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第一部 48話 本当の本当に悪意など欠片もない純粋な善意による看病

ー/ー



 目を開くと、見慣れた宿の天井が見えた。

「あ、起きた!」

「良かったね!」

 二人の少女が俺のベッド横で騒いでいた。

「ナタリーとアリス?」

 なるほど。あの後回収されたということか。
 今は昼過ぎくらいか? アリスも遊びに来ている、と。

 起き上がろうとするが、上手く体が動かなかった。
 自分が思っていたよりも疲労していたらしい。

 身体的な疲労よりも精神的な緊張に体力を奪われた気がする。
 無理もないように思えた。一度は自分を殺した相手だ。

「お兄ちゃん、熱があるんだって。
 今日はゆっくり休んでね」

 ナタリーが微笑んだ。
 俺は自分の家に帰ってきた安心感で目を閉じる。

 二人がベッドから離れていく。

「看病って何をすれば良いんだろう?」

 ナタリーが訊いた。

 ――待て。

「汗を拭くとかかな」

 アリスが答えた。

 ――待て待て。

「私が知ってるのは、手料理かな?
 後は布とかで体を冷ますと良いよ」

 加奈が余計なことを言いやがった。

 ――お気持ちだけ、と掠れた声を出す。
 ――すでに少女たちはいなかった。



 すぐに手料理が運ばれてきた。
 いや、手料理の定義って何だろうな?

 食べられなくても手料理なのだろうか?
 食べられるかどうかは誰が決めるのだろうか?

 ナタリー達は宿に金を渡して、キッチンを借りやがった。

 そうして出来上がった謎の物質を動けない俺の口に入れる。
 あまりの刺激に俺は吐き出してしまう。

 弱々しく呻く俺を見て少女たちは「仕方ないなぁ」と言って、吐き出したものを片づける。そしてまた刺激物を俺の口に入れて繰り返すのだ。体力的に弱っていることもあり、弱気になってしまう。

 ――いっそ殺せ?

 そこで、部屋の扉が開いた。

「アッシュ殿。
 目を覚ましたと聞きましたが、気分は良くなりましたか?」

 姿を見せたのは赤い髪の小柄な騎士団員。

 ――ニナさんが来てくれた。
 ――助かったぁ。

 ナタリーとアリスが看病をしているのだと聞いて、ニナさんは代わりにキッチンへと向かってくれた。これで一安心だと待っていると、ニナさんが手料理を運んでくれた。

 ――出てきたのは赤と黄色と紫の液体と固体の塊だった。
 ――ニナさん、あなたもダメなのか……?



 ナタリーが濡れた布を俺の顔から退ける。

「ぷはっ」

 呼吸の時間である。

「あの、熱はもういいから……」

「はい。あーん」

 仕方なく、口を開ける。毒見の時間である。
 ナタリーがニナさんとアリスの作った料理を俺の口に入れる。
 どうにか咀嚼する。何度か口にしたが、今回も例外なく咽た。

 ――うん、毒だね。
 ――そもそも色が警告色だもの。毒の色だもの。

 人体には毒だが、急いで飲み込む。
 急ぐ必要があるのだ。

 ナタリーが布を冷たい水に一度浸してから絞る。
 いや、絞れてはいないのだが、絞っているのだ。

 ナタリーが濡れたままの布を手に取る。

「だ、だから、熱はもういいから……せめて額だけに」

「駄目だよ。ちゃんと下げないと」

 諦めて大きく息を吸う。
 毒を摂取してでも、この作業が必要だった。

 濡れた布が俺の顔全体に被せられる。
 呼吸の時間が終わったのだ。

 いや、全くできないわけではないのだが……。

 ――確かこういう拷問あったよね?

 そこに救いの声が響いた。

「アッシュさん? お見舞いっすよー」

 扉が開く音とミアの声。
 続いて物が落ちる音。お見舞いの品だろうか。

 そして恐らく、俺の顔の上の濡れた布と毒物を見た。

「さ、殺人現場っすか……?」

 俺を救出した後、事情を知った救いの声は一通り笑い抜いた。
 どれだけ笑われても、感謝しかなかった。

 そして俺は全員を集めて、言った。

「ブラウン団長を呼んでくれ」

「……弁護士みたい」

 加奈がぼそりと返した。今回はお前も同罪だからな。



 弁護士、もといブラウン団長が来てからは早かった。
 素早く、ナタリーとアリス、加奈を的確に教育した後、ニナさんに苦言を呈した。
 さらに俺がまともに動けない状態であることを知ると、バケット邸へと搬送した。
 事実上の緊急入院だ。ようやく俺は休めることになった。

