第一部 24話 小鬼
ー/ー 俺が思考を続けている間『青鬼』は観察を続けていた。
ちょうどブチ切れた人間が一通り相手を罵倒し切るくらいの時間が経った頃、納得した様子で頷いた。
「なるほど。分かった」
「…………」
「お前、何か知っているな?」
「……自分の名前と出身地くらいは」
「ああ、本当に良かった。この情報は値千金だ。
『鍵』を一人殺すことよりも重要かも知れない」
俺の軽口などは簡単に聞き流して、左の腰から長刀を抜くと正面に構えた。
すぐに斬り合える距離。逃げることは難しいだろう。
「お前が俺の敵だな――先手を取られなくて、本当に良かった」
そこまで言うと、ちらりとナタリーへと目を向けた。
「ひっ」
「そこの『鍵』が勝利条件」
まずいな。
随分と勘が良い。
『赤鬼』も馬鹿ではなかったが、『青鬼』の知能の高さは明らかに異質だ。
魔物の域を超えている気さえする。
「敵なんて随分と物騒な。
人違いでは?」
時間稼ぎを意識して軽口を弄しながら、おもむろにリックをいつもの大型ナイフに変える。
右手で握り、左手を添える。
順手のままで水平に持ち上げて構えた。
――我ながら随分と物騒な恰好だった。
『青鬼』も楽しそうに笑みさえ浮かべて、口を開いた。
「知っているぞ?」
続けて奇妙な構えを取った。
右手一本で長刀を握り、左手で右腰の脇差に手を添える。
「神鋼だろう?」
『青鬼』が真っ直ぐに駆けた。
まるで屈んでいるような低さで迫ってくる。
迎え撃つように俺は一歩前へ出る。
初撃は『青鬼』からだった。低い下段の斬り払い。
相手に合わせて俺は腰を低くして、ナイフで受ける。
「ッ!」
刀は神鋼のナイフでは斬れなかった。
「何でも斬れる訳ではないんだろう?」
備えてきたぞ、と青い鬼は嗤う。
――君のナイフが斬れないものはいくらでもあるだろう。
瞬間。
何度も何度も繰り返した、自分にとって宝物のように大切なアドバイスを思い出す。頭を下げる余裕がないことが申し訳なかった。
備えてきたのはお互い様だ、と嗤い返して報いた。
そして俺達は、低く小さく、しかし速く複雑に――何度も何度も切り結ぶ。
『青鬼』が斬り払い、切り上げ、袈裟に下ろす。
見た目に似合わず堅実な連撃。ただし、恐ろしく速く低い。
まるでコンパクトな台風だった。
重心低く構えて、安定した鋭さを持っている。
対する俺はまるで奇を衒うような戦い方だ。
地を這うように駆け回り、ナイフから双剣や長槍へと得物を次々と変えていく。
一通り相手の動きを見て、俺が最終的に選んだ武器は――籠手。
右腕の肘までを銀色が覆い隠す。
さらに手の甲に沿って三本の鉤爪を付属武器として伸ばす。
「……末恐ろしいな」
『青鬼』の呟きを聞きながら、右拳を軽く連打する。
一打ごとに小さな錬金光が夜の海辺を薄く照らした。
三本の鉤爪がその都度に伸びて『青鬼』を刺そうとする。
常に『青鬼』と自分の間には神鋼を纏った右腕を置くように意識する。
『青鬼』の長刀を右腕で弾いては軽く鋭い拳を打ち込んでゆく。
『青鬼』はいかにも戦いづらそうにしながら緩やかに後退していった。
「ふ――」
好機と見て強めに踏み込む。
一息で三度の鉤爪を突き込んだ。
たまらず『大鬼』が大振りの一撃で迎え撃った。
籠手を弾き上げるための斬り上げ。
――ここだ。
俺はあえて受けずに屈んで避けた。
籠手に受けさせる前提だった『青鬼』の斬り上げが空振りに終わる。
斬り上げた状態で固まった『青鬼』と低く屈んだ状態で構える俺。
バチバチという錬金光。
籠手の付属武器を鉤爪から剣へと変える。
さらに剣を相手の長刀よりも長く伸ばす。間合いから逃げることは許さない。
「はッ」
小さな鬼が笑った。
――入った。
渾身の一振りを胴体へ放つ。
その瞬間。
『青鬼』が消えた。比喩などではなく、まさしく消え去ったのだ。
「!?」
「後ろだ!」
リックの一喝に反応して振り返る。
確かに俺の後ろで『青鬼』は上段から長刀を振り下ろそうとしていた。
咄嗟に籠手で受けようとする。
振り下ろされる刃。
刀と籠手が触れる――その直前に『青鬼』がまた消えた。
「なんで――!」
リックの声を待つことはせず、反射的に振り返る。
『青鬼』の斬り下ろしは続いていた。
「このっ!」
最高速度を出して、脳天が割れる直前でどうにか受ける。
「軽、い?」
背筋が凍る。
すでに本命は右ではなかったのだ。
居合の要領で――『青鬼』が左手の脇差を一閃した。
全力で身を捩り、籠手の一部を錬金で伸ばして受ける。
回避に全てを費やして、胴体が真っ二つになることは防いだ。
しかし、
「お兄、ちゃん?」
ナタリーの呆然とした声。
左脇腹を抉られた。
服に暗い染みが滲んでいく。
