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第一部 25話 撤退

ー/ー



 傷口を左手で押さえ付けて、その深さを確かめる。
 ナタリーを守れるか?

 ――即死ではない。
 だが致命傷ではある。治療が必要だ。

「『瞬間移動』の固有スキルは、流石に強いな?」

 思わず本音が漏れる。
『青鬼』は口元を持ち上げて笑って見せた。

「お前の強さには切札がない」

 その通りだ。
 使い魔もスキルも、全て使い切って、ようやくここだ。

 とん、と『青鬼』は止めを刺しに来た。
 右の長刀と左の脇差で二刀流。
 今度は両方抜いて、激しく斬りつける。

 俺は止血を続けながら、籠手で何とか凌ぐ。
 先ほどから一転、防戦一方となった。

 繰り返される斬撃の中で、突然『青鬼』が消えた。

「右!」

 即座にリックの声が届く。
 ガキン、と籠手で刀を弾く。

 すでに『青鬼』は消えていた。

「左!」

 リックの声を追い掛ける俺の死角に逃げ込むように左へと『青鬼』は回り込んでいく。

 誘われている、と分かりながらも殴るように籠手の鉤爪を突き込んだ。
 やはり『青鬼』は消える。

「後ろ!」

 急いで振り返る。俺が態勢を整えるより早く、左脇を斬り抜けた。
 振り向きながら何とか脇差への受けを間に合わせる。せめて一太刀、と斬り返す。

 当然とばかりに『青鬼』はいない。

「左だ! ……こんなの」

 リックが、反則だと言わんばかりの声を上げる。

 ――確かに、一見無敵に見えるけど。

「しぶといな」

「いつも瀕死になってからが本領なんだ」

 俺は割と本気だったのに、軽く鼻で笑ってから『青鬼』は右の長刀を薙ぎ払う。
 籠手で受けようとするが『青鬼』はまた消えた。

「後ろだ!」

 リックは一度も自分の役割を放棄しようとはしなかった。
 本当に、助かった。

 ――この条件が一番良いはずだ。

 まず、俺は背後から迫る薙ぎ払いを受ける。
 次に『青鬼』が消えたことを確認すると、すぐさま錬金する。

「ぐ」

 肘から背後に伸ばした剣に手応えを感じる。
 振り向くと、剣は『青鬼』の右肩を貫いていた。

 ――思った通り。このパターンだと、お前は後ろにいるはずだよな。
 ――お前の固有スキルは『瞬間移動』で間違いないが、二回でセットだ。
 ――どこかに『行く』と『帰る』必要があるのだろう?
 ――上手く隠しているが、自由に移動した後は必ず元の場所に移動している。

