表示設定
表示設定
目次 目次




第一部 51話 出来ること

ー/ー



 その日から俺とナタリー、その護衛はバケット邸で過ごすこととなった。
 俺は緊急入院が延長になったくらいだが。

 状況を良く分かっていないナタリーアリスは大喜びである。
「合法お泊り会だ」と叫んでいる。まるで『違法』も存在したような口ぶりだったが?

 しかし、喜んだのは護衛二人も同じだったろう。
 バケット邸に入ったニナとミアは目を丸くしていた。

「これはまた、すごい豪邸ですね……」
「ここに住めるっすかー!」
「ミアはともかく、ニナさんはこういう状況に慣れてそうだけど?」

 俺がそう言うと、二人は目を丸くした。

「そ、そうですか?」
「だって言葉遣いもちゃんとしてるし、裕福な家の出身なのかと……」
「いや、そうではなくて……」
「アッシュさん。ニナ・ローズと言ったら、孤児院出身で有名なんですよ」
「え、そうなの!?」

 ニナが照れくさそうに笑っている。
 俺は少しだけ攻撃することにした。

「なるほど。そして『一番隊副隊長』まで出世した、と」
「だ、だから! それは隠すつもりはなくてですね?」

 ミアが楽しそうに笑っている。



 緊急会議があった午後。
 その日の内に俺達兄妹とその護衛三人――おまけでアリス――は時計塔公園の一角に集まっていた。

 午前中に首脳レベルの会議があったので、今度は現場レベルで会議をしようという考えだ。とは言え、いつものメンバーなので公園の広場に車座となって話し合いをするだけだが。

 ナタリーは胡坐をかいた俺の上に座り、アリスはブラウン団長の隣。
 二人ともお出かけで機嫌が良さそうだ。

「しかし、良いのですか? 屋敷の中にいた方が安全なのではないですか」
「いや、そうとも言い切れないだろう。
 居場所が特定されていることが不利に働くかも知れない」
「移動には賛成っす。王都内であれば危険の度合いは変わらない」
「なるほど。理解しました」
「では、始めようか。まずは各々の能力からだ。
 私は生粋の魔術師だ。使い魔はジャック。風の精霊だ」
「やあやあ! よろしくね」

 ジャックがブラウン団長のポケットから顔を出す。

「こいつの能力で防音は保証する。
 盗み聞きの心配はない」

 ブラウン団長が言い終わると、ニナが口を開いた。

「では、次は私が。私も本来は魔術師です。
 剣に魔法陣を描いて使います。使い魔はレオ。雷の精霊です」
「おう! やっと挨拶だな? よろしくっ!」

 近くの樹の上から声が聞こえて来た。
 見上げれば、赤いローブを目深に被った小さな姿があった。

「レオには周囲を警戒してもらっています。
 何かあれば微弱な電流で伝えてもらいます」
「ニナさん、魔術師だったの?」
「はい。隠していたわけではないのですが……。
 あの、自分で言うのも何ですけど、割と有名な話かと」

 俺の言葉に、ニナが困ったように笑う。

「ま、この二人は例外っすよ。
 王都の事情を知らなくて当然」

 ミアが俺とナタリーを手の平で示す。
 助けに入るような相槌を入れて、そのまま続ける。

「次は、あたしっすね。……でも、言えることがほとんどないっすよ。
 スキル『引力』『斥力』を使います。皆、使い魔がいて良いっすねぇ」

「最後は俺かな。
 スキル『錬金術』で、使い魔『メタルスライム』を使う」
「どーも」

 俺とリックの挨拶に、ミアが「相変わらず分かりやすいっすね」と呟いた。



 そのまま会議を始めようとしたのだが、いったん休憩となった。

 ニナさんに伝令が来て、脇に逸れて話をしている。
 騎士団も王都内の警備を強める必要があるのだろう。

 連絡が来るのは仕方がない。
 俺達はなるべく離れないように待っている。

 俺はすぐ隣の広場まで移動すると、ごろん、と横になって休むことにした。
 隣でナタリーが真似をする。

「おい、邪魔だぞ」

 上から掛けられた声に反応する。
 柄の悪い男が三人、こちらを見ていた。

「あ、すみません」

 俺は素直にナタリーを連れて立ち上がると、脇へ避けようとする。

「ちっ、気に食わねえな」

 リーダー格らしい男は俺の胸倉を掴もうとする。
 俺はナタリーを連れたまま、屈みながら距離を取る。

「何するんですか!」

 言いながら、俺はナタリーに他のメンバーを呼ぶように手で合図する。
 また『鬼』と関係があるのか?

