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第一部 34話 王都

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 商業都市『レンブラント』を経ってから一日後、俺達は王都へと到着した。
 組合の馬車に乗っていたおかげだろう、気持ち早めに検問は終わった。

 背の高い城門を抜けて組合の馬車と軽く挨拶だけ済ませて別れる。
 そのまま徒歩で宿まで歩くことにした。

 王都は石畳と煉瓦で構築された、近代的な都市のようだ。
 街路も整備されているし、規律正しい騎士団の姿も良く見かけた。
 この様子ならば治安も良いのだろう。

「わぁ! お兄ちゃん、お城だよ!」

 ナタリーが嬉しそうに王城を指さした。
 あれだけ暴れたのに、調子が良いものである。

「ああ、すごいな……となると、あっちが一番街になるのか」

 それでも思わず応じてしまう。
 単純に王城の威容が大したものだったからだ。

 王都には一番街から四番街がある。
 一番街を貴族街、それ以外を平民街と呼んだ。

 一番街は王城、二番街は騎士団の詰所、三番街は魔術師団の学舎、四番街は組合の窓口、とそれぞれの特色を表す建物がある。

 今くぐった門は二番街のものであり、ブラウン団長がいる都合から三番街の宿を目指しているところだ。

 あの夜。全てをぶちまけた後、ブラウン団長は驚いた顔をしていたが、最後は「納得した」と言っていた。

 恐らくいくつも疑問があったのだろう。
 未だに正しかったのかどうかは分からないが、加奈が名乗った以上はこうするべきだった。今はブラウン団長と協力して、兄さんを止めたいと考えている。

 あと気になったのは、隣の『ハーフエルフの小国』で起こった異変だ。
 謎の光が走ったという噂もある。
 真偽を確かめようにも、連絡が取れないようだとブラウン団長は言っていた。

 小国内部で問題が発生しているのかもしれないとのことだった。
 組合から聞いた情報も加えて考えると、雲行きが怪しいように思えた。
 鬼が関わっている、という話だったからだ。

 あまりにもご機嫌なナタリーには釘を刺すことにした。

「ナタリー、お前な。
 今は良いけど、村に帰ったら死ぬほど怒られるから覚悟しろよ?」

「……うっ」

 ナタリーが困った顔をする。
 しかし、コトがコトである。

「それとな? その時は俺も本気で怒るからな?」

「うぅ」

 俺がこう言っている理由は、ナタリーの余罪が明らかになったためである。
 子供の一人旅は事情を訊かれることが多かったので、ナタリーは俺の名前を使用しまくった。

 実の兄にして誘拐犯。
 身売りされそうなところを命からがら逃げている。

 どうにか王都へ逃げ込みたい。せめてあの兄を牢屋の中へ。
 ……これ以上罪を重ねないように。

 涙ながらに語ってきたとのこと。

 酷すぎない?
 俺がナタリーに追い付いた時、人目があったら返り討ちだったんだぜ?
 ナタリーが王都まで逃げ込んでたら、騎士団が待ち構えていたんだぜ?

 しかも、最終的に十歳の家出少女の狂言で逃げ切り。
 騎士団の介入でなし崩し的に和解。完璧かよ。

 この話を聞いた時、ブラウン団長とアリス、加奈、リックが笑いを堪えていたことは忘れられそうになかった。

「あの、ちょっと良いですか?」

「すみません、急いでいるので……」

 王都では呼び込みが多い。
 心情的な事情もあり、道の端から掛かった声を軽く流して、先を急ごうとする。

「アッシュ・クレフ殿!」

「!?」

 突然名前を呼ばれて、慌てて振り返る。
 見れば、先程声を掛けたのは騎士団員だったらしい。

「アッシュ・クレフ殿ですね。
 少しお聞きしたいことがあります。どうか詰所まで来て下さい」

 一瞬の疑問の後、全員が真っ青になった。
 思い出すのは先程のナタリーの話である。

 ――職質!?

 すかさずナタリーが責任を感じて止めようとしてくれた。
 反省しているということだろう。

「あの、ごめんなさい。
 お兄ちゃんは悪くないんです。ぜ、全部あたしの嘘だったんです」

 俯きながら、目尻に少しの涙を浮かべた。

 ――待て待て!
 ――この状況だと、俺が言わせているようにしか見えない!

