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第五話:メスガキと馬鹿の同盟と思惑

ー/ー



 アリシアはヴァンに向かう。

「今からあたしはあんたを殺そうとする。もし殺されたくなければ、全身全霊で自らを守りなさい」

「えっ、まじで言ってるのか?」

 勝負は無情にも始まり、決着は一瞬でついた。

「きゃはははははははは、ざぁーこ」

 アリシアは地面に倒れているヴァンの頭をブーツで踏みつけ、笑う。風が吹いて、片足を上げる格好になっているアリシアのスカートが揺れた。

「あんたがなんで勇者になりたいのか、なんで力を渇望しないのかなんて、あたしには分かんない。でも、力のないあんたに叶えられることなんて、何一つないのよ。きゃははははは」

 アリシアはとても楽しそうに笑った。

 その勝負でアリシアがやったことと言えば、ヴァンの溝落ちにパンチを一発食らわしただけ。自らの持つありとあらゆるスキルを封印した状態で、だ。

「いってぇ」

 ヴァンは頭を踏まれた状態で何もできないが、口は動くようだ。

"駄目ね。こいつはあたしの力に適合した。だけど、圧倒的に理解していないことがある。力がなければこの世界、なんにもできない。いつだって自らの願望を叶えられるのは、強き者だ。力を渇望していないこいつに叶えられることなんて、何もない。ガラムハザールを倒すことなんて、明らかに不可能だ"

 アリシアがそのように考えをまとめたその瞬間、ヴァンを踏む足が押し上げられた。アリシアの攻撃はヴァンにクリーンヒットしていたが、ヴァンは震える足で立ち上がろうとしていた。

「俺は馬鹿だから、君がなんで俺を攻撃したのか分からないし、君の言っている力を渇望していないっていうのも、何のことか理解できない。でも、俺から言えるのは二つ」

 ヴァンは震えながら指を二本立てた。

「俺は小さな子供を攻撃しない。それに、俺は力が欲しいと思っている。だけど力は俺にとって、願いを叶えるためのツールでしかないんだ。俺は勇者になって、みんなが笑って暮らせる世界を作る。そのために力は欲しい。だけど俺にとって、力は全てではないんだ」

 ヴァンはとうとう完全に立ち上がり、アリシアを見た。アリシアは考え込む。

「ふーーーーん、変なの」

 アリシアはヴァンの目を見て、そう告げる。

「あんた、名前は?」

「俺は、ヴァンだ」

「あたしはアリシア、こう見えてあんたよりもはるかに長い時を生きてきた。そして昔、ミヨルラっていう勇者の先生をしていたの。あんたは勇者として見どころがありそうだから、その勇者の元先生である私が、色々と指導してあげる」

 そんなアリシアの嘘に、ヴァンは目を輝かせた。

「ほんとか? ほんとなんだな? ミヨルラなんてこの世界に知らない者がいない伝説の勇者だ!! あのガラムハザールの体力を半分も奪ったとされる、最強の勇者!! ラッキー、ついてるぜ!! たまたま出会った少女が実は少女じゃなくて、伝説の勇者の元先生だったなんて、そんな偶然あんのかよ!!」

「そうそう。あんた、ラッキーよ。ほんとにラッキー」

「なら、是非お願いします。先生!!」

 ヴァンが右手をアリシアの前に突き出した。アリシアはしょうがなくヴァンの突き出した手の平に自らの手の平を合わせ、いわゆる握手という行為をした。

「なら、これから頑張りましょう。そうね、ガラムハザールを倒せるくらいにあんたを強くしてあげるわ。きゃははははははははははは」

 ヴァンが、ゴクリと唾を飲んだ。

「ガラムハザールを倒す……」

「ええ、当然勇者になるからには、魔王討伐を一つの目標にするんでしょ?」

 ヴァンは大きく頷いた。

「ああ、当然だ!!」

「それでこそ勇者だわ」

 アリシアは微笑む。そして、ヴァンに背を向けてから、歪んだ満面の笑顔を作る。

"ぜひ、魔王を倒してね。そして……そして……"

 夜が深まってきて、月がヴァンを照らす。

"魔王を倒したあんたの魂を、あたしに食べさせてちょうだいね"

