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第二部 4話 才能

ー/ー



 ソフィアと二人で演習場に出た。
 流石は公爵家。演習場も騎士団のものよりも立派だった。
 俺は変わらないが、ソフィアは運動着に着替えている。
 ソフィアは剣の練習を楽しみにしているようだった。さっきより明らかに表情が豊かだ。
 すでにお互いの手には模擬剣が握られていた。二人とも正面に構えている。

「では、始めますか」
 ソフィアがこくこくと頷いた。
「打ち込んで来てください」

 数秒ほど向き合った後、ソフィアが踏み込んだ。静かで自然な動きだった。
 無駄のない最小限の動作で、俺の首へと切っ先を引っ掛けるように模擬剣を振るう。
 
「!」
 間合いを把握するのが上手い。
 自分の踏み込みまで考慮して、振り切るタイミングで頸動脈を掠るような一撃だった。
 ……いやでも、初手で頸動脈って。

 ソフィアの一撃を剣身で流すように受ける。
 半ばまで流すと上へと弾き上げた。ソフィアが一歩前へと出る。

「?」
 このタイミングで踏み込んだ?

 ソフィアが一歩退きながら上段から斬り下ろす。退くために踏み込んだのか。
 俺の間合いから逃げつつ、またしても切っ先で掠るような一撃だった。
 それも、俺の脳天から下ろすのではなく、剣を振り上げた右半身とは逆の左肩辺りを的確に狙っている。

 俺は冷静に半身下がって、上段をやりすごす。
 さらに一歩下がって、剣を構え直す。
 
 ソフィアはと言うと――明らかに不満そうに顔を背けていた。
 
「お嬢様?」
「先生、避けたら練習になりません」
 
 一瞬、呆然としてしまう。
「いやいや、当たったら痛いじゃないですか!」
 
 いつもの調子で叫んでしまったが、ソフィアの機嫌は直らない。

「仕方ないですね……」
「当たってくれるのですか!?」
「嬉しそうに言わないで下さい。当たったら、それこそ練習になりません。頑張って当てて下さい」
「でも、先生は避けるの上手いでしょう? ずるい……」
「ずるくないです。ちょっと待って下さい」

 俺は騎士団の制服の懐に忍ばせておいた、短剣の模擬剣を二本取り出すと、ソフィアの方へと歩き出す。
 間合いに入った瞬間、容赦ない一撃が飛んできた。予想していた俺はぺしり、と弾く。
 本当、小さい頃の兄さんにそっくりだ。勝負事になるとむきになることも含めて。

「む」
「こちらの短剣を使ってみて下さい。恐らく手に馴染むと思いますよ」

 ソフィアが警戒しながら、短剣を手に取る。やがて逆手に構えた。
 しっくり来たように頷くと、姿勢を低くして俺へと走った。

 俺は間合いの広さを活かすため、先に打ち込む。
 ソフィアは体を僅かに左へと傾けるだけで避けた。目が良いのだろう。さらに体を戻す勢いで、左の逆手を払う。
 俺は合わせるように、左へ体を倒す。そのまま転がるようにして、受身を取って立ち上がった。