 俺は本格的に土下座を検討し始めていた。
 騎士団員は続けた。

「鬼の件で、団長がお会いしたいとのことです」



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 組合の馬車に乗っていたおかげだろう、気持ち早めに検問は終わった。
 背の高い城門を抜けて組合の馬車と軽く挨拶だけ済ませて別れる。
 そのまま徒歩で宿まで歩くことにした。
 王都は石畳と煉瓦で構築された、近代的な都市のようだ。
 街路も整備されているし、規律正しい騎士団の姿も良く見かけた。
 この様子ならば治安も良いのだろう。
「わぁ! お兄ちゃん、お城だよ!」
 ナタリーが嬉しそうに王城を指さした。
 あれだけ暴れたのに、調子が良いものである。
「ああ、すごいな……となると、あっちが一番街になるのか」
 それでも思わず応じてしまう。
 単純に王城の威容が大したものだったからだ。
 王都には一番街から四番街がある。
 一番街を貴族街、それ以外を平民街と呼んだ。
 一番街は王城、二番街は騎士団の詰所、三番街は魔術師団の学舎、四番街は組合の窓口、とそれぞれの特色を表す建物がある。
 今くぐった門は二番街のものであり、ブラウン団長がいる都合から三番街の宿を目指しているところだ。
 あの夜。全てをぶちまけた後、ブラウン団長は驚いた顔をしていたが、最後は「納得した」と言っていた。
 恐らくいくつも疑問があったのだろう。
 未だに正しかったのかどうかは分からないが、加奈が名乗った以上はこうするべきだった。今はブラウン団長と協力して、兄さんを止めたいと考えている。
 あと気になったのは、隣の『ハーフエルフの小国』で起こった異変だ。
 謎の光が走ったという噂もある。
 真偽を確かめようにも、連絡が取れないようだとブラウン団長は言っていた。
 小国内部で問題が発生しているのかもしれないとのことだった。
 組合から聞いた情報も加えて考えると、雲行きが怪しいように思えた。
 鬼が関わっている、という話だったからだ。
 あまりにもご機嫌なナタリーには釘を刺すことにした。
「ナタリー、お前な。
 今は良いけど、村に帰ったら死ぬほど怒られるから覚悟しろよ?」
「……うっ」
 ナタリーが困った顔をする。
 しかし、コトがコトである。
「それとな? その時は俺も本気で怒るからな?」
「うぅ」
 俺がこう言っている理由は、ナタリーの余罪が明らかになったためである。
 子供の一人旅は事情を訊かれることが多かったので、ナタリーは俺の名前を使用しまくった。
 実の兄にして誘拐犯。
 身売りされそうなところを命からがら逃げている。
 どうにか王都へ逃げ込みたい。せめてあの兄を牢屋の中へ。
 ……これ以上罪を重ねないように。
 涙ながらに語ってきたとのこと。
 酷すぎない?
 俺がナタリーに追い付いた時、人目があったら返り討ちだったんだぜ?
 ナタリーが王都まで逃げ込んでたら、騎士団が待ち構えていたんだぜ?
 しかも、最終的に十歳の家出少女の狂言で逃げ切り。
 騎士団の介入でなし崩し的に和解。完璧かよ。
 この話を聞いた時、ブラウン団長とアリス、加奈、リックが笑いを堪えていたことは忘れられそうになかった。
「あの、ちょっと良いですか?」
「すみません、急いでいるので……」
 王都では呼び込みが多い。
 心情的な事情もあり、道の端から掛かった声を軽く流して、先を急ごうとする。
「アッシュ・クレフ殿!」
「!?」
 突然名前を呼ばれて、慌てて振り返る。
 見れば、先程声を掛けたのは騎士団員だったらしい。
「アッシュ・クレフ殿ですね。
 少しお聞きしたいことがあります。どうか詰所まで来て下さい」
 一瞬の疑問の後、全員が真っ青になった。
 思い出すのは先程のナタリーの話である。
 ――職質!?
 すかさずナタリーが責任を感じて止めようとしてくれた。
 反省しているということだろう。
「あの、ごめんなさい。
 お兄ちゃんは悪くないんです。ぜ、全部あたしの嘘だったんです」
 俯きながら、目尻に少しの涙を浮かべた。
 ――待て待て!
 ――この状況だと、俺が言わせているようにしか見えない!
 俺は本格的に土下座を検討し始めていた。
 騎士団員は続けた。
「鬼の件で、団長がお会いしたいとのことです」