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第一部 36話 バケット邸三毛猫誘拐未遂冤罪事件

ー/ー



「よし、行くぞ? ナタリー」

「うん!」

 宿で一晩を過ごした後、俺達は外に出ることにした。
 今日も泊まるので荷物はそのままだ。

 というのも、今日はブラウン団長の家へ招待されているのだ。
 昼過ぎに宿の前で待ち合わせだ。

 俺はナタリーとリックを連れて、宿を出ようとする。
 宿屋のおじさんに軽く挨拶をした。

「ああ、ちょっと」

「?」

 おじさんから不意に呼び止められて、振り返る。

「ウチは宿屋だけど、ちょっとした薬屋みたいなこともやっていてね」

「はあ」

「お近づきの印に、これを。
 最近見つかった成分でね。疲労回復の効果がある」

「……ありがとうございます」

 俺はひとまず受け取った。上着のポケットに入れておく。
 どの程度信用できるか分からないので、使うことはないだろう。

「ああ、無理して使わなくて良いよ?
 素材が貴重だから自分で使うのももったいないし、せっかくだから魔術師団長に顔を売っておこうという魂胆さ」

「はは、なるほど。
 それじゃあ、行ってきます」

 俺は思わず笑ってしまった。
 下心が丸見えすぎて悪く思えなかったのだ。

「ああ。お気を付けて行ってらっしゃいませ」



「す、すげえ」

 ブラウン団長の家を見た瞬間、俺は語彙力を失っていた。

「……ッ!? ……っ? ……??」

 ナタリーに至っては言葉を失っている。
 家を指さして俺と交互に見やるのみである。

 端的に言えば、大豪邸であった。三番街の郊外。
 開発も進んでいない地域にバケット邸は建っていた。

「そんなに驚かなくても良いだろう」

 ブラウン団長が微笑ましそうに呟いた。
 後を追う形でバケット邸へと入っていった。

 バケット邸は内装も落ち着いていて品が良かった。
 そして、全てがお高いのだろう。

「ナタリー! ここが私の家!」

「!? わぁ……すごいすごい!」

 中に入って、アリスから声を掛けられて、一通り周囲を見回して、やっとナタリーは言葉を取り戻したようだった。途端に楽しそうにはしゃぎ出した。

「魔術師団長なんだから、考えてみれば当然なんだけど、驚くよなぁ」

「本人の腰が低いからね?」

 俺の言葉に、肩の上からリックが応じた。

「ははは、それは間違いない……ん?」

 足元に違和感を覚えて、下を向く。
 子猫が俺の足にじゃれていた。

「猫?」

「あ、ミケだ!」

 アリスが言うなり、ナタリーが大喜びで近づいて行く。

「ミケ? ということは……」

 子猫は間違いなく三毛猫だった。

「あはは、私が名付けました」

 加奈の言葉に納得する。
 ミケはしばらく俺の足にじゃれついていたが、俺達は別れを告げると屋敷の奥へと入っていった。

 簡単に屋敷の中を案内してもらう。
 これは俺がブラウン団長に頼んだことだった。
 王都の生活を知っておきたかったのだ。

 案内されて分かったが、この家は随分と使用人が多いようだった。
 また、作業自体も細分化されている。

 部屋の説明をする役。
 食べ物や飲み物を運ぶ役。
 上着や手荷物を預かる役。他にもたくさん。

「……失業者対策かな?」

「分かっているじゃないか」

 いつの間にか隣にいたブラウン団長が反応する。

「郊外に屋敷を作ったのは治安維持ですか?」

「その通り。今代の騎士団は優秀だが、私の立場だと任せきりというのもな」

 思わず笑ってしまう。
 本来は任せきりで良いだろうに。

「あの、旦那様!」

「どうした?」

 走ってきたメイドにブラウン団長が応じる。

「申し訳ございません。