「くそ、見抜くのが早すぎないか?」
「見抜けなきゃ死ぬだろうが」

 軽く返したが、実際はリックがずっと『瞬間移動』先を即座に教えてくれたおかげだ。正確な移動位置を把握できなければ気付けるはずもない。

 右肩を抑えながら『青鬼』は後ろへと大きく跳んだ。

「ちくしょう、決めたかったな……痛み分けだ」

 その姿が闇の中へと消えていく。
 青い笑みが浮かんでいた。

「戦略的に勝った上での引き分けを悲しむべきか。
 貴重な情報という戦利品を喜ぶべきか。
 難しいところだなぁ、おい?」

「同感だ」

 安全を確認すると、左脇腹を押さえて倒れ込む。
 出血が深刻だった。

「お兄ちゃん!」

 ナタリーが駆け寄ると、ほとんど同時に足音が響く。
 ブラウン団長とアリスが海辺の広場に入ってきた。

「無事か?」

 ある程度の状況は分かっているのだろう。
 ブラウン団長が口を開く。

「アッシュが斬られた。助けたい」

 リックがすぐに応じると、ブラウン団長が息を呑む。
 すぐに歩み寄って、俺の傷を確認した。

「助かる?」

 聞いたことがないほどに、静かなナタリーの声だった。

「少し戻ることになるが、近くの町へ行こう。あそこなら治療もできるはずだ」

「すみません」

「こちらこそすまない。
 足止めを食らった」

「はい。ちょっとだけ、寝ます」

 俺は目を閉じた。



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 傷口を左手で押さえ付けて、その深さを確かめる。
 ナタリーを守れるか?
 ――即死ではない。
 だが致命傷ではある。治療が必要だ。
「『瞬間移動』の固有スキルは、流石に強いな?」
 思わず本音が漏れる。
『青鬼』は口元を持ち上げて笑って見せた。
「お前の強さには切札がない」
 その通りだ。
 使い魔もスキルも、全て使い切って、ようやくここだ。
 とん、と『青鬼』は止めを刺しに来た。
 右の長刀と左の脇差で二刀流。
 今度は両方抜いて、激しく斬りつける。
 俺は止血を続けながら、籠手で何とか凌ぐ。
 先ほどから一転、防戦一方となった。
 繰り返される斬撃の中で、突然『青鬼』が消えた。
「右!」
 即座にリックの声が届く。
 ガキン、と籠手で刀を弾く。
 すでに『青鬼』は消えていた。
「左!」
 リックの声を追い掛ける俺の死角に逃げ込むように左へと『青鬼』は回り込んでいく。
 誘われている、と分かりながらも殴るように籠手の鉤爪を突き込んだ。
 やはり『青鬼』は消える。
「後ろ!」
 急いで振り返る。俺が態勢を整えるより早く、左脇を斬り抜けた。
 振り向きながら何とか脇差への受けを間に合わせる。せめて一太刀、と斬り返す。
 当然とばかりに『青鬼』はいない。
「左だ! ……こんなの」
 リックが、反則だと言わんばかりの声を上げる。
 ――確かに、一見無敵に見えるけど。
「しぶといな」
「いつも瀕死になってからが本領なんだ」
 俺は割と本気だったのに、軽く鼻で笑ってから『青鬼』は右の長刀を薙ぎ払う。
 籠手で受けようとするが『青鬼』はまた消えた。
「後ろだ!」
 リックは一度も自分の役割を放棄しようとはしなかった。
 本当に、助かった。
 ――この条件が一番良いはずだ。
 まず、俺は背後から迫る薙ぎ払いを受ける。
 次に『青鬼』が消えたことを確認すると、すぐさま錬金する。
「ぐ」
 肘から背後に伸ばした剣に手応えを感じる。
 振り向くと、剣は『青鬼』の右肩を貫いていた。
 ――思った通り。このパターンだと、お前は後ろにいるはずだよな。
 ――お前の固有スキルは『瞬間移動』で間違いないが、二回でセットだ。
 ――どこかに『行く』と『帰る』必要があるのだろう?
 ――上手く隠しているが、自由に移動した後は必ず元の場所に移動している。
「くそ、見抜くのが早すぎないか?」
「見抜けなきゃ死ぬだろうが」
 軽く返したが、実際はリックがずっと『瞬間移動』先を即座に教えてくれたおかげだ。正確な移動位置を把握できなければ気付けるはずもない。
 右肩を抑えながら『青鬼』は後ろへと大きく跳んだ。
「ちくしょう、決めたかったな……痛み分けだ」
 その姿が闇の中へと消えていく。
 青い笑みが浮かんでいた。
「戦略的に勝った上での引き分けを悲しむべきか。
 貴重な情報という戦利品を喜ぶべきか。
 難しいところだなぁ、おい?」
「同感だ」
 安全を確認すると、左脇腹を押さえて倒れ込む。
 出血が深刻だった。
「お兄ちゃん!」
 ナタリーが駆け寄ると、ほとんど同時に足音が響く。
 ブラウン団長とアリスが海辺の広場に入ってきた。
「無事か?」
 ある程度の状況は分かっているのだろう。
 ブラウン団長が口を開く。
「アッシュが斬られた。助けたい」
 リックがすぐに応じると、ブラウン団長が息を呑む。
 すぐに歩み寄って、俺の傷を確認した。
「助かる?」
 聞いたことがないほどに、静かなナタリーの声だった。
「少し戻ることになるが、近くの町へ行こう。あそこなら治療もできるはずだ」
「すみません」
「こちらこそすまない。
 足止めを食らった」
「はい。ちょっとだけ、寝ます」
 俺は目を閉じた。