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第一部 50話 緊急会議

ー/ー



 ブラウン団長とナタリーと三人でしばらく街並みを歩くと、魔術師団の学舎が見えて来た。

 外からは一度眺めたことがある。
 しかし、入るのは今日が初めてだった。

 俺とナタリーの宿から近いので選ばれたのだろう。
 顔パスで学舎の中へと入り、しばらく歩く。

 一つの扉の前まで来ると、ブラウン団長はそのままガチャリと扉を開けた。

「うわぁ」

 聞こえないように、口の中だけで呟いた。

 その部屋には正方形を描くように机と椅子が並んでいた。
 ミアを見つけたので歩いていく。

 目線で軽い会釈だけして、ナタリーと並んで隣に腰掛けた。
 まぁ、ここに座るのが正しいんだろうな。

「全員揃ったようだね、始めようか。
 今回はいつもと参加者が違う。まずは自己紹介からとしよう」

 右の机から女性が良く通る声を出した。
 そのまま続ける。

「では私から。騎士団長のヒルダ・クロムウェルだ」
「騎士団一番隊副隊長のニナ・ローズと申します」

「ブラウン・バケット。魔術師団長をしている」
「シェリー・ターナー。魔術師団の副団長です」

「組合長、ギルバート・アンドリューだ。よろしくな」
「冒険者組合『スキルマスター』ラルフ・コーネルです」

 反時計回りに二人ずつ自己紹介を済ませて行った。
 知らない人が何人かいる……そして、知っている人が何故か一人多い。

 ――ニナさん、なんでそこにいるの?

 俺とミアが顔を見合わせた。
 この後で自己紹介するの?

「冒険者組合『小惑星』ミア・クラークと申します。
 二人の護衛役を任されています」

 あ、ずるい。先に言いやがった。
 最後が嫌だから順番飛ばしただろ!

「アッシュ・クレフです」

 ほら、俺達はこれしか言うことないんだぞ!

「えーと、それでこっちが」

 ナタリー? と小さく声を掛ける。

「……ナタリー・クレフです」

 緊張した様子で、ナタリーは呟いた。
 分かる。

「それでは会議を開始しようか。
 議題は『鬼』だ」



「まずは『鬼』について、情報を共有したい。ニナ」

「はい。残念ながら騎士団が持っている情報は多くありません。
 もしも補足や訂正があれば教えてください」

 聞き取りやすい口調でニナは言って、全体を見回した。

「まずは世界中で暗躍していること。
『黒鬼印』という高品質の武器を扱っていること。
 これはほとんど常識の範疇ですね」

 一拍置いて続ける。

「次に確認できている個体ですが『赤鬼』『青鬼』のみ。
 これも調べれば分かる範囲です。
 ああ、下級の魔物である普通の鬼はひとまず除いています」

 さらに一拍。

「実際に起こした事件ですが、王国に範囲を限定すれば『ハーフエルフの小国』での『大魔法』発動。これは騎士団の調査で発動時に『黒鬼印』が使用されていたことが確認できています。『鬼』の関与は間違いないかと」

 ニナがちらりと俺を見た。

「そしてこちらの『クレフ兄妹』への執拗な襲撃です」

 そこで、ギルバートと名乗った組合長が手を挙げた。
 随分と若く、俺よりも年下に見える。

 耳が尖っていないので、俺と同じハーフドワーフだろう。

「すまんな、一つ質問だ。
 今でも『鬼』がその二人を狙っていると言えるのか?」

「はい。騎士団としてもその確証が持てませんでした。
 しかし先日『ナタリー・クレフ』さんの誘拐騒ぎがありました」

「なるほど」

「ええ。捕らえた主犯が口を割りました。
『鬼』に協力を持ち掛けられた、とのことです」

 そこでニナは一度、息を吸った。全員の視線を集めてから、神妙に口を開く。

「加えて『鬼』は王都への襲撃計画を考えている、と。
 スキルで裏は取りました」

 全員が目を見開いたのが分かった。

「それでこの緊急会議か。納得納得」

「はい。まずは何か『鬼』に対する有力な情報はありませんか?」

「では俺から」

『スキルマスター』が口を開いた。

「『鬼』が二人を狙っているという事実には信憑性があると思う」

「ほう。それはどうして?」

 ブラウン団長が訊き返す。
 俺達から聞いているからこそ、気になったのだろう。

「はい。世界中の『鬼』の行動を可能な限り分析しました。
 分かったことが一つ、奴らの作戦行動は『誰かの死』で終わります。
 殺せれば撤退、殺せなければ狙い続ける。このどちらかだと結論付けました」