 ――死ぬかと思った。



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 目を開くと、見慣れた宿の天井が見えた。
「あ、起きた!」
「良かったね!」
 二人の少女が俺のベッド横で騒いでいた。
「ナタリーとアリス?」
 なるほど。あの後回収されたということか。
 今は昼過ぎくらいか? アリスも遊びに来ている、と。
 起き上がろうとするが、上手く体が動かなかった。
 自分が思っていたよりも疲労していたらしい。
 身体的な疲労よりも精神的な緊張に体力を奪われた気がする。
 無理もないように思えた。一度は自分を殺した相手だ。
「お兄ちゃん、熱があるんだって。
 今日はゆっくり休んでね」
 ナタリーが微笑んだ。
 俺は自分の家に帰ってきた安心感で目を閉じる。
 二人がベッドから離れていく。
「看病って何をすれば良いんだろう?」
 ナタリーが訊いた。
 ――待て。
「汗を拭くとかかな」
 アリスが答えた。
 ――待て待て。
「私が知ってるのは、手料理かな?
 後は布とかで体を冷ますと良いよ」
 加奈が余計なことを言いやがった。
 ――お気持ちだけ、と掠れた声を出す。
 ――すでに少女たちはいなかった。
 すぐに手料理が運ばれてきた。
 いや、手料理の定義って何だろうな?
 食べられなくても手料理なのだろうか?
 食べられるかどうかは誰が決めるのだろうか?
 ナタリー達は宿に金を渡して、キッチンを借りやがった。
 そうして出来上がった謎の物質を動けない俺の口に入れる。
 あまりの刺激に俺は吐き出してしまう。
 弱々しく呻く俺を見て少女たちは「仕方ないなぁ」と言って、吐き出したものを片づける。そしてまた刺激物を俺の口に入れて繰り返すのだ。体力的に弱っていることもあり、弱気になってしまう。
 ――いっそ殺せ?
 そこで、部屋の扉が開いた。
「アッシュ殿。
 目を覚ましたと聞きましたが、気分は良くなりましたか?」
 姿を見せたのは赤い髪の小柄な騎士団員。
 ――ニナさんが来てくれた。
 ――助かったぁ。
 ナタリーとアリスが看病をしているのだと聞いて、ニナさんは代わりにキッチンへと向かってくれた。これで一安心だと待っていると、ニナさんが手料理を運んでくれた。
 ――出てきたのは赤と黄色と紫の液体と固体の塊だった。
 ――ニナさん、あなたもダメなのか……?
 ナタリーが濡れた布を俺の顔から退ける。
「ぷはっ」
 呼吸の時間である。
「あの、熱はもういいから……」
「はい。あーん」
 仕方なく、口を開ける。毒見の時間である。
 ナタリーがニナさんとアリスの作った料理を俺の口に入れる。
 どうにか咀嚼する。何度か口にしたが、今回も例外なく咽た。
 ――うん、毒だね。
 ――そもそも色が警告色だもの。毒の色だもの。
 人体には毒だが、急いで飲み込む。
 急ぐ必要があるのだ。
 ナタリーが布を冷たい水に一度浸してから絞る。
 いや、絞れてはいないのだが、絞っているのだ。
 ナタリーが濡れたままの布を手に取る。
「だ、だから、熱はもういいから……せめて額だけに」
「駄目だよ。ちゃんと下げないと」
 諦めて大きく息を吸う。
 毒を摂取してでも、この作業が必要だった。
 濡れた布が俺の顔全体に被せられる。
 呼吸の時間が終わったのだ。
 いや、全くできないわけではないのだが……。
 ――確かこういう拷問あったよね?
 そこに救いの声が響いた。
「アッシュさん? お見舞いっすよー」
 扉が開く音とミアの声。
 続いて物が落ちる音。お見舞いの品だろうか。
 そして恐らく、俺の顔の上の濡れた布と毒物を見た。
「さ、殺人現場っすか……?」
 俺を救出した後、事情を知った救いの声は一通り笑い抜いた。
 どれだけ笑われても、感謝しかなかった。
 そして俺は全員を集めて、言った。
「ブラウン団長を呼んでくれ」
「……弁護士みたい」
 加奈がぼそりと返した。今回はお前も同罪だからな。
 弁護士、もといブラウン団長が来てからは早かった。
 素早く、ナタリーとアリス、加奈を的確に教育した後、ニナさんに苦言を呈した。
 さらに俺がまともに動けない状態であることを知ると、バケット邸へと搬送した。
 事実上の緊急入院だ。ようやく俺は休めることになった。
 ――死ぬかと思った。