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第二部 8話 ティータイム

ー/ー



 静かな休日だと思ったら、ナタリーが出掛けていた。
 じゃあ、ゆっくり出来る……と、思った時だった。

 宿の扉がノックされた。
 返事を待たずに扉が開く。

「セシリー?」

 部屋に入って来たのはセシリーだった。
 セシリーは数年前に魔術師団に入団している。
 どうやらブラウン団長が村にいた頃、教えを受けていたようだ。

「お前、返事くらい……」
「ごめんね。シェリー副団長から連れてくるように言われちゃった」

 そう言うと、あれよあれよと俺を宿から連れ出してしまった。
 一瞬の犯行だった。プロの手際である。

「じゃあ、あそこにシェリー副団長がいるから」

 セシリーが軽食が取れるような店を指さした。
 俺はと言うと、状況がまだ呑み込めていなかった。

「失礼なことしちゃ駄目だよ」

 セシリーがすたすたと歩き去っていく。

「……この状況で、お前が礼儀を語る?」

 俺は呟いたが、遅すぎる。
 気づけば俺は魔術師団副団長と一対一で話すことになっていた。

 言われた通りに進むと、シェリー副団長はテラスのような場所で紅茶を飲んでいた。
 この世界にも茶葉はあるようで、紅茶は良く飲まれている。
 しかし歴史が浅いのだろう。紅茶以外は見たことがないし、元の世界ほど文化的にも発達していないようだ。
 今まで見たことはなかったが、この店は喫茶店に近いのかも知れない。

「あの……こんにちは」
「はい。こんにちは」

 俺が言葉に迷いながら挨拶をする。
 年配のハーフエルフであるシェリー副団長は上品に微笑みながら返してくれた。

 向かいの席を手で示されて、腰を下ろす。
 すぐに店員さんがやって来る。見計らったようにシェリー副団長からメニューを手渡された。
 頼まないよりは良いか、と俺も紅茶を頼んだ。

「突然、呼び出してしまってすみませんね」
「いえ、構いませんよ」

 呼び出し自体は良い。
 セシリーは悪い。

「ソフィアお嬢様に関して、ですか?」
 
 俺の方から切り出した。
 もっとも、他に考えられる話題などないが。
 
「ええ。実は相談したいことがあるんですよ。先生?」
 
 シェリー副団長は頷きながら、悪戯に微笑んだ。
 その仕草さえも優雅で、思わず「茶化さないでくださいよ……」と笑ってしまう。
 
 しかし、ふとシェリー副団長は真面目な表情に切り替えた。
 どこか悲しそうに、続ける。
 
「ソフィアは、命の重さを感じられないように思うのです」
 その洞察に息を呑んだ。

 兄さんは言っていた。
 自分が人を殺すことは、嘘を吐くことに近いと。
 悪いと分かっていても、許容できてしまうのだと。

 それはつまり、命を軽く見てしまうという意味ではなかったか。
 俺の様子に、シェリー副団長は続ける。

「心当たりがあるのですか?」
「……俺と訓練をする時、お嬢様は迷わず急所に打ち込みます。心当たりというほどではないですが」

「なるほど……そこで、お願いがあるのです」
「? お願い、ですか」
「ええ、あの子は貴方に良く懐いています。あそこまで他人に心を開くのは初めてです」
「……」

「もしも将来、あの子がこの点で苦しむことがあれば、助けてあげて欲しいのです」

「それはもちろんです。ただ――」
 俺が否定的な言葉を続けようとするが、できなかった。
 魔術師団副団長は心から安心した声で、

「良かった――このために貴方へお願いしたのです」

 息を漏らすように呟いた。

 ああ、そうか。
 ブラウン団長が俺を推薦した理由は、錬金術が使える騎士団員だから、だった。
 しかし、この人の理由は違ったのだろう。孫の内面を心配して、俺を選んでくれたのだ。