 男がもう一度手を伸ばす。数回避けて気が付いた。あまりにも動きが遅い。
 いや『赤鬼』と比較するのも酷なのだが。

「ちょこまかと動くな!」

 ナタリーが離れたことを確認すると、俺は一度大きく後ろへ跳んだ。

 そのまま間隔が短い二本の樹を交互に蹴り上げて登っていく。
 太い枝の上に着地してしゃがみ込んだ。

「だから! すみませんって!」
「おい! 下りて来い、こらっ!」

 男が俺のいる樹を蹴りつける。

「何をやっているのですか?」
「ははは、アッシュさんはいつも一瞬で巻き込まれるっすね!」

 大男の後ろからニナとミアが出てくる。
 何故か俺の肩でリックが頷いた気がした。

「……え?」

「待て、今回は近くにいたぞ! 俺だけの責任ではないはずだ」

「…………え?」

「ふむ、それは確かに。護衛側が目を離していた責任はあるな」

 ブラウン団長が続いて出てくる。
 両隣にはナタリーとアリスだ。

「………………え?」

 男はただただ混乱するのみ。
 道端で寝転がる気に食わない男にいちゃもんを付けたら、この面子である。

 チンピラ用の美人局みたいなものだった。
 チンピラホイホイでも良いが。

 ――あれ? 状況的に男女逆……では?
 ――いや、何でもない。

 男達は無抵抗のまま、大人しく連行されていった。

 その後、最低限の方針だけ決めると、バケット邸へと戻ることとなった。
 ざっくりと言うなら、俺とナタリーは別の場所へ配置すること。俺自身は戦力とも見なすこと。

 男達については『鬼』とは何の関係もない、ただの迷惑極まるチンピラだった。



スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 その日から俺とナタリー、その護衛はバケット邸で過ごすこととなった。
 俺は緊急入院が延長になったくらいだが。
 状況を良く分かっていないナタリーアリスは大喜びである。
「合法お泊り会だ」と叫んでいる。まるで『違法』も存在したような口ぶりだったが?
 しかし、喜んだのは護衛二人も同じだったろう。
 バケット邸に入ったニナとミアは目を丸くしていた。
「これはまた、すごい豪邸ですね……」
「ここに住めるっすかー!」
「ミアはともかく、ニナさんはこういう状況に慣れてそうだけど?」
 俺がそう言うと、二人は目を丸くした。
「そ、そうですか?」
「だって言葉遣いもちゃんとしてるし、裕福な家の出身なのかと……」
「いや、そうではなくて……」
「アッシュさん。ニナ・ローズと言ったら、孤児院出身で有名なんですよ」
「え、そうなの!?」
 ニナが照れくさそうに笑っている。
 俺は少しだけ攻撃することにした。
「なるほど。そして『一番隊副隊長』まで出世した、と」
「だ、だから! それは隠すつもりはなくてですね?」
 ミアが楽しそうに笑っている。
 緊急会議があった午後。
 その日の内に俺達兄妹とその護衛三人――おまけでアリス――は時計塔公園の一角に集まっていた。
 午前中に首脳レベルの会議があったので、今度は現場レベルで会議をしようという考えだ。とは言え、いつものメンバーなので公園の広場に車座となって話し合いをするだけだが。
 ナタリーは胡坐をかいた俺の上に座り、アリスはブラウン団長の隣。
 二人ともお出かけで機嫌が良さそうだ。
「しかし、良いのですか? 屋敷の中にいた方が安全なのではないですか」
「いや、そうとも言い切れないだろう。
 居場所が特定されていることが不利に働くかも知れない」
「移動には賛成っす。王都内であれば危険の度合いは変わらない」
「なるほど。理解しました」
「では、始めようか。まずは各々の能力からだ。
 私は生粋の魔術師だ。使い魔はジャック。風の精霊だ」
「やあやあ! よろしくね」
