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第二部 13話 無自覚

ー/ー



 王都に戻って翌日。
 俺がいつものように馬車に乗って公爵家まで行くと、この間の孤児院出身の従者がすぐに走り寄って来た。

「……どうかしたんですか?」
「聞いて欲しいお話があります」

 従者は頭を下げたまま、神妙な声を出した。


 広い屋敷を歩きながら、俺は話を聞く。

「昨日アッシュさんがお休みだった際、ちょっと問題が起こりまして……」
「? 問題、ですか?」
「ええ。一言で言えば、ソフィアお嬢様がご友人に怪我を負わせてしまったのです」
「……なるほど。お嬢様が襲い掛かった、と」
「表現はともかく――その通りです。それが理由も良く分かっていない有様でして」
「怪我の程度は?」
「途中で止めたので軽傷で済みましたが、危うく大怪我になるところでした。恐らく片目を潰そうとしていました」
「分かりました。ひとまずお嬢様と話してみます」

 俺が言い終わると、ちょうどソフィアお嬢様がいる部屋の前に到着する。
 使用人が扉を開ける。毎日開けてもらっているが、未だに慣れないな。

 部屋に入ると、ソフィアが椅子に座ってぶすっとした顔を浮かべていた。
 まあ、それでも元が良いので様になるのだが……これは贔屓目が入ってるか?

「お嬢様?」

 ソフィアがふい、と顔を逸らす。

「怒りませんから、事情を教えてください」

 怒る前の常套句を口にすると、ソフィアがぴくりと反応した。
 いや、本当に怒るつもりはないんだけどね。

「だって、あいつらが先生を悪く言ったから」
「なんだ。そんなことですか?」
「妹大好き無職おのぼりさんがコネで騎士団に入団した奴だって」
「……なんだと?」

 誰が『妹大好き無職おのぼりさん』だ。
 あとでしっかり名前は聞いておこう。

 俺の様子をソフィアが不安そうにちらちらと見ている。
 どうやら、俺から怒られることは嫌らしい。

「お嬢様」
「っ」

 ソフィアが警戒するように俺を見ている。
 まるで野良猫みたいだな……いや、公爵家の令嬢なんだが。

「お嬢様が怒るのも無理ないですね。でも、お願いです。人を傷つけるのは止めてください」

 俺の言葉を吟味するように、ソフィアはしばらく考え込んでいる。
 お願いを聞く余地はあるということを少し嬉しく感じる。

「……だって、先生を見たこともないのに」
「お嬢様が怒ってくれたことは嬉しいです。でも、それで人を傷つけたら嫌です」
「……」
「納得しなくても良いです。俺がしないで欲しいからお願いしています」

 恐らく、感情的に理解は出来ないのだ。
 兄さんは、最期の最期まで出来なかったのだから。

「まあ、そいつらには必ず報復しますが……物理的ではない手段で」
「ふふ、それは良いんだ?」

 頑張って俺は笑みを浮かべた。
 まるで、違いが分かっていないような表現だった。

「分かった。先生が傷つけないで欲しいなら、傷つけないわ」
「ありがとうございます」

 ソフィアが頷いた。
 自分自身は『傷つけたくない』と思っていない――その違和感に気が付けないまま。



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 王都に戻って翌日。
 俺がいつものように馬車に乗って公爵家まで行くと、この間の孤児院出身の従者がすぐに走り寄って来た。
「……どうかしたんですか?」
「聞いて欲しいお話があります」
 従者は頭を下げたまま、神妙な声を出した。
 広い屋敷を歩きながら、俺は話を聞く。
「昨日アッシュさんがお休みだった際、ちょっと問題が起こりまして……」
「? 問題、ですか?」
「ええ。一言で言えば、ソフィアお嬢様がご友人に怪我を負わせてしまったのです」
「……なるほど。お嬢様が襲い掛かった、と」
「表現はともかく――その通りです。それが理由も良く分かっていない有様でして」
「怪我の程度は?」
「途中で止めたので軽傷で済みましたが、危うく大怪我になるところでした。恐らく片目を潰そうとしていました」
「分かりました。ひとまずお嬢様と話してみます」
 俺が言い終わると、ちょうどソフィアお嬢様がいる部屋の前に到着する。
 使用人が扉を開ける。毎日開けてもらっているが、未だに慣れないな。
 部屋に入ると、ソフィアが椅子に座ってぶすっとした顔を浮かべていた。
 まあ、それでも元が良いので様になるのだが……これは贔屓目が入ってるか?
「お嬢様?」
 ソフィアがふい、と顔を逸らす。
「怒りませんから、事情を教えてください」
 怒る前の常套句を口にすると、ソフィアがぴくりと反応した。
 いや、本当に怒るつもりはないんだけどね。
「だって、あいつらが先生を悪く言ったから」
「なんだ。そんなことですか?」
「妹大好き無職おのぼりさんがコネで騎士団に入団した奴だって」
「……なんだと?」
 誰が『妹大好き無職おのぼりさん』だ。
 あとでしっかり名前は聞いておこう。
 俺の様子をソフィアが不安そうにちらちらと見ている。
 どうやら、俺から怒られることは嫌らしい。
「お嬢様」
「っ」
 ソフィアが警戒するように俺を見ている。
 まるで野良猫みたいだな……いや、公爵家の令嬢なんだが。
「お嬢様が怒るのも無理ないですね。でも、お願いです。人を傷つけるのは止めてください」
 俺の言葉を吟味するように、ソフィアはしばらく考え込んでいる。
 お願いを聞く余地はあるということを少し嬉しく感じる。
「……だって、先生を見たこともないのに」
「お嬢様が怒ってくれたことは嬉しいです。でも、それで人を傷つけたら嫌です」
「……」
「納得しなくても良いです。俺がしないで欲しいからお願いしています」
 恐らく、感情的に理解は出来ないのだ。
 兄さんは、最期の最期まで出来なかったのだから。
「まあ、そいつらには必ず報復しますが……物理的ではない手段で」
「ふふ、それは良いんだ?」
 頑張って俺は笑みを浮かべた。
 まるで、違いが分かっていないような表現だった。
「分かった。先生が傷つけないで欲しいなら、傷つけないわ」
「ありがとうございます」
 ソフィアが頷いた。
 自分自身は『傷つけたくない』と思っていない――その違和感に気が付けないまま。