幕間1 3話 バケットと加奈
ー/ー ブラウン・バケット魔術師団長は『レン・クーガー』の魔法について考えていた。先日、王都の上空を覆った魔法陣の件である。
「あれは『ハーフエルフの小国』で発動された『大魔法』が元だろう」
自室の書斎にて呟いた。
恐らく『大魔法』をレンが小規模にアレンジしたものだ。
『簡易大魔法』とでも呼ぶべきか。
そうなるとレンが鬼と協力して『ハーフエルフの小国』を襲撃した可能性も考える必要があるが……今は良い。
「気になるのは、あの魔法陣の構築方法だが……」
魔術師団長は顎に手を添えて、さらに思考を進める。
レンは『簡易大魔法』の魔法陣をいくつも重ねた上で、それらを連結する魔法陣を構築していた。そうして、右手の魔法陣から『簡易大魔法』を束ねて出力したのだ。
「魔法陣を制御するための魔法陣。
その発想はこの世界に――少なくとも、私にはなかった」
別の世界からやって来たという兄弟。
それは全く異なる考え方が流れ込んできたという解釈もできるかも知れない。
魔術師団長が椅子に背を深く預けて天井を仰いだ。
ばーん! という大きな音を立てて、書斎の扉が開かれる。
見れば彼の娘が立っていた。
「パパ! カナから面白い話を聞いたの!」
「アリス、ノックくらいしないと駄目だよ?」
まるで一人芝居のように、一人二役を演じている。
「今は別に構わない。
ちょうど休憩していた。どうしたんだ?」
「加奈の世界はね、名前の付け方が私達とは違うの。
ファーストネームとラストネームの順番が逆なのよ」
魔術師団長が興味深そうに目を細めた。
「……なるほど。面白いものだな」
「あの、国によって違うんです。
国によってはミドルネームだったり、親の名前をそのまま引き継いで少し変えたり……」
加奈の言葉に魔術師団長は「ふむ」と思考を走らせる。
これもまた、別の考え方が流れ込んできたということになるのだろう。
「何それ!? ミドルネーム?」
アリスが大きく食いついた。
自分の口から出た単語に興味を持ったようだ。
加奈の言葉によると、国によっては名前は二語とは限らないらしい。
冗談のように長い名前もあるのだとか。
話を聞いたアリスは目を輝かせていた。
「そうだよね!
ファーストネームとラストネームしか使っちゃだめなんて決まりはないもの」
それからしばらくの間、アリスはうんうんと頷いていた。
たまに加奈が出てきて首を傾げる。
しばらくそれを繰り返していると、アリスは楽しそうに笑う――
「うん。私はこれから『アリス・カナ・バケット』を名乗るわ!」
「っ!?」
――その表情が、一瞬だけ胸を詰まらせたように歪んだ。
嬉しそうな笑顔と涙を堪える顔を交互に眺めながら、魔術師団長は思考を進めた。
――与えられた異なる考え方を、良い方向へと導ければ良いのだ。
――恐らくは、それが自分の役割なのだろう。
「あれは『ハーフエルフの小国』で発動された『大魔法』が元だろう」
自室の書斎にて呟いた。
恐らく『大魔法』をレンが小規模にアレンジしたものだ。
『簡易大魔法』とでも呼ぶべきか。
そうなるとレンが鬼と協力して『ハーフエルフの小国』を襲撃した可能性も考える必要があるが……今は良い。
「気になるのは、あの魔法陣の構築方法だが……」
魔術師団長は顎に手を添えて、さらに思考を進める。
レンは『簡易大魔法』の魔法陣をいくつも重ねた上で、それらを連結する魔法陣を構築していた。そうして、右手の魔法陣から『簡易大魔法』を束ねて出力したのだ。
「魔法陣を制御するための魔法陣。
その発想はこの世界に――少なくとも、私にはなかった」
別の世界からやって来たという兄弟。
それは全く異なる考え方が流れ込んできたという解釈もできるかも知れない。
魔術師団長が椅子に背を深く預けて天井を仰いだ。
ばーん! という大きな音を立てて、書斎の扉が開かれる。
見れば彼の娘が立っていた。
「パパ! カナから面白い話を聞いたの!」
「アリス、ノックくらいしないと駄目だよ?」
まるで一人芝居のように、一人二役を演じている。
「今は別に構わない。
ちょうど休憩していた。どうしたんだ?」
「加奈の世界はね、名前の付け方が私達とは違うの。
ファーストネームとラストネームの順番が逆なのよ」
魔術師団長が興味深そうに目を細めた。
「……なるほど。面白いものだな」
「あの、国によって違うんです。
国によってはミドルネームだったり、親の名前をそのまま引き継いで少し変えたり……」
加奈の言葉に魔術師団長は「ふむ」と思考を走らせる。
これもまた、別の考え方が流れ込んできたということになるのだろう。
「何それ!? ミドルネーム?」
アリスが大きく食いついた。
自分の口から出た単語に興味を持ったようだ。
加奈の言葉によると、国によっては名前は二語とは限らないらしい。
冗談のように長い名前もあるのだとか。
話を聞いたアリスは目を輝かせていた。
「そうだよね!
ファーストネームとラストネームしか使っちゃだめなんて決まりはないもの」
それからしばらくの間、アリスはうんうんと頷いていた。
たまに加奈が出てきて首を傾げる。
しばらくそれを繰り返していると、アリスは楽しそうに笑う――
「うん。私はこれから『アリス・カナ・バケット』を名乗るわ!」
「っ!?」
――その表情が、一瞬だけ胸を詰まらせたように歪んだ。
嬉しそうな笑顔と涙を堪える顔を交互に眺めながら、魔術師団長は思考を進めた。
――与えられた異なる考え方を、良い方向へと導ければ良いのだ。
――恐らくは、それが自分の役割なのだろう。
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