 またしても避けられたソフィアは一歩を踏み出そうと――

「!?」

 ――その喉元に剣先を突き付けた。

「この間合いは俺の間合いです。強気に出るなら策を考えておくべきですね」


 勝負が一段落したので、声を掛ける。
「短剣はどうでしたか?」

 改めてソフィアへ目を遣ると、思いっきりむくれていた。
「……大人げないです」

 俺は出来る限り落ち着いた声で訊き直した。

「お嬢様は剣を始めてからどのくらいなのですか?」
「数か月前に使用人の訓練を見てからだから……三か月くらい?」
「なるほど……」

 ――いや、独学で三か月の動きには見えないんだよ。
 ――それに短剣は今日初めて持った感じだったし。

「?」
「いえ。三か月でそのレベルなら、すぐに上達しますよ」


 ――間違いない。
 ――兄さんの生まれ変わりだ。

 目の前で燃えるような真赤な魂とは別に、俺は確信を得た。



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 ソフィアと二人で演習場に出た。
 流石は公爵家。演習場も騎士団のものよりも立派だった。
 俺は変わらないが、ソフィアは運動着に着替えている。
 ソフィアは剣の練習を楽しみにしているようだった。さっきより明らかに表情が豊かだ。
 すでにお互いの手には模擬剣が握られていた。二人とも正面に構えている。
「では、始めますか」
 ソフィアがこくこくと頷いた。
「打ち込んで来てください」
 数秒ほど向き合った後、ソフィアが踏み込んだ。静かで自然な動きだった。
 無駄のない最小限の動作で、俺の首へと切っ先を引っ掛けるように模擬剣を振るう。
「!」
 間合いを把握するのが上手い。
 自分の踏み込みまで考慮して、振り切るタイミングで頸動脈を掠るような一撃だった。
 ……いやでも、初手で頸動脈って。
 ソフィアの一撃を剣身で流すように受ける。
 半ばまで流すと上へと弾き上げた。ソフィアが一歩前へと出る。
「?」
 このタイミングで踏み込んだ?
 ソフィアが一歩退きながら上段から斬り下ろす。退くために踏み込んだのか。
 俺の間合いから逃げつつ、またしても切っ先で掠るような一撃だった。
 それも、俺の脳天から下ろすのではなく、剣を振り上げた右半身とは逆の左肩辺りを的確に狙っている。
 俺は冷静に半身下がって、上段をやりすごす。
 さらに一歩下がって、剣を構え直す。
 ソフィアはと言うと――明らかに不満そうに顔を背けていた。
「お嬢様?」
「先生、避けたら練習になりません」
 一瞬、呆然としてしまう。
「いやいや、当たったら痛いじゃないですか!」
 いつもの調子で叫んでしまったが、ソフィアの機嫌は直らない。
「仕方ないですね……」
「当たってくれるのですか!?」
「嬉しそうに言わないで下さい。当たったら、それこそ練習になりません。頑張って当てて下さい」
「でも、先生は避けるの上手いでしょう? ずるい……」
「ずるくないです。ちょっと待って下さい」
 俺は騎士団の制服の懐に忍ばせておいた、短剣の模擬剣を二本取り出すと、ソフィアの方へと歩き出す。
 間合いに入った瞬間、容赦ない一撃が飛んできた。予想していた俺はぺしり、と弾く。
 本当、小さい頃の兄さんにそっくりだ。勝負事になるとむきになることも含めて。
「む」
「こちらの短剣を使ってみて下さい。恐らく手に馴染むと思いますよ」
 ソフィアが警戒しながら、短剣を手に取る。やがて逆手に構えた。
 しっくり来たように頷くと、姿勢を低くして俺へと走った。
 俺は間合いの広さを活かすため、先に打ち込む。
 ソフィアは体を僅かに左へと傾けるだけで避けた。目が良いのだろう。さらに体を戻す勢いで、左の逆手を払う。
 俺は合わせるように、左へ体を倒す。そのまま転がるようにして、受身を取って立ち上がった。
 またしても避けられたソフィアは一歩を踏み出そうと――
「!?」
 ――その喉元に剣先を突き付けた。
「この間合いは俺の間合いです。強気に出るなら策を考えておくべきですね」
 勝負が一段落したので、声を掛ける。
「短剣はどうでしたか?」
 改めてソフィアへ目を遣ると、思いっきりむくれていた。
「……大人げないです」
 俺は出来る限り落ち着いた声で訊き直した。
「お嬢様は剣を始めてからどのくらいなのですか?」
「数か月前に使用人の訓練を見てからだから……三か月くらい?」
「なるほど……」
 ――いや、独学で三か月の動きには見えないんだよ。
 ――それに短剣は今日初めて持った感じだったし。
「?」
「いえ。三か月でそのレベルなら、すぐに上達しますよ」
 ――間違いない。
 ――兄さんの生まれ変わりだ。
 目の前で燃えるような真赤な魂とは別に、俺は確信を得た。