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第一部 55話 『一番隊副隊長』と『青鬼』

ー/ー



「ナタリーさんをお願いします」

 ニナはそう言って、ナタリーを部下に任せる。
 そして『青鬼』と向き合った。

 踏み込んだのは、やはり『青鬼』から。
 低い長刀の薙ぎ払いをニナは長剣で逸らす。
 強引に上へと軌道を変えた。

 さらにニナは返す刃で袈裟に下ろした。
『青鬼』はしゃがんで避けると、低い体勢から斜めに斬り上げた。

 ニナはもう一度、受け流そうとし――『青鬼』が消えた。

「!?」

 ニナは最速で前に転がる。
 少なくともそちらに『青鬼』はいないからだ。

 転がりながら『青鬼』の斬撃の続きを下から眺めていた。
 寒気を覚える。

 一回転が終わると、ニナはすぐさま振り向いた。
『青鬼』は一撃を終えると同時に『帰った』ところだった。

 斜めに斬り上げた状態でしゃがむ背中が見える。
『青鬼』も振り向いて、仕切り直しだ。



『青鬼』の猛攻ですぐにニナの全身は生傷だらけになっていった。
 ニナの反射速度ではどうやっても避けきれない。

『青鬼』の低く広い一閃を弾く。『青鬼』が消える。
 急いで振り返ると、背後からの突きが放たれていた。

 受けようとした瞬間、『青鬼』が『帰る』。
 受けるはずだった突きは背後からの不意打ちになっていた。

 ――二つ目。

 ニナは諦めて剣を床に突き立てた。
 すぐさま魔力を流す。剣を中心に炎と風が逆巻いた。

「ッ!」

『青鬼』の体が吹き飛んだ。
 受け身を取って立ち上がると『青鬼』は笑みを浮かべた。

「……なるほどなぁ」

 ニナは次の長剣を抜き放ち、正面に構え直す。

 次はニナから踏み込んだ。
 『青鬼』めがけて踏み込むと、袈裟に下ろす。

『青鬼』は決して受けようとはせずに後ろに跳んで避ける。

 ――力比べはしない、ということですか。

 今度は『青鬼』が飛び込んだ。
 今まで納めていた脇差を抜く。

 そのまま両腕を左右へと斬り払った。

 たまらずニナも長剣をもう一つ抜いて、どうにか弾いた。
 しかし、またしても『青鬼』が消えた。

 実のところ、一度スキルを目視してから、ニナは使い魔であるレオから移動先を教えてもらっている。それでも反応が間に合わないのだ。

 見れば、間合いの外だ。
 両方の刀を鞘に納めている。

「?」

『青鬼』が『帰る』。
 目の前に居合の構えがあった。

「――ッ!?」

 ニナは思わず悪態を吐きたくなりながら、もう一度長剣を床に突き立てた。
 居合が抜かれる。

 雷の魔法が周囲一帯へと放たれる。
『青鬼』の居合が動きを止める。

 ニナが大きく退いた。

 ――三つ目。
 ――さて、準備はできましたが。

「厄介だな」

「お互い様です」

『青鬼』の軽口にニナが応じた。
 ニナは続ける。

「でも、終わりです」

 ニナの言葉に『青鬼』は不思議そうな顔を浮かべる。
 互角の戦いではあるが、主導権は自分が握っていると。

『青鬼』がもう一度踏み込もうと――

「レオ」「おう」

 主従の声と一緒に雷が走る。
 それは見当違いの方向だった。

 ――途端、風と炎が逆巻いた。

「な!?」

 熱に焼かれながら目を向ければ、雷が走った先には剣が突き立っていた。
 そこで『青鬼』が気付く。

「雷に魔力を乗せたのか?」

 ニナは軽い笑みだけで応じる。
 よく見れば三本の剣は『青鬼』を囲むように立っている。

 その位置は『青鬼』のスキルの移動距離も考慮されていた。

 ――『青鬼』の笑みが引きつる。

 逃げることも許されず『青鬼』が雷の速度で三種の魔法を連続で浴び続けることになった。

「この――ッ!」

 絶え間ない魔法の嵐の中で『青鬼』がニナへと迫る。
 そのまま斬りつけようとするが、雷の範囲攻撃で止められた。

 ニナは『青鬼』の左腕を斬り落とした。

 片腕を失った『青鬼』とニナはしばらく向かい合っていた。
