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第一部 53話 『ナタリー・クレフ』襲撃

ー/ー



 バケット邸でナタリーを警護しているニナ達にも、黒い影は敵の襲撃を示していた。ナタリーの相手をしながら警戒をしていたのだが、屋敷内も一瞬だけ闇に飲み込まれた。

「今のって……」

「アッシュ殿を襲撃した不審者の?」

 ミアの言葉にニナも応じる。
 騎士団としても要注意人物になっている、影を使うハーフエルフを思い浮かべた。

『鬼』の緊急度が高すぎて対応出来ていないが、手配書の準備も進んでいるはずである。

 ニナはミアへと目を向けて頷き合った。
 ニナが先導し、ミアはナタリーを連れて移動を開始した。



 ニナ達は予定通りにバケット邸の大広間に向かった。
 玄関から入ってすぐの広間であり、戦闘ができる程度の広さがあった。

 狙撃の心配もない。
 屋敷の中で護衛――あるいは迎撃――に一番向いているという判断だった。

 ニナ達が大広間に着いた時、数人の騎士団員がすでに集まっていた。
 ニナ達を補助する役割を振ってある。

 ニナは大広間に入るなり、ナタリーを連れて中心へと向かった。

「気を付けてください。
『青鬼』がどこから現れるか」

 陣形が整うなり、声を掛けた。

『青鬼』の固有スキルは『瞬間移動』だ。
 一度移動したら元の場所に『帰る』必要があるとのことだが、暗殺という条件であればそのスキル特性は逆にメリットだろう。一撃離脱を意味するのだから。

「了解っす」

 ニナの言葉にミアはすぐさま応じた。
 その様子にニナは思わずにはいられない。

 ――もしも『青鬼』のスキルが判明していなかったら?

 ぞっとする。本来であれば、このスキルを知った相手は必ず殺さなければならないはずだ。完全な初見殺し。だからこそ『アッシュ・クレフ』が引き分けたことは間違いなく効いている。それでもやっと対等というところか。

