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第六話:勇者認定試験開始

ー/ー



「はーい、それでは勇者認定試験を受ける勇者候補生の皆様はお集まりください」

 勇者認定試験の受付エリアに再びヴァンは立っていた。アナウンスをしたのは昨日ヴァンを"心優しく"対応してくれた、あの素敵な受付嬢。そやつはヴァンの顔を見るや否や、「うぎゃっ」という小さな悲鳴を上げた。

 ヴァンはとてつもないショックを受けた状態でスタートする、勇者認定試験となった。

 そして、勇者認定試験会場。空が見える円形競技場の中、勇者候補生達が案内され、その中の一人がヴァン。

「大丈夫、大丈夫、大丈夫」

 ヴァンは念仏のようにそう唱えていた。そんなヴァン及び他の勇者候補生を円形競技場の二階である観客席から眺めている少女アリシアは、思案していた。

 昨日あの後、ヴァンは倒れた。アリシアに殴られたからではなく、圧倒的な身体の疲労で、だ。

 昨夜アリシアは自らの持つ"焔の心"というスキルをヴァンに与えた。ヴァンの精神はアリシアの圧倒的な力を有するスキルに耐えられたのだから、そのスキルを常時体に収めることができるのではないかと思った。しかし、スキルを渡してからものの5分でヴァンはぶっ倒れ、アリシアはそのスキルを回収する羽目になった。

 アリシアの考察。

"ヴァンの精神はあたしの与える圧倒的な力で崩壊しなかった。だけど、あたしの圧倒的な力にヴァンのその体自体が耐えられなかったのね。ただの人間があたしの力、神に匹敵するそれを体に宿すのは、相当な負担になるのかしらね"

「人間ってのは弱っちくて、本当にめんどくさい生き物ね」

 アリシアはスキルによってヴァンの体を浮かし、近くの宿屋に連れ込んだ。そしてヴァンをソファーに寝かし、自らはふかふかの布団にくるまった。

 一晩アリシアのスキル"超回復"による回復を施しながらヴァンを眠らせたことで、今は通常通り動けるようになっている。だが、アリシアの超回復を持ってしてもヴァンの体の疲労が一晩回復しきらなかったことも事実。ヴァンにアリシアのスキルを与えると5分程度しか使えもしないのに、その後ぶっ倒れることが分かったという、そんな夜だった。



 その後、アリシアが勝手に忍び込んだ宿を出る際、ヴァンがアリシアにとって不要な正義感をいかんなく発揮し、宿屋の主に陳謝した。ヴァンの謝罪により宿屋の主は、後から一泊代の費用を持ってくることで許してくれた。

 そんな騒がしい朝だった。

「アリシア、無賃で泊まるのはいけないことだよ」

「ごめんなさい……、あんたが死んじゃうかと思って……」

 アリシアは目をウルウルさせて、単純なヴァンを騙した。



 そして、今に至る。アリシアはヴァンに一つの小瓶を渡した状態で観客席から眺める。

 その小瓶には、スキル"絶対零度の心"が入っている。

「それ、ピンチになった時に使いなさい。でも、ピンチになってない時に使ったらだめ。昨日みたいにぶっ倒れるから」

 アリシアは安心してその試験を見る。半年に一回ある勇者認定試験の内容は毎回変わり、予測こそできないが、戦闘をベースにした試験になる。だからこそそのスキルさえあれば、負けはない。いくらヴァンがザコくてそのスキルを体に入れたら5分でぶっ倒れると言っても、そのスキルがあれば1分で、他の勇者候補生全員を氷漬けにできる。

「まぁ、大丈夫でしょ」

 アリシアはあくびをした。

「さぁ、それでは今回の試験内容を発表します」

 司会のスーツでシルクハット、右目だけに丸メガネをした男性がマイクでそう告げる。アリシアはウトウトしている。

「今回の試験内容は……、勇者学の筆記試験です」

 アリシアは目をひん剥いた。

「今、なんて言った?」

 アリシアは自分の聞き間違いでないことを理解していて、確かに奴は"勇者学の筆記試験"とほざいた。

「無理じゃん。あいつにそれが解けるはずがない」

 アリシアはガラにもなく焦った。

"どうする、時間でも止めて、あたしが止まった時間の中、それを解くか?" 

 アリシアは首を横に振った後、天を見る。

"膨大な魔力を求められる最上級スキルをあたしが使うと、その魔力は天にいる忌まわしい神、ジャバラに届く。そうなればあたしが存在し、ここにいることを奴は察知するだろう。だから使えない。あたしがここで大きく動くのは無理だ。ならばどうする?"

