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第一部 52話 『アッシュ・クレフ』襲撃

ー/ー



 レンと戦ってから五日目。
 俺は朝の日課である訓練を時計塔公園で行っている。

 双剣、長槍、盾、籠手、鎖、と順にリックを錬金してゆく。
 鎖を付近の木々に錬金で張り付けて、その上で何度か跳躍する。
 最後に鎖をナイフに戻しながら飛び降りた。

 王都に来る前と比べて、随分と自然に錬金できるようになった。

 次にナイフを軽く素振りする。
 上下左右に順手と逆手。一通り動きを確認してから一休みする。

 休みながら、時計塔を見上げる。

 その頂上。鐘楼の更に上の屋根の上からブラウン団長が王都全体を監視しているはずだった。例え話を続けるならば、ろうそくの炎である。

 そして俺はこの時計塔公園に陣取っていた。
 どちらかと言えば俺の方がブラウン団長の護衛に近い。



 そして、襲撃が始まった。
 十分に備えていたはずのそれは、予想外の形から始まった。

 ――一瞬だけ。
 ――辺り一面の地面が真っ黒に染まった。

「今の」

 影だ。影が王都の情報を読み取った――!
 それはつまり。

レン・クーガー(兄さん)』が動いたということだ。

 次に王都のあちこちから火柱が上がる。
 全て陽動だろうが、騎士団は対処せざるを得ない。

「やられた」

『鬼』はレンを味方に付けたのか? いや、それは違和感がある。
 しかし、状況的にそう考えるしか……。

 その時、風に乗ってブラウン団長の声が届いた。

「どう思う?」

「正直に言えば、信じられないです」

「? と言うと?」

「タイミングを考えれば『鬼』と協力したとしか考えられない」

「私もそう思う。
 協力することがあり得ないと?」

「いいえ。兄さんは価値さえあれば誰とでも協力します。
 問題は『鬼』にそれだけの価値がないということです。
 俺を殺すにしても、今じゃなくて良い。今は王都から離れるだけで良いのです。
『鬼』の無謀に付き合う価値がない」

 俺は一瞬だけ考えて、さらに続ける。

「今かも知れないし、明日かも知れない。
 あるいは五日後、数か月後、一年後、数年後。いつ襲ってくるか分からない。
 でも必ず殺す。最大効率で殺す。そういう強さなんです。
 正直、兄さんを止めるという観点で言えば千載一遇の機会でしかない。
 こんなにも合理的でない兄さんは初めて見た」

「なるほど。いつも通りではない、か。
 では、どのような状態だと考える?」

「一言で言えば――八つ当たり、です。
 何があったのか分からないけれど、まるで自殺志願だ」

「逃がす手はない、と?」

「はい。逃がせばすぐ冷静に戻るでしょう。
 その後は八つ当たりに合理性が生まれます」

「それは脅威だろうな」

 ――兄さんが王都へと正面から仕掛けて来たって?
 ――だとすれば、まるで『壊れた殺人兵器』だ。

 ――何が起これば、そこまで兄さんが壊れるのだろうか。



 時計塔の屋根の上。
 魔術師団長は軽く目を細めた。

「……ほう」

 ブラウン・バケットは王都全域に風を舞わせることで、襲撃に備えていた。
 しかし、その風を解かざるを得ないと判断した。風の向きを一方向へと限定させる。

「随分と堂々とした姿じゃないか」

 皮肉を口にしたものの、あまり余裕は出せなかった。

 ――三番街と四番街のちょうど中間。
 ――外壁の上に、黒づくめのハーフエルフが立っていた。



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 レンと戦ってから五日目。
 俺は朝の日課である訓練を時計塔公園で行っている。
 双剣、長槍、盾、籠手、鎖、と順にリックを錬金してゆく。
 鎖を付近の木々に錬金で張り付けて、その上で何度か跳躍する。
 最後に鎖をナイフに戻しながら飛び降りた。
 王都に来る前と比べて、随分と自然に錬金できるようになった。
 次にナイフを軽く素振りする。
 上下左右に順手と逆手。一通り動きを確認してから一休みする。
 休みながら、時計塔を見上げる。
 その頂上。鐘楼の更に上の屋根の上からブラウン団長が王都全体を監視しているはずだった。例え話を続けるならば、ろうそくの炎である。
 そして俺はこの時計塔公園に陣取っていた。
 どちらかと言えば俺の方がブラウン団長の護衛に近い。
 そして、襲撃が始まった。
 十分に備えていたはずのそれは、予想外の形から始まった。
 ――一瞬だけ。
 ――辺り一面の地面が真っ黒に染まった。
「今の」
 影だ。影が王都の情報を読み取った――!
 それはつまり。
『|レン・クーガー《兄さん》』が動いたということだ。
 次に王都のあちこちから火柱が上がる。
 全て陽動だろうが、騎士団は対処せざるを得ない。
「やられた」
『鬼』はレンを味方に付けたのか? いや、それは違和感がある。
 しかし、状況的にそう考えるしか……。
 その時、風に乗ってブラウン団長の声が届いた。
「どう思う?」
「正直に言えば、信じられないです」
「? と言うと?」
「タイミングを考えれば『鬼』と協力したとしか考えられない」
「私もそう思う。
 協力することがあり得ないと?」
「いいえ。兄さんは価値さえあれば誰とでも協力します。
 問題は『鬼』にそれだけの価値がないということです。
 俺を殺すにしても、今じゃなくて良い。今は王都から離れるだけで良いのです。
『鬼』の無謀に付き合う価値がない」
 俺は一瞬だけ考えて、さらに続ける。
「今かも知れないし、明日かも知れない。
 あるいは五日後、数か月後、一年後、数年後。いつ襲ってくるか分からない。
 でも必ず殺す。最大効率で殺す。そういう強さなんです。
 正直、兄さんを止めるという観点で言えば千載一遇の機会でしかない。
 こんなにも合理的でない兄さんは初めて見た」
「なるほど。いつも通りではない、か。
 では、どのような状態だと考える?」
「一言で言えば――八つ当たり、です。
 何があったのか分からないけれど、まるで自殺志願だ」
「逃がす手はない、と?」
「はい。逃がせばすぐ冷静に戻るでしょう。
 その後は八つ当たりに合理性が生まれます」
「それは脅威だろうな」
 ――兄さんが王都へと正面から仕掛けて来たって?
 ――だとすれば、まるで『壊れた殺人兵器』だ。
 ――何が起これば、そこまで兄さんが壊れるのだろうか。
 時計塔の屋根の上。
 魔術師団長は軽く目を細めた。
「……ほう」
 ブラウン・バケットは王都全域に風を舞わせることで、襲撃に備えていた。
 しかし、その風を解かざるを得ないと判断した。風の向きを一方向へと限定させる。
「随分と堂々とした姿じゃないか」
 皮肉を口にしたものの、あまり余裕は出せなかった。
 ――三番街と四番街のちょうど中間。
 ――外壁の上に、黒づくめのハーフエルフが立っていた。