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幕間1 1話 弟子『ナタリー』と師匠『ミア』

ー/ー



 おかしい。
 最近、ナタリーの成長が著しいのだ。悪い方向で。

 昨日のことだ。
 唐突にナタリーから、そろそろ騎士団に感謝の気持ちを伝えた方が良い、なんて忠告をされた。

 俺が曖昧に頷くと「ニナさんは意外と中身が乙女だから見栄えがするものが良いよ」「団長さんは実利主義だから役に立つものをあげると喜ぶんじゃないかな」なんて言い出す始末だ。

 思わず呆然としてしまった。
『中身が乙女』『実利主義』って十歳児の語彙じゃねーよ。

 さり気なく感謝の気持ちでプレゼントを提案されてるしさぁ。

 最近、こういうことが増えている。
 誰かが入れ知恵をしているとしか思えない。

 容疑者はあまり多くないはずだが……。

 俺は宿への道を歩いている。
 突然、騎士団に呼び出しを食らった帰りだった。

 ……いや、プレゼントは大変喜ばれたんだけどさ。

 鬼と兄さんの襲撃から五日。
 都市に傷跡を残したものの、あれから鬼は王都に一切手を出して来ない。

 ナタリーは無事だし、兄さんは止めた。
 しかし、これで全て終わったのだろうか?

 結局、答えは出ない。
 俺は『アッシュ・クレフ』として生きるしかなかった。

 俺は宿までやってくると、自室の扉に手を掛ける。

「ナタリー、ミア。
 ニナさんから連絡だ。まだ村へは帰れないって……」 

 言いかけて、手を止めた。
 中から声が聞こえたからだ。

 盗み聞きは良くないと思いながら、耳を傾けてしまう。

「いいっすか?
 アッシュさんはなんだかんだとナタリーには甘いっす」

「うんうん」

「ぶっちゃけ、ナタリーが泣けば八割方は勝ちっす!」

「なるほど! さすが師匠!」

 俺はそのタイミングで扉を勢い良く開いた。

「ミア! お前かっ!」

「あ、やば」

 ミアとナタリーは、昔マンガで見たような「しまった」という恰好をしていた。
 つまり、俺を見ながら右手を口元に当てていた。

 いや、コントかよ。

「お前、本当に何やってんの? 護衛だろう?
 仮にも期待のB級冒険者だろう? 十歳児に何を教えてるの? ねえ師匠?」

 ミアがす、と顔を逸らす。

「いや、あまりにもナタリーが斥候や工作員としての適性があり過ぎて……」

「お前とナタリーを一緒にするな。
 全く、適正があるって言ってもたかが知れているだろう?」

「ぶっちゃけ、末恐ろしいっす」

「お前、反省してないな?」

「……してるっす」

「ならいいけど、今後は……」

「教え過ぎたっす」

 ミアがぽつりと漏らす。

「お前、今なんて?」

「お兄ちゃん!」

 そこに、今まで黙っていたナタリーが割り込んできた。
 ナタリーの目には涙が浮かんでいた。項垂れながら続ける。

「ごめんなさい、ミア師匠には私からお願いしたの。せっかく王都まで来たんだから、もっと勉強して村に帰りたいって……。だから、あまり怒らないで」


「あのなぁ、そうは言っても変なことを覚えられても……」

「大丈夫! ちゃんと勉強もしてるから」

 ナタリーが微笑んで見せる。

「まぁ、そういうことなら……あれ?」

 仕方ないと頷こうとして、違和感に気付く。

「ありがとう!」

 ナタリーが俺に抱き着いた。まるで誤魔化すかのように。

「……あれ?」

 これ、もう既に俺の手には負えないのでは?
 首を傾げる俺の隣にミアが近づいてくる。

「大丈夫っすよ。正直、驚くほどに根が善良です。
 一線は越えないでしょうね」

「なら良い、のか?」

 ナタリーが楽しそうに俺を見上げた。



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 おかしい。
 最近、ナタリーの成長が著しいのだ。悪い方向で。
 昨日のことだ。
 唐突にナタリーから、そろそろ騎士団に感謝の気持ちを伝えた方が良い、なんて忠告をされた。
 俺が曖昧に頷くと「ニナさんは意外と中身が乙女だから見栄えがするものが良いよ」「団長さんは実利主義だから役に立つものをあげると喜ぶんじゃないかな」なんて言い出す始末だ。
 思わず呆然としてしまった。
『中身が乙女』『実利主義』って十歳児の語彙じゃねーよ。
 さり気なく感謝の気持ちでプレゼントを提案されてるしさぁ。
 最近、こういうことが増えている。
 誰かが入れ知恵をしているとしか思えない。
 容疑者はあまり多くないはずだが……。
 俺は宿への道を歩いている。
 突然、騎士団に呼び出しを食らった帰りだった。
 ……いや、プレゼントは大変喜ばれたんだけどさ。
 鬼と兄さんの襲撃から五日。
 都市に傷跡を残したものの、あれから鬼は王都に一切手を出して来ない。
 ナタリーは無事だし、兄さんは止めた。
 しかし、これで全て終わったのだろうか?
 結局、答えは出ない。
 俺は『アッシュ・クレフ』として生きるしかなかった。
 俺は宿までやってくると、自室の扉に手を掛ける。
「ナタリー、ミア。
 ニナさんから連絡だ。まだ村へは帰れないって……」 
 言いかけて、手を止めた。
 中から声が聞こえたからだ。
 盗み聞きは良くないと思いながら、耳を傾けてしまう。
「いいっすか?
 アッシュさんはなんだかんだとナタリーには甘いっす」
「うんうん」
「ぶっちゃけ、ナタリーが泣けば八割方は勝ちっす!」
「なるほど! さすが師匠!」
 俺はそのタイミングで扉を勢い良く開いた。
「ミア! お前かっ!」
「あ、やば」
 ミアとナタリーは、昔マンガで見たような「しまった」という恰好をしていた。
 つまり、俺を見ながら右手を口元に当てていた。
 いや、コントかよ。
「お前、本当に何やってんの? 護衛だろう?
 仮にも期待のB級冒険者だろう? 十歳児に何を教えてるの? ねえ師匠?」
 ミアがす、と顔を逸らす。
「いや、あまりにもナタリーが斥候や工作員としての適性があり過ぎて……」
「お前とナタリーを一緒にするな。
 全く、適正があるって言ってもたかが知れているだろう?」
「ぶっちゃけ、末恐ろしいっす」
「お前、反省してないな?」
「……してるっす」
「ならいいけど、今後は……」
「教え過ぎたっす」
 ミアがぽつりと漏らす。
「お前、今なんて?」
「お兄ちゃん!」
 そこに、今まで黙っていたナタリーが割り込んできた。
 ナタリーの目には涙が浮かんでいた。項垂れながら続ける。
「ごめんなさい、ミア師匠には私からお願いしたの。せっかく王都まで来たんだから、もっと勉強して村に帰りたいって……。だから、あまり怒らないで」
「あのなぁ、そうは言っても変なことを覚えられても……」
「大丈夫! ちゃんと勉強もしてるから」
 ナタリーが微笑んで見せる。
「まぁ、そういうことなら……あれ?」
 仕方ないと頷こうとして、違和感に気付く。
「ありがとう!」
 ナタリーが俺に抱き着いた。まるで誤魔化すかのように。
「……あれ?」
 これ、もう既に俺の手には負えないのでは?
 首を傾げる俺の隣にミアが近づいてくる。
「大丈夫っすよ。正直、驚くほどに根が善良です。
 一線は越えないでしょうね」
「なら良い、のか?」
 ナタリーが楽しそうに俺を見上げた。