 アリシアは舌打ちをする。試験が開始された。円形競技場の中に机と椅子が置かれ、着席している勇者候補生達。

 ざっと1000人はいる。そして、司会をしている男性のスキル"通信不可"により、勇者候補生は他との一切の交流を禁止された状態になった。

 観客は勇者候補生達を見ることができるが、勇者候補生達は他の人間を見ることも声を聞くことも触れられることもできない。その目に映るのは、筆記用具とテスト用紙のみだ。

「むかつくわね」

 アリシアは天を睨んだ。


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次のエピソードへ進む 第七話:筆記テストとお手洗い


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「はーい、それでは勇者認定試験を受ける勇者候補生の皆様はお集まりください」
 勇者認定試験の受付エリアに再びヴァンは立っていた。アナウンスをしたのは昨日ヴァンを"心優しく"対応してくれた、あの素敵な受付嬢。そやつはヴァンの顔を見るや否や、「うぎゃっ」という小さな悲鳴を上げた。
 ヴァンはとてつもないショックを受けた状態でスタートする、勇者認定試験となった。
 そして、勇者認定試験会場。空が見える円形競技場の中、勇者候補生達が案内され、その中の一人がヴァン。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫」
 ヴァンは念仏のようにそう唱えていた。そんなヴァン及び他の勇者候補生を円形競技場の二階である観客席から眺めている少女アリシアは、思案していた。
 昨日あの後、ヴァンは倒れた。アリシアに殴られたからではなく、圧倒的な身体の疲労で、だ。
 昨夜アリシアは自らの持つ"焔の心"というスキルをヴァンに与えた。ヴァンの精神はアリシアの圧倒的な力を有するスキルに耐えられたのだから、そのスキルを常時体に収めることができるのではないかと思った。しかし、スキルを渡してからものの5分でヴァンはぶっ倒れ、アリシアはそのスキルを回収する羽目になった。
 アリシアの考察。
"ヴァンの精神はあたしの与える圧倒的な力で崩壊しなかった。だけど、あたしの圧倒的な力にヴァンのその体自体が耐えられなかったのね。ただの人間があたしの力、神に匹敵するそれを体に宿すのは、相当な負担になるのかしらね"
「人間ってのは弱っちくて、本当にめんどくさい生き物ね」
 アリシアはスキルによってヴァンの体を浮かし、近くの宿屋に連れ込んだ。そしてヴァンをソファーに寝かし、自らはふかふかの布団にくるまった。
 一晩アリシアのスキル"超回復"による回復を施しながらヴァンを眠らせたことで、今は通常通り動けるようになっている。だが、アリシアの超回復を持ってしてもヴァンの体の疲労が一晩回復しきらなかったことも事実。ヴァンにアリシアのスキルを与えると5分程度しか使えもしないのに、その後ぶっ倒れることが分かったという、そんな夜だった。
 その後、アリシアが勝手に忍び込んだ宿を出る際、ヴァンがアリシアにとって不要な正義感をいかんなく発揮し、宿屋の主に陳謝した。ヴァンの謝罪により宿屋の主は、後から一泊代の費用を持ってくることで許してくれた。
 そんな騒がしい朝だった。
「アリシア、無賃で泊まるのはいけないことだよ」
「ごめんなさい……、あんたが死んじゃうかと思って……」
 アリシアは目をウルウルさせて、単純なヴァンを騙した。
 そして、今に至る。アリシアはヴァンに一つの小瓶を渡した状態で観客席から眺める。
 その小瓶には、スキル"絶対零度の心"が入っている。
「それ、ピンチになった時に使いなさい。でも、ピンチになってない時に使ったらだめ。昨日みたいにぶっ倒れるから」
 アリシアは安心してその試験を見る。半年に一回ある勇者認定試験の内容は毎回変わり、予測こそできないが、戦闘をベースにした試験になる。だからこそそのスキルさえあれば、負けはない。いくらヴァンがザコくてそのスキルを体に入れたら5分でぶっ倒れると言っても、そのスキルがあれば1分で、他の勇者候補生全員を氷漬けにできる。
「まぁ、大丈夫でしょ」
 アリシアはあくびをした。
「さぁ、それでは今回の試験内容を発表します」
 司会のスーツでシルクハット、右目だけに丸メガネをした男性がマイクでそう告げる。アリシアはウトウトしている。
「今回の試験内容は……、勇者学の筆記試験です」
 アリシアは目をひん剥いた。
「今、なんて言った?」
 アリシアは自分の聞き間違いでないことを理解していて、確かに奴は"勇者学の筆記試験"とほざいた。
「無理じゃん。あいつにそれが解けるはずがない」
 アリシアはガラにもなく焦った。
"どうする、時間でも止めて、あたしが止まった時間の中、それを解くか?" 
 アリシアは首を横に振った後、天を見る。
"膨大な魔力を求められる最上級スキルをあたしが使うと、その魔力は天にいる忌まわしい神、ジャバラに届く。そうなればあたしが存在し、ここにいることを奴は察知するだろう。だから使えない。あたしがここで大きく動くのは無理だ。ならばどうする?"
 アリシアは舌打ちをする。試験が開始された。円形競技場の中に机と椅子が置かれ、着席している勇者候補生達。
 ざっと1000人はいる。そして、司会をしている男性のスキル"通信不可"により、勇者候補生は他との一切の交流を禁止された状態になった。
 観客は勇者候補生達を見ることができるが、勇者候補生達は他の人間を見ることも声を聞くことも触れられることもできない。その目に映るのは、筆記用具とテスト用紙のみだ。
「むかつくわね」
 アリシアは天を睨んだ。