 ミケが見当たらなくて……」

 騒然となる。特にちびっ子どもは大騒ぎだった。
 ぎゃーぎゃーと喚いた後、ナタリーがぼそりと呟いた。

「さっき、お兄ちゃんに懐いてた」

「そう言えば、ミケが初対面の人に懐いたところを初めて見たような」

「お兄ちゃんは一番後ろを歩いてたよね?」

「アッシュにはミケを連れ去る機会があった?」

 ナタリーとアリスが交互に話し、最後に俺を見た。

「待て待て待て!
 俺がよその子猫を連れ去って何の意味があるんだよ!?」

「でも、状況的にはお兄ちゃんしか……」

「前科も――」

「――前科はねぇよ!?」

 これだけ言っても、二人は疑いの目を向ける。
 その目に耐え切れず、俺は叫んだ。

「しょ、証拠はあるのか!?」

 無実の人間の言葉である。
 ブラウン団長が笑いを堪えていた。



 結局、全員でミケを探し回ることになった。
 俺としては屋敷を自由に見て回れたので良かったが。

 しかし、それでもミケは見つからなかった。

「見つからないんだから、仕方ないだろう?」

 しゅんとしたナタリーに声を掛ける。
 夕方が近くなってきたので宿へ帰ることにしたのだ。

「また来てほしい」

「はい、是非。
 もしもナタリーが勝手に遊びに来たら報告はお願いします」

 ナタリーが顔を背ける。
 先手を打たれたと思っているのだろう。

「こちら、預かっていた荷物です……随分と重いものを持つのですね?」

 預けていた簡単な手荷物と上着を受け取る。

「? 重い!?」

 上着が異常に重かった。
 急いでポケットに手を入れる。

「にゃー」

 ミケが出てきた。
 宿屋でもらった薬にゴロゴロと言っている。

「嘘……」

 誰かが呟いた。無理もない。
 俺のポケットから消えた子猫が出てきたのだ。
 何なら代わりに言ってくれた気さえする。

「俺は……俺はやってねえ!」

 やってない人間の言葉である。

 もらった薬がマタタビだった。



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「よし、行くぞ? ナタリー」
「うん!」
 宿で一晩を過ごした後、俺達は外に出ることにした。
 今日も泊まるので荷物はそのままだ。
 というのも、今日はブラウン団長の家へ招待されているのだ。
 昼過ぎに宿の前で待ち合わせだ。
 俺はナタリーとリックを連れて、宿を出ようとする。
 宿屋のおじさんに軽く挨拶をした。
「ああ、ちょっと」
「?」
 おじさんから不意に呼び止められて、振り返る。
「ウチは宿屋だけど、ちょっとした薬屋みたいなこともやっていてね」
「はあ」
「お近づきの印に、これを。
 最近見つかった成分でね。疲労回復の効果がある」
「……ありがとうございます」
 俺はひとまず受け取った。上着のポケットに入れておく。
 どの程度信用できるか分からないので、使うことはないだろう。
「ああ、無理して使わなくて良いよ?
 素材が貴重だから自分で使うのももったいないし、せっかくだから魔術師団長に顔を売っておこうという魂胆さ」
「はは、なるほど。
 それじゃあ、行ってきます」
 俺は思わず笑ってしまった。
 下心が丸見えすぎて悪く思えなかったのだ。
「ああ。お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「す、すげえ」
 ブラウン団長の家を見た瞬間、俺は語彙力を失っていた。
「……ッ!? ……っ? ……??」
 ナタリーに至っては言葉を失っている。
 家を指さして俺と交互に見やるのみである。
 端的に言えば、大豪邸であった。三番街の郊外。
 開発も進んでいない地域にバケット邸は建っていた。
「そんなに驚かなくても良いだろう」