ちょうどブチ切れた人間が一通り相手を罵倒し切るくらいの時間が経った頃、納得した様子で頷いた。
「なるほど。分かった」
「…………」
「お前、何か知っているな?」
「……自分の名前と出身地くらいは」
「ああ、本当に良かった。この情報は値千金だ。
『鍵』を一人殺すことよりも重要かも知れない」
俺の軽口などは簡単に聞き流して、左の腰から長刀を抜くと正面に構えた。
すぐに斬り合える距離。逃げることは難しいだろう。
「お前が俺の敵だな――先手を取られなくて、本当に良かった」
そこまで言うと、ちらりとナタリーへと目を向けた。
「ひっ」
「そこの『鍵』が勝利条件」
まずいな。
随分と勘が良い。
『赤鬼』も馬鹿ではなかったが、『青鬼』の知能の高さは明らかに異質だ。
魔物の域を超えている気さえする。
「敵なんて随分と物騒な。
人違いでは?」
時間稼ぎを意識して軽口を弄しながら、おもむろにリックをいつもの大型ナイフに変える。
右手で握り、左手を添える。
順手のままで水平に持ち上げて構えた。
――我ながら随分と物騒な恰好だった。
『青鬼』も楽しそうに笑みさえ浮かべて、口を開いた。
「知っているぞ?」
続けて奇妙な構えを取った。
右手一本で長刀を握り、左手で右腰の脇差に手を添える。
「神鋼だろう?」
『青鬼』が真っ直ぐに駆けた。
まるで屈んでいるような低さで迫ってくる。
迎え撃つように俺は一歩前へ出る。
初撃は『青鬼』からだった。低い下段の斬り払い。
相手に合わせて俺は腰を低くして、ナイフで受ける。
「ッ!」
刀は神鋼のナイフでは斬れなかった。
「何でも斬れる訳ではないんだろう?」
備えてきたぞ、と青い鬼は嗤う。
――君のナイフが斬れないものはいくらでもあるだろう。
瞬間。
何度も何度も繰り返した、自分にとって宝物のように大切なアドバイスを思い出す。頭を下げる余裕がないことが申し訳なかった。
備えてきたのはお互い様だ、と嗤い返して報いた。
そして俺達は、低く小さく、しかし速く複雑に――何度も何度も切り結ぶ。
『青鬼』が斬り払い、切り上げ、袈裟に下ろす。
見た目に似合わず堅実な連撃。ただし、恐ろしく速く低い。
まるでコンパクトな台風だった。
重心低く構えて、安定した鋭さを持っている。
対する俺はまるで奇を衒うような戦い方だ。
地を這うように駆け回り、ナイフから双剣や長槍へと得物を次々と変えていく。
一通り相手の動きを見て、俺が最終的に選んだ武器は――籠手。
右腕の肘までを銀色が覆い隠す。
さらに手の甲に沿って三本の鉤爪を付属武器として伸ばす。
「……末恐ろしいな」
『青鬼』の呟きを聞きながら、右拳を軽く連打する。
一打ごとに小さな錬金光が夜の海辺を薄く照らした。
三本の鉤爪がその都度に伸びて『青鬼』を刺そうとする。
常に『青鬼』と自分の間には神鋼を纏った右腕を置くように意識する。
『青鬼』の長刀を右腕で弾いては軽く鋭い拳を打ち込んでゆく。
『青鬼』はいかにも戦いづらそうにしながら緩やかに後退していった。
「ふ――」
好機と見て強めに踏み込む。
一息で三度の鉤爪を突き込んだ。
たまらず『大鬼』が大振りの一撃で迎え撃った。
籠手を弾き上げるための斬り上げ。
――ここだ。
俺はあえて受けずに屈んで避けた。
籠手に受けさせる前提だった『青鬼』の斬り上げが空振りに終わる。
斬り上げた状態で固まった『青鬼』と低く屈んだ状態で構える俺。
バチバチという錬金光。
籠手の付属武器を鉤爪から剣へと変える。
さらに剣を相手の長刀よりも長く伸ばす。間合いから逃げることは許さない。
「はッ」
小さな鬼が笑った。
――入った。
渾身の一振りを胴体へ放つ。
その瞬間。
『青鬼』が消えた。比喩などではなく、まさしく消え去ったのだ。
「!?」
「後ろだ!」
リックの一喝に反応して振り返る。
確かに俺の後ろで『青鬼』は上段から長刀を振り下ろそうとしていた。
咄嗟に籠手で受けようとする。
振り下ろされる刃。
刀と籠手が触れる――その直前に『青鬼』がまた消えた。
「なんで――!」
リックの声を待つことはせず、反射的に振り返る。
『青鬼』の斬り下ろしは続いていた。
「このっ!」
最高速度を出して、脳天が割れる直前でどうにか受ける。
「軽、い?」
背筋が凍る。
すでに本命は右ではなかったのだ。
居合の要領で――『青鬼』が左手の脇差を一閃した。
全力で身を捩り、籠手の一部を錬金で伸ばして受ける。
回避に全てを費やして、胴体が真っ二つになることは防いだ。
しかし、
「お兄、ちゃん?」
ナタリーの呆然とした声。
左脇腹を抉られた。
服に暗い染みが滲んでいく。
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