 やがて。

「まいった」

『青鬼』ははっきりと口にした後、すっきりとした顔で一度笑って消えた。
 直後、大広間の一角でナタリーを囲む部下に斬りかかっていた。

 魔法を放てば巻き込んでしまう。
 すぐさまニナは走り寄って、斬り払う。
 しかしその前に『青鬼』は『帰る』。

 逃がすか、と。
 また床に刺した剣から魔法を起動しようとして――

「熱血なのは考え物だな」

『青鬼』の声が響く。

 ――部下たちとナタリーがその射線上に入ってしまっていた。

 その一瞬の隙を突いて『青鬼』が自分の腕を持ったまま『赤鬼』の作った穴から出て行く。

「やられた」

 一瞬だけ対応を悔やんでから、追うかどうかを検討した。
 追うしかないだろう。

『赤鬼』との合流は避けたい。
 それにもしも合流した場合、ミア一人に任せるわけにもいかない。

「もしも何かあればすぐに呼んで下さい、必ず」

 ニナは部下に念を押して、頷いたことを確認してから後を追った。

 先行していたレオから『青鬼』の場所を教わって走る。
 少し大きな通りに出ると、背中が見えた。

 背中の向こうには倒れた『赤鬼』と、そこに歩み寄るミアの姿があった。

『青鬼』が走り抜けながら長刀を斬り払う。

「ミア!」
「――!」

 ニナの声に反応して、ミアが後ろへと跳んだ。

『青鬼』が『赤鬼』を庇うようにして立つ。
 合流は避けられたようだ。逆にこちらが合流した形になる。

 さらに『青鬼』は片腕を失っている。
『赤鬼』に至っては瀕死に見える。

 勝負は着いたと言って良いだろう。

「仕方ない。『今回』はこんなところか。
 最低限の目的は果たしたしな」

『青鬼』がぼやくように呟いた。

「分かってはいたが、まだまだ敵わない」

「それは流石に甘いのでは?
 ここから逃げられると思いますか?」

「ははっ、だとしたら甘いのはそっちだろ」

「? 何を」

「! ニナさん!」

 ミアが何かに気付いて声を上げる。
『青鬼』がさりげなく『赤鬼』に触れた。

「――逃げられないと思うのか?」

『青鬼』と『赤鬼』の姿が忽然と消えていた。



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「ナタリーさんをお願いします」
 ニナはそう言って、ナタリーを部下に任せる。
 そして『青鬼』と向き合った。
 踏み込んだのは、やはり『青鬼』から。
 低い長刀の薙ぎ払いをニナは長剣で逸らす。
 強引に上へと軌道を変えた。
 さらにニナは返す刃で袈裟に下ろした。
『青鬼』はしゃがんで避けると、低い体勢から斜めに斬り上げた。
 ニナはもう一度、受け流そうとし――『青鬼』が消えた。
「!?」
 ニナは最速で前に転がる。
 少なくともそちらに『青鬼』はいないからだ。
 転がりながら『青鬼』の斬撃の続きを下から眺めていた。
 寒気を覚える。
 一回転が終わると、ニナはすぐさま振り向いた。
『青鬼』は一撃を終えると同時に『帰った』ところだった。
 斜めに斬り上げた状態でしゃがむ背中が見える。
『青鬼』も振り向いて、仕切り直しだ。
『青鬼』の猛攻ですぐにニナの全身は生傷だらけになっていった。
 ニナの反射速度ではどうやっても避けきれない。
『青鬼』の低く広い一閃を弾く。『青鬼』が消える。
 急いで振り返ると、背後からの突きが放たれていた。
 受けようとした瞬間、『青鬼』が『帰る』。
 受けるはずだった突きは背後からの不意打ちになっていた。
 ――二つ目。
 ニナは諦めて剣を床に突き立てた。
 すぐさま魔力を流す。剣を中心に炎と風が逆巻いた。
「ッ!」
『青鬼』の体が吹き飛んだ。
 受け身を取って立ち上がると『青鬼』は笑みを浮かべた。
「……なるほどなぁ」
 ニナは次の長剣を抜き放ち、正面に構え直す。
 次はニナから踏み込んだ。
 『青鬼』めがけて踏み込むと、袈裟に下ろす。
『青鬼』は決して受けようとはせずに後ろに跳んで避ける。
 ――力比べはしない、ということですか。
