表示設定
表示設定
目次 目次




第一部 44話 行方不明者

ー/ー



「お兄ちゃん? お客さんだってー」

 昼過ぎにも関わらず、ナタリーが眠そうに俺を呼んだ。
 最近は王都で遊び惚けている節がある。どうしたものだろう。

「ああ、分かった。すぐに行くよ」

 対策を考えながらも、ひとまず来客に対応しようと宿のカウンターに顔を出す。

「あの、来客と聞いたのですが?」

「うん、こちらの方が突然やってきてね……」

 入口脇の椅子へと目を向ける。
 そこに腰かけていたのは、数日前に別れたばかりの行商人だった。

「あれ? また会うとは思ってなかったです」

「私もです。ですが、先程ミアさんと会いましてね。
 アッシュさんがここに泊まっていると聞いたので、挨拶にと」

「ははは、ありがとうございます」

「で、どうでしょう? この間のお礼に食事でも? 御馳走しますよ」



 行商人の勧めで昼食へと向かった。

 本来ならば、危険なので断るところだ。
 しかし誘拐されたばかりということで、ナタリーの護衛は強化されている。
 ニナさんが付いてくれているはずだ。

 で、多分俺にはミアが付いているのだろう。
 どこからかこちらを見ているのは間違いない。

 美味しい昼食を食べながら、俺達は情報交換を始めた。

 今食べている料理の素材を仕入れる方法や俺が王都まで来た時の道順。
 あるいは王都の治安や各組織の勢力関係。
 やがて話は王都周辺の情勢へと移っていった。

「そういえば最近『ハーフエルフの小国』から流れてきた人が多いですね」

「ああ、確かにハーフエルフの数が増えた気はするなぁ」

「何でも大魔法が使われたとか何とか……アッシュさんは何かご存じですか?」

「詳しくは知らないです。噂くらいは聞きましたけど」

「そうですよね……」

「そんなことを聞いてどうするのですか?」

 少しだけ疑うような視線を向ける。
 悪意はないと思っているが、何かを聞き出そうとしている可能性くらいはありそうだった。

「え? ……あ、違う違う!
 聞きたいことがあったのですよぉ」

 俺の視線に気付いて、慌てて行商人は弁解した。
 聞き方が良くなかったと分かったのだろう。

「聞きたいこと?」

「ええ! 何でも、大魔法で死んだはずの人を見たって言うハーフエルフがいて……」

「大魔法で死んだはずの人、ですか?」

「そうです。何でも姫の教育係のような立場だったとか」

「名前……名前は?」

 自然と、声のトーンが落ちた。
 急に心臓の鼓動が激しくなった気がする。

「ラ……いや、レ? レンだ。
 レンという姫の従者が王都にいるという噂です」

 行商人の言葉に衝撃を受けた。
 見えていなかった何かが繋がった気がした。

「いや、だからどうしたって話なのですが、大魔法の事件を考えると悪いイメージが付いているようでして。姫が死んだのに、何故お前が生きているんだって。それで、大魔法というのはどの程度の信憑性があるのかなぁ、と……」

 行商人は何かを続けて話していたが、すでに話は聞こえていなかった。



 そもそもおかしな話だった。

 大魔法で姫が死んだのであれば、側近である『レン・クーガー』は『一緒に死んだ』か『席を外していた』のどちらかだろう。だが調査結果を見れば『席を外していた』わけではないはずだ。それは行方不明ではないのだから。

 では『レン・クーガー』は『一緒に死んだ』はずなのに、遺体が見つからなかったのではないか? 大魔法というものがイメージ通りの威力を持つとすれば、遺体が見つからないことは不思議ではない。だが、行方不明者は一人しかいない。被害を受けた遺体が全て残らない、という類のものではないはずだ。

 可能性として考えられるのは、まずは『レン・クーガー』が大魔法を仕掛けた犯人である可能性だ。この場合は死んだと偽装して王都へ来たことになる。

「…………」

 だが、それよりもしっくりと来る可能性がある。
 仮に『レン・クーガー』が兄さんだとしたら、大魔法を生き残ったのかも知れない――俺の良く知る方法で。

 ――『赤鬼』で俺が『アッシュ』になったように。
 ――『大魔法』で兄さんは『レン』になったのではないだろうか。



 行商人と別れて、宿へと向かう。
 すぐにブラウン団長と加奈と相談したかった。

 レン・クーガーを探そう。
 生きているのであれば、王都に来ているのは間違いない。
 目撃情報から居場所にあたりを付けて探せば良い。

「大丈夫。
 ただ『ハーフエルフの小国』からここまで来た経緯を調べるだけだ……」

 自分の言葉がやけに空々しく聞こえた。



スタンプを贈って作者を応援しよう!

