第一部 26話 組合
ー/ー「おい! 酒まだかぁ?」
「大丈夫か、酔っ払い。
その手に酒なら持ってるだろうが」
「馬鹿か? こんなもん水よぉ! ヒック」
「よーし、じゃあ俺がもらってやろう! あっはっは」
「分かったぁ、交換しようぜ。
そっちの水の方が強そうだぁ」
ぎゃははは、という豪快な声が続いた。
喧しい声に一度呻く。
ゆっくりと目を開ければ、そこはどんちゃん騒ぎを繰り返す酒場だった。
俺は部屋の隅に置かれたソファに寝ていたようだ。
体を起こして、周囲を見回す。
「ああ、良かった。
目を覚ましたな?」
遠くから水を持ったブラウン団長が歩いてくる。
「ブラウン団長、これはどういう状況ですか?」
「そうだな。まず、傷はもう大丈夫だ。
腕の良い治癒術師がいて助かった」
今更ながら自分の左脇腹を見る。
傷は綺麗に塞がっていた。
「ここはどこなんですか?」
「商業都市『レンブラント』だ。組合の総本山。
ここはその大酒場だよ。治癒術師の元へと担ぎ込ませてもらった」
ブラウン団長は俺に椅子を勧めると、テーブルの上に水を置いた。
俺が席に着くと、訊きたかったことに答えてくれた。
「心配しなくてもナタリーとアリス、リックは宿で休ませている。
ここであれば魔術師団の団員もいるから、すでに護衛も付けた。
ひとまずは安全だと思って良い」
思わず、ほう、と息を吐いた。
「あ、起きたな!」「酒飲むか?」「真面目な話、もう少しだけ寝てろよ」
そっくりな三人組の男性が歩いてくる。
大柄な体格で、表情豊かに笑っている。
「彼らの冒険者パーティーが助けてくれたんだ」
「そうなんですか? ありがとうございます」
「気にすんな」「俺達はガロシュ三兄弟」「『お調子者達』なんて呼ばれてる」
「『お調子者達』って、あの?」
「ああ、あの冒険者パーティーだ」
組合には二つ名を付ける習慣がある。
そして有名な二つ名は王国中に轟くのだ。
ガロシュ三兄弟の後ろから近づいてくる二人組の姿が見えた。
線の細い優男と質素な服装で微笑む美女。どちらも若く見えた。
「じゃあ、あの人が?」
「そうさ」「彼がかの有名な!」「王国随一の才能だ」
ここ数年出回っている、有名な小話がある――
とある天才冒険者がいた。
いくつもの優れたスキルを持ち、その全てに高い適正を示しながら――曰く、彼はただの酔っ払いであった。
一日中酒浸りの日々を過ごしていたが、本人は幸せであったという。
ある日、彼は王に呼び出される。
数々のレアスキルを一目見たいと、王城にて謁見が許されたのである。
問題は一つ。彼は毎日二日酔いであった。
頭痛は止まらず、呂律も回らず、千鳥足。加えてそれらは慢性化していた。
その姿はまさに、誰もが思い描く『アル中』という概念を形にしたかのようだった。
王は激怒した。
王国へと還元するべき『才能の浪費』であると、組合長を叱り付ける。
ぐうの音も出なかった組合長もまた、激怒した。
当然ながら天才冒険者へと矛先が向く。絶対に働かせてやる、と誓っていた。
彼はこの国一番の治癒術師と天才冒険者でパーティーを組ませた。
そして彼女が持つスキルの一つを彼へと使用するように強く強く言いつけたのだ。
レアスキル『自動状態異常回復』を――その日から彼は全く酔えなくなった。
天才冒険者はメキメキと頭角を現したという。
いつの日か、スキルの使用を止めてもらうために。
――ただの酔っ払いに戻るためだけに、S級冒険者まで至った男の小話だ。
優男は俺の目の前までやってくると、にこやかに微笑んだ。
「ああ。治って良かった、俺はラルフ・コーネル――」
「いよっ、素面のアル中!」「酒に沈んだ天賦の才!」「読んでそのまま、奇跡の禁酒!」
ここぞとばかりに『お調子者達』が囃し立てる。
これほど分かりやすい二つ名も珍しい。
「――『スキルマスター』で通ってる……お前らさぁ、毎回この完璧なタイミングで煽り文句入れるのマジでやめてくれない!? もはや営業妨害の域なんだよ! 同じパーティーだろう、俺の看板汚してどうするの?」
ラルフがやりづらそうに、挨拶を終える。次は後ろの女性が前に出た。
「初めまして。私は、フェリス・フェアリス――」
「出た、アルコール分解聖女!」「奇跡の力で酔いを醒ます!」「我らが肝臓!」
ラルフが「お前ら、もうこれで食っていけよ」と頭を抱えていた。
「――『奇跡の担い手』なんて大層な名前を付けられちゃったんだけどさ、この三人殴ってもいいかな? 二つ名返上するからさ。聖女なんて今すぐ止めてやるよぉっ!」
フェリスがどんどんとテーブルを叩いて『お調子者達』がげらげらと笑う。
「彼女がアッシュの傷を治してくれたんだ」
ブラウン団長が囁いた。
「本当にありがとうございます」
俺は大きく頭を下げた。
そして全員がテーブルに着くと、ラルフが口を開いた。
「さて、当事者も目を覚ましたことだし。
そろそろ情報交換を始めようか」
「大丈夫か、酔っ払い。