 ブラウン団長が微笑ましそうに呟いた。
 後を追う形でバケット邸へと入っていった。
 バケット邸は内装も落ち着いていて品が良かった。
 そして、全てがお高いのだろう。
「ナタリー! ここが私の家!」
「!? わぁ……すごいすごい!」
 中に入って、アリスから声を掛けられて、一通り周囲を見回して、やっとナタリーは言葉を取り戻したようだった。途端に楽しそうにはしゃぎ出した。
「魔術師団長なんだから、考えてみれば当然なんだけど、驚くよなぁ」
「本人の腰が低いからね?」
 俺の言葉に、肩の上からリックが応じた。
「ははは、それは間違いない……ん?」
 足元に違和感を覚えて、下を向く。
 子猫が俺の足にじゃれていた。
「猫?」
「あ、ミケだ!」
 アリスが言うなり、ナタリーが大喜びで近づいて行く。
「ミケ? ということは……」
 子猫は間違いなく三毛猫だった。
「あはは、私が名付けました」
 加奈の言葉に納得する。
 ミケはしばらく俺の足にじゃれついていたが、俺達は別れを告げると屋敷の奥へと入っていった。
 簡単に屋敷の中を案内してもらう。
 これは俺がブラウン団長に頼んだことだった。
 王都の生活を知っておきたかったのだ。
 案内されて分かったが、この家は随分と使用人が多いようだった。
 また、作業自体も細分化されている。
 部屋の説明をする役。
 食べ物や飲み物を運ぶ役。
 上着や手荷物を預かる役。他にもたくさん。
「……失業者対策かな?」
「分かっているじゃないか」
 いつの間にか隣にいたブラウン団長が反応する。
「郊外に屋敷を作ったのは治安維持ですか?」
「その通り。今代の騎士団は優秀だが、私の立場だと任せきりというのもな」
 思わず笑ってしまう。
 本来は任せきりで良いだろうに。
「あの、旦那様!」
「どうした?」
 走ってきたメイドにブラウン団長が応じる。
「申し訳ございません。
 ミケが見当たらなくて……」
 騒然となる。特にちびっ子どもは大騒ぎだった。
 ぎゃーぎゃーと喚いた後、ナタリーがぼそりと呟いた。
「さっき、お兄ちゃんに懐いてた」
「そう言えば、ミケが初対面の人に懐いたところを初めて見たような」
「お兄ちゃんは一番後ろを歩いてたよね?」
「アッシュにはミケを連れ去る機会があった?」
 ナタリーとアリスが交互に話し、最後に俺を見た。
「待て待て待て!
 俺がよその子猫を連れ去って何の意味があるんだよ!?」
「でも、状況的にはお兄ちゃんしか……」
「前科も――」
「――前科はねぇよ!?」
 これだけ言っても、二人は疑いの目を向ける。
 その目に耐え切れず、俺は叫んだ。
「しょ、証拠はあるのか!?」
 無実の人間の言葉である。
 ブラウン団長が笑いを堪えていた。
 結局、全員でミケを探し回ることになった。
 俺としては屋敷を自由に見て回れたので良かったが。
 しかし、それでもミケは見つからなかった。
「見つからないんだから、仕方ないだろう?」
 しゅんとしたナタリーに声を掛ける。
 夕方が近くなってきたので宿へ帰ることにしたのだ。
「また来てほしい」
「はい、是非。
 もしもナタリーが勝手に遊びに来たら報告はお願いします」
 ナタリーが顔を背ける。
 先手を打たれたと思っているのだろう。
「こちら、預かっていた荷物です……随分と重いものを持つのですね?」
 預けていた簡単な手荷物と上着を受け取る。
「? 重い!?」
 上着が異常に重かった。
 急いでポケットに手を入れる。
「にゃー」
 ミケが出てきた。
 宿屋でもらった薬にゴロゴロと言っている。
「嘘……」
 誰かが呟いた。無理もない。
 俺のポケットから消えた子猫が出てきたのだ。
 何なら代わりに言ってくれた気さえする。
「俺は……俺はやってねえ!」
 やってない人間の言葉である。
 もらった薬がマタタビだった。