第一部 43話 日頃の行いと一番隊副隊長
ー/ー 今日はナタリーとブラウン団長、アリスと加奈で王都を探索に出た。
王都で十日近く過ごしたが、見ていない場所も多い。
時計塔公園。
王都の中心、ケーキで言うところのろうそくの根本へと俺達は来ていた。
そびえたつ時計塔を中心に円形の広大な空間は公開されていた。
公園には植林が行われており、緑が生い茂っている。
王都の住人が有事の際に避難することが想定されているようだった。
「わぁ……お兄ちゃん。
王都って何でも大きいんだね!」
ナタリーが頭上の時計塔を見上げて声を漏らす。
「本当だ。
村は小さかったんだなぁ」
前世の記憶は見ないことにして『アッシュ』として答えた。
「あたし、ずっと王都にいたいなぁ」
「駄目だ、ちゃんと帰って怒られろ」
俺が言うと、ナタリーは軽く拗ねたように顔を背けた。
その後もいくつか言葉を返すと、ナタリーはアリスの背中を見つけて走っていった。
俺はというと、しばらく公園の芝生で寝転がってみた。
ぼんやりと空を眺める。雲一つない晴天だった。
久しぶりのゆっくりとした時間が――
「ナタリーがいなくなった!」
――アリスの声がで終わった。
ひとまず、目の届く範囲から捜索を始める。
「すみません。
アッシュさんの方に意識を割きすぎたっす」
ミアが責任を感じた様子で声を掛けてきた。
「仕方ないだろう。
そもそも一人で二人を完璧に護衛できるはずもない……強いて言えば、騎士団と連携した方が良いかも?」
「痛いところを突くっすね。
今後は気を付けます」
そうは言うものの、この護衛は俺が雇っているわけではない。
本来は口を出す権利もないだろう。
「どう思う?」
ブラウン団長も近づいてきて、声を掛けた。
ミアが緊張したのが分かる。
「可能性としては、迷子、脱走、悪戯、報復……報復はないですかね、最近機嫌良かったし」
「うむ。報復の可能性は考えたくないな。脱走と悪戯も可能性は低いのではないか? アリスだけが残っているからな」
「確かに……いや、アリス共犯の悪戯?」
「……否定はできない。内外で連携というわけか」
あちこちへと視線を向けて、ナタリーの姿を探しつつ、協議する。
「何の心配をしてるっすか?」
冗談も交えてはいたが、軽い胸騒ぎはあった。
「あれ? アリス?」
ナタリーが周囲を見回した。
見えるのは木々だけで、人影はなかった。
「やあ」
旅人風の二人組がナタリーへと突然声を掛けた。
見る者が見れば、違和感に気付いただろう。
旅人を装っているだけなのだから。
「ぁ、あの……」
木の陰に隠れていたとしか思えない二人を見て、ナタリーが後ずさる。急いで背中を向けた。
走り出そうとすると――
「こっちは駄目ですよ」
――優しい声がした。
軽装ながら鎧を身に着けて、赤毛の少女が庇うように立っていた。
「だ、誰だ?」
「ニナ・ローズ」
途端に二人組が後ずさる。
「ニナ・ローズって……騎士団の一番隊副隊長じゃねえか」
二人組は顔を見合わせると、一目散に逃げ出した。
「騎士団長の愛弟子、か。
随分と大物が出たな」
背後から声が聞こえた。
ナタリーが逃げようとした方向である。
体格の良い男が立っていた。リーダーということだろう。
すでに抜いた長剣を正面に構えている。
「そうでもない。
あくまでも比較になりますが、小物が出た方ですよ?」
「?」
誘拐犯のリーダーはよく分からないという顔をした。
「なるほど、分からないのですね。後ほどお話を聞かせて下さい。
人目のないところまで追い込んでから、ということだとは思っていますが……背景の方が重要なので」
男は黙ってニナを睨みつけた。
「手合わせを」
ニナは左の腰に提げている鞘の一つから長剣を抜いた。
男は剣に覚えがあるらしく、正面から斬りかかってきた。
しかし数合打ち合うと、ニナは正面から攻めることを止めた。
相手の得意分野で戦う必要もないだろう、と。
一際大きく男の剣を弾くと、ニナは剣の腹を相手に向けた。
「何を?」
訝しむ相手に答えはせず、ニナは剣に魔力を流す。
剣身に刻まれた魔法陣が起動した。
突風が男を吹き飛ばす。
間合いを開けられた男は、受け身を取ってすぐに立ち上がる。
「剣に魔法陣を刻んでいるのか……魔術師め」
ニナの両腰には五本ずつの長剣が提げてある。
一体いくつの魔法を準備しているのか。
毒づきながら、男が顔を上げる。息を呑んだ。
ニナの長剣がバチバチと輝いていた。
青白い光は雷光だろう。刺突の構えで男を睨む。
「レオ」
「おう!」
ニナの声に、どこからか使い魔が答えた。
「雷の、精霊」
――雲一つない晴天の空。
――落雷の音が王都に轟いた。
電撃に貫かれ、男は気を失って倒れていく。
日も暮れかかった頃、ニナがナタリーを連れて来てくれた。
詳しい事情も聞いて、思っていた以上に事態は深刻だったと分かった。
「ありがとう、ニナさん。
助かったよ」
ちゃんと頭を下げた。
ナタリーは詳しい事情は分かっていないはずだが、俺を真似て頭を下げた。
「いえ……」
「どうしたの? 歯切れが悪いけど」
「あの、その、はぁ」
ニナは申し訳なさそうに、溜息を吐いた。
「……騎士団長より、伝言です」
「?」
「一つ貸しだよ、とのことでした」
皆、容赦なく貸し作ってくるじゃん……?