 しかしニナの警戒にも関わらず、大広間へ姿を見せたのは『青鬼』ではなかった。

 突然の轟音だった。
 大広間の横壁が砕けて、瓦礫が辺り一面に飛び散った。

「な――」

 ナタリーを囲んでいる各々が体を強張らせる。
 ソイツは巨体を屈めるようにして、自分が砕いた壁を通って大広間へと入って来た。

「お前は――?」

 ニナは思わず訊ねてしまう。しかし分かり切ったことだったかもしれない。

 人間の倍ほどもある身長。額からは二本の角。片手で握る黒い金棒。
 そして何より――赤い全身。

「二代目『赤鬼』」

 赤い偉丈夫は、にっと笑う。

『赤鬼』が迷わずに飛び込んでくる。
 ニナはすぐさま抜剣で応じた。

「ナタリーさんは私が!」

 ニナの言葉にミアが頷く。
 ニナの意を汲んで、ミアが『赤鬼』の前に出る。

『赤鬼』の轢き殺すような突撃。

 そのまま真上から金棒を振り下ろし――

 ミアは軽く跳びながら、『赤鬼』の頭を左から蹴りつける。
『赤鬼』は左腕を上げて、簡単に防いで見せた。

 口元には笑み。
 この体格差だ。ダメージはない。

 ――『赤鬼』が地面を滑るように移動し、金棒が空を切る。

「!? ……スキルか」

『赤鬼』がミアを見ながら、楽しそうに微笑んだ。

 その隙を突こうと、ニナが長剣を大広間の床に突き立てる。
 そのまま魔法陣に魔力を流す。

 氷の大剣が十振り。
 地面から伸びるようにして『赤鬼』に突き刺さる。

 ――避ける素振りもない、か。

 その様子にニナは頭を抱えたくなった。
 二代目『赤鬼』の体は初代と同じく『自己再生』していた。

「おら!」

 回復が済むなり『赤鬼』がもう一度、金棒を上段から叩きつける。

 ニナが軽く体をずらす。
 避けることは難しくない。

 しかし、その威力に身震いする。
 加えて固有スキル『自己再生』による耐久力。

 馬鹿馬鹿しくなるほど単純な身体能力の強さだ。

「よっ!」

 今度は薙ぎ払い。同じように躱して見せる。
 間合いは大きいが、だからこそ安全地帯も少なくなかった。

「ッ!」

 ――来たか。

 躱すと同時、ニナは唐突に背後へと長剣を払う。
 ナタリーを狙った『青鬼』の斬り払いが弾かれる。

 ミアが機転で『赤鬼』の懐へと飛び込んだ。
 スキル『斥力』で追撃を防ぐ。

『青鬼』が舌打ちだけを残して『帰る』。
 ホールの物陰から改めて『青鬼』が現れた。

「でしょうね」

「だろうなぁ」

 お互いに予定調和だと言うように、二刀と魔法剣が向かい合った。



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 バケット邸でナタリーを警護しているニナ達にも、黒い影は敵の襲撃を示していた。ナタリーの相手をしながら警戒をしていたのだが、屋敷内も一瞬だけ闇に飲み込まれた。
「今のって……」
「アッシュ殿を襲撃した不審者の?」
 ミアの言葉にニナも応じる。
 騎士団としても要注意人物になっている、影を使うハーフエルフを思い浮かべた。
『鬼』の緊急度が高すぎて対応出来ていないが、手配書の準備も進んでいるはずである。
 ニナはミアへと目を向けて頷き合った。
 ニナが先導し、ミアはナタリーを連れて移動を開始した。
 ニナ達は予定通りにバケット邸の大広間に向かった。
 玄関から入ってすぐの広間であり、戦闘ができる程度の広さがあった。
 狙撃の心配もない。
 屋敷の中で護衛――あるいは迎撃――に一番向いているという判断だった。
 ニナ達が大広間に着いた時、数人の騎士団員がすでに集まっていた。
 ニナ達を補助する役割を振ってある。
 ニナは大広間に入るなり、ナタリーを連れて中心へと向かった。
「気を付けてください。
『青鬼』がどこから現れるか」
 陣形が整うなり、声を掛けた。
『青鬼』の固有スキルは『瞬間移動』だ。
 一度移動したら元の場所に『帰る』必要があるとのことだが、暗殺という条件であればそのスキル特性は逆にメリットだろう。一撃離脱を意味するのだから。
「了解っす」
 ニナの言葉にミアはすぐさま応じた。
 その様子にニナは思わずにはいられない。
 ――もしも『青鬼』のスキルが判明していなかったら?
 ぞっとする。本来であれば、このスキルを知った相手は必ず殺さなければならないはずだ。完全な初見殺し。だからこそ『アッシュ・クレフ』が引き分けたことは間違いなく効いている。それでもやっと対等というところか。
 しかしニナの警戒にも関わらず、大広間へ姿を見せたのは『青鬼』ではなかった。
 突然の轟音だった。
 大広間の横壁が砕けて、瓦礫が辺り一面に飛び散った。
「な――」
 ナタリーを囲んでいる各々が体を強張らせる。
 ソイツは巨体を屈めるようにして、自分が砕いた壁を通って大広間へと入って来た。
「お前は――?」
 ニナは思わず訊ねてしまう。しかし分かり切ったことだったかもしれない。
 人間の倍ほどもある身長。額からは二本の角。片手で握る黒い金棒。
 そして何より――赤い全身。
「二代目『赤鬼』」
 赤い偉丈夫は、にっと笑う。
『赤鬼』が迷わずに飛び込んでくる。
 ニナはすぐさま抜剣で応じた。
「ナタリーさんは私が!」
 ニナの言葉にミアが頷く。
 ニナの意を汲んで、ミアが『赤鬼』の前に出る。
『赤鬼』の轢き殺すような突撃。
 そのまま真上から金棒を振り下ろし――
 ミアは軽く跳びながら、『赤鬼』の頭を左から蹴りつける。
『赤鬼』は左腕を上げて、簡単に防いで見せた。
 口元には笑み。
 この体格差だ。ダメージはない。
 ――『赤鬼』が地面を滑るように移動し、金棒が空を切る。
「!? ……スキルか」
『赤鬼』がミアを見ながら、楽しそうに微笑んだ。
 その隙を突こうと、ニナが長剣を大広間の床に突き立てる。
 そのまま魔法陣に魔力を流す。
 氷の大剣が十振り。
 地面から伸びるようにして『赤鬼』に突き刺さる。
 ――避ける素振りもない、か。
 その様子にニナは頭を抱えたくなった。
 二代目『赤鬼』の体は初代と同じく『自己再生』していた。
「おら!」
 回復が済むなり『赤鬼』がもう一度、金棒を上段から叩きつける。
 ニナが軽く体をずらす。
 避けることは難しくない。
 しかし、その威力に身震いする。
 加えて固有スキル『自己再生』による耐久力。
 馬鹿馬鹿しくなるほど単純な身体能力の強さだ。
「よっ!」
 今度は薙ぎ払い。同じように躱して見せる。
 間合いは大きいが、だからこそ安全地帯も少なくなかった。
「ッ!」
 ――来たか。
 躱すと同時、ニナは唐突に背後へと長剣を払う。
 ナタリーを狙った『青鬼』の斬り払いが弾かれる。
 ミアが機転で『赤鬼』の懐へと飛び込んだ。
 スキル『斥力』で追撃を防ぐ。
『青鬼』が舌打ちだけを残して『帰る』。
 ホールの物陰から改めて『青鬼』が現れた。
「でしょうね」
「だろうなぁ」
 お互いに予定調和だと言うように、二刀と魔法剣が向かい合った。