 今度は『青鬼』が飛び込んだ。
 今まで納めていた脇差を抜く。
 そのまま両腕を左右へと斬り払った。
 たまらずニナも長剣をもう一つ抜いて、どうにか弾いた。
 しかし、またしても『青鬼』が消えた。
 実のところ、一度スキルを目視してから、ニナは使い魔であるレオから移動先を教えてもらっている。それでも反応が間に合わないのだ。
 見れば、間合いの外だ。
 両方の刀を鞘に納めている。
「?」
『青鬼』が『帰る』。
 目の前に居合の構えがあった。
「――ッ!?」
 ニナは思わず悪態を吐きたくなりながら、もう一度長剣を床に突き立てた。
 居合が抜かれる。
 雷の魔法が周囲一帯へと放たれる。
『青鬼』の居合が動きを止める。
 ニナが大きく退いた。
 ――三つ目。
 ――さて、準備はできましたが。
「厄介だな」
「お互い様です」
『青鬼』の軽口にニナが応じた。
 ニナは続ける。
「でも、終わりです」
 ニナの言葉に『青鬼』は不思議そうな顔を浮かべる。
 互角の戦いではあるが、主導権は自分が握っていると。
『青鬼』がもう一度踏み込もうと――
「レオ」「おう」
 主従の声と一緒に雷が走る。
 それは見当違いの方向だった。
 ――途端、風と炎が逆巻いた。
「な!?」
 熱に焼かれながら目を向ければ、雷が走った先には剣が突き立っていた。
 そこで『青鬼』が気付く。
「雷に魔力を乗せたのか?」
 ニナは軽い笑みだけで応じる。
 よく見れば三本の剣は『青鬼』を囲むように立っている。
 その位置は『青鬼』のスキルの移動距離も考慮されていた。
 ――『青鬼』の笑みが引きつる。
 逃げることも許されず『青鬼』が雷の速度で三種の魔法を連続で浴び続けることになった。
「この――ッ!」
 絶え間ない魔法の嵐の中で『青鬼』がニナへと迫る。
 そのまま斬りつけようとするが、雷の範囲攻撃で止められた。
 ニナは『青鬼』の左腕を斬り落とした。
 片腕を失った『青鬼』とニナはしばらく向かい合っていた。
 やがて。
「まいった」
『青鬼』ははっきりと口にした後、すっきりとした顔で一度笑って消えた。
 直後、大広間の一角でナタリーを囲む部下に斬りかかっていた。
 魔法を放てば巻き込んでしまう。
 すぐさまニナは走り寄って、斬り払う。
 しかしその前に『青鬼』は『帰る』。
 逃がすか、と。
 また床に刺した剣から魔法を起動しようとして――
「熱血なのは考え物だな」
『青鬼』の声が響く。
 ――部下たちとナタリーがその射線上に入ってしまっていた。
 その一瞬の隙を突いて『青鬼』が自分の腕を持ったまま『赤鬼』の作った穴から出て行く。
「やられた」
 一瞬だけ対応を悔やんでから、追うかどうかを検討した。
 追うしかないだろう。
『赤鬼』との合流は避けたい。
 それにもしも合流した場合、ミア一人に任せるわけにもいかない。
「もしも何かあればすぐに呼んで下さい、必ず」
 ニナは部下に念を押して、頷いたことを確認してから後を追った。
 先行していたレオから『青鬼』の場所を教わって走る。
 少し大きな通りに出ると、背中が見えた。
 背中の向こうには倒れた『赤鬼』と、そこに歩み寄るミアの姿があった。
『青鬼』が走り抜けながら長刀を斬り払う。
「ミア!」
「――!」
 ニナの声に反応して、ミアが後ろへと跳んだ。
『青鬼』が『赤鬼』を庇うようにして立つ。
 合流は避けられたようだ。逆にこちらが合流した形になる。
 さらに『青鬼』は片腕を失っている。
『赤鬼』に至っては瀕死に見える。
 勝負は着いたと言って良いだろう。
「仕方ない。『今回』はこんなところか。
 最低限の目的は果たしたしな」
『青鬼』がぼやくように呟いた。
「分かってはいたが、まだまだ敵わない」
「それは流石に甘いのでは?
 ここから逃げられると思いますか?」
「ははっ、だとしたら甘いのはそっちだろ」
「? 何を」
「! ニナさん!」
 ミアが何かに気付いて声を上げる。
『青鬼』がさりげなく『赤鬼』に触れた。
「――逃げられないと思うのか?」
『青鬼』と『赤鬼』の姿が忽然と消えていた。