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第一部 29話 見上げない満月とげしげし

ー/ー



「見て見て! レン! 綺麗な満月よ」

「はいはい。綺麗ですねー」

 そこは大きな屋敷の中で、レンに与えられた自室だった。

 レンは事務仕事を進めていた。書類の横には小さな精霊。
 黒いドレスを身に着けて、楽しそうにレンの仕事ぶりを眺めている。

 ――レンの使い魔『影の精霊』ね。
 ――魔力を込めれば影が物質化する、か。
 ――何でもありだな。

 姫はというと、仕事中のレンへと突撃をぶちかまして、部屋の窓にしがみついているのだった。

「良い夜ね……」

「はい。本当に」

 ただし、レンは姫の方を見ていなかった。

「……見なさいよっ!」

 その様子に気が付いた姫が、げしげし、とレンの足を蹴る。

 窓からは手が届かないからだろう、足を伸ばしていた。
 誰が見てもお行儀が悪い姿だった。

「見てますよ」

「せめて手を止めろー! 騙す努力くらいしろー!」

 げしっげしっ、と元気よくレンの足を蹴る。

「そんな」

「何よ」

 げし……げし……、と警戒するようにレンの足を蹴る。

「まさかバレるなんて」

「高速で! 処理する仕事を! 数秒止めて、右を見ろ!」

 げしげしげしげし、とテンポ良くレンの足を蹴りまくる。

「うっ」

「また私をからかって……」

「足が、痛い……」

「!?」

 げしげし? と蹴りすぎを心配するようにレンの足を優しく蹴る。

「大丈夫です、これくらい。
 耐えられます。いつもの嘘ですから」

「結局、嘘じゃないの!
 持病の発作みたいに言うなっ。私、姫ぞ!?」

 げしんッ! げしんッ! と重くレンを蹴りつける。

 ――もはやローキックだな。
 ――あと「姫ぞ」って使われることあるんだなぁ。

「見ろぉ!」

 すでに状況は意地の張り合いと化していた。

 そこで、レンが一度手を止めた。
 今日の仕事が一段落したのだ。

 ほとんど同時に、コンコン、というノックの音が聞こえた。
「どうぞ」と答える。

 使用人が控えめに顔を覗かせた。
 姫の姿を見つけて緊張したように、びく、と動きを止める。

 できるだけ落ち着いた様子で尋ねると、使用人は来客を告げた。
 使用人が下がっていく。

「……殿下がいらっしゃいました」

「うん」

 姫が嬉しそうに微笑んだ。

 今日は姫の誕生日だった。



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「見て見て! レン! 綺麗な満月よ」
「はいはい。綺麗ですねー」
 そこは大きな屋敷の中で、レンに与えられた自室だった。
 レンは事務仕事を進めていた。書類の横には小さな精霊。
 黒いドレスを身に着けて、楽しそうにレンの仕事ぶりを眺めている。
 ――レンの使い魔『影の精霊』ね。
 ――魔力を込めれば影が物質化する、か。
 ――何でもありだな。
 姫はというと、仕事中のレンへと突撃をぶちかまして、部屋の窓にしがみついているのだった。
「良い夜ね……」
「はい。本当に」
 ただし、レンは姫の方を見ていなかった。
「……見なさいよっ!」
 その様子に気が付いた姫が、げしげし、とレンの足を蹴る。
 窓からは手が届かないからだろう、足を伸ばしていた。
 誰が見てもお行儀が悪い姿だった。
「見てますよ」
「せめて手を止めろー! 騙す努力くらいしろー!」
 げしっげしっ、と元気よくレンの足を蹴る。
「そんな」
「何よ」
 げし……げし……、と警戒するようにレンの足を蹴る。
「まさかバレるなんて」
「高速で! 処理する仕事を! 数秒止めて、右を見ろ!」
 げしげしげしげし、とテンポ良くレンの足を蹴りまくる。
「うっ」
「また私をからかって……」
「足が、痛い……」
「!?」
 げしげし? と蹴りすぎを心配するようにレンの足を優しく蹴る。
「大丈夫です、これくらい。
 耐えられます。いつもの嘘ですから」
「結局、嘘じゃないの!
 持病の発作みたいに言うなっ。私、姫ぞ!?」
 げしんッ! げしんッ! と重くレンを蹴りつける。
 ――もはやローキックだな。
 ――あと「姫ぞ」って使われることあるんだなぁ。
「見ろぉ!」
 すでに状況は意地の張り合いと化していた。
 そこで、レンが一度手を止めた。
 今日の仕事が一段落したのだ。
 ほとんど同時に、コンコン、というノックの音が聞こえた。
「どうぞ」と答える。
 使用人が控えめに顔を覗かせた。
 姫の姿を見つけて緊張したように、びく、と動きを止める。
 できるだけ落ち着いた様子で尋ねると、使用人は来客を告げた。
 使用人が下がっていく。
「……殿下がいらっしゃいました」
「うん」
 姫が嬉しそうに微笑んだ。
 今日は姫の誕生日だった。