 ジャックがブラウン団長のポケットから顔を出す。
「こいつの能力で防音は保証する。
 盗み聞きの心配はない」
 ブラウン団長が言い終わると、ニナが口を開いた。
「では、次は私が。私も本来は魔術師です。
 剣に魔法陣を描いて使います。使い魔はレオ。雷の精霊です」
「おう! やっと挨拶だな? よろしくっ!」
 近くの樹の上から声が聞こえて来た。
 見上げれば、赤いローブを目深に被った小さな姿があった。
「レオには周囲を警戒してもらっています。
 何かあれば微弱な電流で伝えてもらいます」
「ニナさん、魔術師だったの?」
「はい。隠していたわけではないのですが……。
 あの、自分で言うのも何ですけど、割と有名な話かと」
 俺の言葉に、ニナが困ったように笑う。
「ま、この二人は例外っすよ。
 王都の事情を知らなくて当然」
 ミアが俺とナタリーを手の平で示す。
 助けに入るような相槌を入れて、そのまま続ける。
「次は、あたしっすね。……でも、言えることがほとんどないっすよ。
 スキル『引力』『斥力』を使います。皆、使い魔がいて良いっすねぇ」
「最後は俺かな。
 スキル『錬金術』で、使い魔『メタルスライム』を使う」
「どーも」
 俺とリックの挨拶に、ミアが「相変わらず分かりやすいっすね」と呟いた。
 そのまま会議を始めようとしたのだが、いったん休憩となった。
 ニナさんに伝令が来て、脇に逸れて話をしている。
 騎士団も王都内の警備を強める必要があるのだろう。
 連絡が来るのは仕方がない。
 俺達はなるべく離れないように待っている。
 俺はすぐ隣の広場まで移動すると、ごろん、と横になって休むことにした。
 隣でナタリーが真似をする。
「おい、邪魔だぞ」
 上から掛けられた声に反応する。
 柄の悪い男が三人、こちらを見ていた。
「あ、すみません」
 俺は素直にナタリーを連れて立ち上がると、脇へ避けようとする。
「ちっ、気に食わねえな」
 リーダー格らしい男は俺の胸倉を掴もうとする。
 俺はナタリーを連れたまま、屈みながら距離を取る。
「何するんですか!」
 言いながら、俺はナタリーに他のメンバーを呼ぶように手で合図する。
 また『鬼』と関係があるのか?
 男がもう一度手を伸ばす。数回避けて気が付いた。あまりにも動きが遅い。
 いや『赤鬼』と比較するのも酷なのだが。
「ちょこまかと動くな!」
 ナタリーが離れたことを確認すると、俺は一度大きく後ろへ跳んだ。
 そのまま間隔が短い二本の樹を交互に蹴り上げて登っていく。
 太い枝の上に着地してしゃがみ込んだ。
「だから! すみませんって!」
「おい! 下りて来い、こらっ!」
 男が俺のいる樹を蹴りつける。
「何をやっているのですか?」
「ははは、アッシュさんはいつも一瞬で巻き込まれるっすね!」
 大男の後ろからニナとミアが出てくる。
 何故か俺の肩でリックが頷いた気がした。
「……え?」
「待て、今回は近くにいたぞ! 俺だけの責任ではないはずだ」
「…………え?」
「ふむ、それは確かに。護衛側が目を離していた責任はあるな」
 ブラウン団長が続いて出てくる。
 両隣にはナタリーとアリスだ。
「………………え?」
 男はただただ混乱するのみ。
 道端で寝転がる気に食わない男にいちゃもんを付けたら、この面子である。
 チンピラ用の美人局みたいなものだった。
 チンピラホイホイでも良いが。
 ――あれ? 状況的に男女逆……では?
 ――いや、何でもない。
 男達は無抵抗のまま、大人しく連行されていった。
 その後、最低限の方針だけ決めると、バケット邸へと戻ることとなった。
 ざっくりと言うなら、俺とナタリーは別の場所へ配置すること。俺自身は戦力とも見なすこと。
 男達については『鬼』とは何の関係もない、ただの迷惑極まるチンピラだった。