次のエピソードへ進む 第一部 45話 真赤


みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



「お兄ちゃん? お客さんだってー」
 昼過ぎにも関わらず、ナタリーが眠そうに俺を呼んだ。
 最近は王都で遊び惚けている節がある。どうしたものだろう。
「ああ、分かった。すぐに行くよ」
 対策を考えながらも、ひとまず来客に対応しようと宿のカウンターに顔を出す。
「あの、来客と聞いたのですが?」
「うん、こちらの方が突然やってきてね……」
 入口脇の椅子へと目を向ける。
 そこに腰かけていたのは、数日前に別れたばかりの行商人だった。
「あれ? また会うとは思ってなかったです」
「私もです。ですが、先程ミアさんと会いましてね。
 アッシュさんがここに泊まっていると聞いたので、挨拶にと」
「ははは、ありがとうございます」
「で、どうでしょう? この間のお礼に食事でも? 御馳走しますよ」
 行商人の勧めで昼食へと向かった。
 本来ならば、危険なので断るところだ。
 しかし誘拐されたばかりということで、ナタリーの護衛は強化されている。
 ニナさんが付いてくれているはずだ。
 で、多分俺にはミアが付いているのだろう。
 どこからかこちらを見ているのは間違いない。
 美味しい昼食を食べながら、俺達は情報交換を始めた。
 今食べている料理の素材を仕入れる方法や俺が王都まで来た時の道順。
 あるいは王都の治安や各組織の勢力関係。
 やがて話は王都周辺の情勢へと移っていった。
「そういえば最近『ハーフエルフの小国』から流れてきた人が多いですね」
「ああ、確かにハーフエルフの数が増えた気はするなぁ」
「何でも大魔法が使われたとか何とか……アッシュさんは何かご存じですか?」
「詳しくは知らないです。噂くらいは聞きましたけど」
「そうですよね……」
「そんなことを聞いてどうするのですか?」
 少しだけ疑うような視線を向ける。
 悪意はないと思っているが、何かを聞き出そうとしている可能性くらいはありそうだった。
「え? ……あ、違う違う!
 聞きたいことがあったのですよぉ」
 俺の視線に気付いて、慌てて行商人は弁解した。
 聞き方が良くなかったと分かったのだろう。
「聞きたいこと?」
「ええ! 何でも、大魔法で死んだはずの人を見たって言うハーフエルフがいて……」
「大魔法で死んだはずの人、ですか?」
「そうです。何でも姫の教育係のような立場だったとか」
「名前……名前は?」
 自然と、声のトーンが落ちた。
 急に心臓の鼓動が激しくなった気がする。
「ラ……いや、レ? レンだ。
 レンという姫の従者が王都にいるという噂です」
 行商人の言葉に衝撃を受けた。
 見えていなかった何かが繋がった気がした。
「いや、だからどうしたって話なのですが、大魔法の事件を考えると悪いイメージが付いているようでして。姫が死んだのに、何故お前が生きているんだって。それで、大魔法というのはどの程度の信憑性があるのかなぁ、と……」
 行商人は何かを続けて話していたが、すでに話は聞こえていなかった。
 そもそもおかしな話だった。
 大魔法で姫が死んだのであれば、側近である『レン・クーガー』は『一緒に死んだ』か『席を外していた』のどちらかだろう。だが調査結果を見れば『席を外していた』わけではないはずだ。それは行方不明ではないのだから。
 では『レン・クーガー』は『一緒に死んだ』はずなのに、遺体が見つからなかったのではないか? 大魔法というものがイメージ通りの威力を持つとすれば、遺体が見つからないことは不思議ではない。だが、行方不明者は一人しかいない。被害を受けた遺体が全て残らない、という類のものではないはずだ。
 可能性として考えられるのは、まずは『レン・クーガー』が大魔法を仕掛けた犯人である可能性だ。この場合は死んだと偽装して王都へ来たことになる。
「…………」
 だが、それよりもしっくりと来る可能性がある。
 仮に『レン・クーガー』が兄さんだとしたら、大魔法を生き残ったのかも知れない――俺の良く知る方法で。
 ――『赤鬼』で俺が『アッシュ』になったように。
 ――『大魔法』で兄さんは『レン』になったのではないだろうか。
 行商人と別れて、宿へと向かう。
 すぐにブラウン団長と加奈と相談したかった。
 レン・クーガーを探そう。
 生きているのであれば、王都に来ているのは間違いない。
 目撃情報から居場所にあたりを付けて探せば良い。
「大丈夫。
 ただ『ハーフエルフの小国』からここまで来た経緯を調べるだけだ……」
 自分の言葉がやけに空々しく聞こえた。