦されないようにプログラムを変更できないの?」
「そういったゲームシステムの変更はできません」
「何よ、ケチくさいわね」
「ゲームシステムがあるから制限がかかっているんですよ。それがなくなったら挑まれ放題どころか、寝込みを襲われるような無法世界になってしまいます」

 それはもっと困ることになる。

 次の日もPvPの申し込みはあったけど、それはハヤトだけの事態ではなかった。どうやらプレイヤー同士の対戦ブームが到来したらしい。四日もすると町のナンバー1同士で国のナンバー1を決めようという話になり、ゆくゆくはフロンティアの各国代表者でこのゲームのナンバー1を決めようという話も持ち上がっていた。

 これまで積極的に対戦がおこなわれていなかったのは、戦闘不能を超えたオーバーキルによるデスペナルティを警戒していたからのようだ。ハヤトの件を切っ掛けにして、プレイヤーのモラルや仲間同士の管理のもとで正式な対戦が開催され始めていた。

 そのおかげでハヤトに挑む者も減り、クエストやレベリングにも支障をきたさない程度に落ち着いた。

「三十戦くらいしましたよね?」
「五十戦くらいはしたでしょ」

 女性陣はうんざりしていたけど男性陣は熱く燃え、実力か幸運かハヤトとサクさんは引き分けを含む無敗で切り抜けた。

「ずいぶん時間を取られちゃったわね。取り返さないと」
「でも、いい訓練になったと思う」

 命が懸っているはずのハヤトの発言は前向きだった。結果オーライにしてもこのセリフには強者の貫禄が感じられる。我が弟ながら痺れるセリフだ。

「そのセリフ、実戦で証明してもらおうか!」

 エナコが気合を入れるための煽り言葉を告げたところで、「その前に、聞いてほしいことがあるんだ」とハヤトが神妙な声と表情で言った。

 その内容は『ハヤト』の蘇生不能バグの修正条件を建前とした、『隼人』のゲーム世界からの解放条件だった。

「条件は八月三十日の二十二時までにメインストーリーのボスであるディーグラを倒すことなんだけど、予定はどうかな?」

 みんなはそのことをすでに知っており、着々と準備も進めている。なので、期限以内の達成をお願いするハヤトの頼みを仲間たちは快く了承した。だけど、このあとにアドミスが必須クエストを追加してきた。あんにゃろめ!

 【呪いの炎に囚われた村を救え】

 これが今回の必須クエストだ。

 ハヤトたちが拠点としているハージマの町から遥か西の村で受けられるらしい。期限は五日で推奨攻略レベルが高い。失敗したらアウトということではないけれど、『隼人』解放に繋がるクエストなのだから確実にクリアしたい。そのためには早くクエストを受注し、詳細な内容を把握したうえで万全の準備をして挑みたいのだ。

 エナコが仲間になってからはアドミスの必須クエストは女神の天啓だと言って、彼女から皆に伝えてもらっていた。理由は、みんなにとってお得度の低いアドミスの必須クエストを、ハヤトから頼むのは気が引けるだろうから。しかし、女神の使徒を自称するエナコなら、そんな気を遣うことなく皆に伝えることができてしまう。とっても便利!