ニナが「すみません」と呟いた。
おいミア、笑うな。
王都で十日近く過ごしたが、見ていない場所も多い。
時計塔公園。
王都の中心、ケーキで言うところのろうそくの根本へと俺達は来ていた。
そびえたつ時計塔を中心に円形の広大な空間は公開されていた。
公園には植林が行われており、緑が生い茂っている。
王都の住人が有事の際に避難することが想定されているようだった。
「わぁ……お兄ちゃん。
王都って何でも大きいんだね!」
ナタリーが頭上の時計塔を見上げて声を漏らす。
「本当だ。
村は小さかったんだなぁ」
前世の記憶は見ないことにして『アッシュ』として答えた。
「あたし、ずっと王都にいたいなぁ」
「駄目だ、ちゃんと帰って怒られろ」
俺が言うと、ナタリーは軽く拗ねたように顔を背けた。
その後もいくつか言葉を返すと、ナタリーはアリスの背中を見つけて走っていった。
俺はというと、しばらく公園の芝生で寝転がってみた。
ぼんやりと空を眺める。雲一つない晴天だった。
久しぶりのゆっくりとした時間が――
「ナタリーがいなくなった!」
――アリスの声がで終わった。
ひとまず、目の届く範囲から捜索を始める。
「すみません。
アッシュさんの方に意識を割きすぎたっす」
ミアが責任を感じた様子で声を掛けてきた。
「仕方ないだろう。
そもそも一人で二人を完璧に護衛できるはずもない……強いて言えば、騎士団と連携した方が良いかも?」
「痛いところを突くっすね。
今後は気を付けます」
そうは言うものの、この護衛は俺が雇っているわけではない。
本来は口を出す権利もないだろう。
「どう思う?」
ブラウン団長も近づいてきて、声を掛けた。
ミアが緊張したのが分かる。
「可能性としては、迷子、脱走、悪戯、報復……報復はないですかね、最近機嫌良かったし」
「うむ。報復の可能性は考えたくないな。脱走と悪戯も可能性は低いのではないか? アリスだけが残っているからな」
「確かに……いや、アリス共犯の悪戯?」
「……否定はできない。内外で連携というわけか」
あちこちへと視線を向けて、ナタリーの姿を探しつつ、協議する。
「何の心配をしてるっすか?」
冗談も交えてはいたが、軽い胸騒ぎはあった。
「あれ? アリス?」
ナタリーが周囲を見回した。
見えるのは木々だけで、人影はなかった。
「やあ」
旅人風の二人組がナタリーへと突然声を掛けた。
見る者が見れば、違和感に気付いただろう。
旅人を装っているだけなのだから。
「ぁ、あの……」
木の陰に隠れていたとしか思えない二人を見て、ナタリーが後ずさる。急いで背中を向けた。
走り出そうとすると――
「こっちは駄目ですよ」
――優しい声がした。
軽装ながら鎧を身に着けて、赤毛の少女が庇うように立っていた。
「だ、誰だ?」
「ニナ・ローズ」
途端に二人組が後ずさる。
「ニナ・ローズって……騎士団の一番隊副隊長じゃねえか」
二人組は顔を見合わせると、一目散に逃げ出した。
「騎士団長の愛弟子、か。
随分と大物が出たな」
背後から声が聞こえた。
ナタリーが逃げようとした方向である。
体格の良い男が立っていた。リーダーということだろう。
すでに抜いた長剣を正面に構えている。
「そうでもない。
あくまでも比較になりますが、小物が出た方ですよ?」
「?」
誘拐犯のリーダーはよく分からないという顔をした。
「なるほど、分からないのですね。後ほどお話を聞かせて下さい。
人目のないところまで追い込んでから、ということだとは思っていますが……背景の方が重要なので」
男は黙ってニナを睨みつけた。
「手合わせを」
ニナは左の腰に提げている鞘の一つから長剣を抜いた。
男は剣に覚えがあるらしく、正面から斬りかかってきた。
しかし数合打ち合うと、ニナは正面から攻めることを止めた。
相手の得意分野で戦う必要もないだろう、と。
一際大きく男の剣を弾くと、ニナは剣の腹を相手に向けた。
「何を?」
訝しむ相手に答えはせず、ニナは剣に魔力を流す。
剣身に刻まれた魔法陣が起動した。
突風が男を吹き飛ばす。
間合いを開けられた男は、受け身を取ってすぐに立ち上がる。
「剣に魔法陣を刻んでいるのか……魔術師め」
ニナの両腰には五本ずつの長剣が提げてある。
一体いくつの魔法を準備しているのか。
毒づきながら、男が顔を上げる。息を呑んだ。
ニナの長剣がバチバチと輝いていた。
青白い光は雷光だろう。刺突の構えで男を睨む。
「レオ」
「おう!」
ニナの声に、どこからか使い魔が答えた。
「雷の、精霊」
――雲一つない晴天の空。
――落雷の音が王都に轟いた。
電撃に貫かれ、男は気を失って倒れていく。
日も暮れかかった頃、ニナがナタリーを連れて来てくれた。
詳しい事情も聞いて、思っていた以上に事態は深刻だったと分かった。
「ありがとう、ニナさん。
助かったよ」
ちゃんと頭を下げた。
ナタリーは詳しい事情は分かっていないはずだが、俺を真似て頭を下げた。
「いえ……」
「どうしたの? 歯切れが悪いけど」
「あの、その、はぁ」
ニナは申し訳なさそうに、溜息を吐いた。
「……騎士団長より、伝言です」
「?」
「一つ貸しだよ、とのことでした」
皆、容赦なく貸し作ってくるじゃん……?
ニナが「すみません」と呟いた。
おいミア、笑うな。
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