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第二部 9話 来客

ー/ー



 翌日の昼過ぎだった。
 今日も休日だったのでゆっくりと寝ていると、昨日と同じくコンコンというノックの音がした。

「……はい?」
「アッシュさん? お客さんが来たみたいだよ。通して良いのか、分からなくて……」

 宿屋のおじさんの声だった。
 顔見知りは素通りさせるのだが、今日は違ったようだ。

「通して良いですよ」
「……そうかい?」

 俺がここに住んでいることを知っているのはどうせ知り合いだ。
 来たことのない知り合いは誰だろう?

 ブラウン団長とアリスはもちろん、ニナとミアも来たことがある。
 セシリーは昨日来ていたくらいだし……。

 考えながら、着替えを済ませて最低限の身だしなみを整える。
 コンコン、ともう一度ノックの音がした。

「はい」

 俺は準備を終えると、部屋の扉を開けた。

「こ、こんにちは……」
「!?」

 ソフィアお嬢様が立っていた。
 淡いピンク色のドレスと、それに合わせた小さな帽子。
 精一杯のおめかしが見て取れた。

「お、お嬢様?」
「シェリーお婆様から許可を頂いて来たのですが、迷惑でしたか……?」

 ……なるほど。
 昨日の一件に頷いた以上、もっと親密になれと。
 穏やかに見えても魔術師団の副団長ということか。

 恐らくはすぐ近くに護衛がいるのだろう。
 宿屋のおじさんの心労は大きいな。後で声を掛けてあげよう。

「いえ、大丈夫です」
 ソフィアがほっとしたように笑みを浮かべる。

「ただ、汚い部屋なのでお嬢様に見せるのは――」
「?」

 俺が続けると、ソフィアが宿を覗き込んだ。
 汚い、と言われて気になったのだろう。

「へぇ」
「!」

 楽しそうに漏らすと、ソフィアが動いた。
 手が届かない位置まで屈んで、俺の脇をすり抜ける。
 恐ろしいほど素早い動きだった。

 気が付いた時には、もう部屋の中を物色している。
 本気で嫌がられなければ、遠慮もしないと。

「ふぁあ」
「――え?」
「妹です」

 眠っていたナタリーがもそりと起き上がった。
 ソフィアが予想外の声に驚いている。
 ややこしくなる前に釘を刺した。昔のセシリーとミアの一件は繰り返さない。

「ん?」
「あ、あの……」

 ナタリーがソフィアに気が付く。

「んー、ひょっとしてソフィアちゃん?」
「! ……は、はい」

 ナタリーがすぐさま正解を導き出した。相変わらず察しが良い。
 そして公爵令嬢を『ちゃん』付けである。

 ――育ちが悪いので許して下さい。

「わー! お兄ちゃん、可愛いね!」
「え? え?」

 ナタリーがソフィアへと抱き着いた。
 ソフィアが困惑している。

 ――もう許さなくて良いです。
 ――怒ってください。

「私はナタリー・クレフよ」
「そ、ソフィア・ターナーと申します……」

 ソフィアがナタリーにもみくちゃにされながら頑張って挨拶をしている。
 俺はこめかみを押さえながら、溜息と一緒に口を挟んだ。

「とりあえず、外に出ませんか?」
「なんで!?」

 ナタリーが叫ぶ。まだ抱き着きたいらしい。
 俺は部屋全体を示しながら言った。

「お嬢様が居て良い場所か?」

 珍しくナタリーが黙った。



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 翌日の昼過ぎだった。
 今日も休日だったのでゆっくりと寝ていると、昨日と同じくコンコンというノックの音がした。
「……はい?」
「アッシュさん? お客さんが来たみたいだよ。通して良いのか、分からなくて……」
 宿屋のおじさんの声だった。
 顔見知りは素通りさせるのだが、今日は違ったようだ。
「通して良いですよ」
「……そうかい?」
 俺がここに住んでいることを知っているのはどうせ知り合いだ。
 来たことのない知り合いは誰だろう?
 ブラウン団長とアリスはもちろん、ニナとミアも来たことがある。
 セシリーは昨日来ていたくらいだし……。
 考えながら、着替えを済ませて最低限の身だしなみを整える。
 コンコン、ともう一度ノックの音がした。
「はい」
 俺は準備を終えると、部屋の扉を開けた。
「こ、こんにちは……」
「!?」
 ソフィアお嬢様が立っていた。
 淡いピンク色のドレスと、それに合わせた小さな帽子。
 精一杯のおめかしが見て取れた。
「お、お嬢様?」
「シェリーお婆様から許可を頂いて来たのですが、迷惑でしたか……?」
 ……なるほど。
 昨日の一件に頷いた以上、もっと親密になれと。
 穏やかに見えても魔術師団の副団長ということか。
 恐らくはすぐ近くに護衛がいるのだろう。
 宿屋のおじさんの心労は大きいな。後で声を掛けてあげよう。
「いえ、大丈夫です」
 ソフィアがほっとしたように笑みを浮かべる。
「ただ、汚い部屋なのでお嬢様に見せるのは――」
「?」
 俺が続けると、ソフィアが宿を覗き込んだ。
 汚い、と言われて気になったのだろう。
「へぇ」
「!」
 楽しそうに漏らすと、ソフィアが動いた。
 手が届かない位置まで屈んで、俺の脇をすり抜ける。
 恐ろしいほど素早い動きだった。
 気が付いた時には、もう部屋の中を物色している。
 本気で嫌がられなければ、遠慮もしないと。
「ふぁあ」
「――え?」
「妹です」
 眠っていたナタリーがもそりと起き上がった。
 ソフィアが予想外の声に驚いている。
 ややこしくなる前に釘を刺した。昔のセシリーとミアの一件は繰り返さない。
「ん?」
「あ、あの……」
 ナタリーがソフィアに気が付く。
「んー、ひょっとしてソフィアちゃん?」
「! ……は、はい」
 ナタリーがすぐさま正解を導き出した。相変わらず察しが良い。
 そして公爵令嬢を『ちゃん』付けである。
 ――育ちが悪いので許して下さい。
「わー! お兄ちゃん、可愛いね!」
「え? え?」
 ナタリーがソフィアへと抱き着いた。
 ソフィアが困惑している。
 ――もう許さなくて良いです。
 ――怒ってください。
「私はナタリー・クレフよ」
「そ、ソフィア・ターナーと申します……」
 ソフィアがナタリーにもみくちゃにされながら頑張って挨拶をしている。
 俺はこめかみを押さえながら、溜息と一緒に口を挟んだ。
「とりあえず、外に出ませんか?」
「なんで!?」
 ナタリーが叫ぶ。まだ抱き着きたいらしい。
 俺は部屋全体を示しながら言った。
「お嬢様が居て良い場所か?」
 珍しくナタリーが黙った。