「なるほど。
 逆に言えば、二人が生きている限りは狙い続けるという意味だな?」

 ブラウン団長の言葉に『スキルマスター』が頷いた。

 俺と恐らくはブラウン団長も、内心で驚いていた。
『鍵』の情報がないにも関わらず『鬼』の目的をかなりの精度で言い当てていた。

「次、いいですか?」

 白髪で年配の女性が声を上げた。
 シェリーと名乗った魔術師団副団長だ。

 ハーフエルフのようだから、かなりの高齢だろう。
 ブラウン団長の部下になるのか。

 全員の注目を浴びた後、シェリーは続けた。

「この学舎で『鬼』に関する資料を可能な限り集めました。
 しかし『鬼』が――いえ、そもそも魔物が――人間と同等以上の武器を作成したなどという記述はどこにもありません。少なくとも学術的に『鬼』は『新種の魔物』あるいは『魔物ではない』と考えた方が良いかもしれませんね」

 それぞれが別の反応を返した。驚く者。納得する者。考え込む者。

「もしも『魔物ではない』のであれば、単純に討伐とはいかなくなるだろうな」

 騎士団長が呟いた。
 さらに続ける。

「だが、王都を襲撃する以上は迎え撃たねばならない」

 ニナに目を向けて、先を促した。

「はい。ひとまず、情報交換としてはこのくらいでしょう。
 次は『鬼』の王都襲撃への対応についてです。ここまでの話を総合すると、目標は『クレフ兄妹』で間違いないかと。少数精鋭での暗殺が想定されます。となると二人を護衛しつつ、王都で『鬼』を迎え撃つしかない。まずは人員ですが、私はこのまま『ナタリー・クレフ』さんの護衛を続ける予定です」