「精一杯、頑張ります」

 姿勢を正して、頷いた。



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 静かな休日だと思ったら、ナタリーが出掛けていた。
 じゃあ、ゆっくり出来る……と、思った時だった。
 宿の扉がノックされた。
 返事を待たずに扉が開く。
「セシリー?」
 部屋に入って来たのはセシリーだった。
 セシリーは数年前に魔術師団に入団している。
 どうやらブラウン団長が村にいた頃、教えを受けていたようだ。
「お前、返事くらい……」
「ごめんね。シェリー副団長から連れてくるように言われちゃった」
 そう言うと、あれよあれよと俺を宿から連れ出してしまった。
 一瞬の犯行だった。プロの手際である。
「じゃあ、あそこにシェリー副団長がいるから」
 セシリーが軽食が取れるような店を指さした。
 俺はと言うと、状況がまだ呑み込めていなかった。
「失礼なことしちゃ駄目だよ」
 セシリーがすたすたと歩き去っていく。
「……この状況で、お前が礼儀を語る?」
 俺は呟いたが、遅すぎる。
 気づけば俺は魔術師団副団長と一対一で話すことになっていた。
 言われた通りに進むと、シェリー副団長はテラスのような場所で紅茶を飲んでいた。
 この世界にも茶葉はあるようで、紅茶は良く飲まれている。
 しかし歴史が浅いのだろう。紅茶以外は見たことがないし、元の世界ほど文化的にも発達していないようだ。
 今まで見たことはなかったが、この店は喫茶店に近いのかも知れない。
「あの……こんにちは」
「はい。こんにちは」
 俺が言葉に迷いながら挨拶をする。
 年配のハーフエルフであるシェリー副団長は上品に微笑みながら返してくれた。
 向かいの席を手で示されて、腰を下ろす。
 すぐに店員さんがやって来る。見計らったようにシェリー副団長からメニューを手渡された。
 頼まないよりは良いか、と俺も紅茶を頼んだ。
「突然、呼び出してしまってすみませんね」
「いえ、構いませんよ」
 呼び出し自体は良い。
 セシリーは悪い。
「ソフィアお嬢様に関して、ですか?」
 俺の方から切り出した。
 もっとも、他に考えられる話題などないが。
「ええ。実は相談したいことがあるんですよ。先生?」
 シェリー副団長は頷きながら、悪戯に微笑んだ。
 その仕草さえも優雅で、思わず「茶化さないでくださいよ……」と笑ってしまう。
 しかし、ふとシェリー副団長は真面目な表情に切り替えた。
 どこか悲しそうに、続ける。
「ソフィアは、命の重さを感じられないように思うのです」
 その洞察に息を呑んだ。
 兄さんは言っていた。
 自分が人を殺すことは、嘘を吐くことに近いと。
 悪いと分かっていても、許容できてしまうのだと。
 それはつまり、命を軽く見てしまうという意味ではなかったか。
 俺の様子に、シェリー副団長は続ける。
「心当たりがあるのですか?」
「……俺と訓練をする時、お嬢様は迷わず急所に打ち込みます。心当たりというほどではないですが」
「なるほど……そこで、お願いがあるのです」
「? お願い、ですか」
「ええ、あの子は貴方に良く懐いています。あそこまで他人に心を開くのは初めてです」
「……」
「もしも将来、あの子がこの点で苦しむことがあれば、助けてあげて欲しいのです」
「それはもちろんです。ただ――」
 俺が否定的な言葉を続けようとするが、できなかった。
 魔術師団副団長は心から安心した声で、
「良かった――このために貴方へお願いしたのです」
 息を漏らすように呟いた。
 ああ、そうか。
 ブラウン団長が俺を推薦した理由は、錬金術が使える騎士団員だから、だった。
 しかし、この人の理由は違ったのだろう。孫の内面を心配して、俺を選んでくれたのだ。
「精一杯、頑張ります」
 姿勢を正して、頷いた。