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第一部 49話 『殺人鬼』と『青鬼』

ー/ー



 レンはすでに王都を離れて、土地勘のある『ハーフエルフの森』で休息を取っていた。レン自身は大した怪我もしていないし、体力的な消耗については少し時間を置けば回復する程度だ。

 もともとレンは王都に補給を目的として来ていた。
 それは十分に達成している。

「まあ、結果だけを見れば上々だ」

 拠点としている清流の水場、その中でも一際大きな樹の根本へ目を向ける。

 王都から脱出する際に回収した荷物が置いてあった。
 これを魔法で運ぶ必要があったため、すでに夕暮れ時になってしまったが。

 レンの名義とは別に王都の外壁付近にもう一つ宿を取って、逃走用の部屋を準備していたのだ。その宿に必要なものは全て用意してあった。この状況はレンが想定していたパターンの一つだ。

 想定外があったとすれば――

「仁」

 ――前世の弟がいたこと。

 考えてみれば、検討しておくべき内容だったとレンは考える。
 自分が死んだ後にここへ来ているのだから、同じ時間と場所で死んだ弟も来ている可能性は考えるべきだったと。

 実際には兄弟がここへやって来た経緯は異なるものだったが、レンには分かるはずもない。

「大丈夫?」

 足元から声がした。
 レンの使い魔である『影の精霊』リサだ。

 黒いドレスを纏った精霊は、レンの影から顔半分を浮かべるようにして主人を心配そうに窺っていた。

「ああ、大丈夫だよ。心配ない」

 レンは浮かんでいる小さな頭を軽く撫でてやる。
 リサは少し安心したようだが、完全に不安は消えずに続けた。

「だって、すごく怒った顔してる」

 指摘されて、はたと気づく。
 確かにと。

「まあ、会いたくない奴と会ったからな」

 弟の行動を思い出して、苛立っていることを自覚した。
 思い出すのは騎士団員を守るために、疲労を押して飛び出した瞬間だ。

「……変わっていない」

 人のことは言えないな、とレンは自嘲した。



 その第一声は珍しかった。

「こちらに敵意はない」

 水場に響いたその声に、レンは立ち上がって辺りを警戒した。
 すぐさまいくつかの影を飛ばして、怪しい箇所の『影の形』を調べる。

 しかし、結果が出るよりも早くにソイツは姿を現した。

 真正面の獣道から両手を挙げて姿を見せたのは『青鬼』だった。
 口元だけは不敵に笑っている。

 レンは迷わずに『青鬼』へと歩き始める。

「繰り返すが、こちらに敵意はない」

 レンは何も返さずに歩き続ける。

「昨日の一件は見せてもらった。
 俺達とお前の目的は一致する部分があるように思う」

 歩みは止めずに、レンは腰の後ろに差したナイフを一本抜いた。

「お前は殺したい奴が王都にいるのではないか?
 俺達もそうだ。協力する気はないか」

 交戦距離まで近づいて、レンは走り出した。
 一息で距離を詰めて、首にナイフを一閃した。

『青鬼』が屈んで避ける。

「!?」

「チ」

『青鬼』の驚愕とレンの舌打ち。
 ナイフは斬撃の一瞬だけ氷の刃で間合いが伸びていた。
 屈まずに、退いて避けていたら死んでいただろう。

 慌てて『青鬼』が後ろへと跳ぶ。
 内心の警戒を示すように、追加で二度。

 合計三度、距離を取った後に『青鬼』は最低限の目的だけを果たすことにした。

「分かった、協力は諦める。しかしこちらの予定だけは教えておく。
 その気があるならば、合わせてくれ」

 レンは木々に目を凝らして、声を聞いている。

「四日後、王都へ潜入する」

 声に反応して、レンは手に持ったナイフを聞こえた方へと投げる。
 手応えはなかった。



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 レンはすでに王都を離れて、土地勘のある『ハーフエルフの森』で休息を取っていた。レン自身は大した怪我もしていないし、体力的な消耗については少し時間を置けば回復する程度だ。
 もともとレンは王都に補給を目的として来ていた。
 それは十分に達成している。
「まあ、結果だけを見れば上々だ」
 拠点としている清流の水場、その中でも一際大きな樹の根本へ目を向ける。
 王都から脱出する際に回収した荷物が置いてあった。
 これを魔法で運ぶ必要があったため、すでに夕暮れ時になってしまったが。
 レンの名義とは別に王都の外壁付近にもう一つ宿を取って、逃走用の部屋を準備していたのだ。その宿に必要なものは全て用意してあった。この状況はレンが想定していたパターンの一つだ。
 想定外があったとすれば――
「仁」
 ――前世の弟がいたこと。
 考えてみれば、検討しておくべき内容だったとレンは考える。
 自分が死んだ後にここへ来ているのだから、同じ時間と場所で死んだ弟も来ている可能性は考えるべきだったと。
 実際には兄弟がここへやって来た経緯は異なるものだったが、レンには分かるはずもない。
「大丈夫?」
 足元から声がした。
 レンの使い魔である『影の精霊』リサだ。
 黒いドレスを纏った精霊は、レンの影から顔半分を浮かべるようにして主人を心配そうに窺っていた。
「ああ、大丈夫だよ。心配ない」
 レンは浮かんでいる小さな頭を軽く撫でてやる。
 リサは少し安心したようだが、完全に不安は消えずに続けた。
「だって、すごく怒った顔してる」
 指摘されて、はたと気づく。
 確かにと。
「まあ、会いたくない奴と会ったからな」
 弟の行動を思い出して、苛立っていることを自覚した。
 思い出すのは騎士団員を守るために、疲労を押して飛び出した瞬間だ。
「……変わっていない」
 人のことは言えないな、とレンは自嘲した。
 その第一声は珍しかった。
「こちらに敵意はない」
 水場に響いたその声に、レンは立ち上がって辺りを警戒した。
 すぐさまいくつかの影を飛ばして、怪しい箇所の『影の形』を調べる。
 しかし、結果が出るよりも早くにソイツは姿を現した。
 真正面の獣道から両手を挙げて姿を見せたのは『青鬼』だった。
 口元だけは不敵に笑っている。
 レンは迷わずに『青鬼』へと歩き始める。
「繰り返すが、こちらに敵意はない」
 レンは何も返さずに歩き続ける。
「昨日の一件は見せてもらった。
 俺達とお前の目的は一致する部分があるように思う」
 歩みは止めずに、レンは腰の後ろに差したナイフを一本抜いた。
「お前は殺したい奴が王都にいるのではないか?
 俺達もそうだ。協力する気はないか」
 交戦距離まで近づいて、レンは走り出した。
 一息で距離を詰めて、首にナイフを一閃した。
『青鬼』が屈んで避ける。
「!?」
「チ」
『青鬼』の驚愕とレンの舌打ち。
 ナイフは斬撃の一瞬だけ氷の刃で間合いが伸びていた。
 屈まずに、退いて避けていたら死んでいただろう。
 慌てて『青鬼』が後ろへと跳ぶ。
 内心の警戒を示すように、追加で二度。
 合計三度、距離を取った後に『青鬼』は最低限の目的だけを果たすことにした。
「分かった、協力は諦める。しかしこちらの予定だけは教えておく。
 その気があるならば、合わせてくれ」
 レンは木々に目を凝らして、声を聞いている。
「四日後、王都へ潜入する」
 声に反応して、レンは手に持ったナイフを聞こえた方へと投げる。
 手応えはなかった。