その手に酒なら持ってるだろうが」
「馬鹿か? こんなもん水よぉ! ヒック」
「よーし、じゃあ俺がもらってやろう! あっはっは」
「分かったぁ、交換しようぜ。
そっちの水の方が強そうだぁ」
ぎゃははは、という豪快な声が続いた。
喧しい声に一度呻く。
ゆっくりと目を開ければ、そこはどんちゃん騒ぎを繰り返す酒場だった。
俺は部屋の隅に置かれたソファに寝ていたようだ。
体を起こして、周囲を見回す。
「ああ、良かった。
目を覚ましたな?」
遠くから水を持ったブラウン団長が歩いてくる。
「ブラウン団長、これはどういう状況ですか?」
「そうだな。まず、傷はもう大丈夫だ。
腕の良い治癒術師がいて助かった」
今更ながら自分の左脇腹を見る。
傷は綺麗に塞がっていた。
「ここはどこなんですか?」
「商業都市『レンブラント』だ。組合の総本山。
ここはその大酒場だよ。治癒術師の元へと担ぎ込ませてもらった」
ブラウン団長は俺に椅子を勧めると、テーブルの上に水を置いた。
俺が席に着くと、訊きたかったことに答えてくれた。
「心配しなくてもナタリーとアリス、リックは宿で休ませている。
ここであれば魔術師団の団員もいるから、すでに護衛も付けた。
ひとまずは安全だと思って良い」
思わず、ほう、と息を吐いた。
「あ、起きたな!」「酒飲むか?」「真面目な話、もう少しだけ寝てろよ」
そっくりな三人組の男性が歩いてくる。
大柄な体格で、表情豊かに笑っている。
「彼らの冒険者パーティーが助けてくれたんだ」
「そうなんですか? ありがとうございます」
「気にすんな」「俺達はガロシュ三兄弟」「『お調子者達』なんて呼ばれてる」
「『お調子者達』って、あの?」
「ああ、あの冒険者パーティーだ」
組合には二つ名を付ける習慣がある。
そして有名な二つ名は王国中に轟くのだ。
ガロシュ三兄弟の後ろから近づいてくる二人組の姿が見えた。
線の細い優男と質素な服装で微笑む美女。どちらも若く見えた。
「じゃあ、あの人が?」
「そうさ」「彼がかの有名な!」「王国随一の才能だ」
ここ数年出回っている、有名な小話がある――
とある天才冒険者がいた。
いくつもの優れたスキルを持ち、その全てに高い適正を示しながら――曰く、彼はただの酔っ払いであった。
一日中酒浸りの日々を過ごしていたが、本人は幸せであったという。
ある日、彼は王に呼び出される。
数々のレアスキルを一目見たいと、王城にて謁見が許されたのである。
問題は一つ。彼は毎日二日酔いであった。
頭痛は止まらず、呂律も回らず、千鳥足。加えてそれらは慢性化していた。
その姿はまさに、誰もが思い描く『アル中』という概念を形にしたかのようだった。
王は激怒した。
王国へと還元するべき『才能の浪費』であると、組合長を叱り付ける。
ぐうの音も出なかった組合長もまた、激怒した。
当然ながら天才冒険者へと矛先が向く。絶対に働かせてやる、と誓っていた。
彼はこの国一番の治癒術師と天才冒険者でパーティーを組ませた。
そして彼女が持つスキルの一つを彼へと使用するように強く強く言いつけたのだ。
レアスキル『自動状態異常回復』を――その日から彼は全く酔えなくなった。
天才冒険者はメキメキと頭角を現したという。
いつの日か、スキルの使用を止めてもらうために。
――ただの酔っ払いに戻るためだけに、S級冒険者まで至った男の小話だ。
優男は俺の目の前までやってくると、にこやかに微笑んだ。
「ああ。治って良かった、俺はラルフ・コーネル――」
「いよっ、素面のアル中!」「酒に沈んだ天賦の才!」「読んでそのまま、奇跡の禁酒!」
ここぞとばかりに『お調子者達』が囃し立てる。
これほど分かりやすい二つ名も珍しい。
「――『スキルマスター』で通ってる……お前らさぁ、毎回この完璧なタイミングで煽り文句入れるのマジでやめてくれない!? もはや営業妨害の域なんだよ! 同じパーティーだろう、俺の看板汚してどうするの?」
ラルフがやりづらそうに、挨拶を終える。次は後ろの女性が前に出た。
「初めまして。私は、フェリス・フェアリス――」
「出た、アルコール分解聖女!」「奇跡の力で酔いを醒ます!」「我らが肝臓!」
ラルフが「お前ら、もうこれで食っていけよ」と頭を抱えていた。
「――『奇跡の担い手』なんて大層な名前を付けられちゃったんだけどさ、この三人殴ってもいいかな? 二つ名返上するからさ。聖女なんて今すぐ止めてやるよぉっ!」
フェリスがどんどんとテーブルを叩いて『お調子者達』がげらげらと笑う。
「彼女がアッシュの傷を治してくれたんだ」
ブラウン団長が囁いた。
「本当にありがとうございます」
俺は大きく頭を下げた。
そして全員がテーブルに着くと、ラルフが口を開いた。
「さて、当事者も目を覚ましたことだし。
そろそろ情報交換を始めようか」
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