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第一部 27話 情報交換

ー/ー



「情報交換ですか?」

「ああ。鬼に襲われたということは聞いているよ。
 俺達が欲しいのはその鬼の情報だ。些細なことでも良い」

 ラルフが丁寧な物腰で切り出した。

「代わりにこちらからも情報を提供しよう――人を探していると聞いた」

 驚いた。
 予定外に、兄さんを探す手がかりが手に入ったことになる。
 それも、相当心強い手がかりだ。

「はい。お話します」

 そして、俺は海辺で襲われた時の話を始めた。

 速く賢く、青い小鬼。
 神鋼と打ち合える刀。長刀と脇差の二刀流。

 そして――固有スキル『瞬間移動』について。
 移動距離はおそらく長くないこと。『行く』と『戻る』の制限。

 一通り話し終えると『お調子者達』が口笛を吹いた。

「こいつは驚いた」
「固有スキルまで判明してるのは偉い」
「よく生きているもんだなぁ」

「間違いない――幹部ね」

 フェリスが続けて呟く。

「? 幹部?」

 あの鬼が何かの幹部なのだろうか。

「うん。鬼の軍団の幹部さ」

「鬼の軍団」

「ええ、あちこちで暗躍し始めているの」

「帝国のクーデター」「連合の反乱軍」「……あとは局所的な襲撃だな」

「どれも鬼の影がちらついて見える。国に関わろうとしたり、武器を売り始めたり、ただの変人学者を執拗に追いかけたり……一貫性がないから、目的は全然見えないんだけどね」

「王国で言えば、森の向こうのハーフエルフの小国かな」

 パーティーメンバーが少しずつ補足してくれる。

「『赤鬼』の時はどうだった?」

 今まで黙っていたブラウン団長が口を開いた。

「? 『赤鬼』というと」

 フェリスが想定外の単語に反応する。

「彼が討伐したんだ」

 俺を指して、ブラウン団長は言った。

「! 縁があるな。
 そちらの経緯も聞いて良いかい?」

 ラルフからの質問に応えて『赤鬼』襲撃時の話をする。
 ただし、俺達兄妹を狙っている、という言い方をした。

 ――おそらく、この場で俺だけが少し先を知っている。『鍵』だ。
 ――間違いない。鬼は世界中の『鍵』を減らしている! 
 ――減らせる限り減らして、最後に残った『鍵』を兄さんが気まぐれで殺したら……運命が変わるということになるのか。

 ――運命が変わるという現象はまだ良く分からない。
 ――だけど、その状況は『黒幕』の勝ちだ。
 ――それは嫌だなぁ。

 しかし、誰にどこまで話せば良い? 信じてもらえるだろうか?
 運命の外にいる俺が話すことで、何か良くない影響は?

 頭の中は悶々とした状態のまま、『赤鬼』について一通り話し終える。

「『赤鬼』と『青鬼』――青はまだ正式名称じゃないけど――の狙いについては、もちろん分からない。でも武器については心当たりがあるわね。鬼たちが世界中に売りさばいている武器ブランド『黒鬼印』でしょうね」

 フェリスの話を聞くと、鬼たちは『黒鬼印』というブランドで世界中に高品質の武器や兵器を売っているらしい。

 ――なるほど。あの金棒や刀は自家製だったか。

「ふむ。一つ言えるのは、君たち兄妹が狙われている可能性は高いだろうね。
 ここで、一つお願いを」

 ラルフは一度息を継いで、先を続けた。

「君たちが王都へ行ったら組合のメンバーを一人、同行させてほしい。
 組合との連絡役兼、君たち兄妹の護衛係だ。
 戦力になるメンバーを選ぶつもりだし、なるべく迷惑は掛けないようにする」

 どうだろう? と答えを待っている。

「この状態だと優秀だよな」
「神は二物を与えない、か」
「いや、違うな。与え過ぎたから奪ってるんだろうよ」

「じゃあ、収支はぴったりじゃねえか!」と笑い転げている。

 ラルフは何か言いたそうな目を『お調子者達』へと向けている。

 ――どれだけ酒癖が悪いのだろうか?

「もちろん構いません。
 むしろ助かりますよ。妹が危なっかしいので」

 迷う必要はない。
 二つ返事で頷いた。

「では、こちらの用件はここまでだ。次は君の依頼について。
 探している人物の特徴は?」

「実はあまり分かっていないんです。
 探して欲しい条件があるとすれば――」

 全員が息を潜めたのが分かる。

「――最近、性格が変わった人」

「……珍しい依頼だね」

 ラルフは軽く呟いた後、王都近隣の『最近、性格が変わった人』を一人残らずだな、と確認した。

 楽しそうに口を歪めた顔はすでに優男ではなくなっていた。
 依頼者の俺が、ひぇ、と声を漏らしそうになった。

 不安になって、思わずブラウン団長を見る。
 団長、やっぱりこの人怖いです。

 そこには真っ直ぐ俺を見つめる瞳があった。
 例の見透かすような茶色の瞳である。

 ――ほう。そういう人を探しているのか。ほーう。

 言った。絶対に言った。目が言った。
 す、と顔を逸らす。だが、逸らす先は見つからなかった。
 ……今更気づいたけど、このテーブルは恐ろしいな?