 そんな邪悪な思考などヴァンは全くとして知るよしもないまま、結ばれたその同盟。

 月明かりが照らすのはヴァンばかり。アリシアは周りの建物が影となり、全く照らされていない。そんな夜だった。


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次のエピソードへ進む 第六話:勇者認定試験開始


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 アリシアはヴァンに向かう。
「今からあたしはあんたを殺そうとする。もし殺されたくなければ、全身全霊で自らを守りなさい」
「えっ、まじで言ってるのか?」
 勝負は無情にも始まり、決着は一瞬でついた。
「きゃはははははははは、ざぁーこ」
 アリシアは地面に倒れているヴァンの頭をブーツで踏みつけ、笑う。風が吹いて、片足を上げる格好になっているアリシアのスカートが揺れた。
「あんたがなんで勇者になりたいのか、なんで力を渇望しないのかなんて、あたしには分かんない。でも、力のないあんたに叶えられることなんて、何一つないのよ。きゃははははは」
 アリシアはとても楽しそうに笑った。
 その勝負でアリシアがやったことと言えば、ヴァンの溝落ちにパンチを一発食らわしただけ。自らの持つありとあらゆるスキルを封印した状態で、だ。
「いってぇ」
 ヴァンは頭を踏まれた状態で何もできないが、口は動くようだ。
"駄目ね。こいつはあたしの力に適合した。だけど、圧倒的に理解していないことがある。力がなければこの世界、なんにもできない。いつだって自らの願望を叶えられるのは、強き者だ。力を渇望していないこいつに叶えられることなんて、何もない。ガラムハザールを倒すことなんて、明らかに不可能だ"
 アリシアがそのように考えをまとめたその瞬間、ヴァンを踏む足が押し上げられた。アリシアの攻撃はヴァンにクリーンヒットしていたが、ヴァンは震える足で立ち上がろうとしていた。
「俺は馬鹿だから、君がなんで俺を攻撃したのか分からないし、君の言っている力を渇望していないっていうのも、何のことか理解できない。でも、俺から言えるのは二つ」
 ヴァンは震えながら指を二本立てた。
「俺は小さな子供を攻撃しない。それに、俺は力が欲しいと思っている。だけど力は俺にとって、願いを叶えるためのツールでしかないんだ。俺は勇者になって、みんなが笑って暮らせる世界を作る。そのために力は欲しい。だけど俺にとって、力は全てではないんだ」
 ヴァンはとうとう完全に立ち上がり、アリシアを見た。アリシアは考え込む。
「ふーーーーん、変なの」
 アリシアはヴァンの目を見て、そう告げる。
「あんた、名前は?」
「俺は、ヴァンだ」
「あたしはアリシア、こう見えてあんたよりもはるかに長い時を生きてきた。そして昔、ミヨルラっていう勇者の先生をしていたの。あんたは勇者として見どころがありそうだから、その勇者の元先生である私が、色々と指導してあげる」
 そんなアリシアの嘘に、ヴァンは目を輝かせた。
「ほんとか? ほんとなんだな? ミヨルラなんてこの世界に知らない者がいない伝説の勇者だ!! あのガラムハザールの体力を半分も奪ったとされる、最強の勇者!! ラッキー、ついてるぜ!! たまたま出会った少女が実は少女じゃなくて、伝説の勇者の元先生だったなんて、そんな偶然あんのかよ!!」
「そうそう。あんた、ラッキーよ。ほんとにラッキー」
「なら、是非お願いします。先生!!」
 ヴァンが右手をアリシアの前に突き出した。アリシアはしょうがなくヴァンの突き出した手の平に自らの手の平を合わせ、いわゆる握手という行為をした。
「なら、これから頑張りましょう。そうね、ガラムハザールを倒せるくらいにあんたを強くしてあげるわ。きゃははははははははははは」
 ヴァンが、ゴクリと唾を飲んだ。
「ガラムハザールを倒す……」
「ええ、当然勇者になるからには、魔王討伐を一つの目標にするんでしょ?」
 ヴァンは大きく頷いた。
「ああ、当然だ!!」
「それでこそ勇者だわ」
 アリシアは微笑む。そして、ヴァンに背を向けてから、歪んだ満面の笑顔を作る。
"ぜひ、魔王を倒してね。そして……そして……"
 夜が深まってきて、月がヴァンを照らす。
"魔王を倒したあんたの魂を、あたしに食べさせてちょうだいね"
 そんな邪悪な思考などヴァンは全くとして知るよしもないまま、結ばれたその同盟。
 月明かりが照らすのはヴァンばかり。アリシアは周りの建物が影となり、全く照らされていない。そんな夜だった。