「では『アッシュ・クレフ』には私が付こうか」
「ははッ、随分と豪華な護衛だな」

 魔術師団長の言葉に組合長が食いついた。

「護衛役が国の要人ってどうなんだ?
 護衛の方が価値あるんじゃないのか?」

「なるほど。では代案をくれないだろうか?
『アッシュ・クレフ』は近接戦では『赤鬼』『青鬼』とも渡り合った実績がある。
 しかし遠距離戦は不向きだ」

 組合長は黙って聞いている。

「遠距離戦で『鬼』と戦えて『アッシュ・クレフ』と連携が取れる人物を教えてほしい」

「……分かった、撤回する」

 やがて組合長は首を左右に振った。
 しかし、仕切り直すように続けて言う。

「ミア、お前は『ナタリー・クレフ』に付け。
 バランスを考えたらそっちだ。兄の方は任せちまえ」

「はい」

 ミアがすぐさま頷いた。

「人員の配置は決まりですね。
 襲撃は数日中だと予想されます」

 そして、お開きとなった。

 ――俺はブルブルと震えていただけだった。



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 ブラウン団長とナタリーと三人でしばらく街並みを歩くと、魔術師団の学舎が見えて来た。
 外からは一度眺めたことがある。
 しかし、入るのは今日が初めてだった。
 俺とナタリーの宿から近いので選ばれたのだろう。
 顔パスで学舎の中へと入り、しばらく歩く。
 一つの扉の前まで来ると、ブラウン団長はそのままガチャリと扉を開けた。
「うわぁ」
 聞こえないように、口の中だけで呟いた。
 その部屋には正方形を描くように机と椅子が並んでいた。
 ミアを見つけたので歩いていく。
 目線で軽い会釈だけして、ナタリーと並んで隣に腰掛けた。
 まぁ、ここに座るのが正しいんだろうな。
「全員揃ったようだね、始めようか。
 今回はいつもと参加者が違う。まずは自己紹介からとしよう」
 右の机から女性が良く通る声を出した。
 そのまま続ける。
「では私から。騎士団長のヒルダ・クロムウェルだ」
「騎士団一番隊副隊長のニナ・ローズと申します」
「ブラウン・バケット。魔術師団長をしている」
「シェリー・ターナー。魔術師団の副団長です」
「組合長、ギルバート・アンドリューだ。よろしくな」
「冒険者組合『スキルマスター』ラルフ・コーネルです」
 反時計回りに二人ずつ自己紹介を済ませて行った。
 知らない人が何人かいる……そして、知っている人が何故か一人多い。
 ――ニナさん、なんでそこにいるの?
 俺とミアが顔を見合わせた。
 この後で自己紹介するの?
「冒険者組合『小惑星』ミア・クラークと申します。
 二人の護衛役を任されています」
 あ、ずるい。先に言いやがった。
 最後が嫌だから順番飛ばしただろ!
「アッシュ・クレフです」
 ほら、俺達はこれしか言うことないんだぞ!
「えーと、それでこっちが」
 ナタリー? と小さく声を掛ける。
「……ナタリー・クレフです」
 緊張した様子で、ナタリーは呟いた。
 分かる。
「それでは会議を開始しようか。
 議題は『鬼』だ」
「まずは『鬼』について、情報を共有したい。ニナ」
「はい。残念ながら騎士団が持っている情報は多くありません。
 もしも補足や訂正があれば教えてください」
 聞き取りやすい口調でニナは言って、全体を見回した。
「まずは世界中で暗躍していること。
『黒鬼印』という高品質の武器を扱っていること。
 これはほとんど常識の範疇ですね」
 一拍置いて続ける。
「次に確認できている個体ですが『赤鬼』『青鬼』のみ。
 これも調べれば分かる範囲です。
 ああ、下級の魔物である普通の鬼はひとまず除いています」
 さらに一拍。
「実際に起こした事件ですが、王国に範囲を限定すれば『ハーフエルフの小国』での『大魔法』発動。これは騎士団の調査で発動時に『黒鬼印』が使用されていたことが確認できています。『鬼』の関与は間違いないかと」
 ニナがちらりと俺を見た。
「そしてこちらの『クレフ兄妹』への執拗な襲撃です」
 そこで、ギルバートと名乗った組合長が手を挙げた。
 随分と若く、俺よりも年下に見える。
 耳が尖っていないので、俺と同じハーフドワーフだろう。
「すまんな、一つ質問だ。
 今でも『鬼』がその二人を狙っていると言えるのか?」
「はい。騎士団としてもその確証が持てませんでした。
 しかし先日『ナタリー・クレフ』さんの誘拐騒ぎがありました」
「なるほど」
「ええ。捕らえた主犯が口を割りました。
『鬼』に協力を持ち掛けられた、とのことです」
 そこでニナは一度、息を吸った。全員の視線を集めてから、神妙に口を開く。
「加えて『鬼』は王都への襲撃計画を考えている、と。
 スキルで裏は取りました」
 全員が目を見開いたのが分かった。
「それでこの緊急会議か。納得納得」
「はい。まずは何か『鬼』に対する有力な情報はありませんか?」
「では俺から」
『スキルマスター』が口を開いた。
「『鬼』が二人を狙っているという事実には信憑性があると思う」
「ほう。それはどうして?」
 ブラウン団長が訊き返す。
 俺達から聞いているからこそ、気になったのだろう。
「はい。世界中の『鬼』の行動を可能な限り分析しました。
 分かったことが一つ、奴らの作戦行動は『誰かの死』で終わります。
 殺せれば撤退、殺せなければ狙い続ける。このどちらかだと結論付けました」
「なるほど。
 逆に言えば、二人が生きている限りは狙い続けるという意味だな?」
 ブラウン団長の言葉に『スキルマスター』が頷いた。
 俺と恐らくはブラウン団長も、内心で驚いていた。
『鍵』の情報がないにも関わらず『鬼』の目的をかなりの精度で言い当てていた。
「次、いいですか?」
 白髪で年配の女性が声を上げた。
 シェリーと名乗った魔術師団副団長だ。
 ハーフエルフのようだから、かなりの高齢だろう。
 ブラウン団長の部下になるのか。
 全員の注目を浴びた後、シェリーは続けた。
「この学舎で『鬼』に関する資料を可能な限り集めました。
 しかし『鬼』が――いえ、そもそも魔物が――人間と同等以上の武器を作成したなどという記述はどこにもありません。少なくとも学術的に『鬼』は『新種の魔物』あるいは『魔物ではない』と考えた方が良いかもしれませんね」
 それぞれが別の反応を返した。驚く者。納得する者。考え込む者。
「もしも『魔物ではない』のであれば、単純に討伐とはいかなくなるだろうな」
 騎士団長が呟いた。
 さらに続ける。
「だが、王都を襲撃する以上は迎え撃たねばならない」
 ニナに目を向けて、先を促した。
「はい。ひとまず、情報交換としてはこのくらいでしょう。
 次は『鬼』の王都襲撃への対応についてです。ここまでの話を総合すると、目標は『クレフ兄妹』で間違いないかと。少数精鋭での暗殺が想定されます。となると二人を護衛しつつ、王都で『鬼』を迎え撃つしかない。まずは人員ですが、私はこのまま『ナタリー・クレフ』さんの護衛を続ける予定です」
「では『アッシュ・クレフ』には私が付こうか」
「ははッ、随分と豪華な護衛だな」
 魔術師団長の言葉に組合長が食いついた。
「護衛役が国の要人ってどうなんだ?
 護衛の方が価値あるんじゃないのか?」
「なるほど。では代案をくれないだろうか?
『アッシュ・クレフ』は近接戦では『赤鬼』『青鬼』とも渡り合った実績がある。
 しかし遠距離戦は不向きだ」
 組合長は黙って聞いている。
「遠距離戦で『鬼』と戦えて『アッシュ・クレフ』と連携が取れる人物を教えてほしい」
「……分かった、撤回する」
 やがて組合長は首を左右に振った。
 しかし、仕切り直すように続けて言う。
「ミア、お前は『ナタリー・クレフ』に付け。
 バランスを考えたらそっちだ。兄の方は任せちまえ」
「はい」
 ミアがすぐさま頷いた。
「人員の配置は決まりですね。
 襲撃は数日中だと予想されます」
 そして、お開きとなった。
 ――俺はブルブルと震えていただけだった。