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 シャワーを済ませてからログインしてみると、サーラちゃんとサクさんはすでにログアウトしていた。絵美ちゃんからの連絡がなかったので、今日は問題なく順調なのだと思っていたのだけど。
「絵美ちゃん、今日はどんな?」
 ゆるーく訊いた質問に「もう大変でしたよ〜」と、ハヤトに聞こえないような小声で返してきた。
「あとで詳しく!」
 夕飯休憩でログアウトした絵美ちゃんはお風呂に入りながら電話してきた。
「聞いてください! 日奈子さんがバイトに行ったあとなんですけど、十四回もPvPを申し込まれたんですよ」
「もしかして、盗賊たちの復讐?!」
「ではなくて、あの雷の秘密を探るためなんですよ」
「はぁ? それがなんでPvPになるのよ?」
「ハヤトもそんなスキル持ってないって言うんだけど、信用してくれなくて。勝ったら教えろとか、教えないから腹立てて挑んでくるとか、そんな感じです」
「拒否ればいいじゃない」
 一度挑まれれば二十四時間は拒否できるはずだ。
「拒否れないんです」
「どうして?」
「そのルールって、相手がイーヴィル属性の場合だけなんです」
「そうなの?」
 それは盲点だった。
「逃げても追ってくるし、どんどん増えていくし。五戦目くらいからはもうイベントみたいになっちゃって。勝ったらスキルがゲットできるみたいに盛り上がってました」
「まさかそんなことになるとは」
 プレイヤーを相手に使ってしまったのが失敗だった。とはいえ、ハヤトを守るためだから仕方のないこと。やってしまったことはしょうがない。後悔はあとに立つ物だと諦めよう。
「なんにしても無事でよかったよ」
「前回の盗賊のときと違って四対四だったし、なんといってもサクさんが強くって。最強の『赤い流星』って広めておきました」
「狙われてるのに宣伝しちゃダメでしょ!」
「ハヤトも凄くて十四連勝しました。そしたら挑戦者がいなくなったので、ようやく抜け出してレベリングに行けたんです。だけど、明日以降もどうなることか」
 この絵美ちゃんの心配は的中し、朝から七回も挑戦されたおかげで、私たちの計画はすっかり狂ってしまった。
「もうやめてよね。PvPは経験値が入らないんだから」
 これはもはや襲われているのと変わらない。アイテムを奪わない同意の上のPvPなら殺さない限りは、イーヴィル属性への傾きもない。だから気軽に挑んでくるんだろう。
 一度、絵美ちゃんとの通話を切り、私はこの苛立ちをぶつけるためにアドミスを呼び出した。 
「ちょっとなんとかしてよ。これじゃぁ効率悪くてぜんぜん進まないし、ハヤトをひとりにできないじゃない」
「それは女神ヒナコの不注意じゃないですかぁ。ハヤトさんの境遇を鑑みて用意した天候系の御業は、唯一直接攻撃ができる特別な御業ですよ。公平を重んじるワタシとしてもギリギリの措置です。プレイヤーへの使用はお控えくださいって注意書きを読まなかったんですか?」
「控えたうえでの使用よ。PvPを挑まれてピンチだったんだから。プレイヤーに殺されるなんてあってたまるか! あんたが『境遇を鑑みて』って言うくらいなんだから、ハヤトの境遇はよっぽどなんでしょ?」
「アナタの頑張りに対する評価でもあります。この場合は『公平の女神』ではなく『平等の女神』です。公平にするなら全プレイヤー同じ条件にしてますよ」
 それはちょっと困る。
「挑戦されないようにプログラムを変更できないの?」
「そういったゲームシステムの変更はできません」
「何よ、ケチくさいわね」
「ゲームシステムがあるから制限がかかっているんですよ。それがなくなったら挑まれ放題どころか、寝込みを襲われるような無法世界になってしまいます」
 それはもっと困ることになる。
 次の日もPvPの申し込みはあったけど、それはハヤトだけの事態ではなかった。どうやらプレイヤー同士の対戦ブームが到来したらしい。四日もすると町のナンバー1同士で国のナンバー1を決めようという話になり、ゆくゆくはフロンティアの各国代表者でこのゲームのナンバー1を決めようという話も持ち上がっていた。
 これまで積極的に対戦がおこなわれていなかったのは、戦闘不能を超えたオーバーキルによるデスペナルティを警戒していたからのようだ。ハヤトの件を切っ掛けにして、プレイヤーのモラルや仲間同士の管理のもとで正式な対戦が開催され始めていた。
 そのおかげでハヤトに挑む者も減り、クエストやレベリングにも支障をきたさない程度に落ち着いた。
「三十戦くらいしましたよね?」
「五十戦くらいはしたでしょ」
 女性陣はうんざりしていたけど男性陣は熱く燃え、実力か幸運かハヤトとサクさんは引き分けを含む無敗で切り抜けた。
「ずいぶん時間を取られちゃったわね。取り返さないと」
「でも、いい訓練になったと思う」
 命が懸っているはずのハヤトの発言は前向きだった。結果オーライにしてもこのセリフには強者の貫禄が感じられる。我が弟ながら痺れるセリフだ。
「そのセリフ、実戦で証明してもらおうか!」
 エナコが気合を入れるための煽り言葉を告げたところで、「その前に、聞いてほしいことがあるんだ」とハヤトが神妙な声と表情で言った。
 その内容は『ハヤト』の蘇生不能バグの修正条件を建前とした、『隼人』のゲーム世界からの解放条件だった。
「条件は八月三十日の二十二時までにメインストーリーのボスであるディーグラを倒すことなんだけど、予定はどうかな?」
 みんなはそのことをすでに知っており、着々と準備も進めている。なので、期限以内の達成をお願いするハヤトの頼みを仲間たちは快く了承した。だけど、このあとにアドミスが必須クエストを追加してきた。あんにゃろめ!
 【呪いの炎に囚われた村を救え】
 これが今回の必須クエストだ。
 ハヤトたちが拠点としているハージマの町から遥か西の村で受けられるらしい。期限は五日で推奨攻略レベルが高い。失敗したらアウトということではないけれど、『隼人』解放に繋がるクエストなのだから確実にクリアしたい。そのためには早くクエストを受注し、詳細な内容を把握したうえで万全の準備をして挑みたいのだ。
 エナコが仲間になってからはアドミスの必須クエストは女神の天啓だと言って、彼女から皆に伝えてもらっていた。理由は、みんなにとってお得度の低いアドミスの必須クエストを、ハヤトから頼むのは気が引けるだろうから。しかし、女神の使徒を自称するエナコなら、そんな気を遣うことなく皆に伝えることができてしまう。とっても便利!