 今日は解散となった。
 丁寧にお礼を言った後、背を向ける。

「ああ、そうだ。君の名前は?」

 何気ない声に驚く。
『スキルマスター』に名前を訊かれることは事件だった。
 彼らが覚える価値のある名前ではないはずだし、組合の力があればすぐに調べられる。
 だから名乗る必要がなかったのだ。

 それでも名前を訊かれたということは、

「アッシュ・クレフと言います」

「覚えておこう」

 幸か不幸か、目を付けられたということなのだ。



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「情報交換ですか?」
「ああ。鬼に襲われたということは聞いているよ。
 俺達が欲しいのはその鬼の情報だ。些細なことでも良い」
 ラルフが丁寧な物腰で切り出した。
「代わりにこちらからも情報を提供しよう――人を探していると聞いた」
 驚いた。
 予定外に、兄さんを探す手がかりが手に入ったことになる。
 それも、相当心強い手がかりだ。
「はい。お話します」
 そして、俺は海辺で襲われた時の話を始めた。
 速く賢く、青い小鬼。
 神鋼と打ち合える刀。長刀と脇差の二刀流。
 そして――固有スキル『瞬間移動』について。
 移動距離はおそらく長くないこと。『行く』と『戻る』の制限。
 一通り話し終えると『お調子者達』が口笛を吹いた。
「こいつは驚いた」
「固有スキルまで判明してるのは偉い」
「よく生きているもんだなぁ」
「間違いない――幹部ね」
 フェリスが続けて呟く。
「? 幹部?」
 あの鬼が何かの幹部なのだろうか。
「うん。鬼の軍団の幹部さ」
「鬼の軍団」
「ええ、あちこちで暗躍し始めているの」
「帝国のクーデター」「連合の反乱軍」「……あとは局所的な襲撃だな」
「どれも鬼の影がちらついて見える。国に関わろうとしたり、武器を売り始めたり、ただの変人学者を執拗に追いかけたり……一貫性がないから、目的は全然見えないんだけどね」
「王国で言えば、森の向こうのハーフエルフの小国かな」
 パーティーメンバーが少しずつ補足してくれる。
「『赤鬼』の時はどうだった?」
 今まで黙っていたブラウン団長が口を開いた。
「? 『赤鬼』というと」
 フェリスが想定外の単語に反応する。
「彼が討伐したんだ」
 俺を指して、ブラウン団長は言った。
「! 縁があるな。
 そちらの経緯も聞いて良いかい?」
 ラルフからの質問に応えて『赤鬼』襲撃時の話をする。
 ただし、俺達兄妹を狙っている、という言い方をした。
 ――おそらく、この場で俺だけが少し先を知っている。『鍵』だ。
 ――間違いない。鬼は世界中の『鍵』を減らしている! 
 ――減らせる限り減らして、最後に残った『鍵』を兄さんが気まぐれで殺したら……運命が変わるということになるのか。
 ――運命が変わるという現象はまだ良く分からない。
 ――だけど、その状況は『黒幕』の勝ちだ。
 ――それは嫌だなぁ。
 しかし、誰にどこまで話せば良い? 信じてもらえるだろうか?
 運命の外にいる俺が話すことで、何か良くない影響は?
 頭の中は悶々とした状態のまま、『赤鬼』について一通り話し終える。
「『赤鬼』と『青鬼』――青はまだ正式名称じゃないけど――の狙いについては、もちろん分からない。でも武器については心当たりがあるわね。鬼たちが世界中に売りさばいている武器ブランド『黒鬼印』でしょうね」
 フェリスの話を聞くと、鬼たちは『黒鬼印』というブランドで世界中に高品質の武器や兵器を売っているらしい。
 ――なるほど。あの金棒や刀は自家製だったか。
「ふむ。一つ言えるのは、君たち兄妹が狙われている可能性は高いだろうね。
 ここで、一つお願いを」
 ラルフは一度息を継いで、先を続けた。
「君たちが王都へ行ったら組合のメンバーを一人、同行させてほしい。
 組合との連絡役兼、君たち兄妹の護衛係だ。
 戦力になるメンバーを選ぶつもりだし、なるべく迷惑は掛けないようにする」
 どうだろう? と答えを待っている。
「この状態だと優秀だよな」
「神は二物を与えない、か」
「いや、違うな。与え過ぎたから奪ってるんだろうよ」
「じゃあ、収支はぴったりじゃねえか!」と笑い転げている。
 ラルフは何か言いたそうな目を『お調子者達』へと向けている。
 ――どれだけ酒癖が悪いのだろうか?
「もちろん構いません。
 むしろ助かりますよ。妹が危なっかしいので」
 迷う必要はない。
 二つ返事で頷いた。
「では、こちらの用件はここまでだ。次は君の依頼について。
 探している人物の特徴は?」
「実はあまり分かっていないんです。
 探して欲しい条件があるとすれば――」
 全員が息を潜めたのが分かる。
「――最近、性格が変わった人」
「……珍しい依頼だね」
 ラルフは軽く呟いた後、王都近隣の『最近、性格が変わった人』を一人残らずだな、と確認した。
 楽しそうに口を歪めた顔はすでに優男ではなくなっていた。
 依頼者の俺が、ひぇ、と声を漏らしそうになった。
 不安になって、思わずブラウン団長を見る。
 団長、やっぱりこの人怖いです。
 そこには真っ直ぐ俺を見つめる瞳があった。
 例の見透かすような茶色の瞳である。
 ――ほう。そういう人を探しているのか。ほーう。
 言った。絶対に言った。目が言った。
 す、と顔を逸らす。だが、逸らす先は見つからなかった。
 ……今更気づいたけど、このテーブルは恐ろしいな?
 今日は解散となった。
 丁寧にお礼を言った後、背を向ける。
「ああ、そうだ。君の名前は?」
 何気ない声に驚く。
『スキルマスター』に名前を訊かれることは事件だった。
 彼らが覚える価値のある名前ではないはずだし、組合の力があればすぐに調べられる。
 だから名乗る必要がなかったのだ。
 それでも名前を訊かれたということは、
「アッシュ・クレフと言います」
「覚えておこう」
 幸か不幸か、目を付けられたということなのだ。